腰椎分離症に伴う難治性腰痛に対して分離部へ高周波熱凝固法を行い,良好な経過を得た症例を経験したので報告する.【症例】17歳女性.バスケットボール部所属で受験を控えていた.他院で腰椎分離症と診断され,試合中の接触を契機に腰痛が悪化し,日常生活に支障をきたしたため当院を紹介された.【初診時現症】持続的な左腰痛を認め,体幹の回旋で増悪した.左への荷重動作が困難で跛行が見られた.腰椎単純CTで第5腰椎の左関節突起間部と棘突起に分離を認めた.【経過】患者は非侵襲的な治療を希望されたが,運動療法では十分な効果が得られず,薬物療法は希望されなかった.腰痛により学業に支障がでていたため,神経ブロックを行う方針とした.分離部への直接的な局所麻酔薬の投与で,短期的に腰痛は消失した.長期的効果を得る目的で分離部へ60℃・6分間の高周波熱凝固法を施行した.施行後より腰痛の軽減を認め,跛行が改善した.6カ月経過後も症状の悪化を認めず,その間に受験を無事に終えることができた.【結語】腰椎分離症の腰痛は,分離部のRFTCを行うことで長期の腰痛軽減効果を得る可能性がある.
Case: A 17-year-old female basketball player diagnosed with lumbar spondylolysis at another hospital was referred to our clinic. Her back pain worsened after a traumatic injury during a game. She developed persistent left lumbar pain, exacerbated by trunk rotation, difficulty with load-bearing to the left, and claudication. A CT scan of the lumbar spine revealed separation of the fifth lumbar vertebra (right fusion, left pseudarthrosis). Progress: Exercise therapy was ineffective and pain relief with intervertebral joint block was limited. Direct administration of local anesthetics to the separation area provided a short-term relief. Considering lumbar spondylolysis as the main cause of the patient's low back pain, we performed radiofrequency thermocoagulation (60℃ for 6 minutes) to achieve long-term effects. Improvement in lower back pain and alleviation of limping have been observed since the implementation, and there was no deterioration in symptoms even after 6 months. Conclusion: Pseudarthrosis radiofrequency thermocoagulation may improve low back pain in patients with lumbar spondylolysis.
腰椎分離症は思春期に多く発生し,関節突起間部の疲労骨折と考えられている.装具の着用やスポーツの強度を調整するなど,適切な保存的治療により骨癒合が期待できる1).しかし,場合によっては偽関節になり痛みが遷延する.今回,分離症による腰痛の発症から2年が経過し,運動を契機に悪化した難治性慢性腰痛の症例に対し,分離部への高周波熱凝固法(radiofrequency thermocoagulation:RFTC)を施行し,良好な転帰を得た.
本症例の報告に際し,書面にて患者および家族の同意を得た.
患者は9年のバスケットボール競技歴がある17歳女性(身長152 cm,体重46.5 kg).
2年前にバスケットボールの練習中に腰痛を自覚した.複数の整形外科・ペインクリニック科で腰椎分離症を指摘されていた.コルセットを着用し,薬物療法を行いながら部活動を継続していた.1年前,試合中に他選手と接触した際に腰痛が悪化し,跛行が出現した.日常生活への影響が生じ,多椎間の分離を認めたため,先天的な要因を含めた精査目的に当院脳神経外科を受診した.二分脊椎を含め外科的介入を要する脊髄疾患は否定されたため,痛みのコントロール目的に当科へ紹介となった.
