日本ペインクリニック学会誌
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原著
当院における帯状疱疹関連痛の疼痛改善に影響を与える要因の後ろ向き研究
長谷川 晴子廣瀬 彩名岩出 宗代古井 郁恵野原 穂波継 容子庄司 詩保子畔柳 綾樋口 秀行中川 雅之長坂 安子
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2023 年 30 巻 4 号 p. 71-78

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Abstract

当院ペインクリニック外来(当科)を帯状疱疹関連痛で受診した患者の疼痛改善に及ぼす影響を後方視的に検討した.過去3年間に当科を受診した帯状疱疹関連痛症例130例を対象とし患者背景や治療経過を抽出した.当科での治療開始90日後の疼痛スケール(NRS)が初診時NRSと比較し(NRS改善率)50%以下となった症例を十分に疼痛が改善した群として,50%未満にとどまった群と抽出項目を比較した.さらに帯状疱疹発症から当科受診が31日以上の症例に関して当科受診前の治療内容についても検討した.結果はNRS改善率が50%未満の群で初診時NRSが高く,発症から当科受診までの日数が有意に遅かった.特に当科受診が発症から31日以上で当科受診前に神経障害性疼痛治療薬が開始されなかった症例で改善率が低かった.結論として,NRSが高い帯状疱疹症例は発症30日以内に疼痛専門機関を受診することが望ましく,発症31日以降となる場合は前医で神経障害性疼痛治療を開始することが望ましいと考えられた.

Translated Abstract

We investigated factors ameliorating pain in patients with zoster-associated pain (ZAP). We examined the characteristics and clinical courses of 130 ZAP patients. After 90 days from the start of pain management in our department, a reduction of 50% in the numerical rating scale (NRS) was defined as very much improved, while less than 50% was defined as pain non-improvement. Comparing the improvement and non-improvement groups revealed NRS at the initial visit to be significantly higher and the period from onset to visiting our department to be longer in the non-improvement group. Especially, the group that first visit more than 31days and had not previously received neuropathic pain treatment may be difficult to manage pain intensity. Therefore, the patients with intensive pain needed to be consult pain specialists until 30days from onset. If it cannot, neuropathic pain treatment would be better to start.

I はじめに

帯状疱疹関連痛には皮疹出現前の前駆痛,急性期の侵害受容性疼痛である帯状疱疹痛(herpes zoster pain:HZ),皮疹が治癒した後の神経障害性疼痛である帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia:PHN)1)があり,特に完成されたPHNは治療に難渋することが知られている.PHNに移行する危険因子には,年齢,性別,前駆痛,皮疹の重症度,急性期痛などの報告がある24)が,治療開始時期についてはなるべく早期の介入が望ましい57)とされるも具体的な時期への言及は少ない.また,白血病,リンパ腫,関節リウマチ,喘息,糖尿病などの併存症もリスクファクターとして報告されている4)が本邦での併存症に関する報告は少ない.

大学病院の麻酔科ペインクリニック外来である当科(以後,当科)を受診する帯状疱疹関連痛症例は院内外からの紹介受診がほとんどであるため,併存症を有する症例が多く,当科受診時期や前医での治療もさまざまである.そのような患者背景が疼痛治療に及ぼす影響については不明であるため,本研究では帯状疱疹で受診した患者の併存症,当科受診までの日数,前医での治療内容などが疼痛改善に及ぼす影響について後方視的に検討した.

なお,本研究は院内倫理委員会で承認されている(承認番号5050–R).

II 方法

2015年8月から2018年9月までに帯状疱疹関連痛で当科を受診した患者を対象とした単一施設の後ろ向きコホート研究とした.急性期numerical rating scale(NRS)が高いことがPHN移行のリスクとしてすでに報告されている2)ため,初診時のNRSが5以上の症例を対象とした.また,帯状疱疹急性期治療の基本である抗ウイルス薬が投与された症例とした.当科受診後90日でのNRS改善率({(初診時NRS−90日後NRS)/初診時NRS})を調べた.Farrarらが慢性疼痛における自科での治療開始90日以内にNRS改善率が46.7%以上となった症例を治療効果が十分にある(very much improved)と報告している8)ことや,その他NRS 50%の低下を改善ありとしている報告9,10)を参考に,当科での治療開始90日後のNRS改善率が50%以上の場合を疼痛が十分に改善したと定義した.当科受診後90日は必ずしも発症90日と同義ではないが,当科での治療経過を知るために全例で90日を観察期間とした.90日以内に患者の都合で受診しなくなった場合や受診歴が1日の場合は除外した.また,90日以内に疼痛が改善して終診となった場合は最終NRSを使用した.

