日本ペインクリニック学会誌
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症例
こむら返りに対する深腓骨神経内側枝ブロック―ケースシリーズ
佐藤 史弥高雄 由美子石本 大輔橋本 和磨助永 憲比古廣瀬 宗孝
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2023 年 30 巻 8 号 p. 203-206

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Abstract

こむら返りは腓腹筋に多くみられ,ほとんどは一時的なものだが,再発を繰り返す場合もあり,しばしば治療に難渋する.近年,深腓骨神経内側枝ブロックが有効であるとの報告が散見する.ペインクリニック外来では,こむら返りを併発する患者が多いため,当科でも深腓骨神経内側枝ブロックを治療に取り入れている.このたび,こむら返りに対して深腓骨神経内側枝ブロックを行った症例を4例報告する.痙攣を生じた筋肉の部位は3例が腓腹筋であり,1例は前脛骨筋であった.効果持続時間はおおむね2週間以上保てており,いずれも有用であった.深腓骨神経内側枝ブロックの機序ははっきり分かっていないが,低侵襲で簡便,かつ合併症もほとんどないことから,こむら返りに対する治療の選択肢であると思われる.

Translated Abstract

Nocturnal leg cramps are happened commonly in calves. They often recur and have difficulty to be treated. While the effectiveness of the medial branch of the deep fibular nerve block is reported for leg cramps, it has not been reported in pain clinic diseases. In the current study, four pain clinic cases were evaluated. In three cases, the cramps occurred in the gastrocnemius muscle, and another in the tibialis anterior muscle. The duration was about two weeks or more. Although the mechanism of the medial branch of the deep fibular nerve block is unclear, it could be a very minimally invasive, convenient and satisfactory treatment for nocturnal leg cramps.

I はじめに

こむら返りは,下肢の骨格筋に不随意に出現する有痛性筋痙攣であり,治療には芍薬甘草湯や筋弛緩薬が使われるが,治療に難渋することも多い.

近年,難治性のこむら返りに対して,深腓骨神経内側枝ブロックが有効であったとの報告が散見される.腰椎術後患者1)や妊婦2)での報告がみられるが,ペインクリニック領域の報告は少ない.当科ではこむら返りの訴えのあった患者に対して積極的に深腓骨神経内側枝ブロックを施行し,次回来院時に効果時間やこむら返りの軽減程度について聞き取り,カルテに入力している.このたび,2021年に当科で難治性のこむら返りに対して深腓骨神経内側枝ブロックを行った4症例を報告する.

なお,本報告は症例報告であるため倫理委員会未承認だが,全症例,神経ブロックに関して患者本人に説明し,文書で同意と承諾を得ている.

II 方法

当科での深腓骨神経内側枝ブロック手技について紹介する.深腓骨神経は腓骨頭付近で総腓骨神経から分岐し,下腿の前面を下行し,下腿の伸筋群に筋枝を出したのち,図1に示すように足部で外側枝と内側枝に分岐する.外側枝は趾伸筋群へ筋枝を出し,内側枝は背側指神経となる.これまでの報告では,こむら返りへの深腓骨神経ブロックは,第1・2中足骨基部の間1)や,より末梢の基節骨レベル3)で1%メピバカインやリドカインを5 ml程度,同部位の皮下に投与している.それにより局所麻酔薬が深腓骨神経内側枝に浸潤することで効果が得られるとされる.これまでは「深腓骨神経ブロック」とされてきたが,正式には内側枝のブロックであるため,本報告では「深腓骨神経内側枝ブロック」とする.

図1

深腓骨神経内側枝ブロックの刺入点と解剖図(文献3より改変)

図1に当科での刺入部位を示す.使用する針は25G注射針を用いて,注射手技はトリガーポイントブロックとして請求している関係もあり,使用薬剤はサリチル酸ナトリウム・ジブカイン配合剤(商品名ネオビタカイン,以下同)1.5~3 mlを用いることが多い.

本ブロックに重大な合併症はないが,深腓骨神経内側枝は足背動脈と並走しているため,針を刺入しすぎないように注意する.

III 症例

症例1:患者は53歳の男性.4年前に発症した顕微鏡的多発血管炎による臓器障害に対し,ステロイドパルス療法などを行い緩解した.しかし末梢神経障害による両手足の感覚低下としびれが残存したため,当科を紹介受診した.

プレガバリン150 mgの内服開始によりしびれは改善傾向にあったが,右側腓腹筋痙攣が毎晩頻回に生じるようになった.芍薬甘草湯2.5 gの眠前内服を開始したところ,2カ月程度は痙攣の頻度は減っていたものの,2カ月で再燃した.痙攣は毎日生じ,特に長距離歩いた日や脱水状態のときに頻繁に出現するようになった.電解質異常はなかった.

初診から5カ月後に初回の深腓骨神経内側枝ブロック(ネオビタカイン1.5 ml)を施行したところ,痙攣の頻度は10分の1に,強度は20分の1程度になった.その後も繰り返し施行し,効果は外来の定期受診間隔である2カ月以上持続した.

症例2:患者は57歳男性.20年前にバイク事故で受傷した左肩鎖関節脱臼に対して手術を受けた.しかし左肩痛が続くため,前医にて17年前より脊髄刺激療法を開始した.その後左肩痛は改善したが,慢性腰痛に対し3年前から当科にてトリガーポイント注射などを行っていた.経過中,夜間に1日2~3回の両側腓腹筋の痙攣が出現した.電解質異常はなかった.

両側深腓骨神経内側枝ブロック(ネオビタカイン1.5 mlずつ両側)を施行したところ,一度の施行で痙攣は消失し,効果は6カ月持続した.その後気温の低下に伴い痙攣が再発するも,ブロックの再施行後は1カ月,2カ月と痙攣消失の期間が延びていった.効果が切れた後も,頻度・強度ともに10分の1以下に低下していた.

