抄録
本稿では,将来の物価動向に関する定性的なサーベイ・データに基づく期待物価上昇率の計測方法を紹介する.さらに,それを用いて賃金交渉に考慮される労使双方の一致した期待物価上昇率を求め,日本における自然失業率仮説の検証について議論を加える.実証分析の結果,卸売物価上昇率の期待形成機構と消費者物価上昇率の期待形成機構は異なっており,前者の方が後者より安定的であること,期待卸売物価上昇率と期待消費者物価上昇率はともに賃金交渉に用いられる期待物価上昇率の形成要素であること,自然失業率仮説は短期的には成立していないが,長期的には成立していること,などの結論が得られた.