日本ペインクリニック学会誌
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症例
下肢痛のない慢性軸性腰痛にスプリングガイドカテーテルによる経皮的硬膜外腔癒着剥離術が著効した1例
長田 多賀子弓場 智雄高橋 亜矢子博多 紗綾松田 陽一
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2023 年 30 巻 11 号 p. 261-265

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Abstract

経皮的硬膜外腔癒着剥離術(percutaneous epidural adhesiolysis:PEA)は,腰椎疾患や脊椎手術後症候群(failed back surgery syndrome:FBSS)による腰下肢痛を対象に行われているが,下肢痛のない軸性腰痛の症例に対する有効性については過去に具体的な報告がない.スプリングガイドカテーテルによるPEAにより完治した慢性軸性腰痛の症例を経験したので報告する.28歳男性.L4/5椎間板ヘルニアに対して手術が行われ,左下肢痛は消失したが左腰痛が改善せず長期に持続していた.経椎間孔硬膜外造影により左L4椎体下縁レベルの腹側硬膜外腔の癒着が腰痛の原因であると診断し,同部位にPEAを行った.直後から痛みは改善し,再燃することなく完治した.PEAは軸性腰痛のみが症状のFBSSに対して有効性が期待できる治療法であり,硬膜外造影により硬膜外腔の癒着が腰痛の原因であることを診断することが重要であった.

Translated Abstract

Percutaneous epidural adhesiolysis (PEA) is performed to manage low back pain and leg pain due to degenerative lumbar disease including failed back surgery syndrome (FBSS). There are no detailed reports on its effectiveness in patients with axial low back pain lacking leg pain. We present a case of chronic axial low back pain that was completely cured by PEA using a spring-guide catheter. A 28-year-old Japanese man had a history of three-times surgery for L4/5 lumbar disc herniation, and although the pain in his lower extremities disappeared, the left low back pain did not improve and persisted for a long time. Transforaminal epidurography indicated adhesion of the left ventral epidural space at the lower border of the L4 vertebral body, then PEA with spring-guide catheter methods markedly relieved the pain immediately after the procedure without any recurrence. PEA following concurrent epidurography may be an effective treatment even for FBSS causing axial low back pain without leg pain.

I はじめに

スプリングガイドカテーテルによる経皮的硬膜外腔癒着剥離術(percutaneous epidural adhesiolysis:PEA)は,腰椎疾患や脊椎手術後症候群(failed back surgery syndrome:FBSS)による腰下肢痛が適応疾患とされている.なかでも,神経根周囲の硬膜外腔の癒着が痛みの原因となっている難治性下肢痛が主な対象である1)

一方で,腰椎疾患やFBSSの患者において症状が腰痛のみの症例があり,神経根症状である下肢痛を伴わない脊椎軸に沿った腰痛は軸性腰痛と呼ばれる2).PEAの治療対象となる症状は腰下肢痛とされているが,軸性腰痛の症例に対する有効性については過去に具体的な報告がない.

今回,軸性腰痛のみが症状のFBSSに対してPEAを施行し,腰痛が完治した症例を経験したので報告する.

本症例報告を行うことについて患者本人に説明を行い,承諾を得た.

II 症例

症例は28歳男性で,X−3年に左下肢痛が出現し,磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)でL4/5腰椎椎間板ヘルニア(lumbar disc hernia:LDH)を指摘された.X−2年Y月にA病院で髄核摘出術,翌月に同部位のヘルニア残存に対して再手術が行われ,左下肢痛は消失したものの左腰痛が持続した.Y+2月にB病院でLDHの残存を指摘され,3回目の髄核摘出術が施行されたが腰痛は不変であった.Y+8月,C病院で左L4,L5神経根ブロックが施行されたが腰痛は改善せず,X年に当科に紹介となった.

上位腰椎レベルの左傍脊椎部に数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)4の持続痛があり,同一姿勢の保持,腰部の後屈や重い物を持ち上げる動作でNRS 6に増強した.腰殿部の筋筋膜に圧痛点はなく,椎間関節や創部への圧迫刺激による腰痛の誘発もなかった.下肢のしびれや痛みはなく,腰部・下肢の神経学的所見に異常はなかった.痛みに影響する可能性のある心理社会的因子は明らかでなかった.トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合錠3錠/日とトラマドール塩酸塩徐放錠100 mg/日を内服していたが効果なく,非ステロイド性抗炎症薬,プレガバリン,デュロキセチンも無効であった.腰椎X線では不安定性などの異常所見はなく,腰椎MRIではL4/5椎間板の変性がみられるのみで,LDHや脊柱管狭窄,神経根周囲の異常所見はなかった(図1A,B).

図1

PEA施行前の腰椎MRIおよび左L4/5経椎間孔硬膜外造影

腰椎MRI T2強調画像,A:軸位断,B:矢状断.L4/5椎間板ヘルニアは遺残・再発なく切除されており,その他に腰痛の原因を疑わせる異常所見はみられない.

