2002 年 38 巻 2 号 p. 302-307
β-カテニン遺伝子の異常をともなう治療抵抗性の小児肝細胞癌の1例を経験した.症例は6歳, 男児.発熱, 腹部腫瘤で発症.開腹生検の後, 肺転移をともなう肝細胞癌(病期IV, JPLTのPRETEXT-IV)と診断された.腫瘍はβ-カテニン遺伝子のexon 3に3塩基の挿入変異があり, β-カテニン染色により60%から70%の腫瘍細胞の核にβ-カテニン蛋白が陽性であることが確認された.本例はJPLT-2のプロトコールに従い治療を行ったが, 腫瘍は治療抵抗性で, 腫瘍破裂による腹腔内出血をともない患児は全経過2カ月で死亡した.小児の肝細胞癌における有効な治療法の開発が望まれると同時に, β-カテニン遺伝子異常の臨床的ならびに腫瘍生物学的意義に関する詳細な検討が望まれる.