日本ペインクリニック学会誌
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27 巻, 2 号
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委員会報告
  • 日本ペインクリニック学会安全委員会, 田中 信彦, 山蔭 道明, 具志堅 隆, 關山 裕詩, 中塚 秀輝, 益田 律子, 山浦 健
    原稿種別: 日本ペインクリニック学会安全委員会報告
    2020 年27 巻2 号 p. 133-142
    発行日: 2020/06/25
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/04/07
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    日本ペインクリニック学会安全委員会では,2009年より学会認定ペインクリニック専門医指定研修施設を対象に有害事象収集事業を開始した.本稿では2015年の1年間を対象とした第5回調査および2016年の1年間を対象とした第6回調査の結果について報告する.第5回調査では350施設中162施設(46%),第6回調査では348施設中197施設(57%)から回答が得られた.これまでの調査結果と同様に,有害事象のほとんどが鎮痛薬・鎮痛補助薬の副作用と神経ブロック・インターベンショナル治療の合併症であった.鎮痛薬・鎮痛補助薬に関しては,プレガバリン,三環系抗うつ薬およびトラマドール・アセトアミノフェン配合錠の副作用が多く報告された.神経ブロック・インターベンショナル治療に関しては,硬膜外ブロック・カテーテル関連,星状神経節ブロック,肋間神経ブロックおよびトリガーポイント注射による合併症が多く報告された.今後も有害事象に関する情報を学会員間で共有し,痛み診療における安全の確保と質の向上を図る必要がある.

原著
  • 桑原 沙代子, 佐伯 美奈子
    原稿種別: 原著
    2020 年27 巻2 号 p. 143-148
    発行日: 2020/06/25
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/03/12
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    【目的】三環系抗うつ薬は,神経障害性疼痛に対する有効性が高いが,鎮静・抗コリン作用などの副作用がある.アミトリプチリン(amitriptyline:AT)とノルトリプチリン(nortriptyline:NT)の鎮痛効果は同等で,忍容性はNTのほうが高いと報告されている.当院外来のAT・NTの副作用による内服中断症例数および副作用の種類を検討する.【方法】2015年7月~2018年1月に,新たにAT・NTを処方した症例を診療録から後方視的に抽出した.主要評価項目は,副作用による内服中断症例数と副作用の種類とした.【結果】対象症例は87例(AT 37例・NT 50例)で,主要評価項目の中断症例数はAT群7/37例(18%),NT群7/50例(14%)だった.副作用は,眠気(6/37,2/50例),尿閉(0/37,2/50例),便秘増悪(1/37,1/50例),採血検査異常(0/37,2/50例)だった.【結論】ATとNTはともに副作用による内服中断があり,その頻度は本検討では同程度であった.ATとNTは有効な薬だが,副作用により中断する可能性があり,十分注意して処方する必要がある.

  • 吉村 文貴, 山口 忍, 田辺 久美子, 飯田 宏樹
    原稿種別: 原著
    2020 年27 巻2 号 p. 149-154
    発行日: 2020/06/25
    公開日: 2020/06/30
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    【目的】筋・筋膜性疼痛症候群(MPS)に対する代表的な治療はトリガーポイント(TP)への局所麻酔薬注入(トリガーポイント注射:TPI)である.今回,TPIの有効性を筋肉内と筋膜間で比較検討した.【方法】僧帽筋にTPを有するMPS患者50例を対象とした.超音波診断装置を利用して僧帽筋の筋肉内のTPに注入した群(M群)25例と僧帽筋と棘上筋の筋膜間に注入した群(F群)25例の2群にランダム化割り付けした.注入は1週間ごとに計4回行い,痛みの評価にはnumerical rating scale(NRS)を使用した.【結果】M群,F群とも初回のTPIにより有意にNRSは低下し(それぞれp<0.001),両群間に有意差はなかった(p=0.766).TPIの繰り返しでは,時間の経過に伴いNRSの変化量に群間差が開いた(p=0.016).【結論】初回TPIの効果は僧帽筋の筋肉内注入,僧帽筋直下の筋膜間注入であっても有効であった.TPIの繰り返しによる効果は僧帽筋直下の筋膜間注入のほうが有効であった.

