2025 年 32 巻 6 号 p. 161-165
テーマ:One for All, All for Pain clinic
会 期:2025年2月28日(金)~3月28日(金)
会 長:大槻明広(鳥取大学医学部器官制御外科学講座麻酔・集中治療医学分野)
開催形式:Web開催/オンデマンド配信
座長:荻野祐一(香川大学医学部麻酔科学講座)
1. 坐骨神経痛の精査目的で行ったMRI検査で診断された大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折の1例笠井飛鳥*1 田中克哉*2
*1徳島大学病院,*2徳島大学大学院医歯薬学研究部麻酔疼痛治療医学分野
【はじめに】大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折は,骨脆弱性を基盤として大腿骨頭の軟骨直下に生じる骨折である.今回坐骨神経痛の精査目的で撮影したMRIで偶然診断された症例を経験したので報告する.
【症例】45歳,男性.右臀部,大腿に痛みとしびれを認め,坐骨神経痛の精査加療目的で,発症から約1カ月後に当科に紹介された.股関節,腰椎の単純X線写真では明らかな異常を認めなかったが,NRS 9~10/10の非常に強い痛みを認めたため,緊急で腰椎MRIを撮影した.軽度のヘルニアに加え,右大腿骨頭の輝度変化を認めたため,整形外科に紹介した.大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折と診断され,現在も加療中である.
【考察】本疾患は急激に発症する強い痛みを特徴とするが,発症時の単純X線像では明らかな異常を認めないことが多い.本症例では当初は坐骨神経痛を疑っていたため,すぐにMRIの撮影を考慮することができ,偶然ではあったが早期診断につながった.発症早期であれば保存治療による治癒も見込めるため,良好な経過が期待できる.
【結語】股関節周辺に急激で強い痛みを認めた場合,本疾患を念頭に置いたMRI検査が重要である.
2. 神経ブロックが診断および治療に有効であった外側大腿皮神経絞扼症候群の1例秋田大輔 大下恭子 筒井華子 大田智子
JA広島総合病院
【緒言】外側大腿皮神経領域の痛みと知覚障害はmeralgia paresthesia(MP)とよばれ,罹患率は年間32/10万人とまれな疾患であり,治療法は確立されていない.今回激痛を伴うMPの診断および疼痛軽減に外側大腿皮神経ブロックが有効であった症例を経験した.
【症例】50歳女性.身長157 cm,体重93 kg.特に誘因なく右大腿に違和感を自覚,1カ月後より痛みが出現した.椎間板ヘルニア,帯状疱疹後神経痛が疑われ,プレガバリン,トラマドール,デュロキセチンで加療されたが,痛みが持続するため,8カ月後にペインクリニック外来へ紹介となった.腰椎および骨盤内に神経圧迫の原因となる病変は確認されず,鼠径靱帯レベルでの神経絞扼を疑い,外側大腿皮神経ブロックを行ったところ,数時間痛みが消失したため,MPと診断した.ステロイドを加えた神経ブロックと薬物療法を併用し,徐々に激痛発作の頻度は減少し,寛解を得ている.
【考察および結論】MPはしばしば腰椎疾患との鑑別が困難であるが,問診による知覚異常および疼痛の評価と神経ブロックによる治療的診断が有用であった.ステロイドの注入は発作痛の抑制に有効であった.
3. 三叉神経領域の帯状疱疹後に大後頭神経三叉神経症候群を呈した1例瀬戸瑠美 原田英宜 松尾綾芳 松本美志也
山口大学医学部附属病院麻酔科蘇生科
三叉神経第1枝領域の帯状疱疹後に後頭部痛が出現し大後頭神経三叉神経症候群を呈した症例を経験した.
