日本ペインクリニック学会誌
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原著
ミロガバリン長期投与時の安全性の検討―タリージェ®錠特定使用成績調査結果―
加藤 実望月 夕起子佐藤 有紀山中 美絵
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2024 年 31 巻 6 号 p. 89-98

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Abstract

神経障害性疼痛治療は長期化しやすく,神経障害性疼痛治療剤の長期投与時の安全性評価は重要である.本調査は2020年10月以降に末梢性神経障害性疼痛に対するミロガバリン(タリージェ®錠:以下,本剤)投与患者を対象に,投与開始後12カ月間の糖尿病の悪化・発症,視覚障害,低血糖,突然死などの発現を評価した.安全性評価対象は1,519例(糖尿病合併259例,糖尿病非合併1,260例)であった.投与継続例660例中電子添文の有効用量まで増量しなかった症例は424例であり,その理由が有害事象の症例は6例であった.投与中止例859例中有害事象による中止は66例であった.糖尿病の悪化,糖尿病の発症および視覚障害の発現割合は,4.25%(11/259例),0.08%(1/1,260例),0.07%(1/1,519例)であり,そのうち重篤な事象は糖尿病の悪化の1例で,本剤との因果関係は否定された.低血糖と突然死の発現は認められなかった.本調査では,ミロガバリン長期投与による糖尿病の悪化・発症,視覚障害,低血糖,突然死およびその他安全性について,新たな懸念は認められなかった.

Translated Abstract

Neuropathic pain medications are often administered for prolonged periods, thus their long-term safety is important. We conducted a post-marketing surveillance for mirogabalin in patients with peripheral neuropathic pain, to investigate incidences of diabetes mellitus (DM: aggravation, development), vision disorders, hypoglycemia, sudden deaths, and other adverse events (AEs) during 12 months of starting mirogabalin treatment. The safety analysis set included 1,519 patients; 259 with DM and 1,260 without DM. Of the 660 patients who continued treatment, 424 (64.2%) did not reach the effective dose according to the package insert, with six of these cases (1.4%) due to AEs. Of the 859 patients who discontinued treatment, 66 (7.7%) discontinued due to AEs. Incidences of DM (aggravation, development), and vision disorders were 4.25% (11/259), 0.08% (1/1,260), and 0.07% (1/1,519), respectively. No hypoglycemia or sudden deaths occurred. In this surveillance on long-term mirogabalin treatment, no new safety concerns regarding DM (aggravation, development), vision disorders, hypoglycemia, sudden deaths, or other AEs were observed.

I はじめに

神経障害性疼痛は,“体性感覚神経系の病変や疾患によって引き起こされる疼痛”と定義され,末梢神経から大脳に至るまでの侵害情報伝達経路のいずれかに病変や疾患が存在する際に生じる.本邦における神経障害性疼痛の有病率は約6.4%(成人人口換算で600万人)と推定されている1).神経障害性疼痛は,慢性疼痛疾患の中でも痛みの重症度が高く,罹病期間が長い特徴があり,結果として生活の質(quality of life:QOL)の低下をしばしば招く1,2).神経障害性疼痛に対する根治や抜本的な治療は難しく,痛みの緩和に対しては薬物療法を用いた対症療法が基本となる.したがって,薬物療法は長期化しやすいことから3,4),疼痛治療剤は有効性だけでなく,長期投与時の安全性が極めて重要となる.

近年,神経障害性疼痛薬物療法ガイドラインでは,神経障害性疼痛の第一選択薬として,電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットリガンドが推奨されており1),ミロガバリン(タリージェ®錠:以下,本剤)もその一つである5).現在,本邦において本剤は神経障害性疼痛治療剤として承認され,臨床使用されている6).過去の第3相試験において,糖尿病性末梢神経障害性疼痛患者や帯状疱疹後神経痛患者,中枢性神経障害性疼痛患者に対する本剤の有効性や安全性が確認されており,メタアナリシスにおいても本剤の神経障害性疼痛に対する有効性が裏付けられている713).一方で,本剤の臨床試験における長期投与の際,糖尿病や低血糖などの耐糖能異常や視覚障害,死亡例が有害事象(本剤との因果関係が否定された症例を含む)として報告されているが10),これらの事象に及ぼす本剤の影響は不明である.そのため,実臨床において末梢性神経障害性疼痛に対する本剤の長期投与による糖尿病の悪化,糖尿病の発症,視覚障害,低血糖の発現状況を把握することを目的に本調査を実施した.

