日本ペインクリニック学会誌
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
症例
経鼻的局所麻酔薬浸潤による翼口蓋神経節ブロックが有用であった小児の片頭痛の1例
德永 友里間嶋 望成尾 英和南 敏明
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 31 巻 12 号 p. 237-240

詳細
Abstract

症例は12歳男児,身長147 cm,体重36 kg.初診3カ月前に頭痛が出現し,近医小児科で片頭痛と診断された.頭痛が増悪し,イブプロフェン400 mg,ナラトリプタン2.5 mgの内服後もnumerical rating scale(NRS)8~10の頭痛,嘔吐が持続し当科紹介受診となった.呉茱萸湯エキス顆粒5.0 g分2を開始,初診7日後,ナラトリプタン10回/月以上の内服を認めナラトリプタンのみ中止した.NRS 5~8の頭痛が持続し,イブプロフェンを連日内服していた.初診14日後,経鼻的局所麻酔薬浸潤による翼口蓋神経節ブロック施行でNRS 3に軽減した.アミトリプチリン10 mgの内服を開始し,2~4週ごとの翼口蓋神経節ブロック施行,発作時のイブプロフェン内服で,学校生活に制限なく過ごせるようになった.初診6カ月後,アミトリプチリンを中止し,症状の増悪なく経過している.経鼻的局所麻酔薬浸潤による翼口蓋神経節ブロックは低侵襲であり,有用と考えられる.

Translated Abstract

A 12-year-old boy developed a headaches and was diagnosed with migraines. He continued to have headaches and vomiting, with a numerical rating scale (NRS) of 8–10 and was referred to our department. He was taking naratriptan more than 10 times/month. We explained the need to discontinue it; however, he continued to have headaches with an NRS of 5–8 and was taking ibuprofen 1–2 times/day. A sphenopalatine ganglion block by intranasal local anesthetic infiltration was performed, and the headaches were reduced to an NRS of 3. He was started on amitriptyline 10 mg, sphenopalatine ganglion block every 2–4 weeks, and ibuprofen 2–3 times/month for seizures, and he was able to go to school without any restrictions. Sphenopalatine ganglion block by intranasal local anesthetic infiltration is minimally invasive and may be useful for symptom relief in pediatric patients with migraines who have poor pain control with medication alone.

I はじめに

小児の慢性痛で頭痛は最も頻度が高く1),一次性頭痛で代表的なものは片頭痛と緊張型頭痛である.本邦における片頭痛の有病率は小学生で3.5%,中学生で4.8~5.0%,高校生で15.6%と報告されている2).小児の片頭痛の急性期治療薬はイブプロフェン,アセトアミノフェン,トリプタンであるが,トリプタンはイブプロフェン,アセトアミノフェンで効果が得られない際に使用を考慮すべきであるとされ,日本では15歳未満には保険適応外である.また,これらの急性期治療薬の効果が乏しい際は治療に難渋する.

今回,片頭痛の急性期治療薬で効果が乏しく経鼻的局所麻酔薬浸潤による翼口蓋神経節ブロックが有用であった1例を経験したので報告する.

なお,海外論文では経鼻的局所麻酔薬浸潤による翼口蓋神経節ブロックは翼口蓋神経節ブロックと称されているが,本邦の保険適用では針の刺入を行っていないため「ブロック」ではなく「浸潤麻酔」である.本論文では学術的な観点から,翼口蓋神経節ブロックの用語を用いる.

本症例の報告にあたり,患者本人と母親の承諾を書面で得ている.

II 症例

12歳男性,身長147 cm,体重36 kg.

現病歴:当科初診3カ月前,両側前頭部から側頭部の拍動性頭痛が出現し,近医小児科で片頭痛と診断された.発作時にイブプロフェン400 mg,リザトリプタン10 mgの内服で軽快していた.頭痛が増悪し,イブプロフェン400 mg,ナラトリプタン2.5 mg内服後もNRS 8~10の拍動性頭痛,嘔吐が持続し当院の救急外来を受診,ペンタゾシン15 mgの静脈投与でNRS 1に軽減し帰宅した.翌日にNRS 8の頭痛,嘔吐が再燃し,脳神経外科受診,脳MRI検査で異常を認めなかった.翌々日に頭痛と嘔気が持続し,当科紹介となった.

既往歴は9歳時から過敏性腸症候群で小児科に定期通院している.

