痛みは,さまざまな要因で発生し,時に患者の精神をむしばみ苦痛を伴う.適切なペインコントロール,マネジメントは実施されているものの,現在使用されている鎮痛薬,鎮痛補助薬では克服できないものも多く存在している.血管内皮由来の血管収縮作用を有するペプチドとして発見されたエンドセリン(ET)は生体において心血管系に対する作用が強力であるため,これまで循環器疾患にかかわる因子として知られてきた.しかしながら近年,ETはETA受容体(ETAR)を介して痛みを惹起し,がん性疼痛をはじめとする炎症性疼痛や神経障害痛などのさまざまな痛みに関与することが報告されており,疼痛領域においても注目されている.またこれまでの報告から,ETAR拮抗薬はオピオイドの鎮痛作用の増強ならびにオピオイド耐性の解除に関与することが報告されているため,新規鎮痛補助薬としてETARをターゲットとした薬剤開発が期待される.本総説ではET-1と疼痛発現機序に関する知見およびETAR拮抗薬とオピオイド鎮痛シグナルとの関連性について概説し,ETARをターゲットとした新規鎮痛補助薬の可能性について,筆者らの研究とともに報告する.
前皮枝神経絞扼症候群(anterior cutaneous nerve entrapment syndrome:ACNES)に対し,modified Thoraco Abdominal nerves through Perichondrial Approach(m-TAPA)ブロックとトリガーポイントブロックの併用で症状が改善した1例を経験した.41歳男性.3日間持続する左上腹部痛が増悪し当院を受診した.ACNESと診断され,神経ブロックを施行した.超音波所見で第10肋軟骨尾側の圧痛部の腹直筋内に高輝度領域を認めた.第10肋軟骨尾側の内腹斜筋・腹横筋間に1%メピバカイン5 mlを投与し,直後よりnumeric rating scale(NRS)4→0/10と改善した.その後高輝度領域周囲に1%メピバカイン5 ml+デキサメタゾン1.65 mgを投与した.皮膚分節でTh5~9に冷感消失を認め,1.5カ月後も症状再発はなかった.超音波高輝度領域はACNESの原因である肋間神経前皮枝の絞扼部と考えられ,正確なトリガーポイントブロックが施行できた.またm-TAPAブロックはACNESの治療の選択肢となる可能性が示唆された.
微小血管減圧術(microvascular decompression:MVD)は,三叉神経痛に対する根治的な治療法であるが,MVD後に痛みが再燃する症例は存在する.今回,MVD術後に三叉神経痛が再燃した若年女性にパルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)による上顎神経ブロックを追加処置として施行したところ効を奏した症例を経験した.症例は30代の女性.左三叉神経第2枝領域の痛みに対し微小血管減圧術が行われたが,術後6カ月目に同部位の痛みが再燃した.左眼窩下神経高周波熱凝固術を行い,眼窩下神経領域の痛みは改善したが,間もなく左奥歯の痛みが増強した.超音波ガイド下での上顎神経パルス高周波法を行ったところ疼痛は軽快した.超音波ガイド下での上顎神経パルス高周波法は微小血管減圧術後に再発した三叉神経痛への治療として,安全性,合併症リスク軽減の点で有用であると思われる.