II 対象と方法

1. 試験デザイン

本調査は2020年10月から2022年10月にかけて,本邦の241施設で実施された.観察期間は本剤の投与開始から12カ月間,または投与中止日から1週間後までとした.症例登録とデータ収集は,電子データ収集システム(PostMaNet,富士通Japan株式会社)を使用した.

本調査は実臨床における安全性を検討することを目的とし,本剤の電子添文で規定する投与方法を提示の上,実臨床での本剤の使用状況と安全性の情報を収集した.なお,本剤の用法および用量は電子添文で「通常,成人には,ミロガバリンとして初期用量1回5 mgを1日2回経口投与し,その後1回用量として5 mgずつ1週間以上の間隔をあけて漸増し,1回15 mgを1日2回経口投与する.なお,年齢,症状により1回10 mgから15 mgの範囲で適宜増減し,1日2回投与する.」と定められている6)

本調査は,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律第14条の4第4項(再審査)に基づく本剤の再審査申請の基礎資料とするため「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令(平成16年12月20日付厚生労働省令第171号)」に基づいて実施され,実施計画書は厚生労働省へ事前に提出した.なお,本省令では参加施設からの倫理的承認は必須とされていないため,各医療機関の治験審査委員会または倫理委員会の審査は,各医療機関の規定に従って実施された.本調査では,書面による参加および結果公表に関する同意を患者から取得した.また,本調査は,Japan Registry of Clinical Trials(jRCT)に登録(jRCT2031200212)された.

2. 対象患者

登録時点で,以下の選択基準をすべて満たす患者を本調査の対象とした:1)本剤を初めて投与する末梢性神経障害性疼痛を有する患者,2)外来患者(補助者なしで外来通院が可能),3)本剤投与開始後の再来院時(開始日を含め28日以内)に,本剤を継続投与することになった患者,4)契約期間内(施設ごとの契約書に基づく契約期間)に本剤の投与を開始した患者,5)本調査の登録期間内に本剤の投与を開始した患者,6)文書同意が得られた患者.

3. 評価項目

主要評価項目は,糖尿病の悪化または発症,視覚障害の発現割合とした.副次評価項目は,低血糖の発現割合とした.主要評価項目および副次評価項目の事象の発現は,実施計画書に規定する定義(表1)に基づき調査担当医師が判断した.なお,突然死が発生した場合は,突然死症例について心血管系に影響を及ぼすリスク因子を評価することとした.また,その他の評価項目として,副作用発現状況を調査した.なお,本剤投与開始後に起こるあらゆる好ましくない,あるいは意図しない事象を有害事象とし,そのうち本剤との因果関係が否定できない事象を副作用とした.有害事象および副作用は,調査担当医師が判定した.

表1主要評価項目,副次評価項目の定義

評価項目 定 義
糖尿病の発症 本剤投与開始時に糖尿病の診断がなく,本剤投与開始後に日本糖尿病学会が定める最新の糖尿病の診断基準を参考に糖尿病と診断された場合,または本剤投与開始後に糖尿病治療薬の投与が新たに開始された場合.
糖尿病の悪化 本剤投与開始時に糖尿病の合併があり,本剤投与開始前のHbA1c値から実測値として1.5%以上の上昇をめどとし,調査担当医師が糖尿病の悪化と判断した場合.
視覚障害 本剤投与開始後に,視力や視野に障害があり,生活に支障をきたしている状態である視覚障害と調査担当医師が判断した場合.
低血糖 本剤投与開始後に,空腹時血糖が70 mg/dl以下もしくは低血糖症状を有し,調査担当医師が低血糖と判断した場合.

4. 統計解析

糖尿病の悪化,糖尿病の発症,視覚障害のうち,発現率が最も低いと思われる糖尿病の発症の一般集団における発症率14)に基づいて,観察期間中の投与中止を考慮した上で,糖尿病の新規発症例を平均的に1例確保するために解析対象例数として825例(糖尿病でない患者として772例)が必要であることから,900例を登録目標と設定した.

