2009 年 13 巻 2-2 号 p. 125-129
近年, 茶系飲料が生活の中に定着し, 水分補給や香味を味わうことで生活の潤いとして利用され, さらに三次機能と呼ばれる生理機能も期待して消費されている(松井, 2003). 多種多様な茶系飲料が販売されている中から, 消費者が購入する際に商品を選ぶ基準のひとつとして, 見た目の緑茶の色の印象が考えられた.
そこで, 本研究では, ペットボトル入りの緑茶飲料を対象とし, パッケージの印象を除外した飲料自体の見た目の印象と, 実際に飲んだ味の一致性について調べることを目的として官能評価を行った.
(1)パネル
パネルは, 平成20年度12月第2回官能評価ワークショプ(於:東京農業大学)参加者で, 20歳代~50歳代の25名(男性6名, 女性19名)であった.
(2)試料の選出
ワークショップの著者らのグループのメンバー(以下, 実験者とする)で協議して, 14種類の市販のペットボトル緑茶飲料を試飲し, 横軸を色の濃さ(赤茶⇔黄緑), 縦軸を透明度(濁り⇔透明)として試料をマッピングした. なお, ここでいう色の濃さや透明度は, あくまでも実験者の主観的な判断に基づくもので, 物理的な値ではない. 14種類の中から機能性食品は, 目的の違いと特異的な香味を理由に除外し, さらに類似色の中に異なる味の特徴を持つものを取り上げるようにし, 最終的に色と味に特徴のある5種類の緑茶飲料を選出した(図1).
(3)評価手続き
1)評価項目
実験者同士で用語を収集・整理し, さらにKJ法によるグループ化を行い, 評価項目に使用する用語を決定した.
評価項目は, 試料ごとに「見た目」と「味」に対して, それぞれ i)香りが強い, ii)お茶らしい, iii)すっきりしている, iv)甘い, v)渋い, vi)苦い, vii)旨味がある, viii)酸っぱい, ix)味が濃い, x)後味が良い, xi)バランスが良い, xii)好きの12項目について, 「1.当てはまらない」~「5.当てはまる」の5段階で回答を求めた.
2)試料の提示方法
試料は, 記号(P~T)を付けた透明のプラスチック容器に約70mlずつ入れ, 白色の紙を敷いたトレイにランダムに並べた. また, 順序効果を考慮し, 飲む順序を同一方向に指定して評価を求めた. さらに, 1試料ごとに12項目を評価し, その後に次の試料を評価するよう指示した. “香りが強い”の項目では, 「見た目」では, においを嗅がずに見た目で印象を評価すること, 「味」では, 口に入れた時の香りを評価するよう解説を加えた.
(4)統計処理
各試料の「見た目」と「味」の評価得点について, 対応のあるt検定を用いて比較した. また, 「見た目」と「味」のデータを合わせて, 横(評価項目12)×縦(緑茶の種類5×パネル 25×飲む前後2)に編成し, 主成分分析を実施した. さらに主成分得点について, 「飲む前後(見た目と味)」と「緑茶の種類(5種類)」の二要因を独立変数とする, 繰り返しのある二元配置分散分析を行った.
解析にはSPSS 12.0J, およびJavaScript-STARversion4.4.4jを使用した.
試料のマッピング
(1)「見た目」と「味」の評価得点の比較
各緑茶飲料における「見た目」と「味」の評価得点の比較を表1に示した. 緑茶飲料によって, 有意差のある項目に違いがみられた. 色の濃い緑茶Pは, 「見た目」と「味」に有意差は全く無かった. 中間色の緑茶Q, 濁りのある緑茶R, やや薄めの色の緑茶Sにおいては, 有意差の認められた項目は, 全て「見た目」の得点が高かった. しかし, 一番色の薄い緑茶Tでは, 有意差の認められた項目のうち, 香りが強い(t(24)=2.89, p<0.01), 渋い(t(24)=2.65, p<0.05), 苦い(t(24)=2.75, p<0.05), 好き(t(24)=2.24, p<0.05)は, 「味」の得点が有意に高かった.
(2)「見た目」と「味」の主成分分析
「見た目」と「味」のデータを合わせて主成分分析を行い, 固有値が1.0以上の基準で主成分数を決定したところ, 主成分数は3つになった(表2参照). 主成分負荷量を基に, 第1主成分を「味や香りの濃さ」の因子, 第2主成分を「好み」に関わる因子, 第3主成分を「酸味」の因子と命名した.
(3)主成分得点の比較
それぞれの試料ごとに, 飲む前(見た目)と飲んだ後(味)の各主成分得点の平均値を求めた(図2, 3, 4参照). 次に, 各主成分得点を従属変数とし, 「飲む前後(見た目と味)」と「緑茶の種類(5種類)」の二要因を独立変数とする, 繰り返しのある二元配置分散分析を行った. 「味や香りの濃さ」は, 主効果「緑茶の種類(F(4, 96)=55.54, p<0.01)」, 交互作用(F(4, 96)=3.61, p<0.01)において有意差が認められた. 「好み」は, 主効果「飲む前後(F(1,24)=15.09, p<0.01)」, 「緑茶の種類(F(4, 96)=5.14, p<0.01)」, 交互作用(F(4, 96)=6.14, p<0.01)において有意差が認められた. 「酸味」では, 主効果, 交互作用ともに有意差は認められなかった.
(4)交互作用の下位検定
交互作用で有意差が認められた「味や香りの濃さ」, 「好み」について, 水準ごとに単純主効果を分析した.
