日本ペインクリニック学会誌
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総説
エンドセリンA受容体による疼痛制御―エンドセリンA受容体拮抗薬によるオピオイドの鎮痛増強効果の解析―
黒田 唯野中 美希山口 敬介井関 雅子上園 保仁
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2021 年 28 巻 8 号 p. 167-174

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Abstract

痛みは,さまざまな要因で発生し,時に患者の精神をむしばみ苦痛を伴う.適切なペインコントロール,マネジメントは実施されているものの,現在使用されている鎮痛薬,鎮痛補助薬では克服できないものも多く存在している.血管内皮由来の血管収縮作用を有するペプチドとして発見されたエンドセリン(ET)は生体において心血管系に対する作用が強力であるため,これまで循環器疾患にかかわる因子として知られてきた.しかしながら近年,ETはETA受容体(ETAR)を介して痛みを惹起し,がん性疼痛をはじめとする炎症性疼痛や神経障害痛などのさまざまな痛みに関与することが報告されており,疼痛領域においても注目されている.またこれまでの報告から,ETAR拮抗薬はオピオイドの鎮痛作用の増強ならびにオピオイド耐性の解除に関与することが報告されているため,新規鎮痛補助薬としてETARをターゲットとした薬剤開発が期待される.本総説ではET-1と疼痛発現機序に関する知見およびETAR拮抗薬とオピオイド鎮痛シグナルとの関連性について概説し,ETARをターゲットとした新規鎮痛補助薬の可能性について,筆者らの研究とともに報告する.

I はじめに

エンドセリン(ET)は1988年に柳沢正史博士によって発見されたペプチドであり1),種々の疾患に関与することが知られている.発見当初,エンドセリン–1(ET-1)は血管内皮由来の強力な血管収縮作用を有することから,循環器疾患に対する創薬ターゲットとして注目されてきた.しかしながら近年,循環器疾患以外の病態への関与も指摘されておりETがさまざまな病態に関与していることが明らかとなった.疼痛領域においてET-1は,がん性疼痛のみならず炎症性疼痛,神経障害痛といった種々の痛みに関与していることが報告されており,これらの疼痛発現の機序はET受容体(ETR)を介した反応であることが示されている.ETはA受容体(ETAR)とB受容体(ETBR)の2つのサブタイプを持ち,ET-1によりETARは疼痛を惹起し,ETBRは内因性のオピオイド分泌を促進し鎮痛作用に寄与することが知られている.これまでの報告から,ETAR拮抗薬はオピオイドの鎮痛作用の増強ならびにオピオイド耐性の解除に関与することが報告されているため,ETARをターゲットとした新規鎮痛治療薬の開発が期待されている.本総説ではET,とくにET-1のこれまで明らかとなっている生理作用と,近年明らかとなってきたET-1と疼痛,とくにオピオイドを介する疼痛シグナルとの関連性について概説するとともに,ETARを創薬ターゲットとした新規鎮痛補助薬の可能性について検討した筆者らの研究について紹介する.

II エンドセリン

ETは21個のアミノ酸残基からなるペプチドであり,3種の異性体(ET-1,ET-2,ET-3)が存在する.1988年に柳沢らによってET-1がブタ大動脈血管内皮細胞の培養上清より単離同定され,その後ヒトをはじめ多くの哺乳類の体内でも存在が確認された1).ET-2,ET-3はET-1のDNAから同定され,生体中にも実際に存在していることが確認されている2).その他にET-1と高い相同性を持つ物質として心毒性を持つヘビ毒サラフォトキシンが存在する3).これらETファミリーのうちET-1が生体に多く存在し,心血管系に対する作用が強力であるため,臨床的に意義を持つET-1は循環器疾患にかかわる因子として注目されてきた.

ET-1はおもに血管作動性にかかわる因子として知られているが,作用する組織や臓器は呼吸器系,循環器系,内分泌系,泌尿器系,感覚器官,消化管系,中枢神経系と多岐に渡る.ET-1は,生体内で生命維持に必要な役割をもち4),胎児期の器官形成に対しても重要な役割を持つ一方で,体内における過剰な増加が組織の損傷を引き起こし,臓器への負の作用をもたらすことも報告されている5).また循環器疾患においては,心疾患,血管病変,肺高血圧症発症時に,生体内でET-1の上昇が病態と相関していることが確認されている6,7).循環器疾患以外においても,敗血症,喘息,腎障害,緑内障,認知症,脳血管障害の患者において,体内でのET-1の上昇が確認されており8,9),また前立腺がんや乳がんなどの悪性腫瘍,鎌状赤血球疼痛症候群,レイノー症候群や複合性局所疼痛症候群といった痛みを伴う疾患でのET-1の上昇も認められている(図1).さまざまな病態において,ET-1の血中での上昇がそれらの疾患の増悪に寄与している可能性が強く示唆されおり10),疼痛に関与する疾患でも認められることから,疼痛領域におけるET-1の役割についても近年注目されている.