解析対象集団は,登録時点ですべての選択基準を満たした安全性評価対象症例(以下,全症例)とした.糖尿病の悪化および低血糖の発現割合は糖尿病合併症例を,糖尿病の発症の発現割合は糖尿病非合併症例を,視覚障害の発現割合は全症例をそれぞれ分母として算出した.また,糖尿病の悪化,糖尿病の発症,視覚障害,低血糖の発現割合は,初回発現時期別の発現状況も集計した.連続変数については要約統計量を算出し,カテゴリー変数については頻度を集計した.統計解析はSASバージョン9.4(SAS Institute Inc.)を用いた.有害事象および副作用集計には,ICH国際医薬用語集日本語版(MedDRA/J version 26.0)を用いた.

III 結果

1. 対象患者

2020年10月21日から2021年10月20日までに登録された患者1,583例のうち,1,570例の調査票が収集され,重大な実施計画書違反症例等の51例を除いた1,519例を全症例(糖尿病合併症例259例,糖尿病非合併症例1,260例)とした.

患者背景を表2に示す.全症例において女性が56.0%,平均年齢は67.7歳であり,65歳以上75歳未満が29.0%,75歳以上が36.3%であった.疼痛の罹病期間は,3カ月未満が37.7%であった.主な既往歴・合併症は,高血圧症が29.5%,脂質異常症が18.4%,糖尿病が17.1%であった.

表2患者背景

  全症例
N=1,519
糖尿病非合併症例
N=1,260
糖尿病合併症例
N=259
性別,n(%)      
 男性 668(44.0) 530(42.1) 138(53.3)
 女性 851(56.0) 730(57.9) 121(46.7)
年齢(歳)      
 平均±標準偏差 67.7±14.30 66.9±14.72 71.4±11.39
 年齢,n(%)      
 15歳以上65歳未満 526(34.6) 468(37.1) 58(22.4)
 65歳以上75歳未満 441(29.0) 351(27.9) 90(34.7)
 75歳以上 552(36.3) 441(35.0) 111(42.9)
BMI(kg/m2      
 平均±標準偏差 23.80±3.875(n=478) 23.50±3.766(n=327) 24.44±4.039(n=151)
体重(kg)      
 平均±標準偏差 60.01±12.620(n=540) 58.88±12.263(n=378) 62.64±13.080(n=162)
疼痛の罹病期間,n(%)      
 3カ月未満 573(37.7) 510(40.5) 63(24.3)
 3カ月以上1年未満 331(21.8) 285(22.6) 46(17.8)
 1年以上5年未満 328(21.6) 261(20.7) 67(25.9)
 5年以上 145(9.5) 106(8.4) 39(15.1)
 不明 142(9.3) 98(7.8) 44(17.0)
既往歴・合併症,n(%)      
 有a) 693(45.6) 434(34.4) 259(100.0)
  肝疾患 51(3.4) 31(2.5) 20(7.7)
  糖尿病 259(17.1) 0(0.0) 259(100.0)
  高血圧症 448(29.5) 313(24.8) 135(52.1)
  脂質異常症 279(18.4) 172(13.7) 107(41.3)
  心疾患 115(7.6) 72(5.7) 43(16.6)
  脳疾患 82(5.4) 51(4.0) 31(12.0)
透析患者,n(%) 2(0.1) 2(0.2) 0(0.0)
喫煙習慣,n(%) 124(8.2) 94(7.5) 30(11.6)
飲酒習慣,n(%) 234(15.4) 180(14.3) 54(20.8)

a)肝疾患,糖尿病,高血圧,脂質異常症,心疾患,脳疾患の既往歴・合併症に該当する患者の集計.BMI:ボディマス指数.

2. 本剤の投与状況

本剤の投与状況を表3に示す.全症例の本剤の投与期間の中央値は238.0日であり,投与期間が365日以上は43.4%であった.投与中止症例859例の主な中止理由は,症状改善(51.9%),来院せず・転院(31.0%)で,有害事象による中止は7.7%であった.初期用量(1日投与量)は,7.5 mg超10 mg以下が49.4%,2.5 mg超5 mg以下が40.0%であった.最大用量(1日投与量)は,7.5 mg超10 mg以下が35.4%,2.5 mg超5 mg以下が24.8%,15 mg超20 mg以下が17.8%,20 mg超30 mg以下が11.4%であった.用量を変更した症例は51.7%であった.

