日本周産期・新生児医学会雑誌
Online ISSN : 2435-4996
Print ISSN : 1348-964X
ワークショップ1「Stem cell therapy」
新生児慢性肺疾患・脳虚血疾患に対するStem cell therapy
大西 聡
著者情報
キーワード: CLD, HIE, MSC, cord blood
ジャーナル フリー

2021 年 56 巻 4 号 p. 590-594

詳細
抄録

 はじめに

 昨今の新生児医療の発展により超未熟児の生存率は向上したが,合併症である慢性肺疾患(Chronic lung disease:CLD)は減少していない.詳細な病態は解明されておらず,有効な治療法がない.CLDは長期呼吸機能だけでなく脳性麻痺や発達遅延等の神経学的問題をきたすため,治療法の開発は重要命題である.CLDの要因としては出生前因子として絨毛膜羊膜炎,胎児発育遅延や出生前ステロイド,遺伝的素因が挙げられ,出生後因子としては人工呼吸管理,酸素毒性,感染,呼吸窮迫症候群,動脈管開存症,栄養因子,出生後ステロイド等が挙げられる1).肺は脳とともに出生時点でも臓器としての完成度が低く,超未熟児はcanalicular〜Saccular stageという器官が未発達の状態で出生するが,それ故に早期の傷害に対しては可逆性の余地が大きい1).CLD成立には種々のカスケードが働き,有効な治療法が乏しいことから,再生医療への期待が高まってきた.

 現在CLDに対して有効と考えられる治療としては,出生前ステロイドはRDSを減少させ,破水例ではCLDを減少させる2).ビタミンAは肺の発達と修復の調節に関与し,修正36週での死亡またはCLDを減少させ3),メタアナリシスではCLD減少を確認しているが,弱いエビデンスにとどまる4).クエン酸カフェインは無呼吸発作軽減作用に加え,抗炎症作用が指摘されており,Cap trialによりCLDを減少させると報告されている5).アジスロマイシンはウレアプラズマの根絶によりCLD減少効果を有するとされる6).ステロイドについては,生後早期投与はアメリカ・カナダ小児科学会共同提言にて推奨されておらず,過去の報告においても研究中に消化管穿孔の合併症により研究中断を余儀なくされた報告もあった.ステロイド生後早期投与において投与量・投与期間について様々な検討がなされたが,2016年のフランスからの報告では,在胎24〜28週未満の児に出生後早期の少量ハイドロコルチゾン予防投与(1mg/kg/day×7日間+ 0.5mg/kg/day×3日間)によりCLD発症を抑制したと報告された(Odds ratio=1.48(95% CI:1.02-2.16),NNT12)7).しかしCLDへの効果は限定的であり,さらなる新たな治療法として再生医療がフォーカスされるようになった.

著者関連情報
© 2021 日本周産期・新生児医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top