日本ペインクリニック学会誌
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症例
直腸がん局所再発による会陰部痛に対して不対神経節ブロックにより長期間の鎮痛が得られた1例
小川 舜也栗山 俊之丸山 智之水本 一弘山﨑 亮典川股 知之
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2022 年 29 巻 9 号 p. 198-201

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Abstract

不対神経節ブロック(ganglion impar block:GIB)は,会陰部の痛みに適応となるが,がん性痛に対する長期的な効果に関する報告は少ない.今回,神経破壊薬を用いた2回のGIBによって15カ月間の鎮痛効果が得られた症例を経験したため報告する.症例は53歳の男性.直腸がんの局所再発に伴う旧肛門部を含む会陰部痛を有していた.会陰部の安静時痛はNRS 4/10で,誘発痛はNRS 9/10であった.局所麻酔薬によるGIBで痛みが消失したため,神経破壊薬によるGIBを行い,安静時痛がNRS 0/10,誘発痛がNRS 2~5/10と軽減した.9カ月後ごろから痛みが増強したため,初回の神経破壊薬によるGIBから11カ月後に2回目の神経破壊薬によるGIBを行った.その後4カ月経過したが痛みの増悪はない.

Translated Abstract

Ganglion impar block (GIB) is used for treatment of perineal pain. There have been few reports on the long-term efficacy of GIB for cancer pain. We report a case in which perineal pain due to local recurrence of rectal cancer was improved for a period of 15 months by GIBs performed twice. A 53-year-old man had perineal pain due to local recurrence of rectal cancer. We performed neurolytic GIB. Resting and evoked perineal pain was improved by neurolytic GIB. Pain flared up again 9 months later, and we performed a second neurolytic GIB 11 months after the initial block. An analgesic effect persisted for more than 4 months after the second block. GIB can be performed easily and repeatedly and there are few complications. Repeated GIBs for perineal pain due to local recurrence of rectal cancer was considered to be useful for achieving a long-term analgesic effect in our case.

I はじめに

不対神経節ブロック(ganglion impar block:GIB)は会陰部の痛みに適応となるが1),がん性痛に対する長期的な効果に関する報告は少ない2).今回,直腸がんの局所再発によって持続する会陰部痛に対して,2回のGIBで15カ月間の鎮痛効果が得られた症例を経験したため報告する.本症例報告に関して,患者から書面で同意を得た.

II 症例

53歳,男性.身長164 cm,体重62 kg.併存症として神経因性膀胱による排尿困難がありシロドシンを内服していた.2年前に直腸がんとその肝転移に対して,腹腔鏡補助下直腸切除術と腹腔鏡下肝部分切除術が施行された.その後,CTで肺転移と直腸吻合部の再発(図1)を認め,化学療法が行われた.7カ月前に腸管閉塞をきたし,人工肛門が造設された.その後,旧肛門の内部から肛門表面を含む会陰部痛が出現し,オキシコドン徐放製剤の内服を開始したが痛みは軽減せず,持続した.4カ月前に痛みの原因と考えられた再発病変に対して放射線治療を3 Gyで10回施行した.しかし,痛みは改善せず当科を受診した.初診時には,オキシコドン徐放製剤60 mg/日と誘発痛に対してオキシコドン速放製剤5 mgが処方されていたが,速放製剤は誘発痛に対して効果がなかった.会陰部の安静痛はnumerical rating scale(NRS)で4/10であった.また,立位,歩行,座位,および旧肛門からの排液でズンと重い痛みが誘発されNRSで9/10であった.また,痛みのため睡眠が障害されていた.

図1

骨盤部CT

A:体軸断面像,B:矢状断面像.

直腸がん切除後の吻合部に再発した病変を認める(赤丸印).

会陰部痛に対する治療として,GIB,くも膜下フェノールブロック(subarachnoid phenol block:SAPB)および鎮痛薬の増量について患者に説明したところ,SAPBと比較して排尿障害を含めた合併症の報告が少ないGIBを希望した.はじめに,局所麻酔薬によるGIBを外来で行った.超音波装置を用いて腹臥位で仙骨と尾骨の間に低エコーで描出される仙尾関節を確認した.Tuohy針(22G,8 cm,八光)を仙尾関節に刺入し,生食による抵抗消失法を用いて仙骨前面を同定し,2%メピバカイン4 mlを投与した.投与直後から会陰部の痛みが消失し,座位での痛みも消失した.その後,2日間は安静時痛のNRSは0/10,誘発痛のNRSは5/10に軽減した.また,排尿困難の増強や下肢感覚障害等の合併症はなかった.GIBが有効だと考え,3週間後に神経破壊薬を用いたGIBを行った.同様に透視下に造影剤1 mlを投与し,仙骨前面に針先を確認した(図2).2%メピバカイン3 mlを投与した後15分間観察した.感覚障害がなく鎮痛効果が得られることを確認して,無水エタノール3 mlを投与した.投与後は30分間腹臥位で,その後2時間仰臥位で安静とした.ブロック施行7日後,会陰部の安静時痛はNRSで4/10から3/10と軽減した.1カ月後の安静痛のNRSは1/10,体位や旧肛門部からの排液による会陰部の誘発痛はNRSで2~5/10と痛みは自制内となった.排尿困難の増強や下肢感覚障害等の合併症はなかった.オキシコドン徐放製剤を40 mg/日に減量し,8カ月経過した時点で痛みの増悪はなかった.CTで再発した腫瘍が増大し,9カ月後ごろから安静時痛のNRSは5/10,誘発痛のNRSは9/10と痛みが増強したため,オキシコドン徐放製剤を60 mg/日に増量したが軽減しなかった.そこで,初回のブロックから11カ月後に2回目の神経破壊薬によるGIBを初回と同様に行った.ブロック後から安静時痛のNRSは0/10,誘発痛のNRSは1~3/10程度に軽減した.オキシコドン徐放製剤は再度40 mg/日に減量し,2度目の神経破壊薬によるGIBから4カ月後も痛みの増悪はなく経過している.

