抄録
近年医学研究の進歩はめざましく,痛みの研究については,米国議会の決議した1990年からのThe Decade of the Brainや2001年からのDecade of Pain Control and Researchキャンペーンにより,新たな知見が集積されてきた.しかし残念ながら,難治性の痛みの画期的な治療を生み出すには至っていない.その実現には,われわれ実地医家も基礎にある科学的知識を習得する必要がある.本稿では,このような視点から痛み学説の変遷,痛覚神経系の特徴,痛覚伝導の仕組み,末梢感作,中枢感作を解説する.
20世紀初頭われわれが受け継いだ痛みの理論は,17世紀以来のデカルトの特異説であるが,1965年革命的なゲートコントロール説が提唱され多くの疑問が解決された.しかしその後,機序の解明されていない現象を説明できる新たな学説はまだ日の目を見ていない.人間の痛みを対象として診療を行っているという非常に有利な立場から,われわれには新たな発想で画期的な説を打ち出せる可能性がある.本稿が実地医家の方々に何らかの影響を及ぼすことになれば,幸いである.