現 症:初診時NRS 8の頭痛,嘔気が強く3日間ベッド上安静で日常生活が制限されていた.結膜充血,流涙,鼻漏など頭部の副交感神経系の自律神経症状を認めなかった.神経学的所見や血液検査で異常を認めなかった.Pediatric Migraine Disability Assessment(PedMIDAS)19点で日常生活に軽度支障を認めた.国際頭痛分類第3版の診断基準で3),前兆のない片頭痛と診断した.呉茱萸湯エキス顆粒5.0 g分2の内服を開始し,初診7日後,ナラトリプタン10回/月以上の内服を認めナラトリプタンのみ中止した.イブプロフェン400 mgを1~2回/日の内服でNRS 5~8の頭痛が持続した.初診14日後,予防薬のアミトリプチリン10 mgを開始した.片頭痛の急性期治療として低侵襲かつ合併症が少ない麻酔薬浸潤法による翼口蓋神経節ブロックの併用が可能であることを説明した.海外における小児の片頭痛,難治性頭痛,硬膜穿刺後頭痛の有効性4,5)を説明,本人と母親が希望し経鼻的局所麻酔薬浸潤による翼口蓋神経節ブロックを施行した.肩枕を挿入,頭部を伸展し,顎を挙上し,鼻腔に2%リドカインゼリーを塗布した綿棒を両鼻腔の中鼻甲介に沿って挿入した後,4%リドカイン0.5 mlずつ綿棒に沿って滴下し,20分間,その体位を保持した.翼口蓋神経節ブロック施行後,頭痛はNRS 3に軽減した.アミトリプチリン内服を継続し2週ごとの翼口蓋神経節ブロック施行で初診5週後,1日中持続していた頭痛は発作時のみに軽減し,イブプロフェン2~3回/月で学校生活は制限なく過ごせるようになった.2~4週ごとの翼口蓋神経節ブロックを併用,翼口蓋神経節ブロック施行後2週間は発作が消失し,急性期治療としてブロックを継続,月2~3回程度の発作時にイブプロフェン400 mgの内服でNRS 5から1に軽減した.発作時の嘔吐は消失し,呉茱萸湯エキス顆粒を中止し,五苓散エキス顆粒5.0 g分2に変更した.初診6カ月後,アミトリプチリンを中止するも症状の増悪なく経過している(図1).

図1

臨床経過

III 考察

小児の片頭痛の急性期治療はイブプロフェン,アセトアミノフェン,トリプタンが有効であると報告されているが,これらの急性期治療で十分なコントロールができない場合がある.成人では,星状神経節ブロックや後頭神経ブロックなどが施行されることもあるが,小児は,これらのブロックを施行することは困難である場合が多い.

小児の片頭痛予防薬については,「頭痛の診療ガイドライン2021」でアミトリプチリン,トピラマート(保険適応外),プロプラノールがエビデンスの確実性(B~C)で推奨されている6).アミトリプチリンなどの予防薬は臨床効果を達成するまでに最低2~3カ月程度を要す可能性がある7).成人はカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)やCGRP受容体に対するモノクローナル抗体の治療薬が有効であるが,小児の安全性と有効性は確立されていない.

片頭痛は,翼口蓋神経節からの副交感神経刺激が頭蓋血管の血管拡張を引き起こし,炎症性メディエーターが放出され,三叉神経系の侵害受容器を活性化する三叉神経血管説が提唱されている8).片頭痛の中枢性感作および末梢性感作は副交感神経活性化が影響している可能性が報告されている9).翼口蓋神経節は頭部で最大の副交感神経節であり,片頭痛における治療で翼口蓋神経節の遮断の有効性が報告されている8).経鼻的局所麻酔薬浸潤による翼口蓋神経節ブロックの有害事象は一時的な咽頭のしびれ,不快感,吐き気,鼻出血などのみで重篤な有害事象は報告されていない4,10).経鼻的局所麻酔薬浸潤による翼口蓋神経節ブロックは低侵襲であり,小児の片頭痛に有用であると考えられるが4),保険請求できないことや効果の不確実性が問題である.複数回施行で有用性が報告されているが11),プロトコールは確立されていない.

小児の片頭痛治療で薬剤の治療効果が乏しい場合は,翼口蓋神経節ブロックが一助となり得る.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第58回大会(2024年7月,宇都宮)において発表した.

文献
 
© 2024 一般社団法人 日本ペインクリニック学会
feedback
Top