日本ペインクリニック学会誌
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委員会報告
痛み診療の現場における2015年および2016年の有害事象について―日本ペインクリニック学会安全委員会・有害事象調査報告と課題―
日本ペインクリニック学会安全委員会田中 信彦山蔭 道明具志堅 隆關山 裕詩中塚 秀輝益田 律子山浦 健
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2020 年 27 巻 2 号 p. 133-142

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Abstract

日本ペインクリニック学会安全委員会では,2009年より学会認定ペインクリニック専門医指定研修施設を対象に有害事象収集事業を開始した.本稿では2015年の1年間を対象とした第5回調査および2016年の1年間を対象とした第6回調査の結果について報告する.第5回調査では350施設中162施設(46%),第6回調査では348施設中197施設(57%)から回答が得られた.これまでの調査結果と同様に,有害事象のほとんどが鎮痛薬・鎮痛補助薬の副作用と神経ブロック・インターベンショナル治療の合併症であった.鎮痛薬・鎮痛補助薬に関しては,プレガバリン,三環系抗うつ薬およびトラマドール・アセトアミノフェン配合錠の副作用が多く報告された.神経ブロック・インターベンショナル治療に関しては,硬膜外ブロック・カテーテル関連,星状神経節ブロック,肋間神経ブロックおよびトリガーポイント注射による合併症が多く報告された.今後も有害事象に関する情報を学会員間で共有し,痛み診療における安全の確保と質の向上を図る必要がある.

I はじめに

日本ペインクリニック学会安全委員会では,痛み診療における有害事象を学会員間で共有するため,2009年より学会認定ペインクリニック専門医指定研修施設(以下,指定施設)を対象に有害事象収集事業を開始した14).今回,第5回調査(2015年1月から12月まで)と第6回調査(2016年1月から12月まで)の結果について報告する.

II 対象と方法

第5回調査および第6回調査は,第4回調査4)と同様にウェブアンケート方式とし,指定施設の代表専門医に回答を依頼した.本調査における有害事象とは,国立大学附属病院医療安全管理協議会が作成したインシデント影響度分類5)のレベル3a以上と薬物にかかわる社会的問題とした(表1).薬物にかかわる社会的問題とは,乱用などの不適切使用や違法的使用目的での処方の強要などの不適切行為があったものとした.さらにインシデント影響度分類のレベル3b以上では,可能な限り詳細に報告するように依頼した.

表1 本調査における有害事象の分類
レベル 傷害の継続性 傷害の程度 内 容
0 なし エラーや医薬品・医療機器の不具合がみられたが,患者には実施されず,未然に防げた
1 なし なんらかの影響を与えた可能性は否定できないが,患者への実害はない
2 一過性 軽度 処置や治療は要さなかった(患者観察の強化,バイタルサインの軽度変化,安全確認のための検査などの必要性は生じた)
3a 一過性 中等度 簡単な処置や治療を要した(消毒,湿布,皮膚の縫合,鎮痛薬の投与など)
3b 一過性 高度 濃厚な処置や治療を要した(バイタルサインの高度変化,人工呼吸,手術,入院日数の延長,外来患者の入院,骨折など)
4a 永続的 軽度~中等度 永続的な障害や後遺症が残ったが,有意な機能障害や美容上の問題は伴わない
4b 永続的 中等度~高度 永続的な障害や後遺症が残り,有意な機能障害や美容上の問題を伴う
5 死亡 死亡(原疾患の自然経過によるものを除く)
その他 社会的問題 乱用,患者からの強要,違法行為

「インシデント影響度分類」国立大学附属病院医療安全管理協議会編集(文献5より一部改変)

有害事象の内容は薬物,治療・処置,医療機器,医療材料および画像検査・透視に分けて調査した.さらに薬物の鎮痛薬および鎮痛補助薬については30項目,神経ブロック・インターベンショナル治療については日本ペインクリニック学会治療指針改訂第4版6)に掲載されている31項目を対象とし,これらの有害事象の有無と年間発生件数を詳細に調べた.

