小児外科および周産期医療の進歩により,先天性疾患を有する新生児の救命率は著しく向上した一方で,長期的な神経発達予後が現在の新生児医療における課題の一つとなっている.近年,発達期脳に対する麻酔薬の神経毒性が注目され,基礎研究では神経細胞アポトーシスや認知機能障害が報告されている.しかしヒトを対象とした前向き研究では,単回かつ短時間の麻酔曝露が知能指数に明らかな影響を及ぼさないことが示されており,その臨床的意義については依然議論が続いている.一方で新生児の神経発達には麻酔薬のみならず,原疾患,患者背景,周術期の循環・呼吸動態など多くの因子が関与する.本稿では麻酔薬の神経毒性に関する最新の知見を概説するとともに,新生児の神経発達を考慮した周術期管理について概説する.
【目的】2022年3月に発刊された「腸回転異常症診療ガイドライン」について,認知度と使用状況を把握するための公開後アンケート調査を実施し,日本医療機能評価機構のEBM普及推進事業(Minds)による評価結果と合わせて,今後の課題について検討した.
【方法】2023年6月から9月に,ガイドライン記載の6つのクリニカルクエスチョン(CQ)に沿って質問を設定し,日本小児外科学会会員を対象に,オンライン形式でアンケート調査を実施した.Mindsによる評価はThe Appraisal of Guidelines for Research and Evaluation IIを用いた.
【結果】本アンケート調査に対し104名の会員より回答を得た(全会員の5.0%相当).認知度と使用状況については,「公開されたことを知っていて,診療の参考にしている」が37.2%,「公開されたことを知っていて,診療の参考にしようと思っている」が41.3%で,経験年数や症例数が多いほど認知度が高かった.CQ毎の診療方針への影響は,「公開前から推奨と同じ方針である」は59.6~75.0%,「推奨と違う方針であったが,公開後は推奨と同じ方針とした」は3.8~7.7%であった.「公開前は推奨と違う方針であるが,変化はない」との回答は5.3~22.1%で,一番多かった22.1%はCQ4-4の腹腔鏡下手術に関する設問であった.Mindsによる評価は,全体評価は83%と高値であったが,患者・家族等の利害関係者の参加が56%と低値であった.
【結論】アンケート結果より,腸回転異常症の診療を支援するという本ガイドラインの主要な目的はある程度達成されていることが示唆された.一方,腹腔鏡下手術の適応は実態とガイドラインの推奨が乖離している,患者・家族等の利害関係者の参加が少ない,といった今後の改訂に向けた課題が明らかになった.
【目的】我々の3施設で経験した出生前診断された孤立性肝囊胞の症例を集積し,その臨床経過から適切な治療方針について検討することを目的とした.
【方法】2013年1月から2022年12月までの10年間に我々の3施設で経験した出生前診断された孤立性肝囊胞症例を検討の対象とした.診療録に基づいて,症例の背景,症状,治療法,臨床経過,転帰を後方視的に検討した.
【結果】対象となった症例は全部で6例であった.性別は男児2例,女児4例で,出生前診断された時期の中央値は在胎31週(28~38週)であった.在胎週数の中央値は40週(38~41週)で,出生時体重の中央値は3,302 g(2,826~3,604 g)であった.6例中1例に卵円孔開存の合併を認めたが,他の5例には先天異常の合併を認めなかった.いずれの症例も出生前の胎児超音波検査および出生後の腹部超音波検査にて直径30~70 mmの単房性囊胞を認めた.造影CTまたはMRI検査では囊胞内に隔壁構造や胆道系との交通を認めなかったため孤立性単純性肝囊胞が強く示唆された.出生後の血液検査では全例で肝胆道系の検査値に異常を認めず,消化器症状や呼吸器症状も認めなかった.1例では腹腔内臓器の圧排を懸念して日齢47に腹腔鏡下肝囊胞切除術を施行したが,他の5例に対しては経過観察を行い,腹部超音波検査で囊胞の経時的な縮小を認め,最終的にはほぼ消失したことを確認した.