図1

エンドセリンの分布と疾患の関係

ET-1:endothelin-1

III エンドセリン受容体

7回膜貫通型G蛋白質共役型受容体であるエンドセリン受容体(ETR)は,エンドセリンA受容体(ETAR)とエンドセリンB受容体(ETBR)の2種類があり,ET-1,ET-2,ET-3のETRへの親和性は異なることが知られている.ET-1とET-2はETARに対してほぼ同等の親和性を示すが,ET-3とETARの親和性はET-1,ET-2と比べ70~100倍低い.一方,ETBRに対してET-1,ET-2,ET-3はいずれも同等の親和性を持つ11).ETAR,ETBRどちらも全身の組織や細胞に分布しているが,ETARはとくに全身の血管平滑筋細胞や心臓,肺に多く存在し,末梢神経や脳での発現も認められている.一方,ETBRは脳や腎臓に多く発現しており,心臓,肺,肝臓にも発現が確認されている12)

ETARとETBRからのシグナル伝達は多くの部位で拮抗することが知られている.例えば,血管平滑筋に分布するETARが活性化すると血管収縮を引き起こす.一方,血管平滑筋および血管内皮に分布するETBRが活性化すると一酸化窒素などの血管拡張物質が放出され,ETARの反応とは反対にETBRは血管拡張を起こす13).また疼痛領域においてもET-1が末梢神経の侵害受容器に発現するETARに結合すると疼痛惹起を起こすが,末梢組織のケラチノサイトに発現するETBRに結合すると鎮痛にかかわるneuropeptideや内因性オピオイドの分泌が促され鎮痛作用をもたらすことが知られている(表1).生体に必要な働きを持つET-1だが,ETARを介した過剰な反応は血圧上昇や血管のリモデリングなど悪影響をもたらす.ETBRはこのような過剰な反応を抑えるためにETのクリアランス機能を有している14)

表1 エンドセリン受容体の作用
  エンドセリンA受容体 エンドセリンB受容体
血 管 血管収縮作用 血管拡張作用
エンドセリンのクリアランス
心 臓 強心作用,心筋肥大 心収縮力低下
腎 臓 糸球体血流低下
レニン分泌増加
メサンギウム細胞収縮
(→糸球体血流低下)
タンパク透過性増加
糸球体硬化
糸球体血流増加
レニン分泌低下
神 経 疼痛惹起 鎮痛効果
内分泌 カテコラミン分泌促進
ANP・BNP分泌
カテコラミン分泌抑制
バソプレシン・アルドステロン分泌
気管支 平滑筋収縮  
線維芽細胞 細胞増殖  
マクロファージ 炎症性サイトカイン分泌  

ANP:atrial natriuretic peptides,BNP:brain natriuretic peptide

ETRを標的とした創薬を考えた場合,ETARを介する作用は血圧上昇,心血管リスクの上昇,疼痛惹起などの負の作用を起こすことから,ETARを介したシグナル伝達を止めるETAR拮抗薬の開発が期待される.しかしながら,臨床で使用されている薬剤の多くはETAR選択性に課題をもつ.現在臨床上使用可能なエンドセリン拮抗薬はETARとETBRをどちらも阻害する拮抗薬である.ETAR/ETBR拮抗薬であるボセンタン,マシテンタン,アンブリセンタンは肺動脈性肺高血圧症に対して,ETの血管収縮作用を抑えることで肺動脈圧を下げ呼吸器症状を改善する薬剤として使用されている.加えてボセンタンは,全身性強皮症の血管障害の改善目的にも用いられる.しかしながらETAR/ETBR拮抗薬は副作用として,血管拡張作用による頭痛や体液貯留が認められる.これらの副作用が,ETAR,ETBR阻害の選択性に関与するものであるかは現在のところ明らかとなっていないが,副作用を低減し,より治療効果の高いET拮抗薬の開発が期待されている.また,ET-1が種々の疾患に関与していることから,ETAR/ETBR拮抗薬が現在使用可能な肺動脈性肺高血圧症以外の疾患でも使用できるように,臨床適用拡大のための研究も進められている.

