日本周産期・新生児医学会雑誌
Online ISSN : 2435-4996
Print ISSN : 1348-964X
56 巻, 4 号
日本周産期・新生児医学会雑誌
選択された号の論文の39件中1~39を表示しています
第56回日本周産期・新生児医学会学術集会記録
会長講演
  • 黒田 達夫
    2021 年56 巻4 号 p. 551-553
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     成育医療の概念

     わが国の急速な少子高齢化の進行は重大な社会問題として,数多の学術集会やマスメディアがこれを取り上げ,警鐘を鳴らしている.敗戦直後の昭和20年代前半に4.32であった合計特殊出生率(一人の女性が15歳から49歳までに産む子どもの平均数)は平成17年には1.26まで低下し,その後の行政・施策にも関わらず現在も1.4台までしか回復していない.この結果,社会の年齢別の人口を表した人口ピラミッドは前回国勢調査の集計では既に緩やかな下向きに逆転した形になっている.こうした現状に対して,厚生労働省は貴重な社会資源である小児への医療体制を抜本的に強化する小児医療の新たな枠組みとして世界に先駆けて「成育医療」の概念を打ち出し,2002年3月には新たなナショナルセンターである国立成育医療センターを開設した.「成育医療」とは出生前より小児の成長,成人化,そして次世代の出生まで,ライフサイクルをシームレスにカバーする包括的かつ総合的なチーム医療である.疾患の発症した一時点における対応のみならず,小児の成長過程をフォローし,疾患をもった小児はその出生前評価から出生,さらに生後の疾患治療まで,担当診療科が合同チームとして連携して治療を行い,フォローしてゆくことになる.従来,出生後搬送される新生児を中心に対応していたわれわれ小児外科医も,出生前診断時から継続的に治療に関与してゆくようになった.加えて疾患を抱えたまま成長してゆく小児に対しては,成人化後の社会生活や次世代の再生産までを視野に入れたフォローアップや成人期医療が成育医療の範疇に入る.

     開院した国立成育医療センターに対してはこの成育医療の社会実装のミッションが課されたが,成育医療の黎明期においては誰もが未経験で,この新たな医療の施行には色々な試行錯誤があり,一方で思わぬ新知見の集積もあった.本学会の立場から成育医療の周産期的な側面に焦点を絞って,小児外科的な疾患に対する出生前からの介入や評価について,自験例を中心にこれらの経験を共有したい.

教育講演
  • 秦 健一郎
    2021 年56 巻4 号 p. 554-557
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     周産期の重篤な疾患の多くは大家系を成さないため,これまではどちらかといえば遺伝学的解析が難しい領域,と捉えられてきた.あるいは特徴的な症状や既知疾患との関連が類推できない場合,染色体検査を行っても「異常なし」であることは日常診療でしばしば経験するところである.

     近年様々な分野で,網羅的な解析手法とともに,大量情報を処理するバイオインフォマティクスを駆使し,病因病態に新たな知見が得られている.遺伝学的解析においても,DNAマイクロアレイ技術や次世代シークエンサー,デジタルPCRやシングルセル解析技術の登場により,これまで「理論上は可能だが実現困難」と考えられてきた症例の解析に光明が差しつつある.本稿では,最近のゲノム解析とエピゲノム解析手法がどのように周産期領域に応用可能か,その概要を示す.

  • 左合 治彦
    2021 年56 巻4 号 p. 558-560
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     子宮内の胎児に対する治療は,胎児の病的状態が正確に診断されるようになって初めて可能となる.「fetus as a patient」,「the unborn patient」の考え方は比較的新しく,出生前診断技術の進歩によって生まれ,胎児治療は出生前診断とともに歩んできた.1980年代超音波診断技術が急速に進歩し,胎児輸血,膀胱・羊水腔シャント術,胸腔・羊水腔のシャント術などの超音波ガイド下の穿刺手術が行われるようになった.また子宮を切開して胎児に直接手術操作を加えるという直視下手術が先天性横隔膜ヘルニアや尿路閉塞症に対して試みられた.1990年代には双胎間輸血症候群に対する胎児鏡下レーザー凝固術が導入され,胎児治療は大きく発展し,その後先天性横隔膜ヘルニアにも胎児鏡下で治療が行われるようになった.わが国における胎児治療の歩みと動向について解説する.

  • 海野 信也
    2021 年56 巻4 号 p. 561-562
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

      医療安全の向上への取り組みは医療のあらゆる部門で精力的に進められています.本講演では,2017年に無痛分娩に関連した重大な有害事象の報道が相次ぎ,わが国の無痛分娩の安全性に関して一般社会に大きな懸念が発生したことから,関係学会・団体が結集して,集中的に検討と取り組みが行われた過程とその取り組みの現況について報告を行いました.

  • 森本 充
    2021 年56 巻4 号 p. 563-566
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

      ヒトは毎分5〜50リットルもの空気を呼吸器で換気している.私たちが吸い込んだ空気は1本の気管に集約され,そこから23回分岐する気管支で振り分けられ,3億個あるといわれる肺胞に到達する.呼吸器のもつユニークで精密な組織形態は遺伝子にプログラムされていると考えられ,古くから学者たちを魅了し続けてきた.また気道上皮細胞の異常は多様な疾患とも深く関わっている.疾患に伴う組織の病変を理解するためには,そもそも正常な呼吸器組織がいかにして構築,維持されているのか理解しなければいけない.すなわち,呼吸器の起源,正確な組織形成といった発生学的な知識の蓄積が一つのアプローチになる.また,最近では幹細胞の知識を生かした呼吸器オルガノイド培養技術の開発により,微小呼吸器組織の試験管内再構築を試みる研究が盛んであるが,呼吸器オルガノイドの開発には発生学研究で得られた多くの成長因子の知識が応用されている.

