日本官能評価学会誌
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研究報文
衣服刺激の閾下呈示における単純接触効果
長田 美穂小林 茂雄
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2006 年 10 巻 1 号 p. 29-36

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1. 諸言

新奇な刺激対象でも見慣れることによって好感度が増す現象を, Zajonc. R.B. (1968) は単純接触効果と呼んだ. 筆者らは今までの研究すなわち第1研究 (長田ら, 1992), 第2研究 (長田・小林, 1995), 第3研究 (長田・小林, 1996) において刺激対象を衣服とした場合において単純接触効果が出現するかどうかを検討した結果は縫かに衣服を対象としても効果が出現することがわかった. しかしながら, この単純接触効果が衣服自体に出現するのか, 衣服を着用するモデルの顔に出現するのかが曖昧だったため. 第4研究 (長田・小林, 2005a) において検討したその結果, 確かに衣服自体にも単純接触効果が出現することがわかった. さらに第5研究 (長田・小林, 2005b) においては, 柔道着の色彩という側面から単純接触効果の出現を検討し新奇な色の柔道着に対しでも効果が出現するという結果が得られた.

このような研究成果の上に立って, 本研究ではさらに衣服における単純接触効果が閾下においても出現するかどうかについて検討を行う. その理由は, 単純接触効果は刺激の呈示を閾下にしたときにより出現しやすい傾向があることが指摘されているからである(Kunst-Wilson & Zajonc, 1980 : Bornstein&D'Agostino, 1992). 本研究においては, 衣服を刺激としたときも閾下の方に効果が出現しやすいのかどうかを検討することを目的とする.

2. 実験1

実験1では, 刺激写真に新奇なイラスト画を使用し, 呈示回数条例を1回, 10回, 20回とし, 瞬間呈示を行い, その刺激が50%以下しか見えない状態であるような閾下で刺激を呈示した場合, どのように単純接触効果が出現するのかを検討することを目的とする.

2. 1 方法

2. 1. 1 刺激写真画像

筆者により新奇なファッションのイラスト画が作成され, 予備実験により新奇性の高いものを選定し, A~Jの10枚の画像(Fig. 1)を使用した. なお, モデルの条件を同じにする意図で着用モデルのイラストは全て同じであり, 性差も感じにくいモデルであり, ファッションもユニセックスなイラストとした.

2. 1. 2 被験者

被験者は21~27歳の女子大学生, 大学院生の15名であり2001年8月~9月に個別実験で行った.

Fig.1

Photos of the dress experimentally mainpulated Dress A, B, C, D, E, F, G, H, I and J were created by the writer.

2. 1. 3 手続き

実験の手続きは, 被験者にパソコンの正面から30cm程度離れて座って画面を見てもらい, 以下に示すように閾値測定, 本実験, 閾値の吟味, を連続して個別で実施した.

まず個人ごとに異なる閾値を測定した. はじめに, 縦11cm横4cmのグレイ地が15msecあらわれ視点を定めさせ, 続いてすぐに50msecの間, 同様に縦7cm横7cmのグレイ地に白の5つの点を施した注視点が出て, より画面に注目してもらう. その後刺激画像である縦6.5cm検6.5cmの顔写真が10~40msecの中で5msecきざみ(10, 15, 20, 25, 30, 35, 40msecの7呈示時間)に, 1sec間隔で瞬間呈示され, すぐその後顔写真を見えにくくする妨害として, 縦7cm横7cmのランダムドットパターンが50msec呈示さ れた. この場合の刺激画像である顔写真は, 本実験に使用しない実験当時若い女性に知名度の高い女性タレント10名(安室奈美恵, 梅宮アンナ, 神田うの, 菅野美保, 中山美穂, 浜崎あゆみ, 広末涼子, 藤原紀香, 松たかこ, 松嶋奈々子)をアンケートにより選定し, 用いた. 被験者には呈示された顔写真が誰だったか, わかった時点で報告してもらった. 10名の顔写真のうち5名がわかった時点の一番早い呈示時間を50%と考え, その呈示時間を閾値とした. 服装写真を言い当てるのは顔写真よりも複雑な作業であると考えられるため, 本実験でその呈示時間を使用すれば閾下時間として成り立つと考え, 本実験の呈示時間を確定することを目的にこの測定を行った. その結果, 今回の15名の被験者は, 10msecが6名, 15msecが7名, 20msecが2名という結果となり, 本実験の閾下呈示時間とした.