IV エンドセリンの疼痛への関与

ET-1による疼痛発現のメカニズムについては,これまでさまざまな報告がされている.ET-1は,正常組織からの合成,分泌だけではなく,炎症細胞や腫瘍細胞からも分泌される.炎症細胞や腫瘍細胞から分泌されたET-1は末梢神経の侵害受容器に存在するETARに結合することで疼痛を惹起することが報告されている15,16).ET-1は発痛物質として直接侵害受容器を活性化させるだけではなく,カプサイシンやアラキドン酸などの他の発痛物質の効果も促進する.動物モデルを用いた実験では,ET-1のマウスの足底への局所投与によって疼痛が惹起されることが示されている17).また,末梢神経に分布するETARはET-1刺激によりAδ線維やC線維を興奮させる18).さらにヒトに対しても皮内投与で疼痛や機械的刺激に対する過敏性の増悪,高用量のET-1の血管内投与でアロディニアや深部の筋肉痛が生じる19).ET-1による疼痛発現については前述のとおり細胞・動物において確認されており,さらにヒトにおいてもET-1による疼痛発現が確認されている.一方で,ET-1がETBRに作用すると後根神経節での電位依存的な神経の興奮を抑制し20),ET-1を髄腔内投与し中枢神経系に作用させると,ETARを介して下行性抑制系に作用し疼痛の伝達を抑制する21)という鎮痛に対する効果を示す文献も存在する.ET-1は,末梢組織においては正常組織以外の炎症細胞や腫瘍細胞から生合成され,ET-1が上昇し,そのET-1がETARを介して痛みの増悪に繋がる負の作用を持つと考えられる.一方,中枢神経に対してはETARを介して鎮痛作用をもたらす正の作用を示すことから,ETARを介する作用は末梢神経と中枢神経で生理的役割が異なる可能性が示唆される.

ET-1は,炎症性疼痛,神経障害痛,がん性疼痛に関与することが明らかとなっている22).炎症性疼痛では,関節リウマチ,関節炎,痛風において関節液中のET-1が上昇し,温熱性の痛覚過敏を引き起こす.子宮内膜症では,IL-1β刺激によって子宮内膜間質細胞でBK受容体発現が上昇する.さらに,BK受容体が活性化されると間質細胞よりET-1が産生され炎症性疼痛が生じることが細胞実験で確認されている23).神経障害痛においては,末梢神経でETARが疼痛に関与することが報告されている.ラットにおける動物実験でspinal cord injury(SCI)による疼痛により,脊髄や脊髄後根神経節においてETARのアップレギュレーションが生じ,このSCIによる疼痛はETAR拮抗薬により改善されたが,ETBR拮抗薬では改善しなかった.この報告より,神経障害痛にはETBRではなく,ETARが関与していることが示唆された24).また三叉神経へのET-1の投与により,ETARを介した三叉神経領域での疼痛の出現も確認されている25).糖尿病性神経障害の動物モデルではET-1による神経虚血の関与も指摘されている26)

がん性疼痛とET-1の関連については,数種類のがん細胞からET-1が産生され,知覚神経のETARを介して強い痛みを惹起することが知られている.ETとの関係が明らかとなっている腫瘍として,前立腺がん,卵巣がん,口腔扁平上皮がん,乳がん,大腸がん,膵臓がん,子宮内膜がん,肺がん,黒色腫などが知られており,進行がん患者の突出痛の出現時にはET-1の上昇が認められる27,28).また血漿中のET-1濃度とvisual analogue scaleスコアは正の相関があり,ET-1は骨転移のあるがん患者を苦しめる突発痛にも関与することがわかっている28).またこの突発痛はETAR拮抗薬であるBQ-123で改善することが動物モデルを用いた研究により明らかとなっている29).このようにET-1およびETARは,さまざまな要因で起こる疼痛下において発現が上昇し,ETARが疼痛発現の機序の一部を担っていることがこれらの報告より強く示唆される.一方で末梢組織に分布するETBRにET-1が作用すると,末梢組織のケラチノサイトから鎮痛にかかわるneuropeptideや内因性オピオイドの分泌が促され鎮痛効果が生じる.したがって,ETRを創薬ターゲットとして考えた場合,疼痛に関してはETARを介する痛みのシグナルを抑制し,ETBRを介する鎮痛作用は増強するような薬剤の開発が期待される.