左L4/5経椎間孔硬膜外造影,C・E:前後像,D・F:側面像.C・Dでは,左L5椎体上縁の腹外側硬膜外腔から左L5神経根が造影され(矢印),左下腿に放散痛が出現したが,腰痛は誘発されなかった.E・Fでは針先を微調整し,左L4椎体下縁レベルの腹側硬膜外腔が造影(矢印)されると同時に,左腰痛が再現された.

椎間板性腰痛の評価のためL4/5椎間板造影を行ったが再現性の腰痛は誘発されず,1%リドカイン2 ml+ベタメタゾン2 mgの注入により腰痛は変化しなかった.神経根ブロックが若干の効果があったと本人が述べたことから,髄核摘出術後の神経根周囲の硬膜外腔癒着による根性腰痛症の可能性を考慮し硬膜外造影を行った.X線透視下に仙骨裂孔よりイオヘキソールを注入したところ,左L5椎体中央より頭側の硬膜外腔が造影欠損となり左L5神経根も造影されなかったが,薬液注入に伴い腰痛の変化はなかった.造影欠損部への薬液注入を試みるため,左L4/5経椎間孔アプローチで硬膜外造影を行った.右側臥位で,Cアームの入射角を左後方斜位でL4/5の椎体終板と並行になるように調整した.22G・120 mm神経ブロック針を左L4神経根尾側のKambin's triangleに向けて刺入し,針先を左L4/5椎間孔内の腹側で椎間板の背側縁まで進めた.イオヘキソール2.5 mlを注入すると尾側方向に左L5神経根に沿って硬膜外腔が造影され,左下腿に放散痛が出現したが,腰痛は誘発されなかった(図1C,D).そこで,針先の位置をやや頭側に修正して再度イオヘキソール1 mlを注入したところ,左L4椎体下縁レベルの腹側硬膜外腔が造影されると同時に,再現性の左腰痛が出現した(図1E,F).1%リドカイン1 ml+ベタメタゾン2 mgを注入したが腰痛の軽減は得られなかったため,同部位の癒着剥離が必要と判断し,PEAを行う方針とした.

PEAは,1日法,経椎間孔アプローチで施行した.体位を腹臥位とし,Cアームの入射角を左後方斜位でL4/5の椎体終板と並行になるように調整した.Epimed RX硬膜外針16G・114 mm(東京医研,東京)を左L4/5椎間のKambin's triangleに向けて刺入し,針先を左L5上関節突起の外側縁を滑らせるように進め,X線透視の正面・側面像にて針先の位置が左L4/5椎間孔の腹側縁となるよう調整した.次に,EpimedスプリングガイドカテーテルBREVI-XL(東京医研,東京)を硬膜外針内に挿入し,針先から左L4/5腹側硬膜外腔へ向けて挿入した.癒着のためカテーテル先端がL4椎体下縁よりやや頭側に留置されたため(図2A,B),その位置でカテーテルよりイオヘキソールを注入したところ,左L4神経根が造影されたが腰痛は誘発されなかった(図2C).針先の位置を微調整し,カテーテルから生理食塩水を注入して硬膜外腔の液性剥離を行いながらカテーテル先端を尾側方向へ慎重に誘導したところ,L4椎体左下縁付近の腹側硬膜外腔へカテーテル先端が挿入されると同時に再現性の左腰痛が誘発された(図2D,E).硬膜外針を抜去し,カテーテルから生理食塩水を少量ずつ注入してカテーテル先端周囲の硬膜外腔の液性剥離を行ったところ,注入に伴って出現していた左腰痛が徐々に誘発されなくなった.カテーテル先端周囲の腹側硬膜外腔が十分に造影されるようになったことを確認した後(図2F),1%キシロカイン2 mlとベタメタゾン4 mgを注入し,手技を終了した.高張食塩水の注入は行わなかった.治療直後から腰痛は消失し,鎮痛薬の内服をすべて中止したが腰痛は再燃しなかった.術後6カ月まで経過を観察したが,腰痛が完全に消失した状態が維持されたため,通院を終了した.

図2

経皮的硬膜外腔癒着剥離術(左L4/5経椎間孔アプローチ)

A:側面像,B:前後像,C:前後像(造影).カテーテル先端がL4椎体下縁よりやや頭側の腹側硬膜外腔に留置され,その位置で造影剤を注入したところ,左L4神経根が造影されたが腰痛は誘発されなかった.

D:側面像,E:前後像,F:前後像(造影).生理食塩水による液性剥離を行いながらカテーテル先端をL4椎体左下縁付近の腹側硬膜外腔へ挿入したところ(D・E矢印),再現性の左腰痛が誘発された.その位置で硬膜外腔の液性剥離を行うにつれて左腰痛が徐々に誘発されなくなり,同部位の腹側硬膜外腔が造影されるようになった(F矢印).

III 考察

本症例では,下肢痛がなく軸性腰痛のみが症状のFBSSに対して,神経根周囲と異なる腹側硬膜外腔の癒着が腰痛の原因となること,そのような軸性腰痛にPEAが有効であることを初めて具体的に明らかにすることができた.