【症例】64歳女性.左顔面から頭頂部の疼痛を自覚した数日後に皮疹が出現,帯状疱疹と診断され抗ウイルス薬の治療が開始された.疼痛強く食思不振や倦怠感もあり,治療中の片頭痛の合併も疑われ発症1週間後に当科に紹介となった.左三叉神経第1枝領域の帯状疱疹痛と診断し,入院の上リドカイン,ノイロトロピン点滴静注や眼窩上神経ブロック施行し症状改善傾向だった.しかし経過中に後頭部痛も出現したため頭部MRIを撮影したところ,FLAIR画像で左三叉神経脊髄路核の高信号を認めた.トラマドール開始後に同部位の疼痛は徐々に軽減した.1カ月後にフォローで撮影されたMRIでは三叉神経脊髄路核の高信号は消失していた.
【考察】本症例では水痘帯状疱疹ウイルスが三叉神経節から三叉神経脊髄路核へ伝播し,同部位に収束する後頭神経に痛みを生じ,症状の改善とともに炎症が消失したと考えられた.三叉神経領域の帯状疱疹では,後頭神経領域の痛みが出現し大後頭神経三叉神経症候群を呈する可能性も念頭に置く必要がある.
4. ペインクリニック外来に新規受診しred flagsが判明した3症例の報告松尾綾芳 原田英宜 瀬戸瑠美 松本美志也
山口大学医学部附属病院
【はじめに】疼痛治療のための紹介で,red flagsが判明した3症例を経験した.
【症例1】88歳男性,腰部脊柱管狭窄症に伴う右腰下肢痛で紹介となった.初診時,37.5度の微熱,両腰下肢痛呈し,採血で白血球数11,120/L,CRP 12.53 mg/dlと炎症反応高値認めた.CTで両側腸腰筋膿瘍が判明し,心エコーで感染性心内膜炎が判明した.
【症例2】88歳男性,右臀部の帯状疱疹罹患後より左胸背部の痛みで帯状疱疹関連痛が疑われ紹介となった.採血でCRP 6.9 mg/dl,D-dimer 2.3 mg/Lと上昇認めた.CTで,閉塞型大動脈解離が判明した.
【症例3】68歳女性,右下肢の帯状疱疹関連痛で紹介となった.採血で白血球数11,650/L,白血球分画の異形細胞68.5%と高値認め,骨髄穿刺で慢性リンパ性白血病が判明した.3症例とも痛みを契機に判明したred flag症例である.症例1,2のように身体所見で新規に疼痛部位が出現した場合,症例3のように免疫力低下を疑う疾患の場合,採血で炎症反応,白血球分画を含めた採血,画像診断を行うことでred flagsに早期に気付ける.
5. 集学的治療により社会復帰が可能となった右足関節術後慢性痛の症例渡邊愛沙*1,2 堀田三希子*1 平川美佳子*1 西川裕喜*1 藤井知美*2 西原 佑*1
*1愛媛大学医学部附属病院麻酔科蘇生科,*2愛媛大学医学部附属病院緩和ケアセンター
【症例】20代の女性.右足関節痛に対し2度手術が行われた.看護学校卒業し就職するも痛みが継続し退職した.X−5年当科紹介され,初診時右足関節周辺に針で刺されるような痛みと感覚低下があった.薬物療法に抵抗性で副作用を忍容できず,近医でリハビリを継続した.気持ちの辛さがあり臨床心理士による心理療法が開始された.X−4年抑うつ状態が継続し精神科に紹介となり内服治療が開始された.徐々に歩行が難しくなり,車椅子移動となったが神経学的異常はなく,心理的な影響が大きいと考えられた.X−2年片頭痛に対しガルカネズマブ皮下注射を開始したところ,頭痛発作の頻度が減りQOLが改善したことを契機に徐々に装具を付けての歩行が可能となった.心理療法や運動療法を継続しながら就職し軽作業が可能となった.
【考察】術後の慢性痛から抑うつ状態となり,一時歩行不可能となったが,長期にわたって多職種が介入し社会復帰が可能となった.家族の受け入れと支援,本人の努力が大きいと思われるが,地域連携を行い長期的に関わり支援し,total painとして症状緩和に努めていくことが重要と考えられた.