  • 古庄 知己
    2021 年56 巻4 号 p. 567-571
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     18トリソミー(症候群,T18)は18番染色体の,13トリソミー(症候群,T13)は13番染色体の全部あるいは一部が3コピーあることに基づく常染色体異数性異常症である.有病率はT18では1/3,500〜8,500人,T13では1/5,000〜12,000人とされている1).T18では先天性心疾患,食道閉鎖などの,T13では先天性心疾患,全前脳胞症などの多彩な合併症を有し,ともに胎児期からの成長障害(T18では重度)と出生後の重度精神運動発達遅滞を呈する.生命予後に関して,大規模なpopulation-based studyに基づく2000年頃までのエビデンスでは,1年生存率はT18,T13ともに5.6〜9.0%であり,生存期間の中央値はT18で10〜14.5日,T13で7〜10日とされた2).また,死亡原因はともに中枢性無呼吸であり,先天性心疾患に対する外科的治療は適応がないとされていた3)4)

  • 藤澤 啓子
    2021 年56 巻4 号 p. 572-573
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

      慶應義塾大学首都圏ふたごプロジェクト(研究代表:安藤寿康 慶應義塾大学教授)では,『ふたご「の」研究』『ふたご「による」研究』『ふたご「のための」研究』を三本の柱として行っています(プロジェクトの全体像については,Ando, et al.2)をご参照ください).本講演では,首都圏ふたごプロジェクトがこれまでに行ってきた三本の柱の研究の中から,乳幼児期の双生児に関するものを中心に研究結果を紹介しました.

  • 鈴木 直
    2021 年56 巻4 号 p. 574-577
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     がん・生殖医療とは,「がん患者の診断,治療および生存状態を鑑み,個々の患者の生殖能力にかかわる選択肢,意思および目標に関する問題を検討する生物医学,社会科学を橋渡しする学際的な1つの医療分野である.臨床においては患者と家族が子どもを持つため,また,その意味を見つめなおすための生物医学的,社会科学的なほう助を行うことにより,生殖年齢およびその前のがん患者の肉体的,精神的,社会的な豊かさをもたらすことを目的としている(日本がん・生殖医療学会)」.本領域は生殖医学のみならず,腫瘍学をはじめとしたがんにかかわる学問や周産期医学,心理学や看護学などにまで及ぶ横断的な医療であり学際的な領域となっている.がん・生殖医療の原則は,対象ががん患者であるため,原則としてがん治療が何よりも優先とされることから,患者の主治医となるがん治療医と生殖医療を専門とする医師との密な医療連携のもと,日本癌治療学会の本診療ガイドライン2017年度版に則って,妊孕性温存療法の適応決定が厳格に行われるべきである.そして,適応が決定された妊孕性温存療法の施行のエビデンスを集積するために,がん医療の観点ならびに生殖医療の観点から2つのアウトカムの検証は必須となる.なお,アウトカムには,がん側のアウトカム(予後)と生殖側のアウトカム(生児獲得)がある.

  • 奥山 宏臣
    2021 年56 巻4 号 p. 578-581
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     未熟児(早産と低出生体重)は新生児外科における重要なリスクファクターの一つである.本邦では出生数は減少傾向にある一方,低出生体重児の割合は9.5%前後と横ばいで,諸外国に比べても高い.このような背景のもと,本邦における未熟児の外科についての現状と課題について述べる.

  • 木村 正
    2021 年56 巻4 号 p. 582-585
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     脳性麻痺には様々な病態が存在するが,その定義を「人生の初期に発生した大脳の非進行性病変によって生じる永続的な,しかし変化しうる運動及び姿位の異常」としてその原因を出産に求めたのは1862年ロンドンの整形外科医ウイリアム・リトル卿とされる.この時代,分娩は自然に任すしかなく,どうしようもない疾患ととらえられた.その後,分娩の医療化が起こり,まず近代的助産婦(師)が,さらに産科医が分娩に関わるようになり母体や胎児の安全は格段に向上した.医療がない状態では1,000出生当たり100〜300件程度観察された周産期死亡は現在は4以下,10万分娩当たり500件程度観察された妊産婦死亡は現在4程度である.当初はトラウベ型聴診器で間歇的に聞かれていた胎児の心拍が1960年代以降連続モニター(Cardiotocogram;CTG)にとって代わり,新生児仮死で出生する直前の胎児心拍パターンや,様々な動物実験から胎児がストレスを受けているときと推測される心拍パターンが記載され,麻酔・清潔操作・抗生物質などの発展から帝王切開術が飛躍的に安全となり,人々が「分娩中に胎児がストレスを受けていたら早く(帝王切開で)娩出したら脳性麻痺にならないのではないか」と考え努力をするようになった.その結果,逆方向に演繹され,CTGで異常パターンが出ても見逃して娩出が遅れると,起こった脳性麻痺は産婦人科医師の責任,という考え方が市民や司法のなかに広がった.医療現場における演繹的考えはランダム化比較試験(RCT)で検証されなければならず,1990年代に米国で少なくとも満期産・成熟児の出産において,CTGは脳性麻痺の頻度を下げないことがRCTで証明され1),分娩が原因の脳性麻痺は全体の10%程度であることが明らかとなったが,司法の場では90%近くが産科医に責任を負わせ,2000年代初頭,日本でも世に言う産科医療の崩壊が起こったのである.2006年自民党医療紛争処理のあり方検討会でこの状況を打破し,安心して産科医療を受けられる環境整備の一環として,

    ・分娩にかかる医療事故(過失の有無を問わない)により障害等が生じた患者を救済し

    ・紛争の早期解決を図り

    ・事故原因の分析を通して産科医療の質の向上を図る

    制度を創設することとした.その後3年弱の準備期間を経て民間保険を活用して2009年1月より産科医療補償制度が開始された.