表3本剤の投与状況

  全症例
N=1,519
糖尿病非合併症例
N=1,260
糖尿病合併症例
N=259
投与期間,中央値(日) 238.0 213.0 365.0
投与期間,n(%)      
 91日未満 436(28.7) 392(31.1) 44(17.0)
 91日以上182日未満 234(15.4) 195(15.5) 39(15.1)
 182日以上273日未満 126(8.3) 107(8.5) 19(7.3)
 273日以上365日未満 63(4.1) 52(4.1) 11(4.2)
 365日以上 660(43.4) 514(40.8) 146(56.4)
投与継続状況,n(%)      
 継続中(本剤投与開始後12カ月時点) 660(43.4) 514(40.8) 146(56.4)
 投与中止 859(56.6) 746(59.2) 113(43.6)
 投与期間(投与中止症例),中央値(日) 88.0 85.0 106.0
中止理由,n(%)a,b)      
 有害事象 66(7.7) 57(7.6) 9(8.0)
 来院せず・転院 266(31.0) 230(30.8) 36(31.9)
 効果不十分・無効 60(7.0) 47(6.3) 13(11.5)
 症状改善 446(51.9) 399(53.5) 47(41.6)
 上記以外 42(4.9) 33(4.4) 9(8.0)
初期用量(1日投与量),n(%)      
 2.5 mg以下 105(6.9) 88(7.0) 17(6.6)
 2.5 mg超5 mg以下 608(40.0) 499(39.6) 109(42.1)
 5 mg超7.5 mg以下 9(0.6) 8(0.6) 1(0.4)
 7.5 mg超10 mg以下 751(49.4) 624(49.5) 127(49.0)
 10 mg超15 mg以下 10(0.7) 8(0.6) 2(0.8)
 15 mg超20 mg以下 32(2.1) 29(2.3) 3(1.2)
 20 mg超30 mg以下 4(0.3) 4(0.3) 0(0.0)
 30 mg超 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
最大用量(1日投与量),n(%)      
 2.5 mg以下 46(3.0) 36(2.9) 10(3.9)
 2.5 mg超5 mg以下 376(24.8) 299(23.7) 77(29.7)
 5 mg超7.5 mg以下 26(1.7) 24(1.9) 2(0.8)
 7.5 mg超10 mg以下 538(35.4) 442(35.1) 96(37.1)
 10 mg超15 mg以下 90(5.9) 84(6.7) 6(2.3)
 15 mg超20 mg以下 270(17.8) 223(17.7) 47(18.1)
 20 mg超30 mg以下 173(11.4) 152(12.1) 21(8.1)
 30 mg超 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
用量変更の有無,n(%)      
 無 734(48.3) 581(46.1) 153(59.1)
 有 785(51.7) 679(53.9) 106(40.9)
電子添文上の有効用量まで増量していない症例,n(%)c) 424(64.2) 331(64.4) 93(63.7)
電子添文上の有効用量まで増量しない理由,n(%)d)      
 有害事象発現 6(1.4) 6(1.8) 0(0.0)
 医師判断による副作用発現予防 31(7.3) 16(4.8) 15(16.1)
 医師判断による効果十分の判定 198(46.7) 156(47.1) 42(45.2)
 患者希望(増量することへの不安) 41(9.7) 22(6.6) 19(20.4)
 患者希望(効果十分) 142(33.5) 126(38.1) 16(17.2)
 その他 1(0.2) 1(0.3) 0(0.0)
 未記載 4(0.9) 3(0.9) 1(1.1)
 欠損e) 1(0.2) 1(0.3) 0(0.0)

a)本剤投与中止症例を対象とした.b)中止理由については,複数理由を選択可とした.c)本剤投与継続症例を対象とした.d)本剤投与継続症例のうち,電子添文上の有効用量まで増量していない症例を対象とした.e)調査票の投与継続状況が投与中止と選択されたため,電子添文上の有効用量まで増量しない理由が収集されなかった症例であるが,統計解析計画書にて365日以降の中止は投与継続状況の継続に該当するため,欠損とする.

本剤の投与継続症例660例において,電子添文で規定する有効用量まで増量されなかった症例は424例であり,その主な理由は,医師判断による効果十分の判定(46.7%),患者希望(効果十分)(33.5%)で,有害事象発現は1.4%であった.