座長:大下恭子(JA広島総合病院麻酔科)
6. 帝王切開術後の脊髄くも膜下穿刺後頭痛に急性頭蓋内硬膜下血腫を合併した1例河田竜一
山口県済生会下関総合病院
【症例】35歳,女性.双胎妊娠で選択的帝王切開術を受けた.脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔で,T12~L1から硬膜外カテーテルを挿入し,L3~4からくも膜下穿刺を施行した.いずれの手技も問題はなかった.術後2日目(以下POD2)からエノキサパリン(Eno)が投与された.その夜に強い頭痛と嘔吐を生じた.POD3に硬膜外自家血パッチ(EBP)を施行する予定で診察した.頭痛は両側拍動性で,臥位で軽減するが持続し,悪心が強かった.典型的な脊髄くも膜下麻酔後頭痛(PSH)と性状が異なるため頭部CTを撮影したところ,急性硬膜下血腫(ASDH)を認めた.Enoを中止し,安静臥床と輸液を開始した.POD4にL3~4から自家血10 mlでEBPを施行した.POD5に頭重感に変化し強度も軽減した.POD7に頭痛は消失しCTで血腫増大はなかった.POD8から安静を解除したが頭痛は再燃せず,POD22に退院した.
【考察・まとめ】まれにPSHにASDHが合併するので,頭痛の性状が異なる場合は画像診断する.術直後のEBPは炎症所見やEnoが問題となるが,ASDH合併例では髄液漏出の停止のため早期に施行すべきと考える.
7. 意識消失発作を繰り返した「特発性肋間神経痛」の1症例藤本 悠*1 戸田恵梨*1 佐野 愛*1 中條浩介*2 荻野祐一*1
*1香川大学医学部附属病院,*2医療法人社団なつめ会美術館診療所
当初「特発性肋間神経痛」として紹介された患者が,意識消失発作を繰り返し「神経症」と診断された経過を報告する.症例は19歳男性であり,主訴は胸骨正中の発作的な鋭い痛みであった.3カ月前から症状が増悪し,前医から「特発性肋間神経痛」として当科へ紹介された.器質的な肋間神経痛の所見が乏しかったため,痛覚変調性疼痛を想定し,セルトラリンの投与を開始した.てんかんの既往があったことから脳神経内科に紹介したが,関連性は否定された.初診から2カ月後に当院駐車場で意識消失し,救命センターに搬送されたが,約1時間で意識が回復し4日後に退院した.その13日後にも再び意識消失を生じたため精神科へ紹介され,「神経症」と診断され治療が継続された.ICD-10では解離性障害や身体症状症,不安症などが神経症に含まれる一方,DSM-5では神経症のうち疼痛が主症状であるものを痛覚変調性疼痛と分類している.本症例のように神経症と痛覚変調性疼痛は同じ病態カテゴリーに入ると考えられるが,その病態や機序から外来での安易な侵襲的医療は避けるべきであり,慎重な診断と治療アプローチが求められる.
8. 超音波ガイド下胸筋神経ブロックとトリガーポイント注射が奏効した遷延性術後痛の1例渡辺郁世*1 森脇克行*2 蜂須賀瑠美子*1 池尻佑美*3 中村隆治*1 堤 保夫*1
*1広島大学病院,*2医療法人社団まりも会ヒロシマ平松病院,*3医療法人社団曙会シムラ病院
【はじめに】急性大動脈解離による弓部大動脈置換術では送血管の右鎖骨下動脈挿入により,腕神経叢や肋間神経が損傷され神経障害性の術後遷延性疼痛を起こす可能性がある.今回,同手術後に右鎖骨下部とその周囲に疼痛を認め,痛みの原因が同部位の神経障害性疼痛および神経障害性疼痛による姿勢の変化を伴う二次性筋筋膜性疼痛であったと考えられる症例を経験したので報告する.