ワークショップ1「Stem cell therapy」
  • 佐藤 義朗
    2021 年56 巻4 号 p. 586-589
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     新生児死亡率は年々減少しているが,脳性麻痺の発症は出生1,000人に対し,1.5から2.5の間であり一向に減少の兆しがない.脳性麻痺は生涯続き,1人当たりの経済的費用は約1億円と非常に高額である.患者本人はもちろん,支える家族にとっても大きな負担となる.そのため脳性麻痺を未然に防ぐことが極めて重要である.

     周産期低酸素性虚血性脳症(HIE)は,脳性麻痺の主たる原因である.発症頻度は出生1,000人に対し1.3から1.7であるが,確立した治療は低体温療法のみである.その低体温療法も18カ月後の死亡,もしくは,重度の神経学的後遺症を減少させる治療必要数(NNT:number needed to treat)は9と効果は限定的であり,新たな治療法が望まれる.そこで,我々は幹細胞療法に着目し,研究を進めてきた.

  • 大西 聡
    2021 年56 巻4 号 p. 590-594
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     昨今の新生児医療の発展により超未熟児の生存率は向上したが,合併症である慢性肺疾患(Chronic lung disease:CLD)は減少していない.詳細な病態は解明されておらず,有効な治療法がない.CLDは長期呼吸機能だけでなく脳性麻痺や発達遅延等の神経学的問題をきたすため,治療法の開発は重要命題である.CLDの要因としては出生前因子として絨毛膜羊膜炎,胎児発育遅延や出生前ステロイド,遺伝的素因が挙げられ,出生後因子としては人工呼吸管理,酸素毒性,感染,呼吸窮迫症候群,動脈管開存症,栄養因子,出生後ステロイド等が挙げられる1).肺は脳とともに出生時点でも臓器としての完成度が低く,超未熟児はcanalicular〜Saccular stageという器官が未発達の状態で出生するが,それ故に早期の傷害に対しては可逆性の余地が大きい1).CLD成立には種々のカスケードが働き,有効な治療法が乏しいことから,再生医療への期待が高まってきた.

     現在CLDに対して有効と考えられる治療としては,出生前ステロイドはRDSを減少させ,破水例ではCLDを減少させる2).ビタミンAは肺の発達と修復の調節に関与し,修正36週での死亡またはCLDを減少させ3),メタアナリシスではCLD減少を確認しているが,弱いエビデンスにとどまる4).クエン酸カフェインは無呼吸発作軽減作用に加え,抗炎症作用が指摘されており,Cap trialによりCLDを減少させると報告されている5).アジスロマイシンはウレアプラズマの根絶によりCLD減少効果を有するとされる6).ステロイドについては,生後早期投与はアメリカ・カナダ小児科学会共同提言にて推奨されておらず,過去の報告においても研究中に消化管穿孔の合併症により研究中断を余儀なくされた報告もあった.ステロイド生後早期投与において投与量・投与期間について様々な検討がなされたが,2016年のフランスからの報告では,在胎24〜28週未満の児に出生後早期の少量ハイドロコルチゾン予防投与(1mg/kg/day×7日間+ 0.5mg/kg/day×3日間)によりCLD発症を抑制したと報告された(Odds ratio=1.48(95% CI:1.02-2.16),NNT12)7).しかしCLDへの効果は限定的であり,さらなる新たな治療法として再生医療がフォーカスされるようになった.

  • 吉丸 耕一朗
    2021 年56 巻4 号 p. 595-597
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

      周産期・新生児期における小児外科疾患は,手術技術や周術期管理の向上によりその予後は著明に改善してきているが,外科的治療,周術期管理だけでは完全に改善しない領域があり,満足のいく生活の質の維持が困難な場合もいまだ存在する.再生医療は失われた機能や組織を補うことのできる医療として注目を浴びており,小児外科領域においても病態解明や治療で応用が可能ではないかと考えられる.そこで,小児外科領域におけるstem cellを用いた病態解明と治療の展望について概説していきたい.

ワークショップ2「社会的ハイリスク妊娠」
  • 井本 寛子
    2021 年56 巻4 号 p. 598-603
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

      はじめに

     わが国の2019年の合計特殊出生率(厚生労働省)は前年比0.06減の1.36で少子化が続いている.加えて,第一子の平均出産年齢が30.7歳となり,周産期医療の現場では出産の高年齢化や高度生殖医療技術による妊娠,疾患を合併している妊婦等のハイリスク妊産婦や特定妊婦が増加しているとされている.

     さらに,妊産婦をとりまく環境は,出生数の減少などにより,妊産婦の住み慣れた地域の分娩医療機関がなくなり,離れた地域で妊婦健診や出産をする妊産婦も少なくない.また,子育ての孤立化や負担感の増加なども指摘されている(図1,2).

     以上のような背景から,生活圏のある行政と分娩医療機関の連携なくして妊産婦への切れ目のない支援は不可能である.

     本稿では,社会的ハイリスク妊娠の増加が指摘されるなか,妊産婦に切れ目のない支援を提供するためにはどうするべきかをケア提供体制に関する課題に焦点をあてて述べたい.