初診時,左腰部に起立動作・後屈・回旋で増悪する痛みを認めた.visual analogue scale(VAS)75 mm,短縮版マギル疼痛質問票(Short-Form McGill Pain Questionnaire:SFMPQ):sensory score 11,affective score 5であった.左側への荷重動作で腰の痛みが悪化し,下肢を引きずっていた.座位の保持や腹臥位になる際の動作で痛みが誘発され,寝返りで中途覚醒を起こしていた.下肢の筋力,知覚は正常で,下肢伸展挙上テスト・大腿神経伸展テストなどの誘発試験や深部腱反射に異常はなかった.腰椎単純CTにて第11・12胸椎の棘突起に分離,第5腰椎の左関節突起間部および棘突起に分離を認めた.椎体のすべりは認めなかった.腰椎MRIでは第5腰椎左関節突起間部にshort T1 inversion recovery(STIR)で高信号は認めなかった(図1).第5腰椎のみ2カ所の分離を認め不安定性があると判断し,第5腰椎の腰椎症由来の痛み,もしくは痛みによって不自然な姿勢をとることで生じた筋・筋膜由来の痛みと判断した.高校3年生で受験を控えていたため,日常生活動作(activities of daily living:ADL)低下の改善および受験勉強に集中できることを目標に治療を開始した.薬物療法の副作用への不安や,神経ブロックの際に針を刺されることへの恐怖感があったため,運動療法を開始した.ADLは改善したが,腰痛は持続した.受験勉強のため座位の時間が増え,腰痛が悪化したため,神経ブロックを再度提案し,超音波ガイド下にL5/Sの両側椎間関節ブロック(1%メピバカイン3 mlの投与)を施行した.しかし,腰痛への効果は乏しかったため,X線透視下に分離部のブロックを施行した.左斜位像にて造影剤を用いて硬膜外腔や血管内投与ではないことを確認し,分離部に0.5%メピバカイン3 mlを投与した.腰痛は消失したが,効果が短期的であったため,同部位にRFTCを施行した(図2).分離部のRFTCは,竹内らが提唱している手順2)で,X線透視下,腹臥位で行った.斜位像で分離部を挟む椎間関節(L4/5とL5/S)の間隙がよく見えるように管球の位置を調整した.刺入点は分離部の直上としたが,分離部に直接針を刺入すると硬膜内に達してしまう危険性があるため,まずは第5腰椎上関節突起基部に針を当てて,ブロック針の刺入する深さと方向をメルクマールとした.そこから針を分離部へ向けwalkingさせた.分離部近傍への到達を透視で確認し,椎体側・棘突起側へ感覚神経刺激(周波数100 Hz,パルス幅1.0 ms,レンジ0.2~0.5 V)を行った.椎体側の刺激で痛みが誘発されたため,2%リドカイン2 ml投与後に60℃・6分間,RFTC(トップリーションジェネレーターTLG-10,ポール針:TOP®)を施行した.腰痛のVASは75 mmから56 mm,sensory scoreは11から8,affective scoreは5から1へ軽減した.ADLの障害は消失し,座位の保持が可能となったため受験を無事に乗り切ることができた.しかし,第5腰椎の棘突起も分離していることから,今後分離部の変性や不安定性が悪化した際に痛みが再増悪することを憂慮し,整形外科にコンサルテーションを行った.RFTC施行から6カ月後,進学先の夏期休暇に合わせて分離部固定術を施行した.現在は運動も問題なく行うことができている.
腰椎単純CT,腰椎MRI
腰椎単純CT:腰椎矢状断および第5腰椎レベルの冠状断を示す.第5腰椎左関節突起間部に骨折線を認め,第5腰椎棘突起の脊椎披裂を認める.
腰椎MRI:T2強調画像およびSTIR像を示す.第5腰椎左関節起突間部(矢印部位)に高信号は認めない.
X線透視
分離部の高周波熱凝固法施行時のX線透視画像を示す.ブロック針が正面像および左斜位像で第5腰椎左関節突起間部の先端にあることを確認している.
腰椎分離症は好発年齢や,脊椎の後屈での腰痛増悪といった臨床像および画像検査により腰椎椎弓の分離を証明することで比較的容易に診断することができる1).西良分類によると,早期は骨折線や吸収像を認めるのみであるが,進行期は関節突起間部に明瞭なgapが確認され,終末期はgapが拡大し偽関節となる.進行期ではさらに腰椎MRIのSTIRで分離椎に骨髄浮腫を表す高輝度変化があるものとないものに分けられ,この骨髄浮腫を認めるものが進行期の中ではより早期に分類される3).本症例は画像所見(図1)より進行期末期~終末期に至る腰椎分離症と判断した.
