2021 年 46 巻 3 号 p. 308-315
湿地の減少が世界的問題となる中,湿地植生形成の場として遊水地に期待が寄せられている。人工的に造られた遊水地に湿地植生が成立するには,外部からの繁殖子散布が必要である。本研究では,水路または河川を通して流水散布される水生・湿生植物の繁殖子を遊水地・天然湿地間で比較し,遊水地における流水散布の実態とそれに及ぼす要因を解明することを目的とした。遊水地に流入する水路4地点と,天然湿地に流入する河川または水路4地点において,流水散布される繁殖子の採集とまきだし実験を行った。その結果,遊水地に流水散布された繁殖子には撹乱依存性の1~2年生植物が多く含まれた。その理由は,水路上流域に定期的な人為撹乱を受ける農地が多いからであると考えられる。一方,天然湿地に流水散布された繁殖子は,主に安定した止水域に生育するタイプの多年生植物であり,その量は極めて少なかった。その理由として,種子供給源となる上流域の湿地面積が小さかったことが挙げられる。