日本ペインクリニック学会誌
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症例
メサドンから他のオピオイドにスイッチすることで,副作用が軽減し職場復帰が可能となった1症例
和智 純子久米田 幸弘
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2023 年 30 巻 2 号 p. 15-19

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Abstract

メサドンから他の強オピオイドへスイッチし,職場復帰が可能となった症例を経験した.症例は後縦隔原発悪性軟部肉腫の56歳女性で,第3・4胸椎椎体,左側腋窩・胸部・肩甲骨転移と神経浸潤による難治性の神経障害性疼痛が認められた.疼痛緩和のため,メサドンが投与され30 mg/日まで増量したが,十分な痛みの軽減が得られず,眠気・倦怠感の増強と抑うつ傾向を認めた.胸椎椎体病変部へ,薬物療法以外の疼痛治療法である放射線療法を行うことになったため,メサドンを他のオピオイドにスイッチすることを考えた.緩和ケアチームの薬剤師が電話で状態を確認しながら,段階的にオキシコドン徐放錠90 mg/日に置き換えることができた.メサドンは,他の強オピオイド鎮痛剤では十分な鎮痛効果が得られない難治性疼痛に使用されるが,有害事象のために,オピオイドスイッチが必要となることがある.メサドンの薬物動態は個人差が大きく,他のオピオイドへスイッチする際には,個別に注意深く行う必要があり,電話での状態確認は有効であった.また,放射線治療など薬物療法以外の除痛方法の併用も有効であると考えられた.

Translated Abstract

Methadone is a highly effective opioid prescribed for severe cancer pain patients. However, opioid switching may be required because of side effects or poor pain control. We experienced a case of 56-year-old woman with retro-longitudinal primary malignant soft tissue sarcoma. She had received methadone 30 mg/day for refractory metastatic neuropathic pain of upper thoracic vertebras and nerves, but she had not obtained sufficient pain relief, suffering from side effects of nausea, drowsiness and malaise. Radiation therapy for thoracic vertebral lesions were started, considering switching from methadone to other opioids. We performed opioid switching by 2 steps of methadone reduction (each 15 mg) simultaneously with oxycodone replacement (90 mg) over 2 weeks. We successfully switched from methadone to oxycodone with combination of radiation therapy and other pharmacotherapy, and finally she could return to work.

I はじめに

メサドンは,他の強オピオイド鎮痛剤では十分な鎮痛効果が得られない難治性がん疼痛に使用されるオピオイドである1,2).今回メサドンで十分な除痛が得られず,放射線療法と鎮痛補助薬の併用下に,他のオピオイドへスイッチし職場復帰を果たせた症例を経験したので報告する.

なお本症例報告に関して,該当患者の承認を得ている.

II 症例

患 者:56歳,女性.

既往歴:49歳時,左下肢静脈瘤手術.

現病歴:X年4月左側腋窩・胸部・肩甲骨の痛みが出現し,画像検査で第3・4胸椎椎体左側の腫瘤性病変,左鎖骨上窩・縦隔・腹部にかけてのリンパ節腫大,左腎近傍に腫瘤,両肺野に多発円形結節,傍大動脈領域の腫瘤が認められた(図1).第2・3・4胸椎レベルでは,左椎間孔内,脊柱管内,硬膜外腔にも腫瘍が浸潤しており,腫瘍増大により神経麻痺や疼痛の増強がみられる可能性が高いと考えられた.生検の結果,後縦隔原発(神経原性成分を有する)悪性軟部肉腫と診断された.9月にドキソルビシン療法が開始されたが,強い嘔気や食欲不振が出現したため本人が同薬の中止を希望し,10月に自宅から近い当院消化器内科を紹介され受診した.

図1

初診時CT検査(頭部~骨盤造影CT)

1:左鎖骨上窩のリンパ節病変,2:第3・4胸椎椎体左側を主体とする腫瘤,3:後縦郭に認められる腫大リンパ節,4:傍大動脈領域の腫瘤.