【症例】48歳男性.急性大動脈解離に対し弓部大動脈置換術を受けた.術後1年6カ月,右鎖骨下部周囲の疼痛,右側胸部の違和感を主訴に受診.初診時,持続痛の数値評価スケール(NRS)は8,手術創周囲のアロディニアと圧痛,右側胸部の圧痛,胸部側弯を認めたが,上肢の運動・感覚障害や炎症所見はなかった.プレガバリン150 mg/日を投与,超音波ガイド下で右胸筋神経ブロックおよび右前腋窩線T4/5肋間の圧痛点にトリガーポイント注射を行った.ブロック2回施行後,NRSは3に軽減し,胸部側弯も改善した.
【結語】急性大動脈解離術後の右鎖骨下動脈送血管挿入部位の遷延性術後痛では,神経障害性疼痛のみならず,筋筋膜性疼痛の診断と治療が重要である.
9. 持続傍脊椎ブロックのカテーテルが抜去時に破断し体内遺残した症例片岡宏子 横見 央 中村隆治 堤 保夫
広島大学病院
【症例】40歳代女性(169 cm,52 kg).右乳がんに対し,乳房切除術と組織拡張器による再建手術を行った.全身麻酔導入後に超音波ガイド下にTh4/5に傍脊椎ブロックを行い,カテーテル(ペリフィックスFXカテーテル:ビー・ブラウンエースクラップ株式会社)を留置した.手技に問題はなく,術後の胸部X線写真での位置は問題なかった.術後2日目にカテーテルを抜去しようとした際に,抵抗があった.胸部X線写真で異常はなく,体位や肢位を変更して抜去を試みたが抜けなかった.エコーで位置を確認しながら抜去を試みるとカテーテルが破断し,一部が体内遺残した.カテーテルは10 mm程度欠損していたが,CTでは遺残物は確認できなかった.患者に経緯と経過観察する旨を説明し納得された.カテーテル断端を顕微鏡で確認したところ,鋭利な切断面と歪みのある断面が確認された.
【結語】断面の性状からは挿入時にカテーテルを損傷し,抜去時に骨や組織に引っ掛かったことで引っ張り破壊が起きたと考える.傍脊椎ブロックのカテーテル遺残の報告はないが,傍脊椎腔周辺にカテーテルが引っ掛かりうる構造物は多く,カテーテルを損傷しない手技の習得が必要である.
10. ペインクリニック受診を契機に慢性再発性多発性骨髄炎の診断に至った症例筒井華子 大下恭子 秋田大輔 大田智子
JA広島総合病院
【緒言】慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)は,原因不明の多発性・再発性の骨・骨髄のまれな炎症性疾患である.発症から20年後にペインクリニック受診を契機に診断に至った症例を報告する.
【症例】51歳女性.20年前より左鎖骨近位に痛みがあり,増悪・寛解を繰り返していた.整形外科でのレントゲンでは,左鎖骨に骨肥厚像を認めるもののCRPの上昇は認めず,痛みコントロール目的で当科紹介となった.受診時はロキソプロフェンで痛みが軽減していたが,左鎖骨のずきずきとした痛みと左上腕の締め付けられるような痛みは残存していた.骨痛と炎症による腕神経叢刺激症状と考えプレガバリンを開始するとともに,掌蹠膿疱症の既往からSAPHO症候群を疑い,リウマチ内科へ紹介した.病歴,骨シンチ,MRIの所見からSAPHO症候群の類縁疾患であるCRMOと診断された.セレコキシブの定期内服開始後,痛みは改善している.
【考察】CRMOの治療はNSAIDsが第一選択であるが,分子標的薬などを要することもあり,内科的な経過観察が必要である.痛みを主訴にペインクリニックを受診することもあるため,本疾患の可能性を念頭に置く必要がある.
座長:橋本龍也(医療法人つたや会在宅診療所いずも)
11. 帯状疱疹後神経痛に対し桂枝加朮附湯が有効であった1症例蓼沼佐岐 田村花子 二階哲朗
島根大学医学部附属病院麻酔科
【はじめに】帯状疱疹は難治性疼痛をきたし治療に難渋することがある.今回帯状疱疹後神経痛に対し桂枝加朮附湯が有効であった1症例を経験したので報告する.