診療録から年齢,性別,罹患部位,初診時のNRS,アロディニアの有無,帯状疱疹の皮疹出現から当科受診までの日数,当科受診前に受けていた治療,当科受診後に受けた治療などを抽出した.併存症は,主として免疫機能に影響を及ぼす可能性があるものまたは治療の選択が制限される可能性があるものを抽出した.具体的には人工透析,糖尿病,心疾患(心臓・大血管術後,心不全,冠動脈ステント留置後,内服治療中やペースメーカー留置中の不整脈がある症例),精神疾患(精神科通院し内服治療が行われている症例),抗凝固薬・抗血小板薬内服,ステロイド剤内服,膠原病,喘息,悪性腫瘍とした.複数の併存症がある場合も併存症ありの1症例として計算した.

さらに当科受診前の治療として神経障害性疼痛治療を受けたか否かについても検討した.神経障害性疼痛治療とは,これまでの報告5,6)や日本ペインクリニック学会帯状疱疹後神経痛治療指針11)などから神経障害性疼痛の治療として推奨されている三環系抗うつ薬,デュロキセチン,プレガバリン,ガバペンチン,トラマドール,神経ブロックのうち,いずれかの内服または施行をしていることと定義した.

1. 改善率による比較(R群vs. N群)

NRS改善率が50%以上の症例を十分に改善した群としてR(responder)群,50%未満にとどまった症例を十分に改善しなかった群としてN(non-responder)群とし抽出項目を比較した.

2. 皮疹出現から当科受診までの日数による検討(HZ群vs. PHN群)

当科受診までが発症から30日以内の症例をHZ群(帯状疱疹痛群)とし,発症1カ月を過ぎるころから神経障害性疼痛への移行が始まるとされている1)ことから,発症から31日以降に当科受診した症例をPHN群(帯状疱疹後神経痛群)として比較検討した.

3. PHN群での前医での治療有無による検討(PHN/NT−群vs. PHN/NT+群)

神経障害性疼痛治療を受けていた群をNT+(neuropathic pain therapies)とし,PHN群での前医での治療の影響を調べるために神経障害性疼痛治療の有無によりそれぞれPHN/NT−群,PHN/NT+群として改善率を比較した.

当科における疼痛治療は帯状疱疹,帯状疱疹後神経痛の治療ガイドライン10)と患者の全身状態に合わせてそれぞれの担当医の判断で内服処方,神経ブロックを施行した.神経ブロックは硬膜外,神経根,肋間神経,腕神経叢,眼窩上,後頭神経,星状神経節,パルス高周波療法などを施行した.患者が抗凝固薬内服している場合は可能であれば表層の末梢神経ブロック(肋間神経ブロック,腕神経叢ブロック)を行った.

群間の比較検討についてはχ二乗検定,Wilcoxon順位和検定を用いた.統計ソフトはJMP14(SAS institute Inc., Cary, NC, USA),EZR(version 1.55)12)を使用し,p<0.05を有意差ありとした.本研究では統計的なサンプルサイズの計算は行っていない.ただし,HZ群とPHN群での十分に改善した比率の比較に関する事後検出力は0.48であった.

III 結果

対象期間中に帯状疱疹関連痛で受診した患者は190例あり,そのうち初診時NRS 5以上の症例が143例で,受診を自己中断した症例と受診歴が1日だった症例13例を除外し,研究対象は130例となった.患者背景を表1に示した.全症例で急性期に抗ウイルス薬が使用されていたが発症からの詳細な時間は抽出できていない.当科受診前に前医で受けていた疼痛治療内容は表1のとおりであった.当科受診前の治療は,皮膚科,内科,透析科で受けており,ペインクリニックなどの疼痛専門機関で治療をしていた症例はなかった.また,当科受診前に神経ブロックを施行された症例もなかった.当科での治療は,全例で神経障害性疼痛治療が行われた(表1).