3. 疼痛に対する前治療薬剤の使用状況

疼痛に対する前治療薬剤(本剤投与開始後の継続使用も含む)が投与されていた症例は,全症例の32.1%であった.前治療薬剤の内訳は,非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)が20.1%と最も多く,次いでプレガバリンが10.3%であった(表4).

表4疼痛に対する前治療薬剤

  全症例
N=1,519
糖尿病非合併症例
N=1,260
糖尿病合併症例
N=259
疼痛に対する前治療薬剤      
 無 1,004(66.1) 839(66.6) 165(63.7)
 有 488(32.1) 401(31.8) 87(33.6)
  プレガバリン 157(10.3) 129(10.2) 28(10.8)
  ガバペンチン 1(0.1) 1(0.1) 0(0.0)
  デュロキセチン 27(1.8) 19(1.5) 8(3.1)
  アミトリプチリン 5(0.3) 4(0.3) 1(0.4)
  ノルトリプチリン 2(0.1) 1(0.1) 1(0.4)
  イミプラミン 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
  ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液 29(1.9) 21(1.7) 8(3.1)
  トラマドール 19(1.3) 18(1.4) 1(0.4)
  アセトアミノフェン 49(3.2) 34(2.7) 15(5.8)
  トラマドール・アセトアミノフェン配合錠 30(2.0) 24(1.9) 6(2.3)
  オピオイド鎮痛薬(トラマドールおよびトラマドール・アセトアミノフェン配合錠を含む) 49(3.2) 42(3.3) 7(2.7)
  NSAIDs 306(20.1) 261(20.7) 45(17.4)
   ロキソプロフェンナトリウム 149(9.8) 127(10.1) 22(8.5)
   セレコキシブ 91(6.0) 81(6.4) 10(3.9)
 不明 27(1.8) 20(1.6) 7(2.7)

データはn(%)で掲載.NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬.

4. 糖尿病の悪化,糖尿病の発症,視覚障害,低血糖の発現状況

糖尿病の悪化,糖尿病の発症,視覚障害,低血糖の有害事象の定義を表1,発現割合および初回発現時期別発現割合を表5に示す.主要評価項目である糖尿病の悪化(糖尿病合併症例),糖尿病の発症(糖尿病非合併症例),視覚障害(全症例)の発現割合は,それぞれ4.25%(11/259例),0.08%(1/1,260例),0.07%(1/1,519例)であった.副次評価項目の低血糖は発現しなかった.

表5糖尿病の悪化,糖尿病の発症,視覚障害,低血糖の有害事象発現状況

  91日未満 91日以上
182日未満
182日以上
273日未満
273日以上
365日未満
365日以上 全期間
糖尿病合併症例,N 259 215 176 157 146 259
 糖尿病の悪化 4(1.54) 4(1.86) 1(0.57) 1(0.64) 1(0.68) 11(4.25)
 低血糖 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00)
糖尿病非合併症例,N 1,260 868 673 566 514 1,260
 糖尿病の発症 0(0.00) 0(0.00) 1(0.15) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.08)
全症例,N 1,519 1,083 849 723 660 1,519
 視覚障害 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)

データはn(%)で掲載.

糖尿病の悪化(11例)の初回発現時期は,91日未満が1.54%(4/259例),91日以上182日未満が1.86%(4/215例),182日以上273日未満が0.57%(1/176例),273日以上365日未満が0.64%(1/157例),365日以上が0.68%(1/146例)であった.糖尿病悪化症例のうち重篤症例は1例(本剤との関連なし)であった.また,本剤との関連ありの症例は,1例(非重篤)であった.糖尿病の発症(1例)の初回発現時期は,182日以上273日未満であり,非重篤,本剤との関連ありの症例であった.1例の視覚障害の初回発現時期は,91日未満であり,非重篤,本剤との関連なしの症例であった.

5. 副作用

副作用発現割合および初回発現時期別の副作用発現状況を表6に示す.全症例のうち,副作用は8.16%(124例)に認められた.基本語(以下,PT)別では,浮動性めまいおよび傾眠がそれぞれ2.90%(44例)と最も多く,次いで浮腫0.53%(8例),体重増加0.46%(7例),末梢性浮腫0.39%(6例)であった.重篤な副作用は0.13%(2例)に認められ,内訳は薬物性肝障害および浮腫が各1例であったが,いずれの症例も本剤の投与中止後,処置なしで回復した.副作用を発現した124例中,107例は本剤投与開始後91日未満に発現した.なお,本調査中に死亡例は発現していないため,突然死は評価できなかった.