図2

透視下不対神経節ブロック(経仙尾関節法)の造影所見

仙骨前面が造営されている.▼▼▼:穿刺針.

III 考察

会陰部のがん性痛に対する神経ブロックとして,GIB,SAPB,および上下腹神経叢ブロックが挙げられる.GIBは,他のブロックと比較して,手技が簡便であることや膀胱直腸障害を含めた合併症の報告が少ないことが長所として挙げられる3,4).GIBの合併症については「固有の有害事象はなく,血腫,感染,直腸穿刺,局所麻酔中毒などの可能性がある」と記載されている1).また,GIBに特有の合併症として,膀胱直腸障害,直腸穿孔や運動・感覚神経障害などが起こる可能性が指摘されている3,5).しかし,実際に重篤な合併症が生じた報告は,われわれが調べた限りでは,アルコールと局所麻酔薬の神経根付近への流出が原因と考えられる下肢の神経障害および膀胱直腸障害を生じた1例のみであった4).一方,SAPBで膀胱直腸障害が生じる可能性は約11%とされている1).本症例では,人工肛門から排便していたが,神経因性膀胱による排尿困難のためにシロドシンを内服しており,膀胱直腸障害をきたしやすいSAPBではなく,GIBを選択した.また,局所麻酔薬でGIBを施行し,感覚障害や排尿困難の増強がないことを確認した上でアルコールを投与した.本症例は旧肛門部を中心とした会陰部痛で,安静時痛・誘発痛共に不対神経節ブロックの効果範囲に含まれていたと考えられる.

GIBは,肛門尾骨間からの穿刺のほか,経仙尾関節での穿刺や仙骨側方からの穿刺が報告されている.穿刺時には,X線透視装置のほか,超音波,CT,およびMRIが用いられている6).超音波装置によるブロックは,準備が簡便で,仙骨尾骨の同定が容易であることや外来で施行可能であることが利点だが,造影剤で広がりを確認できない.GIBでは,側面像で仙骨前面の造影所見を確認した後,局所麻酔薬を4~8 ml注入し,局所麻酔薬より少量もしくは同量の神経破壊薬を投与する1).高周波熱凝固を用いて6カ月間の鎮痛効果が得られたという報告もある7).ただし,症例によって穿刺法に工夫が必要である.直腸がんに対する放射線治療後の膀胱炎による陰部痛に対してGIBを施行したところ,経仙尾関節の穿刺では仙骨前面に造影剤が広がらず,仙骨側方からCTガイド下穿刺したところ仙骨前面が造影され,GIBの鎮痛効果が得られたことが報告されている8).一方,前立腺がんに対する放射線治療後の直腸炎に対して経仙尾関節法のGIBが有効であった症例も報告されている9).骨盤内への放射線治療後の患者では,造影結果によって穿刺方法やブロックの種類を決定した方が良いと思われる.

無水エタノールによるGIBが,直腸がん術後再発による旧肛門部を含む会陰部痛に対して1~6カ月の鎮痛効果があることが報告されている2,1012).骨盤内腫瘍に伴う痛みに対する無水エタノールによるGIBの鎮痛効果を検討した観察研究では,3カ月後の有効率は79%であると報告されている3).無水エタノールを用いたGIBによって数カ月の鎮痛効果が期待できるが,慢性のがん性痛に対しては,繰り返しの施行が必要になる.しかし,会陰部のがん性痛に対して繰り返しGIBを行った報告は少なく,われわれの調べた限りでは前立腺がんによる会陰部痛に対して初回のブロックから6カ月後に2度目の無水エタノールによるGIBを行った1例のみである2).非がん性の尾骨痛に対して複数回のGIBを行った症例報告は多く,2回の無水エタノールを用いたブロックにより21カ月間効果が持続した報告がある6,13).本症例では,初回の無水エタノールを用いたGIB施行9カ月後に2回目のブロックを施行し,少なくとも15カ月間の痛み軽減を得ている.GIBは低侵襲で合併症もまれであるため,患者への負担も少なく繰り返し施行可能である.しかし,無水エタノールを用いて繰り返しブロックすることによる局所の組織変化などの影響は不明であり,造影剤の広がりに注意してブロックを施行する必要がある.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会 第2回関西支部学術集会(2021年11月,Web開催)において発表した.

文献
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