上にみるように,質量の動的測定方法を採用すれば,はかりの品物皿や指針の振動が静止するのを待つ必要がない.また,振動測定法のように幾周期もの波形のデータも不要である.信号生成過程のダイナミックモデルを活用すれば,短時間の観測データからでも,質量の推定が行える.つまり,測定の高速化が図られることがわかる.この方法を実施するたたには,はかり部(質量一荷重変換機構)の運動状況を表す加速度,速度,変位などを検出するたたの数種のセンサと,観測信号処理を実行するマイコンが必要である.また,数種類のセンサを用いる場合,それぞれのダイナミックスの違いに注目し,それらをうまく補償することも大切である.しかし,それはソフトウェアの世界で解決できる問題である.すなわち,それぞれの観測信号に対して,その生成過程のダイナミックモデルを構築し,それを踏まえたディジタル信号処理のアルゴリズムを設計すればよいからである.
本稿で紹介した速度,変位検出形質量動的測定システムは,先に提案した速度,変位検出形質量動的推定アルゴリズムの実用性を確認するたたに試作されたものである.動的測定方法の考え方に従えば,このほかにも幾種類もの質量推定アルゴリズムを導出することができる.それぞれのアルゴリズムの特徴を生かし準応用指向型の研究と,実際問題への適用が今後に残された課題である.