当院での経過:当院紹介後,外来通院で第3・4胸椎椎体病変部への放射線治療(25 Gy/5 fr)が開始されるとともに,緩和ケアチームに疼痛コントロールの依頼があった.緩和ケアチーム初診時,鎮痛薬としてセレコキシブ400 mg/日,アセトアミノフェン1,800 mg/日,メサドン30 mg/日,レスキュー製剤としてヒドロモルフォン塩酸塩速放製剤4 mgが,また嘔気・抑うつに対しオランザピン2.5 mgが使用されていた.しかし患者は一日中持続する痛み[numerical rating scale(NRS)3/10]と起床時の左側胸部体動時痛(NRS 6/10)を強く訴え,レスキューを1日2回使用していた.また眠気と倦怠感のため食事も摂取できない状態が続き,表情も乏しく軽度の抑うつ傾向がうかがわれた.痛みの原因は,骨転移による体性痛と軟部肉腫の肋間神経および神経根への浸潤による神経障害性疼痛と考えられた.

前医における鎮痛薬の使用履歴によると,オキシコドン徐放錠は鎮痛効果はあったものの,嘔気とふらつきのため自己判断で減量し増量を拒否したことがあること,タペンタドール塩酸塩錠は400 mg/日まで増量されたが鎮痛効果が十分でなかったことから,メサドン30 mg/日に変更された.またプレガバリンやミロガバリン,デュロキセチンが使用されたが,いずれも眠気のため中止された経緯があった3)

これに対し,まずアセトアミノフェンを2,400 mg/日に増量し,また夜間から朝にかけての痛みに対処する目的でトラマドール100 mgを就寝時に追加したところ,起床時の痛みはNRS 3/10まで軽減した.しかし患者は依然として痛み,眠気と嘔気のつらさを強く訴えていた.

メサドンでは鎮痛効果が得られず眠気や嘔気が強くなったことから,メサドンの増量では症状緩和は難しいと考え,他のオピオイドへスイッチすることにした.これまで使用されたオピオイドの中では,嘔気のため中止はされたものの患者自身の印象ではオキシコドンが痛みに対しては最もよかったということから,メサドンからオキシコドン徐放錠へのスイッチを開始した.スイッチの方法は,「強オピオイドからメサドンへ切り替える際の換算表」を目安に50%ずつ2段階で減量することとした(図2).第1段階としてメサドン30 mgをメサドン15 mgとオキシコドン徐放錠60 mgに置き換えて投与した.1週間後に疼痛の増強や重篤な副作用がみられないことを確認し,第2段階としてオキシコドン徐放錠90 mgに完全移行した.通院しながら安全にスイッチするために,緩和ケアチームの薬剤師が定期的に電話で患者の状態を確認して行った4)

図2

投薬経過

これにより眠気は改善し,安静時痛はNRS 2/10に体動時痛はNRS 3/10に軽減した.しかし左側腋窩から前胸部・肩甲骨にかけてビリビリした痛みがまだ残っており,新たに右側顔面・上半身の発汗増加が出現していた.これに対しメキシレチン塩酸塩カプセル100 mg/日の追加と制吐目的にオランザピンを5 mgに増量することで11月末には痛みはだるさに変化し,最終的にオキシコドンは80 mg/日にした状態で安静時NRS 0/10,体動時NRS 1/10になった.

その後X年12月にはメキシレチンを中止し,レスキューもヒドロモルフォンからトラマドール口腔内崩壊錠25 mgに変更したが,体動時NRS 1/10でレスキューを必要としない日が続き,X+1年1月に職場復帰しX+1年10月に股関節症のため人工股関節置換術を受けるまで仕事を続けることができた.

III 考察

患者は,後縦隔原発神経原性成分を有する悪性腫瘍が上部胸椎左側と鎖骨上窩に広がり,肋間神経および神経根に浸潤したことによる胸腔内重圧感,胸背部痛および上肢痛を主訴としていた.このため難治性の神経障害性疼痛となり,転院時すでにメサドンを中心とした鎮痛が行われていた.