スプリングガイドカテーテルによるPEAは,経皮的にカテーテルを硬膜外腔に挿入し,X線透視下に痛みの原因となっている硬膜外腔の癒着を液性剥離し,剥離部に局所麻酔薬などの薬液を直接注入する治療法である.カテーテルを留置する3日法と留置しない1日法があり,当科では1日法を採用している3).主にLDH,腰部脊柱管狭窄症,FBSSによる腰下肢痛で,硬膜外腔の癒着に伴う神経根症(下肢痛)を対象に行われ,カテーテル挿入法として経仙骨裂孔法,経椎間孔法,経S1仙骨孔法がある.本症例では経椎間孔硬膜外造影により痛みの原因部位の特定につながる再現痛が誘発されたことから,経椎間孔アプローチを選択した4).また,PEAでは神経根の浮腫の改善や治療後の再癒着を防止する目的に高張食塩水の注入が行われるが,その必要性には議論がある5).本症例では,腰痛と関連のない神経根に高張食塩水が広がることが望ましくないとの観点から注入を避けたが,再癒着を示唆する腰痛の再発はなかった.PEAでは癒着部位の硬膜損傷や硬膜外腔の血管損傷を起こす可能性があり,強引なカテーテル操作は避けて慎重に液性剥離を行うことが重要である.

慢性腰痛の原因は単一の器質的因子によらず多面的であることが多い.神経根の分節に沿った下肢痛を伴う腰痛では診断が比較的容易であるが,下肢の痛みやしびれのない軸性腰痛では生物心理社会的に評価・診断することが重要である.ガイドラインでは,軸性腰痛の器質的原因として,椎間板性,椎間関節性,仙腸関節性,筋筋膜性,神経根性,靱帯性が挙げられている6).本症例では,痛みの性状や理学所見,画像,誘発椎間板注入の結果からこれらの器質的原因は否定的で,心理社会的因子の存在も疑われなかった.Uritsらは,FBSSで腰痛を発症する原因として,術前因子(不安・うつ,訴訟・補償の存在など),術中因子(不十分・不適切な手術など),術後因子(原疾患の再発,硬膜外線維症,新たな脊椎不安定性・筋筋膜痛の出現など)を挙げている7).硬膜外線維症は硬膜外腔の癒着と同義であり,硬膜外線維症による腰下肢痛の診断・治療(PEA,エピドラスコピー)については多くの報告がある8).しかし,すべて神経根周囲の癒着と下肢神経根症について記述されており,軸性腰痛について詳細に述べた報告は存在しなかった.本症例では,腹側硬膜外腔の癒着によって慢性炎症が引き起こされて椎骨洞神経を介した軸性腰痛が発生し,癒着の解除と炎症物質の洗い出しにより痛みが消失したと推察される.FBSSにおいては安易に非特異的腰痛と診断されるケースも少なくないため,経椎間孔腹側硬膜外造影による診断とPEAにより治療が可能であることを具体的に示した本報告の意義は大きいと考える.

下肢痛のない軸性腰痛に対してPEAが著効したFBSS症例を経験した.硬膜外腔の癒着が軸性腰痛の原因であることを腹側硬膜外造影で診断すること,カテーテルを適切に癒着部位へ誘導して液性剥離を行うことが重要であった.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第56回大会(2022年7月,東京)において発表した.

文献
  • 1)   Helm Ii  S,  Benyamin  RM,  Chopra  P, et al. Percutaneous adhesiolysis in the management of chronic low back pain in post lumbar surgery syndrome and spinal stenosis: a systematic review. Pain Physician 2012; 15: E435–62.
  • 2)   Förster  M,  Mahn  F,  Gockel  U, et al. Axial low back pain: one painful area-many perceptions and mechanisms. PLoS One 2013; 8: e68273.
  • 3)   Manchikanti  L,  Manchikanti  KN,  Gharibo  CG, et al. Efficacy of percutaneous adhesiolysis in the treatment of lumbar post surgery syndrome. Anesth Pain Med 2016; 6: e26172.
  • 4)  日本ペインクリニック学会治療指針検討委員会編集. ペインクリニック治療指針改訂第6版. 東京, 真興交易医書出版部, 2019, pp92–4.
  • 5)   Manchikanti  L,  Rivera  JJ,  Pampati  V, et al. One day lumbar epidural adhesiolysis and hypertonic saline neurolysis in treatment of chronic low back pain: a randomized, double-blind trial. Pain Physician 2004; 7: 177–86.
  • 6)  日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/腰痛診療ガイドライン策定委員会編集. 腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版. 東京, 南江堂, 2019, pp7–8.
  • 7)   Urits  I,  Burshtein  A,  Sharma  M, et al. Low back pain, a comprehensive review: pathophysiology, diagnosis, and treatment. Curr Pain Headache Rep 2019; 23: 23.
  • 8)   Urits  I,  Schwartz  RH,  Brinkman  J, et al. An evidence based review of epidurolysis for the management of epidural adhesions. Psychopharmacol Bull 2020; 50 (Suppl 1): 74–90.
 
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