続いて本実験では従来の実験同様, 1回, 10回, 20回提示条件を閾下で行った. 個人で閾値が違うため, 呈示時間を操作して個別で行った. 10枚のファッション図版は, 予備実験により画像の新奇性を3呈示条件がほぼ等しくなるように分けた. 具体的には, 1回条件としてはB・D・H・Jの4枚の画像を各1回の計4枚, 10回条件としてはF・G・Iの3枚を各10回の計30枚, 20回条件としてはA・C・Eの3枚を各20回の計60枚, 合計94i交のIMI象をランタムに入れこんだ. なお, 図版による違いをラテン方格法により検定したが有意差は認められず, 図版による差は認められなかった. まず10枚の画像をパソコン上に順に映し, 通覧してもらった後, 改めてパソコンの画面上に映し, 服装の印象をTable 1の13形容語対, 7段階評定尺度のSD法で評定させた. 実験は最初グレイ地が15msecあらわれ, 視点を定めさせた後, すぐに50msecの間グレイ地に城で書いたフォントサイズ150の1~9の1桁の数字が出る. 被験者には数字をできるだけ早く読みあげる, というダミーの作業をしてもらった. 数字があらわれるとすぐに, 先に個別に調べた閾値の呈示時間で, 縦1cm横3.5cmの刺激画像を呈示した. 最後にマスク刺激として, 縦11cm横4.5cmのランダムドットパターン50msecを呈示した. これを94回繰り返し, 94枚の刺激画像すべてを見終わった後で, もう一度同じSD評定項目で, 10種類の服装についての印象を評定してもらった.

最後に閾値の吟味を行った閾値測定で決めた閾値を用いて本実験をしたが, その被験者にとって刺激画像をファッション図版にした場合, 本当に閾下実験として成り立っかどうか. 本実験終了後に本実験で刺激画像を呈示した時間で1回ずつ呈示し, そのファッション図版がどれであったか言い当てさせた. 方法としては, 本実験と同様に最初15msecの長さでグレイ地が出た後すぐに, 50msecの間グレイ地に白で書いた数字が出る. 被験者には数字をできるだけ早く読みあげるダミーの作業をさせ, 本実験と同様の閾伯により各々の呈示時間で刺激写真を呈示しその後に50msecの長さでランダムドットパターンを呈示した. 1枚を見終わったら, A4サイズの写真用の用紙にプリントアウトしてあるファッション図版10枚と, ダミーであるファッション図版5枚の合計15枚の中から, 今見た図版があればどの図版ごあるかを, 無いと思ったなら無かったとm またわからない場合も報告してもらった. これを本実験で用いた10種類の図版すべてについて行い, 1枚につき10%と換算し, 10枚すべて言い当てた場合は100%となるため, 50%以下であることを確認した. 具体的には5枚以下を言い当てることができなければ50%以下であることを意味するものとした. 閾値の吟味を行った結果, すべての被験者が50%以下であり, 閾下実験は成り立っと言えた. 具体的には20%であった被験者は3名, 30%は5名, 40%は7名であった.

Table 1

Thirteen rating scales measuring impression of dresses

2. 2 結果

印象評定の結果は, 7点尺度の各評定に1点~7点を付与して整理した. まず用いた13の尺度(Table 1)の中から, 好感度を測定している凡度を確定するために, 第1回目の評定結果を因子分析したTable 2が実験1の各結果であり, 固有値1.0以上, パリマックス回転後の因子負荷量を示したものである. これらの因子のうち第1因子が評価性因子であり, その中から好感度を測定するために4尺度を用いた. すなわち, 尺度3「感じのよい-感じのわるい」. 尺度6「親しみやすい-親しみにくい」. 尺度7「好きな-嫌いな」. 尺度11「心地よい-心地わるい」が該当する.

