日本周産期・新生児医学会雑誌
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教育講演
新生児医療とエピジェネティクス 〜早産児・低出生体重児におけるエピゲノム異常とその長期遺残〜
鹿嶋 晃平
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2023 年 58 巻 4 号 p. 623-626

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抄録

 DOHaDと新生児領域における世界のエピジェネティクス研究

 イギリスの疫学者のBarker博士は1980年前後に,低出生体重児が成人後に虚血性心疾患での死亡や2型糖尿病の発症が多いことを報告した.後にBarker仮説,成人病胎児起源説,子宮内胎児プログラミング説とよばれるものである.2000年代以降,Barker仮説はDOHaD仮説に発展される.DOHaD仮説の基本の概念は“developmental plasticity”である.この“plasticity”という言葉は,日本語では可塑性などと訳されるのだが,「plasticな性質」つまり「型どりの間は変化するが,型どりが終わると固まってしまう性質.可変的ではある」ともいえる.Barker仮説がDOHaD仮説に発展して,大きく変ったことの一つは胎児期が主な対象だったものが生後の新生児期・幼児期も含まれるようになったことである.そしてもう一つは,生活習慣病が主な対象だったものが,アレルギー疾患・骨粗鬆症・精神疾患・炎症性腸疾患・悪性腫瘍など疾患全般に広がったことである.

“Developmental plasticity”の本態は,エピジェネティクスではないかといわれている.エピジェネティクスとは,塩基配列の異常によらず,遺伝子発現の変化に関わるメカニズムであり,メモリーの性質と可逆性の両方の性質をもつメカニズムである.エピジェネティクスは1次元でなく3次元的で,DNAメチル化,ヒストン修飾,microRNA,クロマチンリモデリングなど複数の調節機構がある.ゲノムというデフォルトの構造に,環境の影響が加わることでエピゲノム変化が発生し,うまくいけば環境に適応するし,悪くいってしまうと過剰適応や適応失敗,疾病発症に陥ってしまう.

エピジェネティクスの中で最も研究されているのが,DNAメチル化である.典型的には,遺伝子の上流にあるプロモーター領域のCpGサイトのシトシンがメチル化されると,メチル基により転写因子の結合が阻害され,遺伝子発現が抑制される.DNAメチル化は安定した性質のため,マイクロアレイなどによる分子疫学評価に利用されることが多い.

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