V エンドセリン受容体拮抗薬とオピオイドによる鎮痛作用

悪性腫瘍は疼痛を生じる疾患として知られているが,がん患者で認められる疼痛はしばしば難治性疼痛を引き起こし,患者から生きる希望および意欲を奪う大きな原因の一つとなっている.がん性疼痛に対する治療は,オピオイド受容体アゴニストである医療用麻薬が広く使用されている.オピオイド受容体はオピオイドµ受容体(MOR),オピオイドδ受容体(DOR),オピオイドκ受容体(KOR)の3種類が存在し,医療用麻薬として使用されるモルヒネやオキシコドン,フェンタニルなどは,おもにMORを介して鎮痛作用を発揮する30).オピオイドの使用により,適切に痛みを取り除く治療が行われているものの,進行がん患者の約80%が中等度から重度の疼痛を生じている31)こと,さらにがん性疼痛の中にはオピオイドの耐性がある疼痛も存在しているが,現在のところその苦痛を取り除く治療薬は上市されていないため,治療薬の開発は急務である.米国ではオピオイド中毒や乱用が問題となっており,オピオイド鎮痛薬の過剰投与で命を落とす患者が増加している32).オピオイドの不適切な使用はオピオイドクライシスと呼ばれる国際的な社会問題となっている33).オピオイドクライシスを解決するために,オピオイドの使用量を減らす方法や,副作用の少ない新しい効果的な治療法の開発が喫緊の課題となっている34)

これまで概説してきたようにETARは疼痛を惹起することがこれまで報告されている.また細胞および動物実験報告によると,ETAR拮抗薬を用いることで,オピオイドの鎮痛効果増強,オピオイド耐性の解除,離脱症状の抑制が生じることから,ETAR拮抗薬の新規鎮痛薬や鎮痛補助薬としての効果が期待される35).オピオイドの鎮痛耐性は,慢性曝露によりMORからG蛋白質が脱共役することで生じるが,ETAR拮抗薬はオピオイド受容体とG蛋白の再共役を促進し,鎮痛作用が改善する3638).またマウスやラットを用いた動物実験により,ETAR拮抗薬はwet shakes,rearing behavior,jumping behaviorといったオピオイドの離脱症状や体重減少,低体温を予防,改善することが示されている35).ETAR拮抗薬は長期のオピオイド投与が必要な患者の助けになることが期待されるが,オピオイドとの相互作用による鎮痛作用の発現に関する詳細なメカニズムは未だ明らかとなっていない.したがって,ETAR拮抗薬によるオピオイドとの相互作用による鎮痛作用の詳細なメカニズム解析を行い,新規鎮痛治療薬として開発されることが期待されている.