【結論】出生前診断された孤立性肝囊胞では,出生後に無症状例の治療方針として,保存的に経過観察することを考慮すべきと考えられた.
症例は日齢19,男児.非胆汁性嘔吐と血便を主訴に来院し,左鼠径ヘルニアと診断された.腹部超音波検査所見で腸管血流が良好であることを確認し,徒手整復した.腹部造影CT所見は腸管拡張と腹水を示した.このため,消化管穿孔を疑い,手術を行った.術後に腹部コンパートメント症候群を発症し,腹腔内減圧のため腸瘻造設術を行った.しかし腹腔内減圧を十分に得られず無尿状態が持続したためサイロ造設術を,また炎症惹起因子除去目的に,持続的に血液透析と濾過を行う持続的血液透析濾過(continuous hemodiafiltration: CHDF)による管理を開始した.サイロ造設後は腸管血流は回復し,また,CHDFを9日間で離脱した.入院44日目に小児集中治療室を退室し,入院97日目に退院した.腹部コンパートメント症候群の管理に難渋したが,サイロ造設術とCHDFが有効であったため,報告した.
デスモイド型線維腫症は局所浸潤性と高い再発率を特徴とする良悪性中間群腫瘍で,小児例,特に男児の腹壁発生は極めて稀である.今回,5年以上無再発で経過している2歳11か月男児の腹壁デスモイドを経験した.初診時,腹壁筋層内に14 mmの腫瘤を認め経過観察としたが,1年8か月で34 mmに増大したため摘出術を施行した.病理組織学的には紡錘形細胞の増殖とβ-catenin核内発現を認め,デスモイドと診断した.術後5年以上再発を認めていない.小児腹壁デスモイドは報告例が少なく,腫瘍局在や年齢・性差と再発率の関連は明らかでないがCTNNB1遺伝子変異,特にS45F変異は高い局所再発リスクと関連するとされる.ガイドラインでは無治療経過観察が推奨されるが,増大傾向例では手術が選択肢となる.自験例では腫瘍増大を契機に切除を行い良好な長期経過を得た.小児腹壁デスモイドの治療では腫瘍の増大速度や局在を慎重に評価し,適切なタイミングでの外科的介入が重要である.
症例は17歳男性.前縦隔囊胞感染に対し抗菌薬による保存的治療が行われた.約2年後,胸痛が再燃し,前縦隔囊胞の再感染が疑われ前医入院となった.2日後に胸水および心囊液貯留の増悪を認め,胸腔ドレナージ後,当科へ転院搬送された.転院後,抗菌薬とドレナージの継続で一時的に症状は改善したが,治療終了後すぐに炎症の再燃と胸水および心囊液の再貯留を認めた.心囊穿刺および再ドレナージを施行したが,炎症反応は遷延した.各種培養検査が陰性であったことから囊胞性奇形腫破裂に伴う化学性胸膜炎を疑い,プレドニゾロンを投与すると症状は改善した.待機的に腫瘍摘出術を施行した.腫瘍は心膜に強固に癒着しており合併切除を要した.病理診断は成熟囊胞性奇形腫であった.術後経過は良好で,術後2年11か月再発なく経過している.若年者の炎症を伴う縦隔腫瘍では奇形腫破裂を鑑別の1つに挙げ,炎症消退後は早期に手術介入を検討すべきと考えられた.