症例
  • 堀 正樹, 工藤 路子, 秋山 修宏
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻2 号 p. 155-158
    発行日: 2020/06/25
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/03/12
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    右篩骨洞がんの頭蓋骨,脳実質浸潤によるがん性頭痛の緩和治療を報告する.症例は60歳,男性.前医でモルヒネ50 mg/日持続静脈投与など施行されたが,右頭痛,右顔面痛は軽減しなかった.当院へ転院後,オキシコドンとケタミンの持続皮下投与へ変更し漸増したが,十分な疼痛緩和が得られなかった.無水エタノールによる右ガッセル神経節ブロックを施行し,顔面痛に加えて頭痛の軽減が得られた.オピオイドを減量して一時的に在宅療養が可能となった.ガッセル神経節ブロックは顔面痛だけでなく腫瘍の硬膜浸潤による頭痛に対しても有効である可能性が示唆された.

  • 椎原 啓輔, 中野 孝美, 高谷 純司, 内野 哲哉, 奥田 健太郎, 北野 敬明
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻2 号 p. 159-162
    発行日: 2020/06/25
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/03/12
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    自己導尿時の会陰部痛に対して,高比重テトラカイン溶液によるくも膜下サドルブロックが奏効した症例を報告する.間質性膀胱炎と神経因性膀胱による排尿障害の患者で,自己導尿の際に強い会陰部痛を生じていた.各種鎮痛薬による内服加療や交感神経ブロック,神経根ブロックを行ったが効果が不十分であったため,20%ブドウ糖液に溶解したテトラカインを用いてくも膜下サドルブロックを行った.0.5%溶液では持続的鎮痛効果が得られなかったが,1.0%溶液を使用したところ月単位での良好な鎮痛を得た.テトラカインは粉末製剤なので,膀胱直腸障害をきたさない濃度を症例ごとに調整することが可能である.また鎮痛効果が可逆的であるため,繰り返しの施行が必要になる点が課題ではあるが,フェノールグリセリンを用いた神経破壊が適応にならない症例で,会陰部の鎮痛のための有用な手段となりうる.

  • 藤田 将英, 猪股 伸一, 高尾 幾子, 矢作 武蔵, 熊田 有紀, 田中 誠
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻2 号 p. 163-166
    発行日: 2020/06/25
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/04/07
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    右股関節切断術後に生じた幻肢痛に対して,プレガバリン,アマンタジン,メキシレチンの併用療法を行い,とくにアマンタジンが奏効した症例を経験した.症例は59歳女性,右下肢壊死性筋膜炎による播種性血管内凝固症候群の増悪のため,全身麻酔下に右下肢の股関節離断術を受けた.術前から強い痛みを訴えていた.フェンタニルを用いた自己調節鎮痛を行ったが,術直後より右下肢の幻肢感覚,ジセステジア,断端痛が出現した.術後3日よりプレガバリンの投与を開始したが,幻肢感覚およびジセステジアの改善はみられなかった.術後8日よりアマンタジンの投与を開始すると徐々に症状は軽快した.術後31日よりメキシレチン投与を開始し,症状はさらに軽快した.四肢切断後の幻肢痛や幻肢感覚に対して,アマンタジンは有効である可能性が示唆された.幻肢痛には確立された治療方法はなく,NMDA受容体拮抗薬が奏効する作用機序として,中枢性に幻肢痛を形成すること自体を予防する可能性がある.また感染症や凝固障害により区域麻酔が施行困難になる症例の場合,メキシレチンの投与が有効である可能性がある.

  • 堀川 英世, 服部 瑞樹, 竹村 佳記, 日比 大亮, 山崎 光章
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻2 号 p. 167-171
    発行日: 2020/06/25
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/04/07
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    症例は47歳,男性.仕事中の事故により左上腕を切断した.切断後7日目より幻肢痛を認めるようになり,NRS(numerical rating scale)は5であった.入院中に,持続腕神経叢ブロックと薬物療法を開始した.ブロック施行中はNRSが2に低下したが,ブロック中止後痛みはもとに戻った.ミルタザピンを15 mg 1日1回投与から開始し,その後1日2回投与に増量した.ミルタザピン内服後約8時間はNRSが3に低下した.他の薬物は内服しても痛みの改善を認めなかった.ミルタザピンは,他の抗うつ薬の作用と異なり,α2アドレナリン受容体を拮抗しノルアドレナリンとセロトニンを遊離するという特異な作用機序をもつ.難治性の幻肢痛に対し,ミルタザピンは効果が期待できる可能性があり,さらなる検証が望まれる.