表1 患者背景
全症例数 130例
男性n(%) 60(46)
年齢(平均±SD) 68±13
当科初診時アロディニア有n(%) 46(35)
当科初診時NRS中央値(25%,75%) 7(6, 8)
当科受診90日後NRS中央値(25%,75%) 2(1, 3)
NRS改善率(%)中央値(25%,75%) 76(57, 88)
帯状疱疹発症部位  
 胸椎領域n(%) 72(55)
 頚椎領域n(%) 23(17)
 三叉神経領域n(%) 16(12)
 腰椎領域n(%) 14(10)
併存症有n(%) 92(70)
 抗凝固薬/抗血小板薬内服n(%) 36(27)
 ステロイド製剤内服n(%) 34(26)
 心疾患合併n(%) 26(20)
 糖尿病合併n(%) 19(14)
 悪性腫瘍n(%) 18(13)
 腎移植後n(%) 17(13)
 膠原病n(%) 17(13)
 人工透析n(%) 9(7)
 喘息n(%) 5(3)
 精神疾患合併n(%) 5(3)
発症から当科受診までの日数(日)中央値(25%,75%) 25(10, 40)
 発症から当科受診まで≦30日n(%) 95(74)
当科受診までの疼痛治療有n(%) 121(93)
 アセトアミノフェン/NSAIDs n(%) 91(70)
 プレガバリンn(%) 40(30)
 トラマドールn(%) 22(17)
 アミトリプチリンn(%) 0(0)
 デュロキセチンn(%) 0(0)
 神経ブロック施行n(%) 0(0)
 NT+ n(%) 55(42)
当科での治療  
 アセトアミノフェン/NSAIDs n(%) 101(82)
 プレガバリンn(%) 96(73)
 トラマドールn(%) 47(36)
 アミトリプチリンn(%) 11(8)
 デュロキセチンn(%) 4(3)
 神経ブロック施行n(%) 46(35)
 前医からのNT+ 容量調整n(%** 28(50)
 前医からのNT+ 他剤追加n(%** 36(65)
 前医からのNT+ 変更なし 2(3)

NT+:神経障害性疼痛治療(neuropathic pain treatment)あり.

1. 改善率の違いによる検討:R群vs. N群(表2
表2 改善率による検討(R群vs. N群)
  R群 N群** P値
症例数 103 27
NRS改善率(%)中央値(25%,75%) 80(60, 80) 40(20, 50)  
初診時NRS中央値(25%,75%) 7(5, 8) 8(8, 9) <0.001
年齢 平均±SD 68±1.2 68±2.5 0.43
男n(%) 51(49) 9(33) 0.13
当科受診までの日数 中央値(25%,75%) 20(10, 30) 30(10, 60) 0.23
当科受診までの日数≧31日n(%) 21(20) 11(40) 0.02
帯状疱疹発症部位      
 胸椎領域n(%) 56(54) 15(55) 0.91
 頚椎領域n(%) 18(17) 5(18) 0.89
 腰椎領域n(%) 18(18) 3(11) 0.39
 三叉神経領域n(%) 11(10) 4(14) 0.54
併存症      
 抗血小板薬/抗凝固薬内服n(%) 26(25) 10(37) 0.22
 ステロイド内服n(%) 25(24) 9(33) 0.34
 心疾患n(%) 19(18) 7(25) 0.38
 糖尿病n(%) 14(13) 5(18) 0.5
 悪性腫瘍n(%) 16(15) 2(7) 0.27
 腎移植n(%) 14(13) 3(11) 0.73
 膠原病n(%) 12(11) 5(18) 0.34
 透析n(%) 6(5) 3(11) 0.33
 精神疾患n(%) 5(4) 0(0) 0.24
 喘息n(%) 3(2) 2(7) 0.27
当科受診までの治療      
 NT+*** n(%) 41(39) 9(33) 0.53
当科での治療      
 プレガバリンn(%) 84(81) 23(85) 0.65
 トラマドールn(%) 39(37) 13(48) 0.33
 アミトリプチリンn(%) 17(16) 7(25) 0.27
 デュロキセチンn(%) 9(8) 0(0) 0.11
 神経ブロック施行n(%) 40(38) 17(62) 0.02

R群:当科受診90日後のNRS改善率が50%以上(responder群).