III 結果

第5回調査では350施設中162施設(46%),第6回調査では348施設中197施設(57%)から回答が得られた.

1. 有害事象の発生状況

回答が得られた施設のなかで1年間に有害事象が発生した施設は,第5回調査では162施設中34施設(21%),第6回調査では197施設中53施設(27%)であった.

有害事象が発生した場所は,第5回調査では外来診察室および外来処置室(ブロック実施場所)がそれぞれ16件と最も多く,第6回調査では外来処置室が44件と最も多かった.

患者区分のうち発生件数を年齢別にみると,第5回調査では65~79歳で33件と最も多く,15~64歳で27件,80歳以上で6件であった.このうち36件は外来通院中に発生し,11件は入院中に発生した.第6回調査では15~64歳で38件と最も多く,65~79歳で34件,80歳以上で13件であった.このうち55件は外来通院中に発生し,25件は入院中に発生した.

2. 有害事象の内容

有害事象の内容は,これまでの調査結果24)と同様に鎮痛薬・鎮痛補助薬の副作用と神経ブロック・インターベンショナル治療の合併症に集中していた.

1) 薬物に関する有害事象(図1表24
図1

鎮痛薬・鎮痛補助薬に関する有害事象報告件数

表2 第5回調査(2015年)における重大な薬物有害事象
薬 剤 内 容(件数)
トラマドール・アセトアミノフェン配合錠 セロトニン症候群(1),低血糖(1)
プレガバリン ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬との併用で意識レベル低下,
救急搬送(1)
カルバマゼピン 肝機能障害+皮疹+浮腫(1),皮疹のみ(1)
アミトリプチリン 多剤併用で転倒(2)
デュロキセチン セロトニン症候群(1),離脱症候群(1)
SNRI 賦活症候群(1)

鎮痛薬・鎮痛補助薬については,第5回調査ではプレガバリンが最多の13件で,カルバマゼピンが4件であった(図1).第6回調査でもプレガバリンが最多の36件で,三環系抗うつ薬が23件,トラマドール・アセトアミノフェン配合錠が16件であった(図1).

レベル3b以上の重大な有害事象として,第5回調査ではトラマドール・アセトアミノフェン配合錠およびデュロキセチンによるセロトニン症候群がそれぞれ1件,プレガバリンとベンゾジアゼピン系睡眠導入薬との併用による意識レベル低下・救急搬送が1件,アミトリプチリンを含む多剤併用による転倒が2件,カルバマゼピンによる肝機能障害と浮腫を伴う皮疹が1件,皮疹のみが1件であった.また,デュロキセチンによる離脱症候群が1件とSNRI(薬剤名不明)による賦活症候群が1件報告された(表2).第6回調査でもトラマドール・アセトアミノフェン配合錠およびデュロキセチンによるセロトニン症候群がそれぞれ1件ずつ報告され,SNRI(薬剤名不明)による賦活症候群が1件報告された.また,プレガバリンによる意識消失が1件と転倒・骨折が1件,デュロキセチンによる意識消失が1件,トラマドールによる痙攣・意識消失が1件とめまい・転倒が1件,フェンタニルの相対的過量による傾眠が1件および多剤併用による幻覚・幻聴と意識障害が1件報告された.トラマドールおよびデュロキセチンによる全身性皮疹がそれぞれ1件ずつとカルバマゼピンによる重症皮疹が1件報告され,漢方薬による偽アルドステロン症が2件報告された(表3).

表3 第6回調査(2016年)における重大な薬物有害事象
薬 剤 内 容(件数)
トラマドール・アセトアミノフェン配合錠 セロトニン症候群(1),嘔気による入院(1),アナフィラキシー様症状(1),自己判断による減量で退薬症状(1)
トラマドール 痙攣・意識消失(1),めまい・転倒(1),全身性皮疹(1)
デュロキセチン セロトニン症候群(1),全身性皮疹(1),意識消失(1)
プレガバリン 意識消失(1),転倒・骨折(1)
NSAIDs 胃潰瘍による吐血(1)
カルバマゼピン 重症皮疹(1)
SNRI 賦活症候群(1)
フェンタニル 相対的過量による傾眠(1)
漢方薬 偽アルドステロン症(2)
多剤併用 幻覚・幻聴,意識障害(1)

薬物にかかわる社会的問題は,第5回調査では報告されなかったが,第6回調査ではモルヒネの乱用が2件と患者からのプレガバリン処方の強要が1件報告された(表4).