症例3:患者は66歳男性.7年前に右上下肢痛が出現し,頚椎症による頚髄症と診断された.硬膜外ブロックを複数回施行するもいずれも無効であり,トラマドールとトリプタノールが奏功したが,右臀部から大腿・下腿・足裏のしびれと突っ張ったような痛みが残存していた.半年前から夜間を中心に右腓腹筋の筋痙攣が頻回に生じるようになり,芍薬甘草湯が効果的であったが,近医で偽性アルドステロン症による低カリウム血症と診断されたため,芍薬甘草湯を中止せざるを得なかった.

そこで右側深腓骨神経内側枝ブロック(1%メピバカイン2 ml)を施行したところ,2週間は痙攣が生じなくなり,右足のつっぱり感が改善した.その後も原疾患による下肢痛は持続しているものの,患者希望により深腓骨神経内側枝ブロックを8週ごとに継続して行っている.

症例4:患者は63歳男性.肺尖部がんに対する化学療法中に,両側前脛骨筋に有痛性痙攣が夜間1日1回生じるようになり,芍薬甘草湯やエペリゾンの内服が無効であったため,3カ月後当科を紹介受診した.電解質異常はなかった.

初回外来にて深腓骨神経内側枝ブロックを1%メピバカイン3 mlずつで両側に施行したところ,3カ月程度痙攣は消失し,内服も終了した.

痙攣が再出現してからは1%リドカイン,1%メピバカイン,ネオビタカインで効果は10日程度の持続にとどまったため,0.25%レボブピバカインで施行するようにしたところ,20~40日持続した.その間もネオビタカインで計4回再施行したが効果はいずれも10日程度であった.最終的にレボブピバカインで施行し,初診から1年後には2カ月以上の効果持続を得られるようになった.

IV 考察

こむら返りは腓腹筋に多くみられ,多くは一時的なものだが,再発を繰り返す場合もあり,しばしば睡眠障害を引き起こす.原因疾患として,腰部脊柱管狭窄症などの腰椎疾患や末梢神経障害,血管疾患,透析,肝硬変,妊娠などがある4).その原因として神経根の圧迫5)などの神経の機能障害や損傷,ミオパチー,代謝異常が示唆されており,下位運動ニューロンが原因とされるが,正確なメカニズムは不明である.

こむら返りの治療法としては,マグネシウム,抗てんかん薬,ジルチアゼム,ビタミンB6・Eや,ストレッチなどの理学療法に関して有効性は示唆されるもののいずれもエビデンスは不足している6).本邦では古くから芍薬甘草湯が用いられることが多く,効果を実感している臨床医も多いが,こちらもRCTが少なくエビデンスは不足している7)

深腓骨神経内側枝ブロックは,2002年に高山らが母趾痛に対して同部位に行ったトリガーポイント注射が著効したことをきっかけとして,腰椎術後患者のこむら返りに対しての有効性を報告した1).Imuraらによると,対照群と比較し痙攣の頻度・強度ともに著明に減少させ3),90.5%で頻度が半分以下となり,76.2%で1カ月以上持続した8)

深腓骨神経内側枝ブロックの機序ははっきり分かっていない.高山らは痛覚伝導路の遮断,痛みの悪循環の遮断,血行改善と考察しており,Imuraらは神経損傷部位より末梢のブロックによっても膜脱分極が阻害されるため,効果を示すのではないかとしている8)

しかし,今までの報告では痙攣を起こした筋肉の部位については調べられていなかった.症例④は前脛骨筋の痙攣であったが,症例①~③では腓腹筋であった.深腓骨神経内側枝ブロックの作用機序として,遠位のブロックによる障害神経膜電位の安定や痛覚伝導路の遮断が中心であるとすれば,深腓骨神経支配の前脛骨筋痙攣への作用は説明できるが,脛骨神経支配の腓腹筋痙攣への作用は説明できない.考察を加えるとすれば,ペインクリニックを受診する腰痛患者や下肢症状を呈する患者では,前傾姿勢により腓腹筋の負担が大きくなっている9)が,深腓骨神経内側枝ブロックが足の伸筋群の緊張を緩和することにより前傾姿勢改善につながり,腓腹筋負担を軽減することにより痙攣の頻度を抑える可能性がある.

そのほかの作用機序としては,補完代替療法の機序にも注目したい.経穴の一つである太衝(LR3)は第1・2中足骨基部の間に存在し,末梢循環不全の改善やこむら返りに有効であるとされる.太衝は解剖学的には深腓骨神経内側枝の血管枝の近傍にあり10),深腓骨神経内側枝ブロックの刺入点と近いため,鍼灸としての作用機序11)が関与している可能性がある.また,真皮に鎮痛薬を投与するメソセラピーは,長期的で全身性の鎮痛作用12)があり,トリガーポイントよりも経穴に投与することによる有用性も報告されている13)

深腓骨神経内側枝ブロックは一般的な神経ブロックとは異なる機序が考えられ,まだ分かっていない部分も多いが,本ケースシリーズのように臨床的に有用と思われる症例が多くあり,今後の研究が望まれる.

V 結語

当院で難治性こむら返りに深腓骨神経内側枝ブロックを施行した4症例を報告した.深腓骨神経内側枝ブロックの作用機序ははっきりと解明されていないものの,低侵襲で簡便でありながら,こむら返りに対し高い患者満足度を得られる治療であると考えられる.

本報告の要旨は,日本区域麻酔学会 第9回学術集会(2022年4月,沖縄)において発表した.

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