日本緑化工学会誌
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35 巻, 2 号
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特集
特集
論文
  • 境 優, 平野 智章, 青木 文聡, 寺嶋 智巳, 夏原 由博
    原稿種別: 論文
    2009 年 35 巻 2 号 p. 306-317
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    森林植生の樹種および管理状態と流域の短期流出特性との関連性を明らかにするために成木川流域源頭部に位置する間伐遅れの針葉樹林流域(1.29 ha),落葉広葉樹林流域(1.28 ha)とヒノキ育成林流域(0.62 ha)の3 つの小流域において水文観測を行った。植生樹種及び間伐などの森林管理と林床被覆状態や土壌表層部の樹木の根系分布は密接に関連していると考えられ,間伐遅れのスギ・ヒノキ人工林では林床面が裸地化し,明瞭な根系層(樹木の細根が密集した表層土壌層位)が形成されていたのに対して,ヒノキ育成林及び落葉広葉樹林では林床面が下層植生や堆積リター層に覆われ,根系層は形成されていなかった。ヒノキ林・スギ林プロットの降雨に対する地表流の流出応答は育成林・広葉樹林プロットよりも大きかった。また,各プロットでは土壌の最終浸透能(6.4~26.8 mm/5min)よりも低いと考えられる降雨強度(4.0 mm/5min 未満)においても地表流が発生していたことに加えて,ヒノキ人工林斜面では根系流(根系層内を選択的に流下する表層流)が発生していたために,各プロットで観測される地表流の流出形態はヒノキ林・スギ林プロットでは根系流であり,育成林・広葉樹林プロットではリターフロー(落葉層などの堆積リター層内を流下する水流)ではないかと推察された。小規模秋雨イベントと中規模台風イベントともに各小流域の‘新しい水’の流出率は0.2~2.0% と非常に小さいことから,‘新しい水’の構成成分は主に河道への直接降雨と河道近傍で発生する根系流やリターフローである可能性が高いと考えられた。成木川流域における間伐遅れの針葉樹林流域では根系流が存在するために他の2 流域にくらべて短期流出に対する‘新しい水’の寄与量が相対的に大きくなると考えられた。
  • 松江 正彦, 長濱 庸介, 飯塚 康雄, 村田 みゆき, 藤原 宣夫
    原稿種別: 論文
    2009 年 35 巻 2 号 p. 318-324
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    温室効果ガスの主要な構成要素であるCO2 を減らすためには,排出量を減らすことと併せて,植物による吸収・固定を推進させることが必要である。都市緑化等の推進は,その対策の一つとして重要な役割を担っており,その効果を定量的に明らかにし,京都議定書の報告等にも活用可能な算出手法の開発が求められている。本研究では,木質部重量の増加量からCO2 の固定量が算定できることに着目し,我が国の街路樹や都市公園などに多用されている樹木の部位毎の乾燥重量測定・樹齢判読等を行い,胸高直径を基にした樹木1 本当たりの年間CO2 固定量の算定式の作成を試みることとした。これまでに,樹齢20 年前後の6 樹種を対象に同様の手法で研究・報告を行っているが,今回はその内の5 種に新たな1 種を加え,樹齢30 年から50 年前後の樹木を調査対象とし,先行研究のデータと合わせて解析した。その結果,樹齢50 年前後までを適応範囲とする年間木質部乾重成長量の算定式とそれを基にした年間CO2 固定量算定式を作成した。今後さらなる研究を進め,都市緑化樹木のCO2 吸収・固定効果を明らかにすることで,都市緑化の促進に貢献するものと考えられる。
  • 鈴木 武志, 坂 文彦, 渡辺 郁夫, 井汲 芳夫, 藤嶽 暢英, 大塚 紘雄
    原稿種別: 論文
    2009 年 35 巻 2 号 p. 325-331
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    石炭灰の発生量が増加傾向にある現在,その有効利用が一層求められている。石炭灰のうちクリンカアッシュ(以下CA と称す)は,フライアッシュと比較して粒径が粗く飛散のおそれもないため,土壌の代替としての大量利用が期待されるが,利用に際してはホウ素過剰障害の可能性が示唆されている。本研究では,CA を主材料とする緑化基盤で緑化樹木のポット試験を行い,CA の緑化基盤としての有効性を検討した。緑化基盤材料には,CA,真砂土,ピートモス(以下PM と称す)を用い,CA 試験区(CA とPM を混合)をCA 95 %区,CA 90 %区,CA 80 %区の3 区,対照として真砂土にPM を10% 混合したものを設定し,樹木は,アラカシ,ウバメガシ,シャリンバイ,トベラ,マテバシイの5 種を用いて,約7 ケ月間のポット試験を行った。
    作製した緑化基盤の化学性,物理性は対照区と比較して有意な差はほとんど無かった。また,国内の法律に照らし合わせると,これらの材料の重金属類濃度は安全であった。緑化樹木の生育に関しては,5 樹種とも,樹高(H),幹直径(D)から表されるD2H の試験期間中の生長率および試験終了時の新鮮重に,試験区間で有意な差はみられなかった。また,CA 試験区の樹木葉中ホウ素含量は,シャリンバイ以外の4 樹種で対照区に対して高い傾向を示したが,生育障害は確認されず,他の金属類に関しても異常な値は認められなかった。これらのことから,本研究に用いたCA を緑化基盤として大量利用することは十分可能であると考えられるが,実際の利用の段階では,CA ごとの性質の違いを検討していく必要がある。
  • 斎藤 真己
    原稿種別: 論文
    2009 年 35 巻 2 号 p. 332-337
