日本ペインクリニック学会誌
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治療手技紹介
ニードルガイドと腹臥位を併用した超音波補助下胸部硬膜外ブロック
髙橋 徹朗
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2023 年 30 巻 1 号 p. 9-10

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I はじめに

胸部硬膜外ブロック(thoracic epidural block:TEB)は開腹・開胸手術の術後疼痛管理として行われているが,技術的に難しい1).超音波補助下胸部硬膜外ブロック(ultrasound-assisted thoracic epidural block:UTEB)の報告もあるが,経験豊富な麻酔科医によって施行されている2).今回,ニードルガイドと腹臥位を併用したUTEBを経験した.

本報告に関しては患者本人から同意を得た.

II 治療手技

ペリフィックス®硬膜外麻酔キット(B-Braun),18G Tuohy針を使用した.超音波装置はM-Turbo(SonoSite),プローブはリニアプローブ(6~13 MHz)を使用した.

患者体位は腹臥位とし,椎弓間隙が狭くならないように胸部に枕を挿入した.穿刺部位はT8/9とした.プレスキャンで胸郭下部の第12肋骨を確認し,頭尾側方向に置いたプローブを頭側にスライドさせて第8肋骨と第9肋骨を同定した.プローブを傍正中部にスライドさせ,正中方向に振り,傍正中矢状断斜位像で椎弓の間に黄色靱帯を描出することで,T8/9の椎弓間隙を同定した(図1左).ニードルガイド(シバガイド®,フジメディカル)を装着し,再びT8/9の椎弓間隙を描出した(図2).尾側から平行法で硬膜外針を刺入した.硬膜外針先端をT8/9の椎弓間隙近傍まで進め(図1右),プローブを外し,抵抗消失法で硬膜外腔まで硬膜外針を進めた.硬膜外腔に到達したところでカテーテルを挿入した.

図1

超音波補助下胸部硬膜外ブロック超音波画像

左:傍正中矢状断斜位像,右:硬膜外針穿刺画像.

T8:第8胸椎,T9:第9胸椎,▽:硬膜外針,*:椎弓間隙,LF:黄色靱帯.

図2

超音波補助下胸部硬膜外ブロック時の体位

III 考察

TEBは開腹・開胸手術の術後疼痛管理として行われているが,技術的に難しく,失敗率が12~40%と比較的高い1).TEBで重篤な合併症を起こす可能性もあるため,安全性を向上させる必要がある.

UTEBではリニアプローブとコンベックスプローブの両方が使用される.しかし,胸椎は腰椎と比較して深さが浅く,患者が高度肥満でない限り,ほとんどの症例で硬膜外腔周辺解剖を特定するには,リニアプローブで可能である.Leeの報告では皮膚から硬膜外まで深さは約4 cmが多く3),このことからもUTEBはリニアプローブで可能と考えられる.また,針先をリアルタイムで正確に確認するには,リニアプローブが適していると考えられる.

PakpiromらはUTEBに関して従来のランドマーク法と比較して初回穿刺での成功率が高く,穿刺回数も少ないと報告している2).この研究の術者は超音波ガイド下区域麻酔の経験豊富な麻酔科医であった.側臥位の患者に対して傍正中矢状断斜位像で針を描出せねばならず,経験が少ない麻酔科医ではUTEBは困難が予想される.

今回UTEB施行にあたって2点工夫している.1点はニードルガイドの使用である.経験が少ない術者がニードルガイドを使用することにより末梢神経ブロックで穿刺回数と穿刺時間が減少したことが報告されている4).ニードルガイドによって矢状断斜位像でも針の描出が容易となった.もう1点は腹臥位で施行したことである.側臥位と比較して腹臥位はプローブを水平に置くことができ,プローブを安定させやすい.

UTEBには施行にあたって制限がある.中位胸椎と下位胸椎でのUTEBの有用性を示す報告は認めるが2),上位胸椎での報告は認めず,上位胸椎で今回の手技を応用できるかは不明である.また,リアルタイム超音波ガイド下硬膜外ブロックにおいて腰部ではBMI>40 kg/m2の高度肥満患者での有用性が報告されているが5),胸部では高度肥満患者の有用性は報告されていない.UTEBの有効性を示す論文ではBMI>35 kg/m2の高度肥満は除外されており2),高度肥満におけるUTEBの有効性は証明されていない.

IV 結論

ニードルガイドと腹臥位を併用したUTEBは,安全性の向上や経験が少ない麻酔科医の教育に有用である可能性がある.

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