メサドンはオピオイドとしての鎮痛作用に加え,NMDA受容体拮抗作用とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用があることから神経障害性疼痛に対する有用性も指摘されている1,2).オピオイドの中では最も強力な鎮痛作用を有することと,副作用観察の煩雑さから,第4段階の鎮痛薬として位置づけられている.このため現在までのところ,メサドンを処方した後は経口摂取ができなくなった場合や重篤な副作用がみられた場合を除いて,他のオピオイドに変更するケースは少ない.

本症例では当院初診時メサドン30 mg/日が投与されていたが,まだ痛みのコントロールは十分とはいえなかった.また眠気・食欲不振・倦怠感によるADL低下も伴っており,これはドキソルビシン療法による影響も考えられたが,少なくともこの状態で痛みに対してさらにメサドンを増量することは躊躇された.このため,他のオピオイドにスイッチすることとした.これまで使用されたオピオイドはオキシコドン,タペンタドール,ヒドロモルフォンおよびメサドンであったが,いずれも嘔気が出現していたものの,鎮痛効果に対する患者自身の印象としてはオキシコドンが最もよく,トラマドールに対しても好感をいだいていた.これをもとに,メサドンからオキシコドンにスイッチしトラマドールも併用することとした.

メサドンから他のオピオイドへの変更は一律な変換比率がないことから容易ではなく,切り替えに際してはより慎重な観察が必要となる.本症例では,国内外の論文を参考にオピオイドスイッチを行った.三浦らはイレウスで内服困難になった患者に対して,メサドンの1日投与量の2/3相当量をベースのオキシコドン塩酸塩注の量とした5).また板倉らは変換比率6.1を目安にフェンタニル貼付剤・オキシコドン塩酸塩注・モルヒネ塩酸塩注へ切り替えた後,併用療法としてミダゾラム・ケタミン・リドカインを使用している6).Walkerらはメサドンから経口モルヒネ塩酸塩錠への換算比率は4.7,モルヒネ塩酸塩注射剤への変換比率は13.5と報告し7),Lawlorらは経口モルヒネ塩酸塩錠からメサドンへの換算比率は11.36で,メサドンから経口モルヒネ塩酸塩錠への換算比率は8.25と報告している8)

このようにメサドンから経口モルヒネ塩酸塩錠への変換に関する報告だけをみても,4.7~8.25と幅があり,また経口モルヒネ塩酸塩錠からメサドンへの変換とその逆を比較しても結果が異なっている.

メサペイン®錠適正使用ガイドでは,メサドンの半減期は30.4±16.3時間と長いことから,減量の目安は7日間あたり1日投与量の20~50%とされ,必要に応じて他のオピオイド鎮痛薬を低用量から使用し,患者の状態を観察しながら鎮痛効果が得られるまで漸増することを推奨している1).これらを参考に本症例では,外来通院していることを考慮し,強オピオイドからメサドンへ切り替える際の換算表を目安に50%ずつ段階的な減量を行い,問題なく移行することができた.

放射線治療による鎮痛効果は,照射開始後2週間程度から出現し,4~8週で最大になると考えられている9).本症例では,放射線治療終了とともにオピオイドスイッチを開始したが,患者自身の評価では1週間目ですでに効果を実感しており,放射線効果というよりもオピオイドスイッチが有効であったと考える.しかしその後は放射線治療の効果が徐々に加わってきたと考えられ,最終的に照射後8週までにはオキシコドン80 mg/日で安定し嘔気やうつ症状もコントロールされ職場復帰が果たせるようになった.

以上,後縦隔原発神経原性成分を有する悪性腫瘍の胸椎および胸郭への難治性疼痛に対し,メサドンが副作用により継続困難な状態であったため,外来通院観察下でオキシコドン徐放錠へ変更し,放射線治療を併用することにより仕事復帰が可能になった症例を報告した.

本論文の要旨の一部は,日本ペインクリニック学会 第1回北海道支部学術集会(2020年12月,Web開催)において発表した.

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