次に, 用いた刺激図版がどのくらい新奇であったかを第1回目の評定結果から示す. Table 3がA~Jの10種類の, 尺度4の「珍しい-ありふれた」の評定の平均と標準偏差である. 平均の値が大きいほど, その刺激図版が新奇なものとして受けとめられていることを示している(非常に新奇=7, 非常にありふれた=1). 中立点は4.00であり, すべての刺激図版は新奇な側に位置している.

Table 4は各呈示条件の好感度尺度の平均と標準偏差である. これらの結果を尺度3, 6, 7, 11, および4尺度の合計値ごとに分散分析した結果が, Table 4の右端欄のF値で示す. 尺度7の「好きな-嫌いな」(F(2, 28)=7.89. p<0.01)および4尺度合計(F(2, 28)=3.24. p<0.05)において, 有意差が認められた. 多重比較(テューキーのHSD検定)によりどの呈示回数条件間に有意差が認められるのかを検討した結果, 尺度7においては, 1回呈示条件と10回呈示条件間, 1回呈示条件と20回呈示条件間に1%水準の有意差が認められた. 4尺度合計においては1回呈示条件と20回呈示条件間に5%水準の有意差が認められた. この結果は呈示回数が10回を越え, 20回呈示に近くなるにつれて好感度も増す, 単純接触効果が出現したことを示している.

Table 2

Factor analysis of impression ratings

Table 3

Mean and standard deviation of novelty impression rating for each dress

Table 4

Mean of favorability impression ratings under three experimental conditions on Experiment

3. 実験2

実験1の方法で, 妨害刺激(ランダムドットパターン)を呈示しない場合も検討した刺激画像が閾下の状況で実験が成立するのか, 呈不時間が短くても閾上の状態で成り立つのかを比較することを目的とする. 具体的には閾上(50%以上)でありながら100%見える状態を避け, 60~90%の範囲で呈示時間をとることを目的に, 筆者らの先行研究よりは呈示時間を短くする方法をとった実験方法は, ランダムドットパターンを入れない, というだけで, 実験1と同様である.

3. 1 方法

3. 1. 1 刺激写真画像

実験1と同様の, 筆者により作成された新奇なファッションのイラスト画10枚の画像(Fig.1)を使用した.

3. 1. 2 被験者

被験者は21~25歳の女子大学生, 大学院生の15名であり, 個別実験で2001年8月~9月に行った.

3. 1. 3 手続き

まず個人ごとに閾値測定をした. 最初15msecの間グレイ地が出て, 続いて50msecの間グレイ地に白の5つの点を施した注視点が出る. その後10~40msecで5msecきざみ(7呈示時間)で刺激画像である10名の顔写真が瞬間呈示された. 刺激画像である顔写真は, 実験1と同様である. 被験者には呈示された顔写真が誰だったか, わかった時点で報告してもらった. 本実験で閾下呈示時間として確定した時間は, 10msecの被験者が8名, 15msecが7名であった.

続いての本実験も個人ごとに, 1回, 10回, 20回呈示条件を閾上で行い, ランダムドットパターンが無い以外は実験1と同様であった. まず10枚の画像をパソコン上に1枚ずつ映し通覧してもらった後, 改めてパソコンの画面上に映し服装の印象を実験1と同様に, Table 1の13形容語対, 7段階評定尺度のSD法で評定させた. 実験は最初グレイ地を15msec呈示し続いて50msecの間グレイ地に白で書いた数字を呈示した. 被験者には数字をできるだけ早く読みあげる, というダミーの作業をしてもらった. 数字が出てからすぐに, ファッション画像を呈示した. ファッション画像の呈示時間はあらかじめ個人ごとに測定した閾値の時間とした. これを94回繰り返し94枚の刺激画像すべてを見終わった後で, もう一度10種類の服装についての印象を評定してもらった.

