1996 年 32 巻 7 号 p. 1097-1103
MRI 骨盤部水平断層像をもとにした術前鎖肛10例及び対照7例の骨盤底の三次元表示像を作成し,鎖肛に対する肛門形成術の際に理想とすべき腸管の貫通経路について考察した.対照例では,骨盤底の筋塊が中央で合し,その中心部において直腸肛門が前方に凸の曲線を描くこと,肛門管が括約筋筋塊の中央を開口部に向かって貫いていること,括約筋筋塊が会陰横筋の作る平面よりやや頭方に向かって形成されていることが観察された.低位鎖肛症例では,直腸が肛門挙筋の前方を降りて会陰横筋の合する位置に達した後,瘻孔が括約筋筋塊の前方を貫くのが観察され,肛門形成術の目的は本来の直腸肛門の描く曲線を作成することととらえられた.高位鎖肛症例では,直腸盲端の位置が立体的にとらえられるとともに,骨盤底筋群は対照例と同様の位置にあるものの左右に狭い括約筋筋塊の形態が観察された.高位症例における理想的な腸管貫通経路は,肛門挙筋の前方で会陰横筋が中央で合する点を同定して直腸を導き,この点と肛門窩の中心と結ぶ経路を正確に作成して直腸肛門角を形成することであると考えられた.各症例・各術式においてはこの理想的腸管貫通経路をふまえて再検討を加え,その術式が貫通経路の作成に適切であるか評価することが必要であり,三次元表示像はその有用な手段であると考えられる.