抄録
照葉樹林をとりまくスギ人工林生態系の修復方法の一つとして, 針広混交林や照葉樹天然林に近い林分に誘導することは有効であると考えられる。そこで屋久島の照葉樹天然林に隣接する若い人工林を対象として, こうした林分への誘導の可能性や播種 · 植栽などの人工更新手段の必要性を判断するために, 人工林内の稚幼樹集団の組成と密度を隣接天然林と比較した。稚幼樹の種の存否に基づく人工林内の稚樹集団の種組成は隣接する照葉樹林と多くの場合類似したが, 本数密度に基づく構造は隣接する林分間で類似しなかった。人工林内の稚樹密度は隣接天然林より有意に低く, 特に人工林に少ない樹種としてイスノキなど8樹種があげられた。こうした樹種の稚樹バンクの少なさから, 若齢人工林から混交林や照葉樹林を誘導する際には植栽, 播種など人工更新手段が有効であると考えられた。また人工林内の樹種ごとの稚樹密度は隣接天然林からの距離や隣接天然林の稚樹密度に依存しなかった。稚樹集団の種組成及び構造で判断した場合には, 照葉樹林からの距離をもとにゾーニングして植栽 · 播種 · ギャップ創出などの作業方針を決定することの有効性は小さいと類推された。