最後に閾値の吟味をした方法としては, 実験1のランダムドットパターンが無い場合と同様である. 最初15msecの長さでグレイ地を呈示し続いて50msecの問グレイ地に白で書いた数字を呈示した. 被験者には数字をできるだけ早く読みあげさせてから, 本実験と同様の呈示時間(個人ごとにあらかじめ測定した閾値の時間)で刺激写真を呈示した. 1枚を見終わったら, A4サイズの写真用の用紙にプリントアウトしてあるファッション図版10枚と, ダミーであるファッション図版5枚の合計15枚の中から, 今見た図版があればどの図版であるかを, 言い当てさせた. 吟味は10種類の図版全てについて行い1枚につき10%と換算し, 50%以上であることを確認した. 閾値の吟味においては60%だったものが6名, 70%が6名, 80%が2名, 90%が1名であり, 閾上であり少し刺激が見える, という条件での実験は成り立つと言える.

3. 2 結果

印象評定の結果は, 7点尺度の各評定に1点~7点を付与して整理した. Table 1に示す13の尺度の中から, 好感度を測定している尺度を確定するために, 第1回目の評定結果を因子分析した. その結果,実験1同様に好感度を測定する尺度として尺度3, 6, 7, 11の4尺度が該当する.

また刺激図版がどのくらい新奇なものであったかについても, 実験1同様にA~Jまでの10種類の, 尺度4の「珍しい-ありふれた」の評定の平均と標準偏差により, すべての図版が新奇な側に位置した.

Table 5には各呈示条件の好感度尺度の平均と標準偏差, さらにはF値で分散分析の結果を示す尺度11の心地よさ以外の, 全ての好感度尺度で有意差が認められた. すなわち, 尺度3の感じのよさ(F(2, 28)=11.21. p<001), 尺度6の親しみやすさ(F(2, 28)=6.63, p<0.01), 尺度7の好きな(F(2, 28)=9.54, p<0.01), 4尺度の合計(F(2, 28)=8.57, p<001)である. 多重比較(テューキーのHSD検定)によりどの呈示回数条件間に有意差が認められるのかを検討した結果, 尺度3の感じのよさでは1回呈示条件と10回呈示条件間, 1回呈示条件と20回呈示条件間に1%水準の有意差が認められた. 尺度6の親しみやすさ尺度7の好きな, 4尺度合計においては, 1回呈示条件と20回呈示条件間に1%水準の有意差が, 1回呈示条件と20回呈示条件聞に5%水準の有意差が認められた. 呈示回数が20回と増すごとに好感度も上昇する単純接触効果があらわれた結果となった.

Table 5

Mean of favorability impression ratings under three experimental conditions on Experiment 2

4. 実験3

実験1, 実験2の実験と同様の呈示回数であるが, 被験者に身構えさせるのではなく, リラックスさせた方法で瞬間に映る画像をできるだけ意識させないようにするため, 5分45秒間の動く映像であるビデオテープの中に一律33msecの長さで, 刺激画像94枚をランダムに入れ込んで実施する.

4. 1 方法

4. 1. 1 刺激写真画像

実験1, 実験2と同様の筆者により作成された10枚の新奇なファッションのイラスト画(Fig.1)を使用した.

4. 1. 2 被験者

被験者は, 19~22歳の専門学校生男子36名, 女子11名の合計47名であり, 実験は2001年9月に集合調査法により実施した.

