移植困難種のキンランを対象に,公共事業における保全対策への種子繁殖法の活用可能性の検証と,普及促進に資する知見の蓄積を目的とした試験に取り組んだ。本取り組みでは保全対象の移植個体,養生個体,ならびに保全の確実性を高めるために採種対象とした自生個体も含め,人工受粉・袋がけ,採種,播種を2014~2019年度の6年間行い,播種後のシュート発生状況を調査した。採種は養生個体,自生個体から合計で約43万6千粒を得ることができた。種子は直接播く方法(直播き)と,「種子スティック」を用いて播く方法の2通りで自生地に播種した。調査の結果,2015年度の播種箇所は直播きで約4年5ヶ月後に1個体,2017年度は「種子スティック」で約2年2ヶ月後に5個体のシュート発生を確認した。この取り組みは,保全対策でシュート発生を初めて確認し,実用面で高い価値を有すると考えられる。保全対策で種子繁殖法を適用する場合,個体が開花する,かつ人工受粉が適期に行えるといった,種子が採取できる条件下で特に有効となる可能性が示された。一方,播種からシュート発生までに約2~4年の時間を要するため,長期的な視点で取り組む必要があることが課題として挙げられた。