表6副作用の発現状況

  91日未満
N=1,519
91日以上
182日未満
N=1,083
182日以上
273日未満
N=849
273日以上
365日未満
N=723
365日以上
N=660
全期間
N=1,519
発現症例数 107(7.04) 9(0.83) 4(0.47) 4(0.55) 0(0.00) 124(8.16)
代謝および栄養障害 2(0.13) 0(0.00) 1(0.12) 1(0.14) 0(0.00) 4(0.26)
 糖尿病 0(0.00) 0(0.00) 1(0.12) 1(0.14) 0(0.00) 2(0.13)
 食欲亢進 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
 食欲減退 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
精神障害 2(0.13) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 2(0.13)
 幻聴 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
 幻嗅 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
 悪夢 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
神経系障害 80(5.27) 5(0.46) 0(0.00) 1(0.14) 0(0.00) 86(5.66)
 浮動性めまい 40(2.63) 3(0.28) 0(0.00) 1(0.14) 0(0.00) 44(2.90)
 構語障害 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
 頭痛 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
 傾眠 42(2.76) 2(0.18) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 44(2.90)
 起立障害 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
血管障害 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
 ほてり 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
呼吸器,胸郭および縦隔障害 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
 呼吸深度減少 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
胃腸障害 13(0.86) 2(0.18) 1(0.12) 0(0.00) 0(0.00) 16(1.05)
 腹部不快感 2(0.13) 0(0.00) 1(0.12) 0(0.00) 0(0.00) 3(0.20)
 上腹部痛 2(0.13) 1(0.09) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 3(0.20)
 便秘 4(0.26) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 4(0.26)
 胃腸障害 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
 悪心 4(0.26) 1(0.09) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 5(0.33)
肝胆道系障害 1(0.07) 0(0.00) 1(0.12) 0(0.00) 0(0.00) 2(0.13)
 肝機能異常 0(0.00) 0(0.00) 1(0.12) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
 薬物性肝障害 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
皮膚および皮下組織障害 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
 脱毛症 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
一般・全身障害および投与部位の状態 18(1.18) 2(0.18) 0(0.00) 1(0.14) 0(0.00) 21(1.38)
 異常感 2(0.13) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 2(0.13)
 倦怠感 4(0.26) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 4(0.26)
 浮腫 6(0.39) 2(0.18) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 8(0.53)
 末梢性浮腫 5(0.33) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.14) 0(0.00) 6(0.39)
 口渇 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
臨床検査 4(0.26) 1(0.09) 1(0.12) 1(0.14) 0(0.00) 7(0.46)
 体重増加 4(0.26) 1(0.09) 1(0.12) 1(0.14) 0(0.00) 7(0.46)
傷害,中毒および処置合併症 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)
 転倒 1(0.07) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 0(0.00) 1(0.07)

データはn(%)で掲載.集計にはICH国際医薬用語集日本語版(MedDRA/J version 26.0)を用いた.

IV 考察

本調査は,本邦の実臨床下での本剤の長期投与時の糖尿病の悪化,糖尿病の発症,視覚障害,低血糖の発現状況を把握することを目的に初めての多施設にて実施した前向き観察研究である.

過去の本剤の臨床試験において,糖尿病性末梢神経障害性疼痛患者を対象とした第3相試験長期投与期における糖尿病の悪化および低血糖の有害事象発現割合は,ともに5.6%(12/214例)であった10).また,本剤の第3相試験における視覚障害の有害事象発現割合は,糖尿病性末梢神経障害性疼痛患者を対象とした試験の長期投与期で0.9%(2/214例),帯状疱疹後神経痛患者を対象とした試験の長期投与期で2.5%(6/237例)であった15)

本調査での,糖尿病の悪化,糖尿病の発症,視覚障害,低血糖の有害事象発現割合は,それぞれ4.25%(11/259例),0.08%(1/1,260例),0.07%(1/1,519例),0.00%(0/259例)であった.これらの事象について,本調査における重篤症例は糖尿病の悪化の1例(因果関係なし)であり,また因果関係が関連ありの症例は糖尿病の悪化と糖尿病の発症の各1例(いずれも非重篤)であった.