症例は,胎児期に巨大膀胱を認め正期産で出生した女児.生後哺乳・排便良好.間欠導尿を始め,日齢27に退院.生後7か月頃便秘となり浣腸を開始.次第に腹部膨満と腸管拡張像が目立ち,1歳時から鬱滞性腸炎を繰り返した.直腸粘膜生検ではHirschsprung病は否定.当院転院後,腸管減圧目的に回腸瘻,次いで胃瘻を造設した.1歳11か月時に腸瘻嵌頓を生じ,回腸部分切除と回腸瘻を再造設した.以降の栄養は経口摂取のみで経過.精査にてACTG2遺伝子変異を認めvisceral myopathyと診断した.平滑筋アクチンγ2をコードするACTG2遺伝子の変異はvisceral myopathyと称され,巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症MMIHSの一因でもある.乳児期後期に腸閉塞症状を生じた本症は,本邦MMIHS診断基準に合致しないが,海外文献ではMMIHSと同じ範疇であるvisceral myopathyあるいはACTG2関連疾患に該当した.慢性偽性腸閉塞症の定義や分類の再考にあたり,遺伝子検査は一助になる.
腸回転異常症は新生児期の胆汁性嘔吐で発症することが多いが,非特異的な腹部症状に留まることもある.症例はPfeiffer症候群の9歳男児.繰り返す腹部膨満と嘔吐に対し,呑気症などの基礎疾患に伴う症状として保存的に加療され,精査されずに経過していた.9歳時に症状が増悪し,腹部造影CT検査で腸回転異常症と診断しLadd手術を施行した.術後は呑気による胃排泄遅延を認めたが,経鼻空腸栄養を併用し術後57日目に退院した.以後,嘔吐なく経過している.Pfeiffer症候群を含むfibroblast growth factor receptor(FGFR)関連疾患では腸回転異常症が極めて高率に合併することを認識すべきである.本症例のように基礎疾患を持つ児の腹部症状に対し,安易に基礎疾患に帰属させず,器質的疾患の可能性を念頭に積極的な精査を行うことが重要である.
直腸尿道瘻を伴う鎖肛に対するposterior sagittal anorectoplasty(PSARP)は直腸盲端の同定に難渋することがある.タムガイド®は赤色光を体表から視認でき,直腸盲端位置同定の補助となりうる.今回,新生児期にS状結腸人工肛門を造設した直腸尿道瘻を合併した鎖肛2例に対し,月齢9にPSARPを施行した.肛門側人工肛門からタムガイドファイバー®(外径:0.5 mm)を透視下に直腸盲端へ留置し,光源を指標に後方矢状切開を進めることで,直腸盲端を11~12分で同定可能であった.症例2で膜様部尿道を一部損傷したため修復を要したが,術後尿道狭窄や漏出はなく,2例とも瘻孔再開通などの術後合併症は認めていない.タムガイドファイバーは,直腸盲端の同定を簡便に確実かつ短時間で行うための有効な補助手段と考えられた.
胆道閉鎖症(BA)は早期手術が予後を左右するが,極・超低出生体重児では未熟性や体格から手術時期の判断に難渋することがある.今回,治療時期により異なる経過をたどった極・超低出生体重児におけるBAの2例を報告する.症例1は在胎31週6日,出生体重1,363 gの男児.胎便関連性腸閉塞術後に直接ビリルビン高値が遷延し,日齢185にBAと診断,日齢202に葛西手術を施行したが減黄不良であり,現在肝移植を念頭に経過観察中である.症例2は在胎29週3日,出生体重876 gの女児.早期よりBAを疑い日齢51に診断,日齢58,体重1,780 gで葛西手術を施行し良好な減黄を得た.本症例は良好な自己肝生存のうち,手術時体重の最小体重例であった.低出生体重児では静脈栄養関連胆汁うっ滞などとの鑑別の困難さや,手術時体重を重視することによる治療開始の遅れなど問題点が多い.生後日齢を考慮した早期手術の重要性が示唆された.
