抄録
森林植生の樹種および管理状態と流域の短期流出特性との関連性を明らかにするために成木川流域源頭部に位置する間伐遅れの針葉樹林流域(1.29 ha),落葉広葉樹林流域(1.28 ha)とヒノキ育成林流域(0.62 ha)の3 つの小流域において水文観測を行った。植生樹種及び間伐などの森林管理と林床被覆状態や土壌表層部の樹木の根系分布は密接に関連していると考えられ,間伐遅れのスギ・ヒノキ人工林では林床面が裸地化し,明瞭な根系層(樹木の細根が密集した表層土壌層位)が形成されていたのに対して,ヒノキ育成林及び落葉広葉樹林では林床面が下層植生や堆積リター層に覆われ,根系層は形成されていなかった。ヒノキ林・スギ林プロットの降雨に対する地表流の流出応答は育成林・広葉樹林プロットよりも大きかった。また,各プロットでは土壌の最終浸透能(6.4~26.8 mm/5min)よりも低いと考えられる降雨強度(4.0 mm/5min 未満)においても地表流が発生していたことに加えて,ヒノキ人工林斜面では根系流(根系層内を選択的に流下する表層流)が発生していたために,各プロットで観測される地表流の流出形態はヒノキ林・スギ林プロットでは根系流であり,育成林・広葉樹林プロットではリターフロー(落葉層などの堆積リター層内を流下する水流)ではないかと推察された。小規模秋雨イベントと中規模台風イベントともに各小流域の‘新しい水’の流出率は0.2~2.0% と非常に小さいことから,‘新しい水’の構成成分は主に河道への直接降雨と河道近傍で発生する根系流やリターフローである可能性が高いと考えられた。成木川流域における間伐遅れの針葉樹林流域では根系流が存在するために他の2 流域にくらべて短期流出に対する‘新しい水’の寄与量が相対的に大きくなると考えられた。