本研究では,イワヨモギ群落の植生と生育特性について甲信地方 (分布域外の積雪地) と北海道 (本来の分布域) とを比較し,積雪地での適応について考察した。各調査地 2つの方形区 (2m × 2m) を設け 2014年に調査を行った。甲信地方 (12調査地) ではすべて施工後 10年以上経過した緑化された切土のり面で,多くは木本層の発達した植生であった。北海道 (7調査地) ではすべて海岸に面した急斜面で,海食崖の自然草原 6地点,緑化されたのり面 1地点であった。草型について,伏条茎の伸長が甲信地方で顕著であった。両地域とも木質の茎に冬芽が形成されていた。伏条茎により地際に冬芽が広がる草型は,枝折れや食害などを防ぐという点から積雪地での群落維持に有利に働くものと推測された。結実状況について,100頭花あたり種子数に地域間差は認められなかった。花序あたり頭花数と種子数とに有意な相関は認められなかった。以上のことから,本来の分布域でない甲信地方においてイワヨモギ群落が維持され,生長が悪く頭花が少ない場合にも結実することがあり,自然更新していることが示唆された。