精密工学会誌
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マイクロカンチレバーの振動減衰に関する研究
黒田 進保坂 寛島津 聡板生 清
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1996 年 62 巻 5 号 p. 742-746

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抄録

マイクロメカニカルシステムの動力学的設計法の確立を目的に, 振動子のマイクロ化と減衰特性の関係を実験的に明らかにした.振動特性を詳細に測定する装置を製作し, 長さ100μmから100mmのはりの減衰比を測定し, 理論解析結果と比較した.本研究による結果を以下に示す.
(1) 空気抵抗による減衰比は長さの-1~-0.5乗に比例する.その結果, パーマロイはりでは長さミリメートルオーダ以下において空気抵抗が支配項となる.
(2) 振動数・振動次数が増加すると, 空気抵抗による減衰比が減少する.この結果, 高次モードの減衰比は内部摩擦のみの値に漸近する.パーマロイはりでは, 漸近値は10-3程度である.
(3) はり先端のレイノルズ数1以下では, 空気抵抗は粘性力と振動慣性力が支配的で, 減衰比は振幅に依存しない.レイノルズ数1以上では定常慣性力が影響し始め, 振幅大なほど減衰比大となる.
なお, 振動減衰に関しては, 従来より以下が知られている. (1) 構造減衰理論によれば, 内部摩擦は, はり寸法, 振動周波数, 振動振幅に依存せず, 材料特性のみで決まる.
(2) 弾性エネルギー放射理論によれぽ, 支持点損失は, (はりの厚さ/長さ) 3と, 基板とはりのヤング率の比に比例し, 振幅に依存しない.また高次モードほど大となる.
以上の結果にもとづき, 実際の設計に役立つように, 振動減衰と設計パラメータの関係を一覧表にまとめたものを表2に示す.減衰要因は空気抵抗 (粘性力, 振動慣性力と定常慣性力), 内部摩擦, 支持部減衰に分け, パラメータは, はり寸法, 振動周波数, 振動振幅, 材料特性としている.また, アミかけ部が今回新たに得られた知見, 他は従来の研究による知見である.以上の結果は, マイクロ振動子を用いた情報機器の設計において, エネルギー損失やセンサ感度の評価に有用であると考えられる.

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