  • 安部 彩子, 樋口 秀行, 尾崎 眞
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻2 号 p. 172-175
    発行日: 2020/06/25
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/05/25
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    フェンタニル経皮吸収型製剤(8.4 mg/3日)貼付中に発熱し意識レベルが低下し,ナロキソン塩酸塩0.2 mg投与にて意識改善を認めた症例を経験した.60歳男性,血液透析歴34年,透析アミロイドーシス,脊柱管狭窄症による全身痛があった.40.0℃の発熱時に意識レベル(Japan coma scale: JCS,10~20),収縮期血圧60~70 mmHg,呼吸数10回/分の低下を認めナロキソン塩酸塩0.2 mg投与にて速やかに症状改善を認めた.フェンタニル血中濃度は呼吸抑制を引き起こすと報告されている値より低値であったが,ナロキソンで症状改善したためフェンタニルが原因と推測された.

  • 西山 友貴
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻2 号 p. 176-179
    発行日: 2020/06/25
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/05/25
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    【目的】1–2椎間の腰椎後方除圧術の術後痛に対するフェンタニル(F)持続静注の効果をレトロスペクティブに検討した.【方法】1–2椎間の腰椎後方除圧術症例で,術後鎮痛にF持続静注を行った33例(F群)と,通常の疼痛時鎮痛のみ行った14例(対照群)をカルテより抽出した.フルルビプロフェン50 mgを麻酔導入時に,アセトアミノフェン1,000 mgを手術終了時に投与した.F群は手術終了時よりF 20 µg/時間,ドロペリドール0.2 mg/時間を24時間持続静注した.対照群では持続投与しなかった.術後鎮痛は,レスキューとしてvisual analogue scale(VAS,0~10)5以上で,鎮痛薬を投与した.【結果】VASは0(帰室直後)から30分までF群が対照群より有意に低かった.【結論】1–2椎間の腰椎後方除圧術の術後,F 20 µg/時間,ドロペリドール0.2 mg/時間持続静注は,吐き気,嘔吐,頭痛の頻度を増加させなかったが,術後30分までしか有意な鎮痛作用を示さなかった.

  • 立花 潤子, 服部 政治
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻2 号 p. 180-183
    発行日: 2020/06/25
    公開日: 2020/06/30
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    上顎洞がん,頭蓋底浸潤による頭痛・顔面痛に対し,頸部硬膜外鎮痛法を行い,全身オピオイド中止とともに眠気とADL(activity of daily living)が改善し,転院が可能となった.頭頸部・顔面の難治性の痛みに対して硬膜外鎮痛法が有用である可能性が示唆された.

  • 前島 英恵, 北原 雅樹
    原稿種別: 症例
    2020 年27 巻2 号 p. 184-187
    発行日: 2020/06/25
    公開日: 2020/06/30
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    認知症は慢性疼痛の症状や治療に大きく影響するため,早期に気づき介入することが必要である.痛みの訴えによってペインクリニック外来を訪れる患者のなかには,痛みが実は認知症のために表れている症状の一つに過ぎず,本当の問題は認知症であるということがある.今回,睡眠障害を伴う難治性の背部痛として当科を紹介受診し,軽度のparkinsonismや幻覚,強い抑うつの存在からレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)の診断に至った1症例を経験した.診断後はDLBに対する薬物治療,認知機能に影響を及ぼす可能性のある鎮痛薬の整理のほか,今後予想される生活機能の低下への福祉的対応が必要であった.DLBは多彩な症状(認知機能低下以外に睡眠行動異常やparkinsonism,幻覚など)があるものの,アルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease:AD)のように早期から記憶障害が前面に出現せず,疑わなければ気づきにくい.認知症の存在に気づくためには,認知症に関する知識の習得や高齢者に対する積極的な認知機能検査が必要である.

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