日本ペインクリニック学会誌
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症例
皮下埋設型硬膜外アクセスポートおよび脊髄刺激療法で疼痛治療を行っている静脈うっ滞性潰瘍の1例
五明 義就末松 美和可西 洋之
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2023 年 30 巻 10 号 p. 227-231

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Abstract

【症例】59歳女性.他院の形成外科で右第1・2趾の小潰瘍を初発とする静脈うっ滞性潰瘍の治療が行われた.静脈瘤手術や植皮術などの治療に反して潰瘍は拡大し潰瘍部および潰瘍周囲の疼痛治療を当院が行うこととなった.初診時現症:右下肢は下腿下1/3内側と足背に広範囲な潰瘍,左下肢は下腿下1/3に全周性の潰瘍,潰瘍部の痛覚過敏と静的アロディニア,潰瘍周囲の皮膚には動的アロディニアを認めた.皮下埋設型の硬膜外アクセスポート(硬膜外ポート)を留置し潰瘍部の洗浄や不良組織の除去が鎮痛下に行え,脊髄刺激療法(SCS)を導入しアロディニアの改善が得られた.硬膜外ポートおよびSCSの併用による疼痛治療を開始し5年以上経過したが,感染や機能上のトラブルは認めていない.長期的な疼痛治療下で両下腿の潰瘍は良好な肉芽の形成と辺縁からの上皮化で縮小し,右足背には他院形成外科での分層植皮が生着し治癒した.【まとめ】慢性静脈性潰瘍の長期的な鎮痛管理に硬膜外ポートとSCSの併用が有効であった.感染や硬膜外の線維化などの合併症には定期的な精査を行い備えが必要である.

Translated Abstract

Case: A 59-year-old woman. Venous stasis ulcer starting from small ulcers on the right first and second toes. Despite treatments such as varicose vein surgery and skin grafting, the ulcer enlarged. She was referred to our department for treatment of wound related pain. Symptoms: Extensive ulcers were found in the lower third of both lower legs. Hyperalgesia and allodynia were observed in the ulcer and its surroundings. By placing epidural catheter with subcutaneous injection port (epidural port), it was possible to wash the ulcer area and remove defective tissue under analgesia, and allodynia was improved by using spinal cord stimulation (SCS). More than 5 years have passed since the start of pain treatment with epidural port and SCS, but no infection or functional problems have been observed. Summary: The combination of epidural port and SCS was effective for long-term analgesic management of chronic venous ulcers. Complications such as infection and epidural fibrosis require regular scrutiny and preparation.

I はじめに

下腿潰瘍の疼痛治療において皮下埋設型の硬膜外アクセスポート(硬膜外ポート)と脊髄刺激療法(SCS)が併用された報告は認められない.今回,創傷処置時の疼痛の緩和を硬膜外ポートで,アロディニアの改善をSCSで得ることができたため,その経験を報告する.

症例報告に際して患者より文書による同意を得た.

II 症例

59歳の日本人女性.身長152 cm,体重45.6 kg.

既往歴:特記すべき事項なし.

現病歴:2013年,右第1・2趾に生じた小潰瘍で他院の形成外科に通院開始となった.同年の両下腿内側の表在静脈穿通枝結紮と硬化療法で潰瘍は治癒した.2015年,両下腿内側および右足背に潰瘍が生じた.2015年と2016年にデブリードマン手術と人工真皮植皮術を行ったが植皮は生着せずに脱落し,潰瘍は拡大した.2017年4月,痛みにより創傷処置が困難となり,疼痛治療目的に当院受診となった.

初診時の所見:左下肢は下腿の下1/3に全周性の潰瘍,右下肢は下腿の下1/3の内側および足背に潰瘍を認めた(図1:初診時).一次性静脈瘤の術後であり,未治療の静脈瘤や不全穿通枝の存在も認められなかった.また,深部静脈血栓症やその他の原因と考えられる基礎疾患もないことから難治性化している潰瘍の原因は不明であった.両下腿の最大周囲径は左が24 cmで右が26 cmであり,廃用性筋委縮を認めた.両足関節,足趾の変形拘縮と下腿の筋委縮により立位の不安定性と歩行障害を認めた.潰瘍周囲の皮膚には軽度の接触で惹起される動的アロディニアが存在し,潰瘍部は圧迫で誘発される静的アロディニアと痛覚過敏が混在していた.安静時のnumerical rating scale(NRS)は5から6,創傷処置時のNRSは8から9であった.

図1

各潰瘍の様子

a:左下腿,b:右下腿,c:右足背.

