神奈川県東部柏尾川に局所的に生育する絶滅危惧植物ミズキンバイの群落におけるイトトンボ類の生息状況について調査した。本地区ではイトトンボ類として,アオモンイトトンボ,セスジイトトンボ,アジアイトトンボの3 種が優占し,また種毎に発生ピークが異なることが明らかにされた。近隣河川(境川, 引地川)ではイトトンボ類はほとんど確認されず,都市河川でありながら柏尾川におけるイトトンボ類の多さは特筆すべき事象であった。セスジイトトンボとアジアイトトンボは,ミズキンバイ分布域において有意に高い生息数を示した。幼生の密度調査より,これはミズキンバイ群落では幼生のマイクロハビタットとしての緩やかな流れの部分が場所的に確保されやすいためと推察された。さらに成虫の標識再捕獲調査では,最大約700 m の個体移動が確認されたが,多くは同一の中洲に留まる傾向が認められた。数百m 程度の間隔でミズキンバイ群落が存在することにより,本都市河川がイトトンボ類の生態的回廊として機能することが示唆された。