糖尿病の悪化の重篤1例は,糖尿病の他に高血圧症および脂質異常症の既往歴・合併症があった.投与55日目に発現し,本剤の投与は継続され,ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物が投与され軽快した.調査担当医師により,本剤との因果関係は関連がなく,要因は糖尿病であると判定された.また,因果関係が関連ありの1例は,投与351日目に発現し(重篤性:非重篤),本剤の投与は継続された.経過観察していたが転帰は不明であり,本剤以外の要因は糖尿病であると判定された.

糖尿病の発症の1例は,投与183日目に発症し(重篤性:非重篤),シタグリプチンリン酸塩水和物を処方され本剤の投与は継続された.本剤投与開始前のHbA1c(NGSP)および空腹時の血糖値は,6.7%,240 mg/dlであり,糖尿病発症時は8.0%,198 mg/dl,転帰確認時点(投与開始12カ月後)は6.3%,125 mg/dlであり,調査担当医師は軽快と判断している.本剤との因果関係は関連ありと判定され,本剤以外の要因として生活習慣が考えられた.

視覚障害の1例は,投与52日目に発症(PT:霧視,重篤性:非重篤)した.処置として併用薬剤を変更し本剤は継続投与したが,転帰は未回復であった.本剤以外に考えられる要因はなしと判定され,発現の要因も不明であった.

本調査において,糖尿病の悪化,糖尿病の発症および視覚障害の有害事象の初回発現時期に特定の傾向は認められなかった.これらの結果から,臨床試験とは異なるさまざまな患者背景や投与方法が含まれる実臨床下においても,本剤の長期投与により糖尿病の悪化,糖尿病の発症,視覚障害および低血糖の発現が増加する傾向はなく,安全性に関する新たな懸念は認められなかった.

本調査の副作用発現割合は8.16%(124/1,519例)であり,主な副作用は,浮動性めまいおよび傾眠(各2.90%)であった.副作用の多くは,初回発現時期が91日未満であった.また,長期投与に伴い特定の副作用の発現が増加する傾向は認められなかった.浮動性めまいおよび傾眠は過去の第3相試験で同定された既知の副作用であり,ガバペンチノイドで共通の副作用と考えられる.本剤の電子添文において,めまいおよび傾眠は重要な基本的注意に記載し,既に注意喚起している事象である6).重篤な副作用は2例(薬物性肝障害および浮腫各1例)に認められた.薬物性肝障害は投与7日目に発現し,浮腫は投与112日目に発現したが,いずれも本剤の投与を中止し,処置なく転帰は回復であった.肝機能障害および浮腫については,電子添文の副作用の項に記載され既に注意喚起している.しかし,少数例ではあるものの本剤の長期投与時に,本剤との因果関係が否定できない副作用の発現が認められたことから,本剤で治療中の患者には定期的な観察が重要であると考えられた.

以上より,実臨床下で実施した本調査において,本剤の長期投与による糖尿病の悪化,糖尿病の発症,視覚障害,低血糖およびその他の安全性について新たな懸念は認められなかった.

V 本調査の限界

本調査の結果の解釈に影響を与えるものとして考えられる点は次のとおりである.1)本調査は非介入の観察研究である点.2)本剤長期投与時の安全性を検討することを目的としているため,選択基準として本剤投与開始後の再来院時(開始日を含め28日以内)に,本剤を継続投与することになった患者を対象としている.そのため,本剤投与開始早期に有害事象が発現し,投与継続できない患者が登録対象外となることから,投与開始早期の有害事象発現割合に影響を与えた可能性は否定できない点.3)糖尿病の悪化,糖尿病の発症,視覚障害の発現状況の確認は,表1に示した実施計画書の定義に基づく実臨床下での調査担当医師判断によるものである点.

VI 結論

実臨床下で実施した本調査の結果,ミロガバリンの長期投与による糖尿病の悪化,糖尿病の発症,視覚障害,低血糖およびその他の安全性について,新たな懸念事項は認められなかった.

謝辞

本調査にご協力いただきました調査担当医師の方々ならびに関係者,参加いただきました患者の皆さまに深謝いたします.

本調査の実施は,第一三共株式会社による資金提供を受けています.本原稿の執筆は,第一三共株式会社の資金提供のもと,株式会社インフロント・メディカルパブリケーションズによるメディカルライティングサポートを受けています.

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