腸管囊胞様気腫症(pneumatosis cystoides intestinalis: PCI)に右側結腸捻転を続発した稀な小児例を報告する.症例は18トリソミーの3歳女児.8か月前から嘔気と腹部膨満を主訴に入退院を繰り返し,いずれも腸管安静により約1週間で軽快していた.画像検査でPCIを認めたが,明らかな腸閉塞や捻転所見はなく経過観察としていた.8回目の入院2日目に発熱,頻脈および腹部緊満が出現し,造影CTで終末回腸から右側横行結腸に及ぶPCIとwhirlpool signを認め,右側結腸捻転による絞扼性腸閉塞と診断した.緊急手術を施行し,腸間膜を軸とした右側結腸捻転と著明な腸管気腫を認めたため,右半結腸切除術を施行した.術後経過は良好で,術後1年が経過し,腹部症状の再燃は認めていない.小児PCIは保存的加療が基本であるが,本例のように結腸捻転を続発することがあり注意を要する.
症例は14歳男子.8か月前から呼吸困難があり気管支喘息として加療されるも改善せず,当院に紹介された.造影CT検査で右胸腔内に20 cm大の腫瘤を認め,縦隔は左側へ偏位し,右主気管支は狭小化し,右肺は虚脱していた.針生検を施行しデスモイド腫瘍と診断した.呼吸状態が増悪し窒息のリスクが切迫しており,oncologic emergencyとして覚醒下に体外循環を確立し,手術を行った.腫瘍が浸潤していた重要臓器を温存しつつ,約80%の腫瘍を摘出した結果,気道閉塞は解除され救命し得た.術後pazopanibの投与を行い残存腫瘍の若干の縮小を認めたが,副作用と思われる創部離開が出現し投与を中止し,methotrexate/vinblastineによる薬物治療に切り替えた.術後11か月からpazopanibを再開し,腫瘍の再増大なく術後47か月経過している.併せて本邦小児報告95例を文献的に検討した.
総排泄腔外反症(cloacal exstrophy: CE)は極めて稀な先天異常であり,症例毎の解剖学的多様性から個別化した尿路再建が求められる.今回,bladder plate(BP)低形成を伴うCE患児に対し,拡張した後腸を用いた代用膀胱造設による尿路再建を行った1例を報告する.症例は在胎32週3日,出生体重1,391 gの女児で,新生児期に臍帯ヘルニアの修復と回腸人工肛門造設術を受け,開存不詳な後腸は温存されていた.3歳時に矮小な自己膀胱組織に代え,拡張した後腸を利用した代用膀胱を造設し,粘膜下トンネルによる逆流防止機構を付加した導尿路と尿管の植え替えを伴う尿路再建術を行った.術後は年齢相応に近い膀胱容量と禁制の保持が得られている.BP低形成例かつ,拡張した後腸の存在という限られた条件下では,後腸利用代用膀胱は尿路再建の有用な選択肢の一つになり得ると考えられた.
思春期に発生する精巣胚細胞腫瘍(germ cell tumor: GCT)に下大静脈(inferior vena cava: IVC)腫瘍栓を伴う症例は極めて稀であり,小児例の報告はない.症例は初診時14歳の男児.非セミノーマ性精巣GCTに多発遠隔転移および広範なIVC腫瘍栓を認めた.高位精巣摘除術後にBEP療法4コースを施行し,腫瘍マーカーは正常化,画像上IVC腫瘍栓は著明に縮小したが,後腹膜リンパ節と肝転移巣の残存を認めた.思春期症例であるため成人の治療戦略に準じ,成人外科の協力のもと後腹膜リンパ節郭清と肝部分切除を実施した.術中IVC内に腫瘍栓は認めずIVC切除は施行しなかった.最終的に切除標本に生存腫瘍細胞は認めず,病理学的完全奏効であった.本症例は,IVC腫瘍栓を伴う小児精巣GCTの初報告例である.思春期発症の精巣GCTは成人型に近い腫瘍学的特徴を有するため,成人領域のガイドラインに準じた治療が推奨される.本症例に対する治療戦略の決定には,多診療科連携が有用であると考えられた.