表4 第6回調査(2016年)における薬物にかかわる社会的問題
薬 剤 内 容(件数)
モルヒネ 乱用(2)
プレガバリン 患者から強要(1)

2) 神経ブロック・インターベンショナル治療に関する有害事象(図2表58
図2

神経ブロック・インターベンショナル治療に関する有害事象報告件数

表5 第5回調査(2015年)における神経ブロック・インターベンショナル治療にかかわる重大な有害事象
手 技 内 容(件数)
星状神経節ブロック 血管内注入(3)
頸・胸部硬膜外ブロック くも膜下注入(2),血圧低下・昇圧薬使用(3)
腰部硬膜外ブロック 硬膜外血腫(1),局所麻酔薬中毒(1),ブロック後の転倒(膝関節周囲血腫)(1),硬膜穿刺後頭痛(ブラッドパッチ)(1)
硬膜外カテーテル挿入・留置 硬膜外膿瘍(2)
神経根ブロック 動脈穿刺による局所麻酔薬中毒(1),知覚脱出性疼痛(1)
三叉神経ブロック  
 (ガッセル神経節) くも膜下出血(クリッピング)(1)
 (末梢枝) 血腫(1)
腕神経叢ブロック 肩関節亜脱臼(1)
肩甲上神経ブロック 気胸(1)
肋間神経ブロック 気胸(2)
トリガーポイント注射 気胸(1),感染(神経症状あり,手術施行)(1)
神経根剥離術 髄膜炎(1)
大腿神経ブロック ブロック後の転倒(1),効果遷延による帰宅困難(1)
舌咽神経ブロック 顔面神経麻痺(SGBにて治癒)(1)

第5回調査では硬膜外ブロック・カテーテル関連が25件(頸・胸部13件,腰部11件,カテーテル関連1件)と最も多く,星状神経節ブロックが7件,肋間神経ブロックが4件,トリガーポイント注射が3件であった.第6回調査でも硬膜外ブロック・カテーテル関連が35件(腰部20件,頸・胸部7件,仙骨5件,カテーテル関連3件)と最も多く,星状神経節ブロックが13件,肋間神経ブロックが7件,トリガーポイント注射が6件であった(図2).

レベル3b(後遺障害なし)の重大な有害事象として,第5回調査では星状神経節ブロックによる局所麻酔薬の血管内注入が3件報告された.そのうち2件は軽度の中枢神経興奮や痙攣が生じ,もう1件は耳鳴とめまいが生じた事例であった.頸・胸部硬膜外ブロックによるくも膜下注入が2件報告され,そのうち1件は一過性の上肢運動障害が生じ,もう1件は呼吸困難のため補助換気を要した事例であった.また,肋間神経ブロックによる気胸が2件,肩甲上神経ブロックおよびトリガーポイント注射による気胸がそれぞれ1件ずつ報告された.

感染性合併症として硬膜外カテーテル挿入・留置による硬膜外膿瘍が2件報告され,そのうち1件は抗生剤投与のみで治癒し,もう1件は手術に至った事例であった.また,頸部のトリガーポイント注射後に感染を起こし,神経症状が出現したために脊椎開窓術が施行された事例が1件報告された.その他の手技として,神経根剥離術後に髄膜炎を起こした事例が1件報告された.

出血性合併症として腰部硬膜外ブロックによる硬膜外血腫が1件,三叉神経末梢枝ブロックによる血腫が1件報告された.また,ガッセル神経節ブロック施行中にくも膜下出血を起こした事例が報告されたが,原因は内頸動脈後交通動脈分岐部より末梢の動脈瘤破裂であり,クリッピング手術により後遺障害なく治癒した事例であった(表5).

