抄録
症例は透析療法中の49歳男性で,糖尿病・高血圧を有し,抗凝固薬を内服していた.末梢閉塞性動脈疾患により右前腕の血流が低下し,上腕-橈骨動脈バイパス術と尺骨動脈拡張術を受けたが,第4・5指の虚血と壊死が進行した.同部位の鎮痛目的で当科に紹介された.特に透析中の痛みが強かったため,透析直前に尺骨神経単回ブロックを行い,数時間は痛みが消失した.壊死境界が明瞭となり,末節部での切断術が予定された.周術期の鎮痛目的で持続神経ブロックを考慮したが,出血や感染の懸念から深部のブロックはためらわれ,持続尺骨神経ブロックを計画した.右前腕で尺骨神経近傍に超音波ガイド下にカテーテルを留置し,ロピバカインの持続投与を開始したところ,痛みは著明に軽減した.手指切断術中は,術野での局所麻酔とカテーテルからのロピバカインの追加投与で管理した.術後も持続ブロックを継続し,術後痛と創処置時の痛みに対応した.カテーテル留置期間は52日間であった.神経ブロックやカテーテル留置による合併症はなかった.抗凝固療法中の透析患者の手指壊死痛に対して,持続尺骨神経ブロックを行い安全に周術期管理できた.