日本ペインクリニック学会誌
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
症例
Ramsay Hunt症候群に合併した三叉神経領域の帯状疱疹関連痛に対しガッセル神経節パルス高周波法を施行した1症例
平澤 由理岡田 寿郎富田 梨華子福井 秀公内野 博之大瀬戸 清茂
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 30 巻 8 号 p. 194-197

詳細
Abstract

Ramsay Hunt症候群を合併した三叉神経領域の帯状疱疹関連痛に対し,ガッセル神経節にパルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)を施行し改善し得たので報告する.症例は51歳の男性,1カ月前より皮疹を伴う右頬部,下顎,頚部の痛みおよび右内耳の違和感・痛みを自覚し,近医で三叉神経領域の帯状疱疹と診断された.発症初期より右顔面神経麻痺と味覚障害がありRamsay Hunt症候群の合併の診断で,前医入院にてステロイド投与,末梢神経ブロック,内服治療が開始されたが,同部位の痛み,顔面神経麻痺および味覚障害が残存したため当院ペインセンターに紹介となった.超音波ガイド下に浅頚神経叢ブロックとオトガイ神経ブロックを施行したところ,痛みは半減したものの残存し,右内耳の違和感・痛みと味覚障害も持続したため,1週間後に透視下でガッセル神経節にPRFを施行した.施行後,痛みは消失し右頬部に軽度の痺れを残すのみとなり,顔面神経障害による症状も良好な経過をたどった.顔面の複数の神経支配領域に症状が及ぶ帯状疱疹関連痛において,内服治療や末梢神経ブロックで症状改善に難渋する場合には,早期のガッセル神経節ブロックが有効と考えられた.

Translated Abstract

We report a case of herpes zoster-associated pain in the third branch of the trigeminal nerve caused by Ramsay Hunt syndrome that was successfully treated with pulsed radiofrequency to the Gasser ganglion. A 51-year-old man was diagnosed as having herpes zoster in the third branch of the trigeminal nerve. He had right facial paralysis and dysgeusia from onset, and was diagnosed as having Ramsay Hunt syndrome. After undergoing ultrasound-guided superficial cervical plexus block and mental nerve block, his pain level was reduced by half but remained, and discomfort and pain in the right inner ear and dysgeusia persisted. Seven days subsequently, Gasserian ganglion block was performed, and his facial paralysis, discomfort and pain in the right inner ear, and dysgeusia owing to Ramsay Hunt syndrome were improved. Our case indicates that Gasserian ganglion block is effective for patients with herpes zoster-associated pain extending over multiple nerve areas of the face, which is refractory to medical treatment and peripheral nerve blockade.

I はじめに

Ramsay Hunt症候群は,1907年にJames Ramsay Huntが水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の膝神経節での再活性化により発生する急性期帯状疱疹として報告し,耳介部や口腔粘膜に紅斑性小水疱性発疹を生じ,時に複数の脳神経(V,IX,XI,XII)の障害を伴う1,2).今回,Ramsay Hunt症候群を合併した三叉神経領域の帯状疱疹関連痛に対し,透視下でガッセル神経節にパルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)を施行し改善し得たため報告する.

症例報告については患者本人より承諾を得た.

II 症例

患 者:51歳,男性.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:1カ月前より右顔面,頚部および右内耳に数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)で8/10の痛みを自覚し,翌日より皮疹が出現したため,近医で帯状疱疹と診断された.バラシクロビル3,000 mg/日の内服を開始したが症状改善がみられず発症1週間後に前医を受診した.発症初期より病側の右顔面神経麻痺と味覚障害があったことから,Ramsay Hunt症候群の合併と診断され,外来通院にて2回/週の星状神経節ブロックとミロガバリン錠5 mg 2錠/日,トラマドール塩酸塩50 mg 4錠/日,エチゾラム錠0.5 mg 1錠/日,メコバラミン錠500 µg 3錠/日の内服が開始された.しかし,痛みの改善はなく,発症3週間後から前医に入院にてプレドニゾロン200 mg/日の点滴投与を7日間施行したが顔面の痛みと痺れ,内耳の痛みが残存したため,当院ペインセンターへ紹介となった.

初診時現症:右頬部,下顎,下口唇および頚部にNRSで8/10の自発痛を訴え,また同部位に痺れと知覚低下(健側と比べて7/10)を自覚していた.皮膚所見として,右下顎部(V3領域)と右頚部(C2~3領域)に紅斑を認めた.発作痛は2回/日の頻度で自覚され,アロディニアのために外出時にマスクを付けられないとの訴えもあった.また随伴症状として,「鼓膜の奥に水が流れるような感覚」と表現される右内耳の違和感と痛み,舌先の味覚亢進(塩味過敏)および右顔面神経麻痺(柳原法で20/40点)がみられた.

検査所見:特記すべき異常所見はなかった.