第6回調査では,第5回調査の結果と同様に星状神経節ブロックによる局所麻酔薬の血管内注入が2件報告され,2件ともに意識消失が生じた事例であった.また,腕神経叢ブロックによる局所麻酔薬中毒で全身痙攣が生じた事例が1件,仙骨硬膜外ブロックによる局所麻酔薬中毒で呼吸管理を要した事例が1件報告された.頸・胸部および腰部硬膜外ブロックによるくも膜下注入が3件報告され,神経根ブロックによるくも膜下注入が1件報告された.また,肋間神経ブロックによる気胸が5件,肩甲上神経ブロックおよびトリガーポイント注射による気胸がそれぞれ1件ずつ報告された.

感染性合併症として腰部硬膜外ブロックによる皮下膿瘍が1件と硬膜外感染が1件,硬膜外カテーテル挿入・留置による化膿性脊椎炎が1件報告された.また,硬膜外脊髄刺激療法による感染が3件,脊髄くも膜下カテーテル挿入・留置によるポート感染が1件報告された.その他の手技として,硬膜外洗浄による椎間板炎が1件と腸腰筋筋膜炎が1件,スプリングコイルカテーテルによる硬膜外膿瘍が1件報告された.

出血性合併症として星状神経節ブロックによる頸部血腫が1件報告され,気管挿管が困難であったため気管切開が施行された事例であった.また,腰部硬膜外ブロックによる硬膜外血腫が1件報告された.

神経系合併症として椎間関節ブロックによる神経根損傷が1件,腰部交感神経節ブロック(アルコール使用)による陰部大腿神経領域の知覚鈍麻が1件,坐骨神経ブロックによるブロック効果の遷延が1件と伏在神経へのパルス高周波法によるしびれ・痛みが1件報告された.また硬膜外脊髄刺激療法による脊髄麻痺が1件報告され,胸部黄色靱帯骨化症を合併していた事例であった.

その他の有害事象として,腰部硬膜外ブロックによる気脳症が2件報告された.2件ともに硬膜外ブロック後に頭痛を訴えて入院となり,1件は高圧酸素療法で,もう1件は保存的に治療された事例であった(表6).

表6 第6回調査(2016年)における神経ブロック・インターベンショナル治療にかかわる重大な有害事象
手 技 内 容(件数)
星状神経節ブロック 血管内注入(2),頸部血腫(1)
頸・胸部硬膜外ブロック くも膜下注入(1),血圧低下・昇圧薬使用(1),高度な徐脈・意識レベル低下(1)
腰部硬膜外ブロック 感染(2),くも膜下注入(2),硬膜穿刺後頭痛(ブラッドパッチ)(2),気脳症(2),硬膜外血腫(1),呼吸困難(1),意識消失(ブロック後の安静観察中)(1),転倒・裂傷(1)
仙骨硬膜外ブロック 局所麻酔薬中毒(1)
硬膜外カテーテル挿入・留置 感染(1)
神経根ブロック くも膜下ブロック・尿閉(1)
腕神経叢ブロック 局所麻酔薬中毒(1)
肩甲上神経ブロック 気胸(1)
肋間神経ブロック 気胸(5)
トリガーポイント注射 気胸(1),高度な徐脈(1),刺傷事故(1)
椎間関節ブロック 神経根損傷(1)
腰部交感神経節ブロック 知覚鈍麻(陰部大腿神経領域)(1)
硬膜外脊髄刺激療法 感染(3),脊髄麻痺(胸部黄色靱帯骨化症あり)(1)
脊髄くも膜下カテーテル挿入・留置 ポート感染(1)
硬膜外洗浄,スプリングコイルカテーテル 感染(3)
傍脊椎神経ブロック 血管損傷(1)
坐骨神経ブロック ブロック効果遷延(1)
伏在神経へのパルス高周波法 しびれ・痛みの遷延(1)