  • 新村 麻里奈
    2021 年56 巻4 号 p. 604-606
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     妊娠出産をとりまく状況

     周産期は子供を迎える母親や家族にとって,大きな変化の時である.母親にとっては,自らの心と身体や,社会的役割の変容に柔軟に適応することが求められる.また家族にとっては,新たな命を迎え育むための在り方を模索するときでもある.そういった様々な変化に直面するとき,心理社会的に不利な状況にある女性や家庭は,妊娠・出産から育児への過程において何らかの困難を抱える危険性を孕んでいる.例えば,若年や精神疾患既往,被虐待体験などの親の要因や,経済的困窮や支援の乏しさなどの家庭の要因がある場合,いわゆる「社会的ハイリスク妊娠」と思われる事例には産前産後を通じた切れ目ない支援を要することが既に知られている.また近年は,虐待や養育不全を予防するために,ボンディング(親から子供への情緒的つながり)感情に注目することの重要性も指摘されている1).妊娠への戸惑いや拒否感が強い場合をはじめ,流産や死産の経験,子供の疾患,社会的役割の変容・喪失に対する葛藤などを抱える女性に対しても細やかな配慮と支援が望まれる.

  • 水主川 純
    2021 年56 巻4 号 p. 607-609
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     特定妊婦は,児童福祉法において「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」と定義されている.厚生労働省による子ども虐待予防の手引き1)では,出産の準備をしていない妊婦,こころの問題がある妊婦,経済的に困窮している妊婦などが特定妊婦の指標として挙げられている.妊娠期から適切な養育環境を確保するために特定妊婦に対する支援が行われることは,子ども虐待の発生予防の観点から重要である.本稿では産科医の立場から特定妊婦への対応と課題について概説する.

ワークショップ3「赤ちゃんにとって最適なNICU環境を考える」
  • 有光 威志
    2021 年56 巻4 号 p. 610-612
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     早く生まれた赤ちゃんにとって最適なNICUの音環境は,家族のコミュニケーションと私たちの思いやりによって生まれます.赤ちゃんのあたたかい心と発達は出生前からの家族とのコミュニケーションにより育まれます.赤ちゃんは,胎内で触覚や聴覚などを通じて家族と双方向性コミュニケーションを取っています.早く生まれた赤ちゃんも,胎内にいる時と同じようにNICUで家族とコミュニケーションを取りながら育つことが好ましいと考えられます.そのため,近年では,早く生まれた赤ちゃんと家族が病院で一緒に過ごせる環境を整える動きが盛んになっています.しかし,残念ながら,新型コロナウイルス感染症の流行により,現在では家族と赤ちゃんが病院で一緒に過ごすことに様々な制限が生じています.家族と赤ちゃんが病院で一緒に過ごす時間は,家族の関係性を深め,赤ちゃんの情緒を育み発達を促します.赤ちゃんが病院で家族と一緒に過ごせる環境を整えることと感染対策の両立は難しい課題です.しかし,医療者も家族も生まれたすべての赤ちゃんがNICUで最適な環境で過ごしてほしいと願っています.赤ちゃんは胎児期から家族の声を聞いて育ち,出生直後から家族の声に特別な愛着を示します.この発表では,私たちの研究成果を中心に,お母さんの声と赤ちゃんのコミュニケーションに焦点を当てて脳科学の視点からご紹介します.このワークショップが病院における家族のコミュニケーション支援について改めて考える機会になれば幸いです.新型コロナウイルス感染症の流行している今,赤ちゃんが病院で家族と一緒に過ごせる環境を整える取り組みが広がることを祈っています.

  • 太田 英伸
    2021 年56 巻4 号 p. 613-615
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     発達障害とNICU環境の改善:「後遺症なき生存」を目指して

     出生体重1,000g未満の超低出生体重児において,発達障害がどの程度の割合で発症するかを検討した研究で,ADHDが25%,知的障害を伴わないASD(自閉症スペクトラム障害)が7%,LD(学習障害)が20%であったという報告があり,一般学童に比べ5〜10倍高い結果である.さらに欧米の大規模コホート研究によれば,満期出産児に比較し,妊娠28週未満で出生した早産児のADHDとASD発症率はそれぞれ約2倍,2-4.5倍となり,早産児の発達障害に周産期環境が後天的に影響することを示唆する.今後も「後遺症なき生存」を達成するため,NICU環境の改善が望まれる.

ワークショップ4「疾患を抱えたAYA世代の出産」
  • 落合 大吾
    2021 年56 巻4 号 p. 616-619
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     背景

     胆道閉鎖症(Biliary atresia:BA)は無治療の場合,胆管の炎症性破壊が進行し肝不全に至る疾患である1).現在,BAの標準治療は肝門部空腸吻合術(葛西手術)であり,術後に病状が悪化した場合は肝移植の適応となる2).近年,葛西手術の治療成績が向上し,長期生存例が増加したが,中には門脈圧亢進症,肝機能障害,胆管炎などBA特有の合併症を認めるものも少なくない.BA術後の自己肝例では,妊娠・出産によって合併症が増悪しうることも報告されているが3),妊娠・出産に向けたBA術後の管理指針は確立していない4)

     本研究では,BA術後患者のプレコンセプションケアの最適化を目指して,当院で周産期管理を行ったBA術後妊娠例の周産期予後を検討した.

  • 川村 智行
    2021 年56 巻4 号 p. 620-622
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     糖尿病は,自己管理能力が問われる.つまり食事や運動など生活全般が疾患管理に直接関連しており,長期予後に大きな影響を与える.小児期発症患者では,心理社会的,ホルモンバランスの変化の大きい思春期は血糖管理が難しい.この時期は妊娠と出産が問題となる.