腰椎分離症による痛みは,スポーツの完全中止と装具療法等の保存治療で改善する場合が多いが,終末期に至ってしまうとその改善率は低下するため神経ブロックが検討される.ただし,その有効的な注射部位に関しては画像診断での判断は困難と考える.酒井らは腰椎分離症末期の痛みは,分離部の滑膜炎が原因であり,両側分離症例では偽関節周囲の炎症が隣接椎間関節に波及するとし,分離部のブロックを行い分離部由来の腰痛かどうかを診断することが,その後の治療方針の一助になると述べている2).本症例は第5腰椎左側関節突起間部の分離に加え棘突起も分離しているため,椎弓の不安定性により椎間関節に炎症が波及した可能性が考えられたが,椎間関節ブロックの腰痛への効果は乏しかった.分離部のブロックを行うことで腰痛の消失を認め,さらにRFTC時に同部位への感覚神経刺激で痛みが誘発されたことから,腰痛は分離部に主因があると判断した.
なお,診断的ブロックとして脊髄神経後枝内側枝ブロックも検討したが,RFTCまで想定した際の後枝内側枝ブロックによる多裂筋の筋力低下を考慮し,より末梢である分離部へのブロックを施行した.分離部のブロックの際,診断目的の分離部のブロックであれば1%メピバカイン1 ml程度を使用することが多いが,治療的意義と硬膜外腔への流入を考慮して0.5%メピバカイン3 mlを投与した.
今回,RFTCを60℃・6分間で施行した.70~90℃が一般的であるが,60~70℃では,無髄のC線維や細いAδ線維は損傷されるが,有髄のAβ線維は損傷されないとされ,それ以下の温度では有効率が下がると報告されている4).本症例については分離部の熱凝固であれば筋力低下のリスクは低いと考えたが,脊髄や神経根に近い部位であるためより慎重に施行することを考え施行温度を60℃とした.時間に関しては60秒以上の通電時間は神経破壊の範囲には影響がないが,程度には寄与するとされる.また,パルス高周波法では3分よりも6分のほうが有効率は高いため,60℃と通常よりも低温で実施するにあたり6分間の通電時間を選択した4).分離部固定術を行うまで長期にわたり不安定性の悪化に伴う新規の痛みや,局所の感覚低下やアロディニアの出現はなかった.本症例のRFTCの施行温度・時間の根拠はなく,至適な温度・時間設定に関しては今後も検討していきたい.
痛みの改善効果については,分離部の神経ブロックでは腰痛は消失したがRFTCでは軽減にとどまった.これは分離部に分布する神経に神経ブロックでは3 mlの薬液が広がったのに対し,RFTCの焼灼範囲が狭かったことが一因と考える.再現痛を認めた部位を焼灼したが,分離部周辺の複数箇所を刺激して評価を行うべきであった.
VAS・SFMPQスコアの変化に関しては,VAS,sensory scoreの変化は軽度であった.走ることも可能となっており活動量が上昇した上での評価であることを考慮する必要があり,affective scoreは著明に改善しており動くことや痛みが出ることへの恐怖感が減少したことから,スコアに表れている以上の自覚症状の改善があったと考える.
最後に,すべり症の合併による神経圧排症状や治療抵抗性の腰痛の場合は手術治療が検討される5).本症例では,RFTCにて腰痛は軽減したが,不安定性は改善していないため,本人が再増悪に対し強い不安を抱いていた.病期的に骨癒合する見込みが低く,運動再開の希望もあったことから整形外科にコンサルトした.ブロックにより痛みの発生部位が分離部であると分かっていたため,スムーズに手術へつなげることができたと考える.
腰椎分離症の腰痛は,分離部のRFTCを行うことで長期の腰痛軽減効果を得る可能性がある.
本稿の要旨は,日本ペインクリニック学会第57回大会(2023年7月,佐賀)において発表した.