日本緑化工学会誌
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46 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
論文
  • 永田 優, 森本 淳子, 櫻井 善文, 木村 浩二, 中村 太士
    2021 年 46 巻 3 号 p. 308-315
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー

    湿地の減少が世界的問題となる中,湿地植生形成の場として遊水地に期待が寄せられている。人工的に造られた遊水地に湿地植生が成立するには,外部からの繁殖子散布が必要である。本研究では,水路または河川を通して流水散布される水生・湿生植物の繁殖子を遊水地・天然湿地間で比較し,遊水地における流水散布の実態とそれに及ぼす要因を解明することを目的とした。遊水地に流入する水路4地点と,天然湿地に流入する河川または水路4地点において,流水散布される繁殖子の採集とまきだし実験を行った。その結果,遊水地に流水散布された繁殖子には撹乱依存性の1~2年生植物が多く含まれた。その理由は,水路上流域に定期的な人為撹乱を受ける農地が多いからであると考えられる。一方,天然湿地に流水散布された繁殖子は,主に安定した止水域に生育するタイプの多年生植物であり,その量は極めて少なかった。その理由として,種子供給源となる上流域の湿地面積が小さかったことが挙げられる。

  • 飯塚 康雄, 松江 正彦, 久保 満佐子, 舟久保 敏
    2021 年 46 巻 3 号 p. 316-328
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー

    東日本大震災で発生した津波が襲来した海岸林のなかには,主要構成樹種であるアカマツとクロマツ(以下,マツ類)の残存木と倒伏木が混在している地区が確認された。この海岸林を対象として,残存または倒伏したマツ類の各生育環境および樹木形状を調べ比較することで津波による倒伏要因を明らかにした。さらに本海岸林で発生した規模の津波に対する減災効果の高い海岸林を再生するための樹木育成目標と,それを成立させる植栽環境について考察した。調査の結果,津波を受けて倒伏したマツ類は,残存したマツ類より標高が低く地下水位の浅い環境に生育し,樹高が低く幹が細い地上部と小さい根系盤を持っていた。このため本海岸林で発生した最大浸水高11.9m程度の津波を想定した場合,倒伏被害に強い海岸林を構成するマツ類の根系の育成目標としては,多出垂下根・二段水平根型の形態であり,根系盤体積として胸高幹周から推定する関係式(胸高幹周120cmの場合,根系盤体積12m3)を示した結果,垂下根長1.5m以上,水平根長4m以上を示した。あわせて,この根系の成長を支える地上部の形状と植栽環境についても示した。

技術報告
  • 大澤 啓志, 小髙 緋奈乃, 石川 幹子
    2021 年 46 巻 3 号 p. 329-333
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー

    東日本大震災時に残存した防潮堤上のクロマツ林の状態及び成立要因を調査した。このクロマツ林は,1980年代初頭の旧防潮堤整備時に石詰め法枠工とテンキグサ苗の植栽が行われ,以降のクロマツ種子の自然散布による定着により成立したものであった。2020年時で95本のクロマツが生残し,樹高約7 mの疎林を形成していた。胸高直径は5~12.5 cmの個体が多く,いずれも割栗石の間の土壌に根を張るものであった。群落組成は2013年時と2020年時で大きくは変わっておらず,低木層でのドクウツギの優占に加え,林床には海浜生種や草原生種の生育が認められた。ただし,林床の明るい疎林が維持され,ヒメヤブランやハマアオスゲの被度が増加していた。テンキグサは,2013年時には林内には生育しなかったものの隣接する海浜部で群落が認められ,2020年時には林内にも生育していた。津波に対して海側の最前面の堤防上で残存した本クロマツ林は,「震災の伝承」という価値が認められるとともに,防潮堤における土木工学的そして生態的な調整解の好事例と考えられた。

  • 米道 学, 軽込 勉, 塚越 剛史, 久本 洋子, 楠本 大
    2021 年 46 巻 3 号 p. 334-336
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー

    近年,林業種苗の苗木生産手法の一つとしてマルチキャビティコンテナを使用した苗木生産法がある。コンテナによる苗木生産は露地による苗木生産に比べ伸長成長がよく,短期間の育苗で植栽が可能になると注目を浴びている。そのため,緑化用の苗木生産においてもコンテナを用いることは有効であると予想される。しかし,実際に緑化用苗木生産を目的とした報告は数少ない。そこで本稿では,アカマツ緑化用苗木の生産方法として,Mスターコンテナの有用性を検討するため,苗の成長を露地苗と比較した。また,労働力の低減効果をみるため除草にかかる時間を調査した。その結果,播種から2年で平均苗高約50 cm(形状比53)に達し,露地よりも1年早く植栽可能な大きさにすることができた。また,コンテナを使用することで除草作業が2年間で30分となり,労働時間の削減にも効果が認められた。

  • 安藤 義範, 南 恭亮, 倉園 知広, 南本 秀行, 朝山 千春, 守田 銀二, 木下 覺, 山崎 旬
    2021 年 46 巻 3 号 p. 337-342
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー

    生育に共生関係を必要とすることから,移植が難しいとされるキンラン(Cephalanthera falcata (Thunb.) Blume)を共生種とされるブナ科樹木とともに野外から植木鉢へ植え付け,養生管理を行った結果,シュート数の増加,開花・結実を確認できた。植木鉢でキンランを一時的に生育させ,開花・結実に至ったことは,開発等事業に伴う環境保全措置での移植先選定の確実性の向上,種子増殖等に取り組む機会を得ることができる等,保全対策の成功率を高める有益な手法と考えられる。課題としては,どのように菌根菌が介在したか明らかでないこと,ブナ科樹木の実生苗の育成に時間がかかること,養生場所及び管理の人手の確保が必要なことである。

技術資料
  • 山寺 喜成
    2021 年 46 巻 3 号 p. 343-346
    発行日: 2021/02/28
    公開日: 2021/07/13
    ジャーナル フリー

    荒廃した自然を回復させるには,自然の回復力(復元力)を積極的に活用することが重要である。特に,自然の大規模な開発地の緑化,津波による海岸林荒廃地の復旧,地震や線状降水帯等に起因する群発型山崩れの復旧,深層崩壊地の復旧,砕石跡地の緑化,トンネル掘削ズリ堆積地の生態系回復,地砂漠等乾燥荒漠地の植生回復などにおいては,自然の持つ復元力を積極的に活用した方法が望まれる。

    自然の復元力の存在については,次にあげる4つの現象からその有効性を理解することができる。

    ①先駆植物の旺盛な生育による生育環境の改善,②寄せ植えによる成長促進,③ストーンマルチによる生育環境の改善,④草本植物による土壌生成などである。

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