精密機械
Print ISSN : 0374-3543
バリ・テクノロジー
高沢 孝哉
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1979 年 45 巻 537 号 p. 1029-1035

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抄録

生産工場の自動化が進み近代化されても, 旧態依然として主に手作業に依存しかなりの労働集約性がみられるものの一つにバリ取り作業がある.一口にバリと言っても, 鋳造, 鍛造, 焼結, 溶接, 溶断, プラスチック成形, ゴム成形, プレス加工 (打抜き, スリッティングなど), 切削, 切断, 研削, めっき, 塗装, 絶縁被膜などによるものがあり, その種類が多いだけでなく, 形状寸法, 性質も様々である.また対象となる部品と生産形態に応じて種々のトラブルを生じ, そのバリ対策はそれぞれの工場において誠に多様である.対象部品が量産, 非量産のいずれか, また大形か, 小形部品かによっても問題解決へのアプローチが異なるので簡単ではない.
ところでバリ取り作業というと, とかく未熟練者や外注業者におしつけ, 加工よりも修理仕事というような不当に貧弱なイメージがあって, あまり省みられなかったのが実状であり, また騒音, 振動, 塵埃など作業環境の悪条件に加えて, 他の作業に比べて部品に直接付加価値を与えるという喜びの少ない作業, いわゆるダーティワークと呼ぼれるものである.これまで, 大部分の技術者は十分な関心を示さなかったために合理化がおくれ, 現場では潜在的にかなりの問題をかかえながらも対策は進まず, いわぽ放置状態であったといえる.たとえぽ旋削, フライス加工, 溶接といった直接形状を付加する加工に対しては設備投資を惜しまないが, バリ取りのような作業は一段低くみなされ, 合理化投資はあまり考慮されなかったといえる.しかし工程分析すれば, バリ取り作業は, 全体の工数の約5%から, 多いものは数十%を占めるのが実態であり, 決しておろそかにできないことに気づくのである.このような認識の不十分さが, 合理化への意欲の欠如につながる第1の原因であろう.これまで見落とされていただけに投資効率のよい合理化の穴場とも言えよう.
最近米国を中心にburr technology (筆者は日本語でバリ・テクノロジーと表現する) という言葉とともに世界的な関心が急速に高まってきた.Bendix社のL.K.Gillespieの報告によれば, 米国におけるバリ取り作業D費用が1973年当時年間約60億ドルに達したといわれる.なお, SME (Society of Manufacturing Engineers) にはBurr Technology Divisionが設置され, 毎年開催される国際会議***では多くの技術報告, 資料が発表され, バリ・テクノロジーが体系化されて一つの立派なエソジニアリングとして結実しようとしている.さらに同国では, パリ取り作業を他の作業と同一レベルにある重要な工程とみなし生産システムの最適化の観点から見直されている.これに加えて, 生産工場のNC化, ロボット導入などによる自動化には, 切りくず処理やバリ取り作業などが, 最後まで自動化をはばむ問題としてクローズアップされてきた.それぞれの生産工程において, 大なり小なりパリ発生のトラブルがあるにもかかわらず, その処理・対策を考えないのは片手落ちであり, 生産に対するトータルエソジニアリングの立場からの思考に欠けていたと言わなければならない.このような泥くさい問題を解決することこそ本物のエソジニアリングであるという強い姿勢がある.私は, この辺のところに日本のエソジニアが何か忘れているものを感じさせられる.現実に, 今日注目されている新しいバリ取りに関する設備や作業工具のほとんどすべてが米国で生まれている.バレル研摩技術, 特にその自動化についてはわが国が世界的水準以上にあるといえるが, 全般的には米国にみられるような新しい発想が少なく, かなりのへだたりを感じさせられる.

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