  • 日高 庸博
    2021 年56 巻4 号 p. 623-626
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     重症先天性心疾患を合併した女性が新生児期,乳幼児期,学童期を乗り越え,成人期に到達するケースが増えてきている.適切な時期に妊娠に関する知識・情報を本人やパートナー・家族に提供することの意義は大きい.妊娠前に妊娠に伴うリスクを正しく理解してもらうこと,その理解を家族で共有してもらうこと,共有してもらった理解をもとに納得のいく家族計画をたててもらうことは重要な目的で,その上で挙児を決意される場合,妊娠・分娩・産後経過のイメージングを家族全体でしていただき,様々なイベントを受容する心理的・社会的準備をしていただくことも可能となる.

     リスクを負っても子を産みたいと願う心疾患女性は多い.妊娠のリスクを正しく評価し,正確に患者に伝えて,その上で患者自身の決定を尊重する姿勢が大切である.心疾患にも様々な種類とレベルがある.リスクが過大評価されることで医療側が妊娠出産のチャンスを奪うことは好ましくなく,また心疾患があることで妊娠を諦めるような本人や両親の誤解は解く必要がある.一方で,日常生活が普通に送れていても妊娠に伴って格段のリスクを負うようなケースもあり,非妊娠時の見た目の健康さだけで必ずしも安全だと判断できない.

     その他,薬剤の誤解は多く,妊娠した時の自己休薬に繋がらないよう説明を要する.また,妊娠した時点で多くの人は正期産期の出産しか想像しないが,一部の心疾患患者においては高い早産リスクを有する.予期せぬ未熟児出生が精神的ダメージにならないよう,未熟児出生のイメージングを最初からしてもらうケースもある.

     重症心疾患患者の心臓イベントは育児期にも起こりやすい.症例に応じて,授乳法や育児法,家族計画のカウンセリングを行う.リスクが非常に高い症例では,産後一定時期以降からの人工乳栄養を勧めることもある.本人の休養が確保されるよう,育児は家族全体で行うものと強く意識してもらう.

ワークショップ5「地域周産期搬送システムの現状」
  • 平林 健
    2021 年56 巻4 号 p. 627-631
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     日本の人口は,減少局面を迎えています.令和42年には総人口が9,000万人(令和元年10月現在:12,616.7万人)を割り込み,高齢化率が40%に達すると推算されています.加えて14歳以下人口は791万人(令和元年10月現在:1,521.0万人)まで減少すると考えられています(図1)1)2)

     筆者の勤務する弘前大学医学部付属病院がある青森県は,本州最北端にあり,少子高齢化が日本全体よりも25年前後先行している過疎県です(図1)3).令和17年には本県の人口は100万人を切り,令和27年には老年人口の割合が生産人口の割合を超えると考えられています.

     今回,本県をモデルとして,過疎・遠隔地の新生児外科の医療体制,さらに持続可能な新生児外科医療体制が築けるかを考察していきたいと思います.

ワークショップ6「出生前診断された児の治療の実際」
  • 豊島 勝昭, 勝又 薫
    2021 年56 巻4 号 p. 632-636
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     出生前診断の進歩により,様々な先天性疾患が胎児期に診断されるようになった.出生前診断では,診断や重症度が不確実な状況で,診療方針を医療チームや患児家族で話し合う困難さがある.

     出生後の診療に関わる多職種・多診療科で医学的情報や家族情報を共有し,出生後の診療方針を総意形成し,複数の診療科で医療チームとして病状説明している.重症の出生前診断症例の病状説明にはアドバンス・ケア・プランニングを活用している.出生後に明らかになる軽症から重症の重症度に応じて,集中治療や緩和ケアでできることを提示し,患児家族と医療チームで診療方針の協働意思決定を目指している.

     本稿では,出生前診断に基づく新生児緩和ケア,アドバンス・ケア・プランニング,家族同室ケアについて当院の取り組みを言及する.緩和ケアは終末期の「看取りのケア」とは異なる.未来を守るための<集中治療>と同様に,生きている今を大切にする<緩和ケア>はNICU医療の両輪と考える.

産科教育セミナー
  • 荻田 和秀
    2021 年56 巻4 号 p. 637-641
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     近年の妊産婦死亡数は日本産婦人科医会の妊産婦死亡症例検討評価委員会(池田智明委員長:三重大学産婦人科学教室教授)での検討では約40例/年と報告されている.その内訳は産科危機的出血,脳出血,羊水塞栓症などが上位を占めており,産科危機的出血に対する母体救命医療は防ぎ得る周産期の死亡をなくすためには極めて重要であり,そのためには産科危機的出血の予防と早期の覚知,チームでの対応が必須であることはいうまでもない.処置に入る前に重要なのは早期の覚知である.妊産婦死亡症例検討評価委員会の報告では死に至るような産科危機的出血は分娩後 30分以降から起こることが多い.従って分娩が終了してもモニターなどで監視することを怠ってはならない.また,文献的にも経験的にも産科出血は過小評価しやすい.従ってややオーバートリアージであっても「第一印象」を大切にすべきである.

     本稿ではいかに早く産科危機的出血を覚知するか,および産科危機的出血発生時の対応について,産科危機的出血への対応指針アルゴリズム(2017)をもとに概説する.

