抄録
【目的】先天性胆道拡張症の発癌機序を分子生物学的な面から検討する目的で, 手術切除標本を用いてがん遺伝子の中でも代表的なK-rasがん遺伝子変異について検討した.【方法】対象症例は小児期に手術を施行した45例で, 10%ホルマリン固定・パラフィン包埋標本より作製した薄切切片からDNAを抽出した後, PCR-SSCP法と直接塩基配列決定法で解析した.【結果】その結果, 45例のうち20例(44%)にK-rasがん遺伝子の点突然変異を認めた.【結論】K-rasがん遺伝子は各種の癌で点突然変異が報告されているが, 中でも成人における膵・胆管合流異常を伴った胆道癌や大腸癌などの解析からは病変部はもちろんのこと, 非病変部からも変異が報告されており, 多段階発癌における早期の異常と捉えられている.変異を高頻度で認めたことから小児期より非癌の組織である胆道粘膜が, すでに遺伝子レベルで変異を起こしており, その後の発癌の高危険群であることを裏付ける要素である可能性が示唆された.