**N群:当科受診90日後のNRS改善率が50%未満(non-responder群).

***NT+:神経障害性疼痛治療(neuropathic pain treatment)あり.

十分に疼痛が改善しなかったN群は十分に改善したR群に比べて初診時のNRSが高かった.また,N群では皮疹出現から当科受診までの日数が31日以上である症例が多かった.年齢性別は差を認めなかった.帯状疱疹罹患部位には差がなく,併存症の有無,当科受診前の治療にも差を認めなかった.当科での治療ではN群でアミトリプチンの処方,神経ブロック施行が多かった.前医での神経障害性疼痛治療が開始された症例では当科で容量調整,他剤追加,神経ブロックが施行され,治療法に全く変更がなかったのは2例のみであった.

2. 皮疹出現から当科受診までの日数による検討:HZ群vs. PHN群(表3
表3 皮疹出現から当科受診までの日数による検討(HZ群vs. PHN群)
  HZ群 PHN群** P値
症例数 97 33  
NRS改善率 中央値(25%,75%) 80(60, 100) 61(39, 78) <0.001
年齢 平均値±SD 66±13 73±9 0.003
男n(%) 40(42) 19(59) 0.09
併存症有n(%) 71(73) 21(63) 0.77
帯状疱疹発症部位      
 胸椎領域n(%) 55(56) 16(50) 0.54
 頚椎領域n(%) 17(17) 6(18) 0.8
 腰椎領域n(%) 16(16) 5(15) 0.87
 三叉神経領域n(%) 10(10) 5(15) 0.4
前医でのNT+*** n(%) 32(32) 18(56) 0.01

HZ群:当科受診が帯状疱疹発症から30日以内,帯状疱疹痛群(herpes zoster pain).

**PHN群:当科受診が帯状疱疹発症から31日以上,帯状疱疹後神経痛群(postherpetic neuralgia).

***NT+:neuropathic pain treatment

PHN群では年齢が高く,当科受診前に神経障害性疼痛治療を受けている割合が多かった.併存症の有無や皮疹出現部位は差を認めなかった.

3. PHN群での前医での治療による検討:PHN/NT− vs. PHN/NT+(図1
図1

改善率の比較(PHN/NT−群vs. PHN/NT+群)

PHN/NT−群:当科受診が発症から31日以上かつ前医で神経障害性疼痛治療開始していない群.

PHN/NT+群:当科受診が発症から31日以上かつ前医で神経障害性疼痛治療開始されている群.

p<0.05 PHN/NT−vs. PHN/NT+

当科での改善率中央値はそれぞれ40%,60%であり,前者であるPHN/NT−群で改善率が有意に低かった.

IV 考察

大学病院内の麻酔科ペインクリニック外来である当科を受診した帯状疱疹関連痛症例において,その疼痛軽減に関与する因子について後方視的に検討した.当科での治療開始90日後のNRS改善率が50%未満にとどまったN群では初診時NRS値が高く,帯状疱疹発症から当科受診まで31日以上の症例が多いという結果となり,年齢,性別,併存症などその他因子には差がなかった.本研究では初診時NRS 5以上の症例を対象とし,かつ初診時すでに急性期を過ぎた症例も混在しているが,帯状疱疹関連痛はどの段階でも初診時NRSが高い症例は治療に難渋すると考えられ,今までの報告と矛盾しない結果であった.Forbesらは帯状疱疹後神経痛発症のリスク因子についてメタアナリシスを行い,リスク因子として白血病,リンパ腫,関節リウマチ,ステロイド服用,喘息,糖尿病,肥満などを挙げている4).本研究でも併存症があると疼痛改善が悪くなると予想したが,結果は有意な差がなかった.その理由としては,症例の7割が併存症を有していること,また症例数の不足が挙げられるが,当科においては早期の治療開始が重要で,併存症自体が疼痛改善に及ぼす影響は少ないと考えられた.しかしながら今後も追跡が必要である.また,本研究では併存症の中では心疾患が多く,抗凝固薬や抗血小板薬を内服している症例が多かった.抗凝固抗血小板薬内服がブロック施行の妨げとなりうるため治療効果に影響する可能性は考えられ,今後深部ブロックの適応がない症例の疼痛改善に関して検討が必要である.