  • 増山 寿
    2021 年56 巻4 号 p. 642-644
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

      妊娠高血圧症候群(HDP)は,母体や新生児の罹病率や死亡率増加につながる周産期管理上非常に重要な疾患である.母体は早産,子癇,HELLP症候群,常位胎盤早期剥離など重篤な疾患を伴いやすく,また胎児発育不全(FGR)や胎盤機能不全を伴いやすいことが知られている.さらにHDP既往女性では将来メタボリック症候群を,HDP母体から生まれたFGR児も将来肥満・メタボリック症候群の発症リスクが高いことが報告されている.

  • 兵藤 博信
    2021 年56 巻4 号 p. 645-648
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     母体救命搬送とは

     母体救命医療は,母体の緊急事態に対し救命処置を行うことであり,そこは,救急科と産婦人科が相互に乗り入れる領域である.救命処置は,急速輸血や大量輸血,血液検査や画像検査,呼吸・循環補助,緊急手術・血管内治療などであり,設備,輸血,検査,薬剤や,そして何より多科多職種にわたる人員など多くの医療資源が集中している必要があるので,高次施設でないと行うことは困難である.もともと救命救急医療を行う病院では,直ちに救命処置に移ることができるであろうが,日本では分娩は半数以上が一次施設で行われるので,必然的に救命処置のために高次施設への速やかな搬送が必要となる.これが母体救命搬送であり,地域の病院間連携や医療と行政との連携が重要である.

     母体救命医療の対象疾患は妊産婦に起こった救急疾患や,産科救急疾患など多岐にわたり,予測が困難であったり,診断が困難であったり,急速に重症化したりするものが少なくなく,その搬送は一刻を争う一方で,一般の救命救急医療とは異なるため,産科のない救命救急センターからは敬遠されたり,あるいは,複数の科が連携するだけにいずれかの科が立て込んでいると受け入れが困難となったりする.地方の場合はこのような搬送先の候補となる高次施設は限定的となるので,症例が発生した時に搬送先はおのずと決まってくるが,都市部は人口が多く分娩数も多い一方で,高次施設の数も多く施設間距離がさほど遠くないため,搬送先を調整する場面が生じることとなる.調整に時間がかかることで母体の状態が悪くなり,ときに不幸な転帰が起こりうる.

  • 日高 庸博
    2021 年56 巻4 号 p. 649-656
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     超音波断層法を用いて胎児形態をスクリーニングするという概念は近年かなり広がっているが,臨床現場レベルでみると,まだまだ胎児疾患が胎児期に十分に同定されているとはいえず,重大な疾患の児がその疾患に気づかれないまま出生し新生児搬送されてくるケースは多い.特定の産婦人科医や検査技師が意識を高め超音波検査の技量を伸ばしている一方で,超音波での胎児形態評価に潜在的に苦手意識があって馴染めないでいる産婦人科医もきわめて多くいることを実感する.

     胎児超音波形態スクリーニング検査は“何かおかしい”を拾い上げるのが目的であり,診断名をつけたり予後予測を行ったり周産期管理指針を立てることは求められない.これらの役割は地域に数人いる特定の専門医が行えばよい.ただ,その特定の専門医のところにスクリーニング陽性例としてきちんと辿り着く必要がある.何かおかしいを広くピックアップしようという意識のもとでは,偽陽性はあるのが自然である.

     各自・各施設がそれぞれに胎児超音波検査の知識と技量を向上させていく努力は重要として,今回は,広く浸透しやすいことを意識し,なるべく簡便でかつ効率的に疾患が拾い上げられることを目指した妊娠中期以降の胎児超音波形態スクリーニングの一案を提示する.

日本DOHaD学会共催セミナー
  • 中野 有也
    2021 年56 巻4 号 p. 657
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     本シンポジウムの意義

     近年になって,「子宮内や生後早期の成育環境が将来の体質や疾病リスクを決定する」という概念(DOHaD学説:developmental origins of health and disease学説)が知られるようになった.児の長期予後を改善させるという視点において,産科医が果たすべき役割は今後ますます大きくなるばかりである.「産科医がDOHaDを考える あなたの診療が子供の未来を変える!」と題したこのシンポジウムでは,私からの基調講演に加えて,この分野でご活躍中の2人の産婦人科医の先生から,臨床,基礎研究の両方の視点にたってこの課題についてお話をしていただいた.本シンポジウムが,日常診療や基礎研究において産科医がDOHaDにどのように向き合ったらよいのか,を考える良い機会になることを切に願っている.

  • 春日 義史, 濱田 裕貴
    2021 年56 巻4 号 p. 658-660
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     本セミナーは日本DOHaD学会若手の会およびJapan ASTRO発案のもと日本周産期・新生児医学会および日本DOHaD学会共催という形で実現した.本セミナーの目的はDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)は決して難しい概念ではなく,身近な存在であることを臨床面と研究面から概説し,DOHaDを広く知ってもらう足がかりとすることである.

小児科教育セミナー
  • 増谷 聡
    2021 年56 巻4 号 p. 661-664
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     現在の日本の新生児医療では,心臓超音波検査(心エコー)はほぼすべての新生児科医が行う必修手技である.これは,世界の中で際立つ文化といえる.今回の講演は,心血管機能・負荷の把握1)2)・動脈管開存症評価3)〜5)といった話題から離れ,新生児科医が最初に心エコーを行い,先天性心疾患の有無を判断する際の必須事項の基本を概説する.