4. 1. 3 手続き

実験は, まず1人1台となるようにパソコンの前に座ってもらい, 10枚の画像をパソコン上に順に映し, いっせいに通覧してもらった後, 改めて同じくいっせいにパソコン画像を映し, 服装の印象を実験1, 実験2と同様のTable 1に示す13形容語対, 7段階評定尺度のSD法で評定させた. 次に刺激画像94枚がランダムに入ったビデオテープを同じくパソコンの画面上にいっせいに流し5分45秒間注視してもらい, ピデオの内容について後で質問する(特定の記号がいくつ出てきたか, 出てきたキャラクターの色を答える), というダミーの作業をさせた. 続いてビデオの内存についての質問と, 再び10種類の刺激画像についての印象評定を, 先のSD評定と同様の評定用紙に記入してもらった. 最後に確認で, 今見たビデオテープの中に瞬間呈示されたと思う画像を, 刺激画像10種類, ダミー写真画像5種類の合計15枚の中から選んでもらった. この結果は, 実験1. 2の閾値の吟味にあたる. 最後に確認でビデオテープにはさんであった画像を開いた結果は5枚以上, すなわち50%以上見えた, と答えた被験者は皆無であり, 実験1と同様に閾下実験として成り立つものと考えられる.

4. 2 結果

印象評定の結果は, 7点尺度の各評定に1点~7点を付与して整理した. 用いた13の尺度の中から, 好感度を測定している尺度を確定するために, 第1回目の評定結果を因子分析した. その結果, 実験1, 2と同様に, 感じのよさ, 親しみやすさ, 好き, 心地よさの4つの尺度が好感度を測定する尺度として採用された.

また刺激画像がどのくらい新奇なものであったかについても, 実験1, 2 同様にA~J までの10種類のすべての画像が新奇な側に位置していた.

次に, 単純接触効果が出現したかどうかの結果を示す, Table 6に各呈示条件における尺度3, 6, 7, 11および4尺度の合計値の平均値と標準偏差を示した. また好感度(尺度3, 6, 7, 11, 4尺度の合計値)に関する2元配置(A : 呈示回数条件, B : 男女差)の分散分析をした結果, 呈示回数の主効果においてはすべての好感度尺度において, 有意差が認められた(尺度3 : F(2, 90)=8.33, p<0.01 ; 尺度6 : F(2.90)=8.44, p<0.01 : 尺度7 : F(2, 90)=19.34, p<0.01, 尺度11 : F(2, 90)=8.89, p<0.01 : 4尺度の合計値 : F(2, 90)=16.53, p<0.01)多重比較(テューキーのHSD検定)によりどの呈示回数条件間に有意差が認められるのかを検討した結果, すべての尺度で1回と20回呈示条件間, 10回と20回呈示条件間に1%水準で有意差が認められた. 呈示回数が20回に近くなるにつれて好感度が増し, 単純提触効果が顕著に出現した結果となった. また被験者の性別による有意差は認められず, 男女による差はない結果となった.

Table 6

Mean of favorability impression ratings under three experimental conditions on Experiment

5. 総合的考察

本研究では, 閾下で刺激対象の呈示をした方が, 単純接触効果が出現しやすいという傾向が, 対象を衣服にした場合についても成り立っかどうかを検討した.

結果は閾下と言われる範囲で実験を行った実験1, さらに実験3は羽田で好感度の上昇が著しいことがわかった. 刺激画像をより意識させない実験3の方が顕著に全ての好感度尺度項目で上昇が見られた.

筆者らの先行研究ほど刺激対象がはっきり見えないものの瞬間に見える閾上の範囲で実験した実験2においても, 呈示回数が増えるにつれて好感度が増す単純接触効果が出現した. 妨害刺激(ランダムドットパターン)を呈示した実験1と, 呈示しなかった実験2とでは, 実験2, つまり画像が少し見えていた条件の方が, 多くの好感度項目において単純接触効果が出現している.

