2008 年 34 巻 2 号 p. 375-383
東京都心のビル屋上において,アゼスゲ(湿生区)とノシバ(シバ区)の試験区を設け,温度上昇抑制効果及び熱収支特性を評価した。その結果,シバ区,湿生区の屋上面の夏期晴天時の平均温度は平均気温より低く,屋上面の熱流の発生量も少なかった。さらに,湿生区の屋上面の温度はシバ区に比べ0.5~0.7℃ 程度低く推移する傾向が見られた。湿生区は,群落内の温度が外気温よりも低くなり,蒸発散による潜熱と,アゼスゲ地上部による日射の遮蔽によって,冷却が効率的に行なわれていることが明らかになった。群落内の低温は,群落上にも影響を与え,屋上面の温度上昇抑制だけではなく,群落上の冷却という形でヒートアイランド現象を緩和することが示唆された。湿生区は潜熱の発生量が多く,顕熱と植生基盤の蓄熱量の和はマイナスの値をとる期間が多くなったことから,熱収支からも冷却効果を裏付ける結果を得た。