  • 岡田 仁
    2021 年56 巻4 号 p. 665-667
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     新生児黄疸は,日常臨床でよく遭遇する症候の一つで生理的黄疸と病的黄疸があります.新生児期には主に赤血球由来のビリルビン産生が多いことと,肝のUDP-グルクロン酸転移酵素の活性が発達的に低いことなどにより生体内に非抱合型ビリルビン(UCB)が多く蓄積されます(図1).ビリルビンは脂溶性のため,細胞間液を含む血管内では主にアルブミンに結合して分布していますが,皮膚や眼球強膜へのビリルビンの分布が見てわかる黄染となり,それを可視的黄疸とよびます.また,脳への分布はビリルビン脳症の発症に繋がります.黄疸は,ヒトで新生児期のみに生理的に認め,発症経過に人種差があり,生後の適応過程の一環と考えられています.その可視的黄疸は,生後より血中ビリルビン濃度の上昇に伴い発症し,血中総ビリルビン濃度(TSB)が6.0mg/dLくらいから認識されます.その広がり方は,顔面から始まり躯幹,四肢へと広がり,下肢から頭部に向かって徐々に消退していきます.日本人の新生児生理的黄疸は,通常日齢2以降で出現し,約半数が日齢5-6でピークをとります.病的黄疸は鑑別診断や治療を必要とする黄疸です.早発黄疸は生後24時間以内の可視的黄疸と定義されています.早発黄疸では,一般的に高UCB血症を呈し,急性ビリルビン脳症の発症の原因になるため予防が重要です.早発黄疸の客観的評価の補助として経皮黄疸計の使用が有用です.経皮黄疸計と生後時間の経皮ビリルビン濃度(TcB)ノモグラムによる新生児黄疸のスクリーニング管理法が報告されています1).TcBをもとに採血の可否が決定され,採血が必要と判断された場合,TSBまたはアンバウンドビリルビンを測定し,その測定値の評価で光療法や交換輸血による治療介入を決めます.日本で多く利用されている治療介入基準には,「村田・井村の基準」,「神戸大学(中村)の基準」や「神戸大学(森岡)の治療基準」があり,それぞれの施設の事情に合わせて使用されています.

  • 伊藤 裕司
    2021 年56 巻4 号 p. 688-699
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     本講演では,まず,当院および日本での先天性横隔膜ヘルニア(congenital diaphragmatic hernia,CDH)に対する診療の概要について概説し,次に,CDHに対する新生児管理について,当院のやり方を紹介し,日本あるいは欧米と比較する.最後に,重症CDHの治療の,今後の方向性について述べる.

  • 島袋 林秀
    2021 年56 巻4 号 p. 668-671
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     総論

     1.はじめに─新生児搬送の究極的な原則─

     新生児搬送の究極的な原則は,母体(胎)搬送によって新生児搬送を極力回避することである.限られた人材・資材・空間での新生児搬送は,搬送医学(transport medicine)の高度な技術と経験が求められ,はるかに母体搬送よりリスクが高いからである.一方で,新生児搬送は新生児科医師には直面することも多く,不可避の技術でもある.慢性期の転院だけでなく,早産児の予期せぬ出生,胎盤早期剥離により母体搬送の時間すらない状況,低体温療法実施施設への搬送,さらには外科手術による緊急搬送等も稀ではない.また,本邦では米国に比べ分娩施設が周産期センターに集約化が進んでいないために,周産期センター以外での分娩が約半数を占め,結果的に新生児搬送が必要となりやすい背景もある.本稿では,新生児科医の不可欠な技術である新生児搬送について解説する.誌面の都合上,やや総論的な概説になることをお許し願いたい.

周産期臨床研究コンソーシアム委員会企画シンポジウム
  • 齋藤 滋
    2021 年56 巻4 号 p. 672
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     この度,第56回日本周産期・新生児医学会学術集会においてシンポジウムを企画させていただきました.臨床研究を進めなければいけない事は明らかではありますが,これまで日本の周産期医療に携わる医師,助産師,看護師からの臨床研究に関する学術論文が極めて少なく,課題とされてきました.しかし,どのように臨床研究を計画し,実行したら良いかは,正直判らない方が多いと思います.そこで,日本周産期・新生児医学会では人材の育成という目的で本シンポジウムを企画しました.

  • 永田 知映
    2021 年56 巻4 号 p. 673-675
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     研究をして良かったなと思うのは,どのような時でしょうか?科学的な真理が明らかになった,診療上の疑問に答えが出たなど様々あるかと思いますが,臨床家として一番嬉しいのは,研究の成果により実際の診療が変わり,多くの患者さんの治療や予後改善に役立った時だと思います.私はもともと産婦人科医で,大学院留学を経て,現在は国立成育医療研究センターで臨床研究に関する教育,相談対応や支援の仕事をしています.私自身も診療をしながらの研究をしていましたので,それがどんな感じかよく分かります.診療だけでも毎日とても忙しく,研究をして何とか学会発表まではたどり着くものの,論文発表にはなかなか至らないというのがよくあるパターンだと思います.しかし,やはりせっかく労力と時間と,そして患者さんの貴重なデータを使わせてもらって研究をしたのであれば,学術論文として広く世界に発信したいと皆さん考えておられると思います.そして,それが新しい治療法の開発や承認につながったり,診療ガイドラインがより良いものになるのに役立ったりして,広く日本中や世界中で使われて,患者さんやご家族の状況を良くしたいわけです.本日はそのために,どのように臨床研究をすすめて,そしてステップアップさせればいいかについてお話をしたいと思います.

