日本小児外科学会雑誌
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原著
小児急性虫垂炎における虫垂内細菌叢の臨床的検討
廣谷 太一安部 孝俊林 憲吾下竹 孝志
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2016 年 52 巻 4 号 p. 917-921

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抄録

【目的】近年小児急性虫垂炎に対する治療法として,非穿孔例や腫瘤形成症例において保存的治療が試みられている.一方で,本疾患の診療過程におけるESBL(extended-spectrum betalactamase)産生大腸菌など難治性細菌や術後偽膜性腸炎の併発が問題となるなど,小児虫垂炎症例における虫垂内細菌叢は本疾患の診療計画に多くの影響が認められる.本報告では小児における虫垂内細菌叢の傾向と臨床所見との関連を明らかにすることを目的とした.
【方法】2007 年1 月~2014 年12 月の間に急性虫垂炎に対して虫垂切除術を施行した302 例のうち,虫垂内容物の細菌培養検査を施行した275 例(男児149 例:女児126 例)を後方視的に検討した.虫垂を切除後,直ちに内容液を採取して細菌培養容器(好・嫌気性)に収め,穿孔例では膿性腹水を併せて採取し細菌培養検査に提出した.
【結果】虫垂切除後細菌培養検査を施行した275 例中203 例(73.8%)においてE. coli が検出され,うち5 例(1.8%)がESBL 産生E. coli であった.続いて嫌気性菌群であるBacteroidesfragilis, thetaiotaomicron, vulgatus,他)155 例(56.4%),Streptococcus(α-hemo, γ-hemo, milleri,他)80 例(29.1%),Enterococcus sp. 48 例(17.5%),Pseudomonasaeruginosa,他)37 例(13.5%)などが検出された.また,回盲炎を高率に惹起するYersinia enterocolitica が1 例(0.4%)に検出された.
【結論】虫垂内細菌叢は,小児期における急性虫垂炎の病態発生に必ずしも直接関与しない場合も多いと考えられるが,これらを的確に理解することはYersinia 菌感染など病因発生に直接関与する場合のほか,適切な抗菌剤の選定を通して術後感染の回避や耐性菌発生の防止,術後偽膜性腸炎に備えるなど,重篤な術後合併症の回避に重要な情報を与えるものと考えられた.

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