【目的】肥厚性幽門狭窄症の外科的治療法には,様々な術式が推奨されている.今回,合併症と手技のラーニングカーブの観点から,腹腔鏡下幽門筋切開術がその標準術式の一つになりうるかについて検証する.【方法】埼玉県立小児医療センターにおいて1998年から2007年に経験した181例の腹腔鏡下幽門筋切開術の,術者,手術時間,合併症などを後方視的に分析・検討した.なお,これらの結果を1997年以前の右上腹部横切開による幽門筋切開術175症例,臍上部弧状切開による71症例と比較した.統計学的検討はStudent's t testおよびχ^2検定を用い,p<0.05を有意差ありとした.【結果】合併症に関しては,246例の開腹術では経験しなかった粘膜穿孔,十二指腸穿孔,切開不十分による再手術を1例ずつ経験した.術者別の評価でそれぞれ1例目,3例目, 3例目と経験の浅い時期に発生した合併症であった.手術時間から判断する施設のラーニングカーブとしては,開始期に46分要したものが4年後に35分で実施できるようになった.医師個人のラーニングカーブでは約8例の経験で安全で確実な手術が実施可能となった.手技の獲得と安全な実施には,熟達した指導医の存在が不可欠であった.【結論】腹腔鏡下幽門筋切開術は,年間約20例の症例を有する施設においては,適切な体制と指導のもとで標準手術と認定できる手術と考えられた.