  • 大田 えりか
    2021 年56 巻4 号 p. 676-678
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     なぜ私たちは,研究をする必要があるのでしょうか.研究と勉強は異なります.「勉強」とは,すでにわかっていることを学ぶことです.それまで正しいとされてきた知識を覚えるだけでは,臨床の質は高まりません.しかし,「研究」とは,「新しい知見」を生み出すことであり,過去の研究の積み重ねの上に,新しい発見をすることです.いままで明らかにされていない事実を明らかにすることで,臨床の質も上がり,最終的な目的は,科学的な知見に基づく意思決定を行うことで,死亡率,疾病率の低下,疾病の予防,QOLの向上などより人々が健康になることを推進することができます.しかしながら,いざ研究を始めようとすると,自分の研究疑問がうまく定まらないといった経験や,自分の研究テーマの文献が思うように検索できないといった経験をしている人が多いように感じています.

     この演題では,研究の初心者向けに,臨床上の疑問をどのように,研究の疑問へと設定するのかから,その研究疑問を基に文献検索の方法を簡単に解説いたします.まずは,過去にどのような研究が行われているかをまとめていくことが重要です.研究の「基本のき」について説明させていただきます.

  • 井上 永介
    2021 年56 巻4 号 p. 679-681
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     医学分野の研究シーズを社会的に価値がある物として育てあげるには臨床開発の考え方が必要である.治療薬の開発,既存薬のターゲット集団変更,既存薬の新しい組み合わせなど,研究シーズにはさまざまなものがある.シーズが医薬品の候補となる化合物の場合,複数の探索的な小規模研究(探索的臨床試験)により安全性評価や用量設定が行われ,次のステージで有効性評価・検証のために検証的臨床試験が厳格な設定で実施される.これら一連の臨床試験のどこかのステップで治療薬として無益と判断されれば,臨床開発は中止される.くわえて,それぞれの臨床試験計画はそれ以前に実施された基礎研究や臨床研究の結果を吟味して作りこまれることから,臨床開発の最終的な成果は複数の研究結果を積み重ねて構成されるものとなる.そのため,個々の臨床試験の評価は分断して行うものではなく,開発のどの過程にあるものかおさえたうえで,つながったものとして行う必要がある.このことは一般の医学研究にもあてはまる.臨床医である研究者が臨床現場でひらめいた仮説をカルテ研究で確認し,多施設研究に拡張して規模が大きな探索的評価を行い,最終的に前向き臨床試験で仮説の検証を行う.この結果が診療ガイドラインに反映される等すると,社会的な価値となる.そのためには研究間のつながりを大切にし,個々の臨床研究の結果を分断せずに評価しなければならない.研究シーズの臨床開発において,分断した評価は最終的なゴールにたどりつくために非効率的である.

     一連の研究につながりを作るために大切なことは,各研究の結果を正しく読み取って報告することと,研究計画を適切に立てることである.ある研究の結果をミスリードすると,次期研究の計画が的外れになり,研究間のつながりが消失する.また,結果を正しく読み取ったとしてもそれを次期研究の計画に適切に反映できなければ,研究そのものが失敗する.本稿のセミナーでは,探索的に仮説を評価する小規模臨床研究において,結果の解釈を適切に行うことに焦点をあてた.具体的には,結果の一般化可能性,サンプルサイズ,第一種・第二種の過誤と有意水準についてである.これらの概念を理解すると,小規模研究で評価できることの限界を明確にすることができる.これにより臨床研究間につながりをもたせ,社会的価値を効率的に生み出すことにつながる.

  • 加幡 晴美
    2021 年56 巻4 号 p. 682-684
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     臨床研究において客観的かつ信頼できるエビデンスを創出するには,信頼性のある統計解析を行うことが必須であり,そのためには解析の「材料」であるデータの信頼性を確保するデータマネジメントが不可欠である.しかし,臨床研究支援体制の整っていない環境で実施する研究においてはデータマネジメントが何を行うものなのか正しく理解されているとはいい難く,データマネジメントの必要性に対する認識は必ずしも高くない.

     臨床研究の過程の中でも患者登録から統計解析に至るまでには,CRF(症例報告書)設計,データ収集,データの確認等,多くのステップがあるが,本発表ではまずデータマネジメントについて概説し,続いてデータマネジメントの中でも特に,入力したデータを集計・解析可能にするためのデータの“カタチ”(体裁面)というデータの基本を述べる.

  • 小澤 克典
    2021 年56 巻4 号 p. 685-687
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/26
    ジャーナル フリー

     はじめに

     今回,単施設の後ろ向き研究を経て多施設前向き研究を計画し,研究費を獲得して研究実施に至った経験を発表する.今回の臨床研究の進行は主に次のように構成される(図1).

    ・十分な文献検索(先行研究のまとめ)

    ・小規模な後ろ向き研究

    ・入念な前向き研究の計画(生物統計家やデータマネジャーと相談)

    ・前向き研究の実施

     本研究の対象である先天性十二指腸閉鎖・空腸閉鎖症は5,000出生に1人の頻度で生じていることが報告されているため,日本では年間約200人の出生があると考える.先天性十二指腸閉鎖・空腸閉鎖症では約10%に周産期死亡を起こすことが問題となっており,この主な死亡原因に臍帯潰瘍が関係していることがわかってきた.高度な臍帯潰瘍は臍帯のワルトンゼリーが菲薄化して臍帯血管が露見し,子宮内で臍帯血管からの出血や血流障害を起こすことで胎児死亡や新生児死亡の原因となると考えられる.現在のところ妊娠中に臍帯潰瘍を診断する方法も予測する方法もなく,多くの場合で突然の胎動減少や胎児心拍モニタリング所見の悪化,もしくは胎児死亡の後に臍帯潰瘍が判明する.

feedback
Top