日本周産期・新生児医学会雑誌
Online ISSN : 2435-4996
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教育講演
周産期領域におけるAI応用と課題
松岡 隆
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2023 年 58 巻 4 号 p. 637-639

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抄録

 はじめに

 人工知能Artificial intelligence(AI)の研究は古く1960年代から始まっている,第一次AIブーム(専門家の高度な思考過程を探求し,そのアルゴリズムをコンピューター上で実現.例:数式処理,ゲームプログラム),第二次AIブーム(多量な知識の獲得と高速検索.例:チャットボット,AI スピーカー)を経て,2000年代に入り,演算処理能力の指数関数的上昇とともに第三次AIブームを迎えている.この第三次AIブームを牽引しているのが機械学習(Machine learning:ML),深層学習(Deep learning:DL)である.機械学習はコンピュータのタスクの性能を,経験によって自動的に改善することができ,それには,①対象のタスクを表現できそうな計算式を仮定する,②訓練データを使って性能が最適になるように計算式のパラメータを変更している,つまり学習である.このような多項式の情報処理のモデルとして考えられているのが所謂ニューラルネットワークであり,複数の入力情報にパラメータをかけて関数としてデータを出力する関数である(図1).この構造があたかも人の神経細胞の樹状突起による細胞同士の結合に似ていることからニューラルネットワークと称されている.このような関数に情報を入力し,出力と照らし合わせる.そのずれに対し,パラメータを少しずつ変化させて修正しある関数を完成(=学習)させる.そうやって完成した関数に対し新たなデータでその効果を試すのが機械学習である.また,現在第3次AIブームの中心的役割である深層学習は,隠れ層といわれるニューラルネットワークの層が3層以上(深層)であり,物事の特徴量を自ら学習することができる.現在あらゆる分野で機械学習・深層学習が応用されているが,その実現には前提がある.十分な量の訓練データがあれば,そのデータ内に潜在する関数を発見できるが,そもそも存在しない関数は発見できないし,関数は存在しても,入力データがすべて揃わないと学習できない.また,訓練データと同じ分布のデータに対して,発見した関数により出力データを推定できるが,訓練に使用したデータと分布が異なるデータは,正しく推定できない.言い換えると,莫大な情報を収集し,飛躍的に高い能力をもつ演算機器(スパコンなど)を用いると,あらゆる現象をAI化できる可能性があり,現在分野を問わず応用が進んでいる(図2).

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© 2023 日本周産期・新生児医学会
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