創処置時の疼痛緩和を目的とした硬膜外ブロックで十分な鎮痛効果を認めたが,下腿の脱力により頻回に帰宅困難となった.このことは特に中部や下部の腰椎での硬膜外ブロックで顕著であり,下部胸椎や上部腰椎での施行で対策が可能であった.2017年4月,硬膜外ポート(ポータカットII®,スミスメディカル・ジャパン)の植え込みを行った.L2/L3椎弓間隙より穿刺し,先端をL1椎体上縁に留置とした.皮下アクセスポートは右の下腹部に埋設した.ポートより1.0%メピバカイン6.0 mlを注入し15分後に創傷処置を行った.硬膜外麻酔の効果発現後のNRSは3から4であった.これにより,ドレッシング剤の剥離・不良組織の除去・洗浄・潰瘍局面への薬剤の塗付・弾性包帯による圧迫のいずれの処置においても疼痛の軽減が得られた.他院の形成外科の外来の翌週に当院の外来で診察し,両院で硬膜外ポートを使用した.両院の受診の間には2回訪問看護が介入し,硬膜外ポートを使用せず事前に塩酸モルヒネ10 mg錠を1錠内服して処置を行った.

処置時の疼痛は硬膜外ポートの使用で軽減されたが,アロディニアの改善は得られなかった.このため,2017年9月にSCSを導入した.ポートカテーテルの損傷を防ぐためSCSのリードの刺入はカテーテル刺入部より尾側で予定した.L2/3から刺入されているポートカテーテルのトラブルの発生時や耐用年数を迎えた際の入れ替え手術を考慮し,2椎間尾側のL4/5椎弓間隙からSCSのリードの刺入を行った.右側刺激電極はTh12椎体上縁に,左側はTh11椎体下縁を先端として留置した.刺激装置(Medtronic社,リストアセンサー®)は左下腹部に埋設した.刺激設定は,姿勢変化を検知し出力を調整するAdaptiveStimを設定し,プログラム1:2−3−10+11+,出力:0.4~1.5 V,パルス幅:450 µs,レート:130 Hz,プログラム2:13−14+,出力:1.2~2.5 V,パルス幅:210 µs,レート:130 Hzとした.

結果として,硬膜外ポートのカテーテル先端と脊髄刺激電極は近接することになったが,脊髄刺激療法の刺激感や各電極の抵抗値には問題となる影響はなかった.SCSのアロディニアに対する効果の判定は次のようにして行った.動的アロディニアの評価は潰瘍周囲の皮膚を洗浄の際に利用するガーゼで擦った刺激で,また静的アロディニアの評価は潰瘍部において交換前のドレッシング剤の上から母指による一定の圧迫刺激を加えることで行った.硬膜外ポート使用前にいずれも筆者が行うこととし,NRSで評価した.SCS導入翌日の動的アロディニアはNRS 6,静的アロディニアはNRS 7であり,導入19日後で前者は3,後者は5まで改善した.

治療経過:硬膜外ポートとSCSを併用して5年以上経過した.硬膜外ポート挿入後,約5カ月で注入時の抵抗を認めたが,カテーテルやポートの機能的な問題や感染を生じることはなかった.ポート埋設から5年5カ月経過した2022年8月に耐用年数の観点からカテーテルおよびポートの交換を行った.旧カテーテルは下腿の脱力への対策のため,先端をL1椎体上縁に留置していた.入れ替えに際して注入時の抵抗を認めていた同高位を避け,下部胸椎に留置することとした.このため,新規カテーテルの先端はTh11椎体中央の高位とした.これにより,交換前に認めていた注入時抵抗の解消を得た.カテーテルとリードが近接していることから感染や硬膜外の線維化などの合併症に注意を払った.毎回の処置時にポートや刺激装置の埋設部,背部の刺入部創の感染兆候の有無を確認した.また,脊柱管内の感染に備えて定期的な血液検査や6カ月ごとのMRIによる精査を行った.硬膜外の線維化に対してはポートからの注入時抵抗の変化やSCSのリードの抵抗値の異常の有無を確認した.SCSを導入して1年4カ月経過した2019年1月にはアロディニアが消失していた.このため,出力を閾値以下に設定し,必要時に出力を上げて対応することとした.以降はアロディニアの症状はなく経過しており,弾性包帯の圧迫や接触刺激による疼痛の訴えもなくなった.潰瘍底からの肉芽組織の増生と辺縁からの上皮化により潰瘍が縮小化した.右足背部は良好な肉芽組織の形成が得られたため,他院形成外科にて分層植皮が行われ,脱落をきたすことなく潰瘍の治癒を得ている(図1c:5年後).

III 考察

静脈うっ滞性潰瘍は一次性下肢静脈瘤や深部静脈血栓症後遺症である二次性下肢静脈瘤による潰瘍であるが,本症例のように原因が不明な場合も多いとされる1).静脈性の下腿潰瘍において,①潰瘍面積>20 cm2,②創の罹患期間>12カ月,③創面のフィブリンの被覆面積>50%,④日常の歩行距離<200 m,⑤潰瘍の深さ>2 cm,⑥BMI>35が難治性化の主要なリスク要因とされている2).本症例は①から④を満たし,治療は長期化することが予想された.治療の基本は静脈高血圧の是正であり,圧迫療法が重要とされる1,3).硬膜外ポートとSCSによる疼痛緩和下で圧迫療法を含めた創傷処置を続け,最終的に外科的植皮術で潰瘍の治癒を図る長期的な治療方針となった.