全く意識しない状態(実験3) はすべての好感度尺度項目に有意差が認められ, 最も単純接触効果が出現した. しかしながら筆者らが過去に行った刺激対象を2秒間もしっかり見る実験よりは実験1, 実験2, 実験3ともに結果はよく出ている. この3つの実験は筆者らが行った先行研究に比べて呈示時聞が極短に短く, 閾上で扱っている実験2も, 認知閾には達していないと考えられ, 実質的に閾下とみなしてもよいと思われる. 単純接触効果が閾下で出現しやすいことを見いだしたR.F. Bornsteinら(1992)の説によれば, 刺激対象の閾下での繰り返しの呈示は, 被験者に雑念を起こさせないという点でその対象に対する知党の滑らかさ(fluency)をもたらす. この滑らかさを被験者が「好ましさ」と勘違いして受けとめられているという. またBornsteinらの実験では, 刺激呈示を5msecで行っているため, 刺激対象が全く見えない状態を作っていることになる. 今回の実験結果は, 刺激図版について閾下の状態にあった実験1よりも, 少し見えていた実験2の方が, 効果が出現しやすい, という結果であったがこの結果はBornsteinらの実験結果に反するものであった. 実験1と実験2では, ランダムドットパターンの有無以外に同じ実験条件だったにもかかわらず, 実験2に多くの尺度に効果が出現する傾向となった. しかしながら実験3が最も単純接触効果が出現しやすい傾向にあったのは, 実験1, 実験2がダミーの作業をさせていたにもかかわらず, 実験3に比べて何か見える, といった刺激図版に対する意識が強くなったことが影響し知覚の滑らかさの形成に妨害が生じていたとも考えられる. 実験方法も被験者に身構えさせるより, リラックスさせるような条件を与えることが必要であることを示していると考えられる.

6. 結言

刺激対象を閾下呈示すると, 単純接触効果が出現しやすいという傾向が, 対象を衣服にした場合にも見られるかどうかを検討した. 実験は閾子(50%以下)で行った実験1. 100%はっきり見える状態を避けつつ閾上でありながら瞬間呈示で行った実験2. 閾子(60~90)でありながら実験を全く意識しない状態であった実験3の3つの実験を行った. 実験1, 2は個別実験であり, 20代の女子被験者で行い, 実験3は集合調査法で実験し, 20代を中心とした男女被験者で行った.

刺激画像は新奇なファッションのイラスト画であり, パソコンの画面に映した10枚の画像を1回条件ではB・D・H・Jの4枚を各1回ずつ, 10回条件ではF・G・Iの3枚を各10回ずつ. 20回条件ではA・C・Eの3枚を各20回ずつ, 合計94枚の画像を入れ込んだものを実験1, 2は個人の閾値にあわせて瞬間呈示し実験3では一律33msecの長さでビデオの中に混ぜたものを見せて行った.

結果は3つすべての実験において, 20回に近くなれば単純接触効果が出現した. しかしながら実験1は尺度7の「好きな-嫌いな」と4尺度合計において, 実験2では尺度11の「心地よい-心地わるい」以外のすべての好感度尺度において単純接触効果が出現した. 全く実験を意識しない閾下状態であった実験3においてもっとも多くの好感度尺度項目に有意差が認められる結果となり, 単純接触効果がもっとも出現する傾向がある, という結果であった.

別のダミー作業を与えていたものの個別で実験を行った実験1と実験2では, 刺激画像がほとんど見えないものの何かある. というのがわかる実験1より, なんとか少しでも見えた実験2の方が, 単純接触効果が多くの好感度尺度頃日に認められたしかしダミー作業や動く映像によって, 実験の意図を全く悟られなかった実験3においてはさらにすべての好感度尺度項目で単純接触効果が出現した. 衣服を刺激対象とした, 閾下呈示による単純接触効果は対象を全く意識しない状態の下で出現しやすい結果となった. とは言っても筆者らの先行研究と比べると実験1, 2, 3ともに全体的に全ての好感度尺度項目での評価が高く, 単純接触効果が出現していると言える. 今後の課題としては, 過去に筆者らが行った実験方法である, 刺激対象の衣服写真をはっきり見せる方法と, 今回のような閾下で呈示する方法とを, 刺激対象の画像を同一にして直接比較してみる必要がある.

引用文献
 
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