【症例】60歳代女性.左第10~11胸神経領域の帯状庖疹の痛みでミロガバリン,アセトアミノフェン,ノイロトロピン®による薬物治療後1カ月経過するも痛みの改善に乏しく,当院皮膚科より当科紹介受診した.初診時の痛みはnumerical rating scale(NRS):5~9(楽な時~辛い時)であり知覚低下と発作痛を伴っていた.発症1カ月後にTh11/12より持続硬膜外ブロックを行い,薬物療法も継続し痛みは軽快したが,発症5カ月後に寒い場所にいると痛みが増強した.桂枝加朮附湯7.5 g/日と加工附子末0.6 g/日を追加したところ,痛みはNRS:0となった.
【考察】本症例では神経ブロックや西洋薬による加療が行われたが,痛みが残存した.温めると改善する痛みであり,散寒止痛効果のある附子を含有する桂枝加朮附湯の追加と附子の増量により痛みは改善した.帯状疱疹後神経痛の治療において,温めて改善する痛みに対しては漢方薬が有効な場合もあると考えられた.
12. 亜急性期帯状疱疹関連痛に対して一時的脊髄刺激療法を施行した1例薛 隆生
鳥取赤十字病院
帯状疱疹後神経痛(PHN)は発症すると難治性であり,予防のため帯状疱疹発症早期から抗ウイルス薬投与や薬物・神経ブロックによる疼痛治療が試みられている.PHNの治療の一つとして脊髄刺激療法があるが,エビデンスには乏しい.近年,帯状疱疹亜急性期に一時的脊髄刺激療法(tSCS)を施行することの有効性の報告が増えており,当科で施行した1例について報告する.
【症例】81歳,女性.X年Y月Z日,左耳に痛みがあり近医耳鼻科受診,帯状疱疹の診断で抗ウイルス薬を処方される.他院でミノガバリン,メコバラミン,セチプチリンマレイン酸塩,アセトアミノフェンを処方されるも痛み増悪のため,発症21日目に当院救急外来受診,NSAIDs投与により痛みは軽減したものの,帰宅は難しく緊急入院となった.入院後超音波ガイド下左第四頸椎神経根ブロックを施行し,痛み軽減を認めたため透視下硬膜外カテーテル挿入を行った.しかし,十分な鎮痛が得られなかったため,発症50日目に一時的脊髄刺激電極留置術を行った.2週間の刺激の後,疼痛自制内となったため退院,外来フォローとなった.
13. X線透視下上下腹神経叢ブロック施行直前のCT所見で神経ブロックを断念した症例宮本達人*1 大内泰文*2 渡部祐子*1
*1松江赤十字病院麻酔科,*2松江赤十字病院放射線科
60代女性.X−6年,S状結腸がんに対し腹腔鏡下S状結腸切除術を施行しその後吻合部再発などにより複数回骨盤内臓器に対する手術を行っている.腫瘍による下腹部痛に対しX線透視下上・下腹神経叢ブロックを計画した.腹臥位でL5/S1の正面像と側面像を透視で撮影し穿刺部位を決定した.約1月前のCTで上下腹神経叢の左側近傍にS状結腸があったことからCT撮影をしたところ上・下腹神経叢を覆うような形でS状結腸が隣接していることが判明した.このため神経ブロックは腸管損傷のリスクが高いと判断し中止した.
骨盤内臓器術後のX線透視下上下腹神経叢ブロックを行う場合,直近にCT撮影を行うかCTを併用することで神経叢と腸管などの骨盤内臓器の位置関係を評価できより安全に神経ブロックが行えると考えられた.
14. 転移性肺尖部腫瘍による右肩の痛みに対して腕神経叢ブロック(鎖骨上法)を行った1例小糠あや 安部睦美 中右礼子
松江市立病院
【患者】A氏,50歳代男性.