治療経過:三叉神経領域の帯状疱疹,内耳症状,顔面神経障害から,Ramsay Hunt症候群を合併した三叉神経領域の帯状疱疹痛と診断し,外来通院にて治療を開始した.図1に当院紹介後の治療経過を示す.初診時,超音波ガイド下に浅頚神経叢ブロックとオトガイ神経にPRFを施行したところ,1週間後の再診時,右頬部,下顎,下口唇の痛みはNRSで4/10まで改善した.しかし,右内耳の違和感と痛みと味覚亢進は改善がなく,顔面神経麻痺も改善が乏しかった(柳原法で22/40点).同日,ガッセル神経節に対し透視下PRFを施行した.ブロック針を外側口腔外法でアプローチし,卵円孔内に到達したところで下顎神経領域への放散痛を認めた.ブロック針をさらに12 mm進入したところで痛みの最強点である右下顎部に再現痛が得られたため,イオヘキソール0.5 mlを投与し針先の位置を確認した(図2).0.5%リドカイン0.5 mlを投与しブロック針による痛みを緩和したうえで,PRF(42℃,360秒,周波数2 Hz,パルス幅20 m秒)を施行し,1.0%リドカイン0.2 ml,ベタメタゾン吉草酸エステル1 mgを局所投与し手技を終了した.施行後3週間の再診時には,痛みはNRSで0/10となり,頬部と下口唇に軽度の痺れを自覚する程度にまで改善した.また内耳の違和感と痛みと顔面神経麻痺は完全に消失し,随伴症状としては軽度の塩味過敏が残存したが改善傾向であった.以後,当院への通院は終了し,メコバラミン錠の内服のみ継続のうえ前医で経過観察の後,症状は再燃することなく終診となった.

図1

当院での治療経過

PRF:pulsed radiofrequency,NRS:numerical rating scale.

図2

ガッセル神経節ブロック・パルス高周波法

透視下にてガッセル神経節に対しPRFを施行した.斜位像(頚部伸展位)で卵円孔を同定しブロック針を刺入し,側面像で針先が頭蓋底より中枢に進んでいることを確認した.

III 考察

Ramsay Hunt症候群はVZVの再活性化による耳介周囲の帯状疱疹,顔面神経麻痺,第8脳神経症状を3主徴とする疾患であり,脳神経のうち内耳神経(VIII)や三叉神経(V)の併発が最も多い1).3主徴をすべて有する典型例は58%に過ぎず,40%は第8脳神経症状を欠いた2主徴を,2%は帯状疱疹を欠いた2主徴を有するのみであったとの報告もある3).本症例では,現病歴と診察所見から,多発脳神経障害(V,VII)を伴うVZV感染であると診断した.多発性脳神経障害の伝播経路については髄膜炎様反応が考えられているが4),髄液中の抗VZV抗体が認められない症例報告があり5),三叉神経脊髄路核から顔面神経線維への直接伝播も考えられる.また本症例のように三叉神経帯状疱疹とRamsay-Hunt症候群を合併した症例では,MRIでT2強調像において橋下部と延髄後方および側方に高信号を,T1ガドリニウム強調像において顔面神経迷路部の高信号を示すことが報告されている6).今回は施行していないが,髄液検査やMRIは確定診断や炎症の局在を明らかにする目的で有用であった可能性がある.

Ramsay Hunt症候群に対しては,発症早期の抗ウイルス薬とステロイド薬の投与が有効であり,顔面の帯状疱疹関連痛に対しては,鎮痛薬,神経ブロックが有効である.特に神経ブロックに関しては,近年,帯状疱疹関連痛に対するPRFの有効性が注目されている7).本症例では前医での治療内容も含めると,複数回の星状神経節ブロックやオトガイ神経ブロックで痛みのコントロールに難渋したため,より中枢でのガッセル神経節ブロックを選択した.また,神経節へのステロイドの直接投与は,強力な抗炎症作用と神経の浮腫を緩和する効果が期待できる8,9).ガッセル神経節ブロックでは,血腫,髄膜炎,下顎神経損傷,薬液の拡散による脳神経障害が起こり得る合併症として指摘されており10),複数回の施行は勧められず,単回の施行でより安全に効果的な作用を得るためPRFの併用を選択した.ガッセル神経節において,PRFの有効性と安全性についてはいくつかの報告11)が既にされている一方で,高周波熱凝固法については,顔面の痺れ,咬筋の衰弱,角膜反射の低下,感覚異常などの合併症が問題となる12)

また本症例では,ガッセル神経節ブロックを施行することにより帯状疱疹による痛みを改善すると同時に,顔面神経障害や内耳神経障害をも改善し得た.PRFが,三叉神経以外の脳神経障害に直接作用するかについては不明である.解剖学的には,顔面神経管から派生する大錐体神経管裂孔は頭蓋底に続いており13),ガッセル神経節に対して投与したステロイドが顔面神経に作用する経路として推察できる.また,前医での星状神経節ブロックやステロイド投与が遅効性に効果を示した可能性も考えられる.

顔面の複数の神経支配領域に痛みの範囲が及ぶ帯状疱疹関連痛において,内服治療や末梢神経ブロックのみでは痛みのコントロールに難渋する場合に,早期のガッセル神経節ブロックが有効と考えられた.また,PRFを併用することで,RFよりも感覚障害や運動麻痺などの合併症リスクを抑えながら,長期治療効果が見込まれる可能性が示唆された.本治療法の有効性を示すためには,今後さらなる症例の集積が必要と考えられる.

本論文の要旨は,日本麻酔科学会 関東甲信越・東京支部 第62回合同学術集会(2022年9月,Web開催)において発表した.

文献
 
© 2023 一般社団法人 日本ペインクリニック学会
feedback
Top