「味や香りの濃さ」では, 要因「飲む前後」の緑茶T水準において単純主効果が有意であった(F(1, 24)=15.61, p<0.01). 緑茶Tは, 見た目よりも実際飲んだ味の方が「味や香りの濃さ」の得点が高かった. また, 要因「緑茶の種類」では, 見た目(F(4, 96)=61.73, p<0.01), 味(F(4, 96)=18.60, p<0.01)の水準ともに有意差が認められた. Tukey HSD法による多重比較の結果, 見た目, 味ともに, 緑茶Pの「味や香りの濃さ」の得点が最も高く, 緑茶Tの得点が低かった([見た目:P>Q・R・S・T, Q>T, R>Q・S・T, S>T], [味:P>Q・R・S・T, R>T])
「好み」では, 要因「飲む前後」の緑茶Q(F(1, 24)=5.77, p<0.05), 緑茶R(F(1, 24)=8.70, p<0.01), 緑茶S(F(1, 24)=14.31, p<0.01), 緑茶T(F(1, 24)=5.33, p<0.05)の水準において単純主効果が有意であった. 緑茶Q・R・Sは, 見た目より味の得点の方が低かったが, 緑茶Tは, 見た目より味の得点の方が高かった. また, 要因「緑茶の種類」では, 見た目(F(4, 96)=14.51, p<0.01)の水準において有意差が認められ, 見た目の「好み」では緑茶間に差がみられた(多重比較Tukey HSD法:Q>P・T, R>T, S>P・T). しかし, 実際に飲んだ味の水準では有意差はみられなかった(図3).
各緑茶飲料における「見た目」と「味」の評価得点の比較
主成分分析
第1主成分「味や香りの濃さ」
第2主成分「好み」
第3主成分「酸味」
本研究ではペットボトル緑茶飲料を対象として, パッケージの印象を除外した飲料自体の見た目の印象と, 実際に飲んだ味の一致性について検討した. その結果, 一番色の濃い緑茶飲料(P)は, 飲む前後の「味や香りの濃さ」や「好み」において差はなかったが, 一番色の薄い緑茶飲料(T)の場合は, 飲む前後で差がみられ, 見た目より味の評価が高かった. 従って, 色の濃い緑茶飲料は, 見た目の印象と, 実際に飲んだ味が一致し, 色の薄い緑茶飲料は, 見た目の印象と, 実際に飲んだ味が一致しないことが示唆された.
見た目では, 一番色の濃い緑茶飲料(P)は, 緑色の緑茶飲料(Q・S)に比べて好まれなかった. また, 一番色の薄い緑茶飲料(T)の場合も, 見た目では, 「味や香りの濃さ」「好み」ともに他の緑茶飲料より評価が低かった. 齋藤ら(2007)は, ペットボトル緑茶飲料のパッケージカラーが味覚印象に及ぼす効果を調べた結果, 緑は爽快感や飲みやすさを感じる色として最も好まれ, 茶や黒は渋みや味が濃く感じる色としてあまり飲みやすさを感じる色ではなかったと報告している. 本研究における緑茶飲料自体の飲む前の印象においても同様の結果が得られた. つまり, 色の濃い緑茶飲料(P)は「渋い・苦い」印象が強く, 緑色の緑茶飲料(Q・R・S)は色の濃い緑茶飲料(P)に比べて飲みやすく, 好ましい濃さを感じる印象が強かったといえる. 一方, 一番色の薄い緑茶飲料(T)の場合は, 見た目では「味や香りの濃さ」「好み」ともに他の緑茶飲料より評価が低く, 物足りなさを感じていると推察された.
しかし, 実際に味わった後では, 一番色の薄い緑茶飲料(T)に香りや渋さ, 苦さがある程度感じられたことで, 味の好みの評価が上昇している. 白杉と間處(2002)は, ペットボトル緑茶飲料の味に対する嗜好性を研究した結果, 大学生・専門学校生が, ペットボトル緑茶飲料を選択する基準は, 「味」が最も多いが, 実際の味を重視して選んでいる者は全体の32%, 商品のイメージで選択している者は全体の約1/3であることを確認している. したがって, 緑茶飲料の色や, 容器のデザイン, 商品名から受ける印象で緑茶飲料を選ぶ者にとっては, 色の薄い緑茶飲料は, 実際の味と予測が異なる場合があることが考えられた.
池田ら(2002)は, 緑茶飲料に対して, 急須で入れる緑茶の飲用頻度の高いパネルは「本格感・濃さ」および「香り」の強い調製が望ましく, 急須で入れる緑茶の飲用頻度の低いパネルでは「飲みやすさ」および「甘味・まろやかさ」の強い調製が望ましいとの結果を得ている. したがって, 本研究において, 実際に味わった後の「味や香りの濃さ」では緑茶飲料間に差があり, 「好み」では差がなかったことは, パネルの緑茶飲料の好みが多様であったと推察される.
今後は, 実際の商品パッケージと緑茶飲料を対応させて味覚の評価を行うなど, 商品のイメージが実際の味覚に及ぼす影響について検討することが課題として考えられた.
官能評価ワークショップにおいて, 著者らのグループのコーディネーターとして多大なるご指導を賜りました, 首都大学東京 市原茂先生に深くお礼申し上げます.
また, ワークショップでご指導いただきました, 東京農業大学 澤山茂先生, 日本穀産(株) 小塚彦明先生, 立正大学 櫻井広幸先生, キューピー(株) 三尋木健史先生に深謝いたします.