われわれはこれまで,ET-1によるオピオイドの鎮痛減弱作用のメカニズムの解明ならびに,既存薬に比しETARに対して選択性の高い新規ETAR拮抗薬を用いて,ETAR拮抗薬によるオピオイドの鎮痛増強作用のメカニズムをin vitroおよびin vivo実験により明らかにした(黒田ら,投稿準備中).先述の通り,ET-1は疼痛時に生体内で上昇することが報告されていることから,筆者らはin vitro実験において,ETARとMORを共発現させたHuman Embryonic Kidney 293細胞を用いて,ET-1をあらかじめ細胞に前処置することにより疼痛発現時と同じ生体内での環境を再現し,その際のモルヒネの作用を評価した.モルヒネをはじめとするオピオイドが作用するMORは,Gi共役型GPCRであり,G蛋白質経路を介することで鎮痛効果をもたらす一方,長期投与による鎮痛耐性にはβアレスチン経路が関与していることが知られている.Gi共役型GPCRのG蛋白経路のセカンドメッセンジャーはcyclic AMP(cAMP)であるため,本研究ではin vitroでのモルヒネの鎮痛効果を確認するために,cAMPを特異的に測定することが可能なcADDis cAMP assay法を用い,ET-1処置時のMORの活性評価ならびに新規および既存のETAR拮抗薬によるMORへの効果についての検討を行った.本研究により,cAMP assayからET-1存在下ではモルヒネの作用が減弱し,また新規ETAR拮抗薬はET-1によるモルヒネの減弱作用を回復させることが明らかとなった.ET-1によるモルヒネ減弱作用の改善は新規ETAR拮抗薬のみにおいて確認され,既存のETAR拮抗薬であるBQ-123およびETAR/ETBR拮抗薬であるボセンタンでは改善しなかった.したがって,ETARを介した疼痛シグナルの解除にはETARにより選択性の高い拮抗薬が有効であることが示唆された.そこで,in vivoでの新規ETARの作用について確認するために,新規ETAR拮抗薬とモルヒネを正常マウスに併用投与したところ,モルヒネの鎮痛作用が増強され,鎮痛作用の持続時間も延長した(図2).加えてモルヒネによる体温低下の抑制や行動量の増加が確認された.オピオイド受容体による体温変化は,MORが体温上昇に寄与し,DORおよびKORは体温低下に寄与することが報告されている39).今回の結果から新規ETAR拮抗薬とモルヒネを併用することでモルヒネ単独投与と比較し体温低下の抑制,すなわち体温が上昇するためモルヒネのMORを介する作用を増強している可能性が示唆された.またモルヒネ投与による行動量の変化は,MORを介したドパミン作動性の作用がかかわっていることが報告されている40).新規ETAR拮抗薬とモルヒネを併用することで行動量の上昇が確認されていることからも,ETAR拮抗薬がモルヒネのMORを介する作用を増強している可能性が示唆された.これらの作用について,臨床においては目的とする作用の発現する用量との慎重な精査が必要であるが,以上の結果から,動物を用いた検討からも,新規ETAR拮抗薬はMORを介してモルヒネの作用を増強している可能性が示唆され,ETARへの選択性の高さが鎮痛作用を増強すると考えられた.

図2

エンドセリンA受容体拮抗薬による鎮痛増強作用のメカニズム

ETAR:endothelin A receptor,ET-1:endothelin-1,MOR:opioid µ receptor

筆者らの検討から,ETARに対する選択性の高さがET-1のモルヒネ減弱作用を改善し,MORに対する作用を活性化することが明らかとなったが,ETARに対する選択性の高さが,ET-1によって起こる疼痛に対して,鎮痛効果をもたらす機序については分子メカニズムの観点からより詳細に今後検討を行う予定である.ETAR拮抗薬そのものによる副作用だけでなく,オピオイドのMORを介した副作用,例えば便秘や呼吸抑制などへの影響についてもさらに検証を行うことが,薬剤開発を進める上では必須である.加えて,本研究では疼痛モデルではない動物モデルを使用したが,今後は疼痛を伴っている動物モデルを使用することで,疼痛時には新規ETAR拮抗薬がどのような効果を示すのか,どのような疼痛にETAR拮抗薬の効果があるのかといった基礎的データの収集を行う予定である.新規ETAR拮抗薬はモルヒネの補助薬としての可能性を秘めており,鎮痛機序のproof of conceptを今後も確立していきたい.

VI 結論

ET-1およびETARはさまざまな疼痛発現に関与していることから,ETARをターゲットとした鎮痛治療薬および鎮痛補助薬の開発は,疼痛で苦しむ患者の福音になると考えられる.本研究で使用した新規ETAR拮抗薬は,ET-1により減弱したモルヒネの鎮痛効果を回復させたことから疼痛領域での臨床開発が期待される.ETAR拮抗薬とオピオイドを併用することで,オピオイドの使用量を減らすことができれば,「オピオイドクライシス」に苦しむ患者や,骨転移やオピオイド耐性など疼痛管理が困難な患者に使用することで適切な疼痛管理を行うことができると考えられ,その期待は大きい.今後新規ETAR拮抗薬の治療薬としての有用性を調べるためにETAR拮抗薬の選択性の高さや副作用の観点からのさらなる研究が必要である.

謝辞

本研究にあたり終始懇切なるご指導およびご鞭撻を賜りました順天堂大学医学部薬理学教室の呉林なごみ先任准教授,村山 尚准教授,上窪裕二准教授ならびに東京大学定量生命科学研究所小川治夫准教授に深謝申し上げます.また,技術的なサポートを賜りましたバイオリサーチセンター古藤田誠一様に深謝申し上げます.本研究はエーザイ株式会社により助成を受けたものである.

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