【病名】右臀部の悪性軟部肉腫.原疾患に対して術前化学療法後にX年Y月広範切除術を施行.術後多発肺転移にて化学療法開始するも,化学療法の効果は乏しく肺転移は増大.右肺尖部の転移に対して放射線照射を施行するも縮小は得られず,右肺尖部の転移はさらに増大し気管分岐部を狭窄したためX+3年Y−4月気道ステント留置術施行.喀痰貯留や腫瘍増大に伴って呼吸困難が悪化する中,右肺尖部の腫瘍増大に伴い右肩の痛みを自覚したためX+3年Y−3月当院緩和ケア病棟に入院.常にnumerical rating scale(NRS)3~4にてオピオイドでの疼痛コントロールが不良であったため,腕神経叢ブロックを予定.巨大な肺転移により著しく呼吸機能が低下していたため,横隔神経麻痺の頻度が高い斜角筋間法ではなく鎖骨上法を選択した.超音波ガイド下で行うことで気胸を起こすことなく施行することができた.一時的にNRS 0~1と右肩の疼痛軽減が得られ,呼吸状態に影響をきたすことはなく,睡眠確保や外出などA氏のADL改善につなげることができた.
15. 第2,3胸神経痛から診断されたPancoast腫瘍の2症例船越多恵*1 遠藤 涼*2 青木亜紀*2 大槻明広*2
*1ふなこし眼科ペインクリニック,*2鳥取大学医学部麻酔・集中治療分野
Pancoast腫瘍は,胸膜や胸椎,腕神経叢などへの浸潤で肩から背部,腕にかけての痛みが初見になることもある.Th2~3の原因不明の神経痛がPancoast腫瘍であった2症例を経験したので報告する.
【症例1】56歳男性6カ月前から続くTh2~3神経領域のビリビリとした痛みを主訴に受診.CTなどを含む精査を行ったが異常がなかったといわれる.当初は神経痛薬で鎮痛は良好であったため原因不明の神経痛として内服治療を行った.3カ月後にも痛みが増強するためにMRIをとったところ,左肺尖部腫瘍,胸壁や脊柱管内への浸潤が認められた.
【症例2】81歳女性1カ月前より続く右腋窩部から腕にかけての痛みが改善しないため帯状疱疹を疑って受診された.Th2領域にビリビリとした痛みと差し込むような激痛があった.神経痛薬による鎮痛を先行させ,痛みが落ちついた2週間後にMRIをとった.右肺尖部がんを指摘された.
【考察】腫瘍の骨転移,浸潤などで,神経痛が初見で受診されることは多々ある.原因不明の神経痛はMRIによる精査は必須であるが,上肢,上位胸部の神経痛は肺尖部の精査も行う必要がある.
16. 難治性心室細動・無脈性心室頻拍患者に星状神経節ブロックを施した2症例湊 弘之 矢部成基 遠藤 涼 青木亜紀 大槻明広
鳥取大学医学部麻酔・集中治療医学講座
【はじめに】難治性心室細動・無脈性心室頻拍は継続した心肺蘇生,薬物療法に加え,再発を繰り返すものに対しては鎮静や心臓交感神経ブロック療法が選択される.今回,繰り返す難治性心室細動・無脈性心室頻拍患者に星状神経節ブロックを施行したので若干の文献的考察を加え報告する.
【症例1】77歳女性.動悸を主訴に受診.上室性頻拍,徐脈を繰り返し経過中に心室頻拍となる.アブレーション,鎮静,薬物療法実施も改善乏しく,当科に星状神経節ブロック依頼がきた.左星状神経節ブロック実施も症状の鎮静化に至らず,両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器植込みとなる.
【症例2】28歳女性.小児期より心室性期外収縮で通院歴あり.めまい,呼吸困難で救急外来受診.心電図でTdP型心室頻拍となり心肺蘇生開始.自己心拍再開の後,鎮静,抗不整脈薬,β遮断薬投与もコントロールできず当科に星状神経節ブロック依頼あり.左星状神経節ブロック実施もこちらも症状の鎮静化に至らず.後日植込み型除細動器植込みとなる.