レベル4aおよび4b(後遺障害あり)の重大な有害事象として,第5回調査では神経根ブロックおよびパルス高周波法を施行後に知覚脱失性疼痛が生じた事例が報告された(表7).第6回調査では神経破壊薬による神経ブロックや高周波熱凝固により生じた神経系合併症が4件報告された.上顎神経ブロックでアロディニアが残存した事例,腹腔神経叢ブロックによりアルコール性神経炎が生じた事例,胸部くも膜下フェノールブロックにより足底部のしびれが残存した事例,そして悪性中皮腫患者に胸部交感神経節(Th8~10)への高周波熱凝固を施行し,術後に同側の腰神経叢障害による大腿神経領域の運動障害が生じた事例であった.

表7 第5回調査(2015年)における神経ブロック・インターベンショナル治療にかかわる後遺障害事例
手 技 内 容(件数)
神経根ブロック・パルス高周波法 知覚脱失性疼痛(1)

感染性合併症として,急性帯状疱疹痛に対する持続硬膜外鎮痛中に硬膜外膿瘍を発症し,緊急手術を施行した事例が2件報告された.1件は術後に対麻痺が回復したが,もう1件は永続的な対麻痺となった事例であった.

また,頸部神経根へのパルス高周波法で,誤って高周波熱凝固のモード設定で通電してしまい,後遺障害を生じた事例も報告された(表8).

表8 第6回調査(2016年)における神経ブロック・インターベンショナル治療にかかわる後遺障害事例
手 技 内 容(件数)
硬膜外カテーテル挿入・留置 硬膜外膿瘍による対麻痺(2)
胸部交感神経節ブロック・高周波熱凝固 運動障害(同側の腰神経叢障害)(1)
三叉神経ブロック(上顎神経) アロディニア(1)
腹腔神経叢ブロック アルコール性神経炎(1)
胸部くも膜下フェノールブロック 足底部のしびれ(1)
頸部神経根ブロック・パルス高周波法 誤操作による後遺障害(詳細不明)(1)

死亡事例は,第5回および第6回調査ともに報告されなかった.

3) 上記(鎮痛薬・鎮痛補助薬および神経ブロック・インターベンショナル治療)以外の区分に関する有害事象

第5回調査で医療材料に関連したものとして,スプリングコイルカテーテル(Epimed社製)の先端29 mmの外被が剥離し,体内遺残が疑われた事例が報告された.

IV 考察

第5回調査から,本調査における有害事象をインシデント影響度分類5)のレベル3a以上と薬物にかかわる社会的問題と明確に定義した(表1).また,レベル3b以上では可能な限り詳細に報告するように依頼した.その結果,それぞれのレベルごとに有益な回答を得ることができた.

1. 薬物に関する有害事象について

プレガバリンによる有害事象の件数は,第4回調査4)の68件に対して,第5回,第6回調査では13件および36件と減少していた.しかし,調査した30項目の鎮痛薬および鎮痛補助薬のなかでは報告件数が最多であったことから,今後も慎重に用量調節を行いながら投与すべき薬剤である.

抗うつ薬に関する有害事象として,デュロキセチンによる離脱症候群やSNRI(薬剤名不明)による賦活症候群が報告された.賦活症候群とは,本邦で提唱されている概念であり,投与初期や増量後に起こる不安,焦燥,不眠やパニック状態などの中枢刺激作用を指すものである7).これらの症候群は,これまでの調査14)では報告されなかった有害事象である.神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン8)でSNRIが第一選択となり,臨床の現場で処方する機会が増えている現状を反映しているものと思われる.

また,デュロキセチンやトラマドール・アセトアミノフェン配合錠によるセロトニン症候群が,第5回と第6回調査でそれぞれ2件ずつ報告された.第3回調査3)でもトラマドールや抗うつ薬(薬剤名不明)によるセロトニン症候群が3件報告されており,今後もトラマドール製剤やSNRIなどの抗うつ薬の処方時には,注意すべき有害事象である.

