ヨシ(Phragmites australis (Cav.) Trin.)およびツルヨシ(Phragmites japonica Steudel)の分類においては匍匐茎の有無に判断を委ねる趨勢にあり,前者は匍匐茎を有さず,後者は匍匐茎を有するとして分類される。これに対して,匍匐茎を有するヨシ,あるいは匍匐茎を有さないツルヨシが時として存在することも示唆されており,匍匐茎の有無に準じた両種の分類に危険が伴うことが一方で指摘されている。しかし,これを裏付ける根拠ならびに数的データはない。そこで本論では,匍匐茎の有無に準じたヨシおよびツルヨシの分類の可能性と危険性を花序の形質,遺伝的地位等から再検討するとともに,他の外部形態に準じた両種の分類についても併せて試みた。その結果,匍匐茎を有するPhragmites はツルヨシに分類できるが,匍匐茎を有さないPhragmites を安易にヨシとして分類するには危険が伴うことが明らかとなった。しかし,後者Phragmitesにおいても葉耳や節部の短毛等を確認することでヨシあるいはツルヨシとして明確に分類できるといえた。つまり,葉耳を有さず節部に短毛を有するPhragmites についてはツルヨシに分類でき,逆に葉耳や葉身基部に長毛を有する,あるいは節部に短毛を有さないPhragmitesについてはヨシに分類できると考えられた。