硬膜外ポート長期使用の問題点は感染やカテーテルトラブルが挙げられる.Holmfredら4)は,がん性疼痛患者50人に対して硬膜外ポートを最長350日(平均100.58日)使用している.ポート針およびインフューザーボトルは1週間ごとの交換で持続投与が行われ,観察期間内に重篤な感染(硬膜外膿瘍)が1人,感染の疑い(ポート部)が3人に発生したと報告している.また,井上ら5)のがん性疼痛患者117例に対する硬膜外ポートの使用では,平均埋め込み期間が100.8日(最長2,210日),ポート部の感染が2例で硬膜外膿瘍などの重篤な感染症はなかった.このことから,易感染性のがん性疼痛症例のみならず本症例のような非がん性疼痛症例においても衛生的な使用下では感染のリスクを低く抑え,長期的な管理が可能であると思われる.カテーテルトラブルの原因は硬膜外の線維化による閉塞が挙げられる.Aldrete6)による腰背部痛の患者43人に対しての硬膜外ポート使用例では,8人に硬膜外の線維化が認められた.植え込み21日から320日後(平均82.5日)に硬膜外の線維化の兆候が認められ,最終的には抜去となっている.兆候は注入時痛を初発症状として,注入時抵抗の増加,不十分な麻酔効果と進行すると報告されている.本症例で生じた注入時抵抗は新規カテーテルへの交換で解消している.駒澤ら7)の右大腿部の複合性局所疼痛症候群(CRPS)に対する硬膜外ポートの長期使用では,埋設後3年7カ月と8年3カ月にカテーテルの破損による入れ替えを報告している.また,当院でのバージャー病による下肢潰瘍の疼痛緩和目的に使用していた硬膜外ポートのカテーテルが埋設後3年11カ月で破損した事例があった.これらを踏まえて,当院では感染や破損のトラブルがなければ約5年を交換の目安と考えている.

SCSの良い適応として,脊椎術後の上肢・下肢の神経障害性疼痛(FBSS),CRPS,末梢神経障害痛,末梢血管障害による痛み,難治性狭心症,腕神経叢障害が挙げられる8).SCSは脊髄後角の広作動域ニューロンの過興奮性を抑制し正常化させ,また,GABAやアセチルコリンの放出を増やし興奮性アミノ酸を減らすことが作用機序として報告されている9).これらのSCSの作用機序がアロディニアの改善に関与していることがラットによる動物実験で報告されている10).本症例においていずれの機序が奏功したのかは不明であるが,SCS導入後からアロディニアが改善し消失に至っている.

SCSの効果のなかに微小循環の改善がある.血管収縮性の交感神経活動の抑制による末梢血管の拡張作用や求心線維の逆行性興奮による末梢で放出されるカルシトニン遺伝子関連ペプチドの血管拡張作用が微小循環の改善効果をもたらす8).SCSによる微小循環の改善効果が本症例の潰瘍の治癒に関与していた可能性は否定できない.ただし,SCSの微小循環改善効果の報告は末梢動脈疾患に対してのものがほとんどであり,静脈性疾患についての報告は見当たらない.

痛みによる交感神経の興奮は,血管の収縮による筋の代謝亢進と局所の血流減少による組織の虚血の原因となる.低酸素に陥った組織からは,発痛物質や発痛増強物質が放出され痛みの悪循環から創傷治癒は妨げられる11).このことから,硬膜外ポートとSCSの併用が創傷治癒の妨げとなる痛みを緩和し,良好な肉芽組織の形成と植皮の生着,ひいては潰瘍の治癒に関しても寄与した可能性が考えられる.

本症例のような処置時の強い侵害受容性疼痛が受診の拒否や不十分な創傷処置につながり,治癒の妨げとなっている症例にたびたび遭遇する.このような場合には,動脈性,静脈性を問わず,硬膜外ポートは有用であると思われる.そのうえで,虚血痛や微小循環の改善が望まれる動脈性潰瘍ではSCSの併用の意義が高いと思われる.静脈性潰瘍では本症例のようなアロディニアなどの神経障害性疼痛を有する場合は,SCSの併用を検討する価値があるものと考える.

IV 結語

慢性静脈性潰瘍の長期的な鎮痛管理に硬膜外ポートとSCSの併用が有効であった症例を経験した.合併症対策の観点からは両デバイスの距離は離して留置することが推奨されるが,本症例では硬膜外ブロック時の下腿の脱力を軽減するために硬膜外カテーテル先端を上部腰椎や下部胸椎に留置したため,SCSのリードと近接する位置での留置となった.しかし,衛生的な使用と合併症に備えた定期的な精査により,現在も感染を生じることなく管理できている.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第56回大会(2022年7月,東京)において発表した.

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