その他の重大な有害事象として,プレガバリンとベンゾジアゼピン系睡眠導入薬の併用や三環系抗うつ薬を含む多剤併用による意識障害,転倒が報告された.薬力学的相互作用や薬物動態学的相互作用による有害事象を未然に防ぐため,処方後の副作用チェックを綿密に行い,薬剤師との連携を強化することが重要である.

薬物にかかわる社会的問題として,第6回調査でモルヒネの乱用が2件とプレガバリンの患者からの強要が1件報告された.非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の処方は,ガイドライン9)に則って適切に行うべきである.また,第4回調査でもプレガバリンによる乱用の報告があったことから,プレガバリンにも嗜癖の危険性があることを十分に認識すべきである.

2. 神経ブロック・インターベンショナル治療の有害事象について

硬膜外ブロック・カテーテル関連,星状神経節ブロック,肋間神経ブロックおよびトリガーポイント注射による有害事象の報告件数が多かった.これらの神経ブロックは,ペインクリニックの経験年数にかかわらず,ほとんどのペインクリニック医が外来で施行していると思われる.有害事象の予防のため,正しい技術を習得し,それを遂行することが重要である.また,外来での有害事象発生時の迅速な対応について,各施設で再確認する必要がある.

重大な有害事象として,感染性合併症が多く報告された.そのなかでも硬膜外ブロック・カテーテル関連による感染症が最も多く,硬膜外膿瘍による対麻痺の後遺障害事例が2件も報告された.そのうち1件は硬膜外カテーテル抜去から1カ月後に硬膜外膿瘍を発症した事例であった.硬膜外ブロック・カテーテル関連以外にも,硬膜外脊髄刺激療法による感染症は増加傾向であり,硬膜外洗浄やスプリングコイルカテーテルなど,これまで報告がなかった手技による感染症も報告された.感染症は,患者に対して身体的かつ精神的なストレスを与えるだけでなく,重症化すると治療のために多大な労力と時間を要することになる.各施設での感染対策を遵守し,予防と重症化を防止するための早期発見に努めるべきである.

第6回調査において,腰部硬膜外ブロックによる気脳症が2件報告された.空気3 mlを用いた抵抗消失法は,リドカインを用いた抵抗消失法と比較し,カテーテル挿入困難,血管内留置,不完全ブロックおよび偶発的な硬膜穿破が有意に多かったとする報告10)もある.しかし,高崎11)は熟練した麻酔科医は0.5 ml前後の空気しか使用しないので問題ないとしている.硬膜外腔の確認法で抵抗消失法に空気を用いる場合,できるだけ少量の空気で行うべきである.

パルス高周波法は,高周波熱凝固と異なり,熱による神経障害を起こさず,長期の鎮痛効果が得られる治療法12)として普及しつつある.第6回調査において,頸部神経根へのパルス高周波法で誤操作による後遺障害の発生事例が報告された.また,第5回調査でも神経根へのパルス高周波法を施行後に知覚脱失性疼痛が生じた事例(原因不明)が報告されている.パルス高周波法を施行するときには,術者は施行開始前に正しい設定になっているかを介助者とともに確認する必要がある.また,パルス高周波法の正しい手順についても再確認すべきである.

3. 上記(鎮痛薬・鎮痛補助薬および神経ブロック・インターベンショナル治療)以外の区分に関する有害事象について

医療材料に関連したものとして,第4回調査で報告されたエピドラスコピー先端外被の体内遺残疑いの事例と同様に,スプリングコイルカテーテル外被の体内遺残疑いの事例が報告された.今後,医療材料に関する有害事象については,メーカーに情報を提供し,必要に応じて改善を依頼していきたい.

V おわりに

今後も有害事象に関する情報を学会員間で共有し,痛み診療における安全の確保と質の向上を図る必要がある.

この論文は,日本ペインクリニック学会安全委員会による有害事象収集事業として学会理事会の承認を得て調査した結果に基づく報告書である.要旨は日本ペインクリニック学会第50回大会(2016年7月,横浜),第51回大会(2017年7月,岐阜)で発表した.

謝辞

今回の調査に回答いただいた代表専門医の方々に改めて感謝いたします.

文献
 
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