因果関係(causality)は統計科学など多くの研究分野にとって基本的かつ重要な分析対象である.計量生物と計量経済の分野ではこの間,統計的因果推論(statistical causal inference)が盛んに応用されている.本稿ではまずRubin (1974)に始まる反実仮想(counter-factual)モデルとAngrist, Imbens and Rubin (1996, 略してAIR)による操作変数法(instrumental variables method)を説明する.次に計量経済学における同時方程式と構造方程式(structural equation)を簡単な需要関数の例を用いて説明する.一般の構造方程式を用いて統計的因果関係を解釈し,操作変数法を含めた構造方程式の統計的推定法を議論する.構造方程式の推定ではOLS法(最小二乗法)は一致性を持たないので,操作変数法(IV法)としてのWald法,LIML (制限情報最尤法, 分散比最小法),TSLS (2段階最小二乗法),GMM (一般化積率法)などの長所と短所を説明する.さらに構造方程式を巡る歴史的展開を説明し,2標本問題における多操作変数に関する新たな結果に言及する.最後に計量生物と計量経済などにおける統計的因果分析のさらなる課題を展望する.
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