日本ペインクリニック学会誌
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短報
腰椎椎間板ヘルニアにおけるMRI診断と椎間板造影所見との関連性
大畑 光彦伊瀬谷 沙織熊谷 基畠山 知規鈴木 智大鈴木 健二
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2023 年 30 巻 7 号 p. 186-188

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I はじめに

腰椎椎間板ヘルニア(lumbar disc herniation:LDH)はMacnab分類により膨隆・突出型(P型),後縦靱帯下脱出型(SE型),経後縦靱帯脱出型(TE型),遊離脱出型(S型)に分けられる.LDHにおいて椎間板内加圧注入はTE型やS型に効果があるが,P型やSE型では増悪することがある.今回,事前にMRIで診断できるか否かを検証する目的で放射線科医による腰椎MRI画像からのMacnab分類と椎間板造影所見との関連性について調査した.

II 方法

2019年12月~2021年9月の9カ月間に当科を受診したLDHによる腰下肢痛患者のうち,椎間板造影が施行された13例,18椎間について後向きに検証した.椎間板造影は,CアームによるX線透視下に患側上側臥位で行った.斜位像にて当該椎間を水平位で描出し,上関節突起の腹側かつ椎体の背側3分の1を刺入点とした.X線透視正面・側面像で針先を椎体のほぼ中央まで進めた後,イオヘキソール(ヨウ素含有量240 mg/ml製剤)を注入した.なお,L5/S1椎間で腸骨が干渉する場合には側腹部に枕を入れる,刺入点をやや頭側にする等の工夫をした.造影剤の硬膜外腔への漏出の有無により,漏出有り:1群と漏出無し:2群に分類し,放射線科医によるMRI読影診断との関連性について検討した.

統計学的推計は,Shapiro-Wilk testにより正規性の有無を確認後,群間比較にはMann-Whitney U-testまたはChi-square testを用い,p<0.05を有意とした.数値は中央値(四分位偏差)または椎間数で示した.

III 結果

研究対象期間中に当科で診療したLDH患者数は23例で,その内椎間板造影が施行されたのは13例(57%)であった.1群:8椎間・7症例,2群:10椎間・6症例であった.患者背景,椎間板造影が施行された椎間レベルに差はなかった(表1).放射線科医によるMRI読影診断と椎間板造影所見の関係について表2に示す.Macnab分類4つの型それぞれの椎間数に群間差は認めなかったが,PまたはSE型とTEまたはS型の2分類で比較すると1群でTEまたはS型が多い結果となった(p=0.019).

表1 患者背景
  1群
(8椎間,7症例)
2群
(10椎間,6症例)
p値
年齢(years) 58.0(29.0,77.0) 52.0(26.0,77.0) 0.897
性別(M/F) 3/4 2/4 0.671
身長(cm) 165.5(152.2,183.2) 158.8(152.0,174.8) 0.315
体重(kg) 64.3(59.8,70.8) 60.0(55.0,94.8) 0.274
BMI 22.5(21.1,26.0) 24.4(21.8,31.0) 0.762
椎間レベル     0.251
 L1/2 1  
 L3/4 1 1  
 L4/5 3 2  
 L5/S1 4 6  

数値は中央値(四分位偏差)または椎間数.

表2 MRI診断と椎間板造影結果
  1群
(8椎間)
2群
(10椎間)
p値
Macnab     0.129
 P type 0 1  
 SE type 0 4  
 TE type 7 4  
 S type 1 1  
Macnab     0.019
 P or SE type 0 5  
 TE or S type 8 5  

数値は椎間数.:p<0.05

IV 考察

LDHによる腰下肢痛患者では,下肢運動麻痺や膀胱直腸障害が現れない限りは薬物療法や理学療法などの保存的治療が行われる.これらの治療に抵抗性の痛みを訴える患者では硬膜外ブロックや神経根ブロックが施行されるが,高い満足度の得られない場合,椎間板内加圧注入が一つの選択肢となるとの報告がある1).また,椎間板内注入は手術前の責任椎間を決定するための診断的意義の方が重要視されている2).椎間板造影は腰下肢痛が椎間板由来であるか否かを判定可能にするが,標準化された検査ではないため臨床研究上の評価が難しい3).単独検査として,またはMRI等と組み合わせて施行される検査として,腰痛または神経根症に対して強くは推奨されていない4).施行するにあたっては,患者への詳細な説明および無理な加圧を控えることが必要である.

MRI画像によるSE型かTE型かを判別するには,T1強調像でヘルニア部分の低信号線状構造が保たれていれば(Sharpey線維と後縦靱帯が重なり低信号状態として捉えられる)SE型,破綻していればTE型とされている5).この判別は難しく椎間板造影で明らかになるが,SE型の場合には症状が増悪することが多い.

本研究では放射線科医によるMRI読影診断と椎間板造影の関係について,1群でTE・S型が多い結果となった.一方で,1群では全てTE・S型であったが,2群において10椎間中5椎間でTE・S型と診断された.さらにMRI上P・SE型と診断された5椎間は椎間板造影で全て硬膜外腔漏出がなかったのに対し,TE・S型と診断された13椎間中5椎間で椎間板造影上硬膜外腔への漏出がなかった.MRI上TE・S型と診断される中にも椎間板造影では硬膜外腔への漏出を認めない椎間が存在したことは,椎間板内加圧注入を施行する上での留意点といえる.

本稿の要旨は,日本ペインクリニック学会 第2回東北支部学術集会(2022年2月,Web開催)において発表した.

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