本研究では,PHN群で平均年齢が有意に高かった(表3).PHN発症のリスク因子の一つに高齢2)が挙げられているが,当科において年齢は治療効果へ影響する因子ではなかったが,受診の遅れが治療効果を悪化させる可能性があるため,高齢は治療効果悪化の間接的なリスク因子となる可能性がある.

帯状疱疹関連痛については一般にPHNが完成する前の早い段階からの治療が推奨されているが,具体的な疼痛専門機関への受診時期に関しての言及は限られている12).本研究では発症から30日以内に受診したHZ群は31日以降に受診したPHN群より改善率は良好であり,当科への受診は発症30日以内が望ましいと考えられた.

神経ブロック治療の開始時期に関しての報告が散見され,PHN移行を予防する目的で比較的早い段階での施行を推奨しているが1315),早期から施行しても差がないという報告16)もあり,そのような中でもPasqualucciら17),清水ら18)は発症から30日以内での神経ブロックが有効であると報告している.本研究では必ずしも全例で神経ブロックが施行されたわけではないが,HZ群の改善率が優れていたことから神経ブロックを含めた治療が可能である疼痛専門機関への受診は発症から30日以内が望ましいと考えられた.

本研究では当科受診前の治療についても検討した.PHN群では前医で神経障害性疼痛の治療を受けた症例がHZ群より多かった.これは疼痛が強く治療が困難であったためと予想されるが,神経障害性疼痛治療を調整する間にむしろ疼痛専門機関への受診が遅れる一因となった可能性も否定はできない.一方,PHN群のうち前医で神経障害性疼痛治療を受けていなかった症例でNRS改善率が悪かった.前医での神経障害性疼痛治療はプレガバリンとトラマドールの処方のみで三環系抗うつ薬やデュロキセチンの処方はなかったが,限られた内容であっても早期から神経障害性疼痛治療を開始することが重要であると考えられた.前医での治療では薬剤の副作用で処方を中断せざるを得ない場合や容量調整が困難な症例も散見された.当科受診後は内服薬の選択肢が多いことと神経ブロック施行が可能であることが,前医での治療との主な違いだった.

神経障害性疼痛に対する内服治療の開始時期については,三環系抗うつ薬,ガバペンチンなどの抗痙攣薬,プレガバリンなどの急性期痛への使用がPHNへの移行を予防する可能性が報告されているが57,19,20),一方で明確な証拠は乏しいとする報告もあり21),現在メタアナリシスが計画されている段階である22).本研究の結果では早期の内服開始がその後の疼痛改善に重要であると考えられた.

帯状疱疹関連痛のうち,一般に3カ月以上続く疼痛は帯状疱疹後神経痛と呼ばれているが,重篤な帯状疱疹では神経障害性疼痛は発症早期から生じていることが推測されている23).本研究では,発症30日以内を帯状疱疹痛(HZ)群,31日以降を帯状疱疹後神経痛(PHN)群と便宜上分けたが,実際にはHZ群であっても神経障害性疼痛への移行がすでに始まっている症例も混在しているものと推測される.そのことが,より早期からの神経障害性疼痛治療が疼痛改善に有効という本研究の結論に至った一因かもしれない.

本研究の限界として,単一施設による後方視的研究であり,電子カルテで項目が確実に抽出できた2014年から2019年の期間で症例数が決定され,パワーアナライシスを行えていないことが挙げられる.個々の症例の背景因子や治療法は均一ではなく,急性期皮疹や自覚症状の詳細が不明であることが結果に影響を及ぼしている可能性は否定できない.また当科に紹介を受けた帯状疱疹関連痛の患者群であることから前医による選択バイアスが生じている可能性もあり,結果を単純に一般化することはできない.これらの因子を正すためには今後前向き多施設研究が必要である.

結論として,NRSが高い帯状疱疹症例では発症30日以内の疼痛専門機関受診が望ましく,発症31日以降の受診となる場合は前医で神経障害性疼痛治療を開始することが望ましいと考えられた.発症31日以降の受診かつ前医で神経障害性疼痛治療を受けていない場合には,より疼痛治療に難渋する可能性があり,集学的な治療を検討する必要があり,現在当科では外来担当医間でのカンファレンスを強化するなどして対応している.また当科紹介元への情報共有についても強化していく予定である.

文献
 
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