日本ペインクリニック学会誌
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短報
交通外傷後の若年者の慢性期頚椎椎間関節痛に対し超音波ガイド下の脊髄神経後枝内側枝パルス高周波療法が有効であった1例
滝本 佳予森 梓
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2022 年 29 巻 3 号 p. 36-37

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I はじめに

交通外傷後に残存する頭頚部痛は,外傷性頚部症候群として知られ有効な治療方法は限られる1).今回,5年間にわたり持続する若年者の頚部痛について治療過程で外傷性頚部症候群と診断し,責任頚椎椎間関節を支配する脊髄神経後枝内側枝に対し,超音波ガイド下にパルス高周波療法(pulsed radiofrequency:PRF)を実施し,痛みが改善した症例を経験したので報告する.

本症例の発表については,本人および保護者の承諾を得ている.

II 症例

患者は16歳の女性,5年前の歩行中に自動車に衝突され頭部を受傷し,急性硬膜外血腫による意識障害と四肢麻痺を生じた.保存加療により学習認知機能には問題を残さず回復したが,右手指に開帳方向の不随意運動が残存してびまん性軸索損傷の診断で精神障害等級を認定された.頭頚部痛は受傷後より続いており,複数の医療機関を受診しロキソニン,アセトアミノフェン,エペリゾンを処方されたが改善せず,近医整形外科から診断および加療目的で当科に紹介された.

当科初診時,両側の後頭部・後頚部・肩部に自発痛を訴え,痛みの程度は安静臥床時にvisual analogue scale(VAS)30/100 mm,起坐・立位・歩行でVAS 60~90/100 mmであった.痛みを紛らわせようと無意識に頚部を左右に動かしてしまうことが生活上苦痛になっており,また痛みを軽減させる目的で仰臥位の姿勢を好んでとるため日常生活に障害が生じていた.

患者への問診によると,事故後にこれまで頚部の神経筋骨格系に画像上の異常は指摘されておらず,また紹介元で撮像した頚椎単純X線像でも異常はなかった.神経根症状を欠くため頚椎症性神経根症の可能性は低いと判断した.有痛部位に圧痛を伴う策状硬結を複数認めたため,僧帽筋の筋・筋膜性症候群を疑って僧帽筋筋膜下の圧痛点にトリガーポイント注射(TP)を開始した.TP直後より痛みが軽減し,2週間間隔で反復したところ,後頭部痛と肩部痛が解消し,4回目のTP終了後には左側頚部痛をnumerical rating scale(NRS)3/10の強さで残すのみとなった.左頚部の圧痛点を超音波で観察したところ,第5/6頚椎(C5/6)の椎間関節に一致していた.関節突起間に水腫は認めなかった.超音波ガイド下にC5/6の椎間関節内に1%リドカイン3 mlとベタメタゾン4 mgを注入したところ,痛みは消失した.そこでこれまでの痛みは椎間関節障害による外傷性頚部症候群,ケベック報告Grade 2であったと診断し,初診から5カ月後に,C5/6椎間関節を支配する脊髄神経後枝内側枝のPRFを実施することとした.

PRFは高周波熱凝固装置(Neuro Therm NT500,アボットメディカルジャパン)を使用し,右側臥位で超音波ガイド下に行った.リニアプローブを用いて短軸方向に左C5/6椎間関節を描出した後,尾側方向にプローブをスライドさせC6の関節柱を描出した.電極針を後方から平行法で刺入しC6の関節柱上に進め低周波刺激を加えたところ,元来の頚部痛が誘発された.同部位に1%リドカイン0.5 mlを注入した後に42℃,480 KHzの高周波を0.5秒間隔で,0.02秒間欠的に180秒間通電した.実施直後より痛みはNRS 0/10となり,以降NRS 0~1/10で推移した.初診から7カ月後,NRS 3/10の左頚部痛が再燃したため,1回目と同条件で2回目のPRFをC5の関節柱上で実施し,以降は症状の再燃なく初診から13カ月が経過している.Neck Disability Indexは初診時19点であったのが5点に減じ,EuroQol 5-Dimension質問票は(21231)であったのが(11121)に改善した.日常生活制限も解消し,本人家族共に治療効果に満足感を示した.

III 考察

外傷性頚部症候群は,器質的損傷を画像的に捉えることは困難であるが,頚部の椎間板・椎間関節・筋・靭帯・後根神経節の損傷が外傷性頚部症候群の原因として挙げられている2).今回,交通外傷後の遠隔期に初回診察をしており,画像上も異常所見を欠き,外傷性頚部症候群と診断するのには時間を要した.まずは僧帽筋の走行にそったTPを行った結果左頚椎椎間関節痛が残存し,診断的に実施した椎間関節ブロックが有効であったことから,椎間関節障害による外傷性頚部症候群で矛盾しないとの診断に至った.責任椎間関節の同定は,超音波で観察しつつ椎間関節を触知して(sonopalpation),圧痛のある椎間関節を同定する(sonotenderness)という臨床症状からの診断手法を用いた.頚椎椎間関節は超音波により容易に描出可能で,診断的・治療的な椎間関節・後枝内側枝ブロックを実施し得る.さらに被爆を避けられること,また透視下手技を実施していない施設においても行うことができることから,超音波ガイド下に実施する手技は有用性が高いと言えよう.

超音波ガイド下での椎間関節へのアプローチは透視下での手技と比較して歴史が浅く報告が少ない.今回のような交通外傷後慢性期の椎間関節障害の場合,責任椎間関節を支配する脊髄神経後枝内側枝に対して透視下で実施する高周波熱凝固療法(radiofrequency:RF)やPRFは有効と報告されているが3,4),超音波ガイド下で実施した報告はない.超音波ガイド下での報告として,慢性の頚椎椎間関節痛に対して局所麻酔薬での脊髄神経後枝内側枝ブロックの効果は透視下と差がないとの報告はあるが5),RFやPRFでの評価ではなく,交通外傷を対象としていない.今回は,交通外傷後慢性期の椎間関節障害に対して後枝内側枝のPRFを実施し,超音波ガイド下でも有効であることを示すことができた.

文献
  • 1)  外傷性頚部症候群. 日本ペインクリニック学会治療指針検討委員会編. ペインクリニック治療指針 改訂第6版. 東京, 真興交易医書出版部, 2019, pp241–2.
  • 2)   Smith  AD,  Jull  G,  Schneider  G, et al. Cervical radiofrequency neurotomy reduces psychological features in individuals with chronic whiplash symptoms. Pain Physician 2014; 17: 265–74.
  • 3)   Persson  M,  Sörensen  J,  Gerdle  B. Chronic Whiplash Associated Disorders (WAD): Responses to Nerve Blocks of Cervical Zygapophyseal Joints. Pain Med 2016; 17: 2162–75.
  • 4)   Chua  NH,  Halim  W,  Evers  AW, et al. Whiplash patients with cervicogenic headache after lateral atlanto-axial joint pulsed radiofrequency treatment. Anesth Pain Med 2012; 1: 162–7.
  • 5)   Park  KD,  Lim  DJ,  Lee  WY, et al. Ultrasound versus fluoroscopy-guided cervical medial branch block for the treatment of chronic cervical facet joint pain: a retrospective comparative study. Skeletal Radiol 2017; 46: 81–91.
 
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