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    根粒菌フランキアを活用した効果的なケヤマハンノキのポット苗の短期育苗法の確立を目的とし,簡便で確実なフランキアの接種方法について調査した。市販の消毒済み培養土で育苗した苗の根粒着生率は30%以下と低かったため,天然のケヤマハンノキの苗から根粒を採取し,水道水と一緒にミキサーにかけた懸濁液を発芽直後の種子に散布したところ,根粒着生率を大幅に高めることができた。また,苗の成長と根粒の量には正の相関があり,その懸濁液を0.1 g/l の濃度で接種すれば高い効果が得られることや根粒の採取地によって苗の成長に及ぼす影響が異なることが明らかになった。本手法は簡便で実用的であることから,今後,フランキアの感染率を高める好適な育苗環境の整備と窒素固定能力の高い有用菌株に感染した根粒の選抜を行うことによって,生育期間が一年以内で出荷用ポット苗の生産は可能になると考えられた。
  • 額尓 徳尼, 堀田 紀文, 鈴木 雅一
    原稿種別: 論文
    2009 年 35 巻 2 号 p. 338-350
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    内蒙古自治区全域における砂漠化と緑化事業がもたらした植生変化の実態を把握するために,NOAA/AVHRR の衛星リモートセンシングデータから求めたNDVI(正規化植生指数)を用いた検討を行った。まず,文献から植生変化の実態が明らかな地域において,NDVI の変化と植生変化について比較し,1982~1999 年までの約18 年間における植生の変動を調べた。植生変化が少ない地域でのNDVI の変動から,植生増減を判断するNDVI 変化の閾値を検討し,1982~1986 年と1995~1999 年の夏季NDVI の差を ΔNDVI とし,植生の増減を8km 分解能のピクセル毎に求めた。そして,ΔNDVI により植生が変化した地域を抽出して図化した。その結果,内蒙古自治区全体としては,NDVI が増加した地域の割合が減少した地域の割合を大きく上回り,植生増加の傾向が示された。赤峰市(特に敖漢旗)の植生増加が顕著であり,次いでシリンゴル盟,フフホト市,バヤンヌール市の一部にまとまったNDVI 増加が示され,内蒙古全域においてNDVI が増加した面積が約20 万km2 程度見られた。北半球の高緯度地域では温暖化によるNDVI の増加が報告されているが,行政区毎に求めたNDVI が増加した地域の面積と,統計資料に基づいて集計した造林面積と耕地化された面積の合計に良好な比例関係が見られ,内蒙古自治区における夏季のNDVI 増加は主に緑化と農耕地の拡大という人為的な要因による植生増加である。一方で,NDVI 減少が抽出された内蒙古自治区西部(アラシャ盟),東北ホルチン砂地周辺などでは,もともと植生が乏しい地域であり,これらの地域では砂漠化による植生減少が指摘された。
技術報告
  • 藤澤 茂樹, 奥隅 豊栄, 安元 信廣, 柴田 昌三, 田中 伸一, 小澤 徹三
    原稿種別: 技術報告
    2009 年 35 巻 2 号 p. 351-356
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    近年,表土をのり面緑化に利用する工法が行なわれており,その利用方法の一つとして,表土マット移植工法を考案して,高速道路建設工事において施工した。採取した表土マットは,ミヤコザサの地下茎や萌芽性の木本植物の根系などを含み,緑化資材として有効と考えられる。その効果が明らかになり始めた既施工地では,表土マットに含まれる木本植物からの萌芽を確認しただけでなく,ミヤコザサの活着ならびに地下茎の伸長も確認することができた。さらに,条件のよいのり面では木本種が侵入して階層構造を形成しつつあることから,表土マット移植工法が切土造成地における植生復元を早期に行える工法であることが確認できた。
  • 藤澤 茂樹, 奥隅 豊栄, 安元 信廣, 柴田 昌三, 田中 伸一, 小澤 徹三
    原稿種別: 技術報告
    2009 年 35 巻 2 号 p. 357-362
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    表土をのり面緑化に利用する工法として開発した表土マット移植工法は,追跡調査により,表土マットに含まれる木本種からの萌芽,ミヤコザサの活着ならびに地下茎の伸長が確認された。条件のよいのり面では,木本種が侵入し階層構造を形成しつつあり,切土造成地における早期の植生復元が可能な工法であることが分った。そこで,効率的な表土マット利用のため,最低限の表土マット張付け数量・張付け方法及び表土マット間の間詰材料に関する検討を行なったところ,表土マット移植工法の特性や課題が明らかになった。
  • 今西 純一, 中右 麻衣子, 今西 亜友美, 今西 二郎, 渡邉 映理, 木村 真理, 森本 幸裕
    原稿種別: 技術報告
    2009 年 35 巻 2 号 p. 363-369
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    現代都市生活における過度の精神的ストレスや不安は,多くの病気の原因となっており,これらの軽減は,都市生活者の健康を維持,増進する上で重要である。そこで, 本研究では,公募による60~63 歳の7 名(女性6 名,男性1 名)を対象として,森林療法,園芸療法,ヨーガからなる健康増進プログラムを,大阪の万博記念公園において,週1 日,2 月~5 月の12 週間実施して,その心理的,生化学的,免疫学的効果を検討した。なお,本研究では対照群は設定しなかった。各療法の短期的評価では,気分プロフィール検査(POMS)および状態―特性不安検査(STAI)において,統計学的有意差が得られた項目はすべてポジティブな変化であり,これらは先行研究とほぼ一致する結果であった。健康増進プログラムの長期的評価では,POMS の緊張―不安,怒り― 敵意,疲労,混乱が有意に低減した。また,血清コルチゾール濃度が有意に低下したことから,被験者のストレスが軽減されたことが示唆された。長期的評価では,STAIやNK 細胞活性に有意な変化は見られなかった。
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