日本官能評価学会誌
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論文
ピューレ状食品に用いた異なる増粘剤の飲み込み特性の評価
高橋 智子川野 亜紀大越 ひろ
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1998 年 2 巻 1 号 p. 21-27

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1. 緒言

粘稠な液状食品の口内感覚については, 多くのデータが蓄積されている。例えばWood(1968)は, 人の液状食品の粘性をずり速度50(s-1)程度で知覚すると報告し, Sherman(1977)は, 多様な液状食品について口中で知覚される粘性を, ずり応力とずり速度の範囲として示している。Morris and Taylor(1982)は, さらに測定ずり速度の範囲を拡大し, 液状食品の口中で知覚される粘性とずり速度の関係を報告している。これらの報告において, 口中で知覚される粘性は, 官能評価の手法を用いて評価されているが, 嚥下, すなわち飲み込み特性に着目した研究はみあたらない。

そこで, 本研究は飲み込み特性に着目し, 官能評価を行った。日常的によく飲用されている液状食品に, 嚥下補助食品として代表的な4種の市販増粘剤を添加し, ヨーグルト程度の硬さに揃えたピューレ状食品を試料として官能評価に用いた。今回は, 硬さをテクスチヤー特性の指標としたが, これは他のテクスチャー特性である凝集性および付着性が指標として適切でないと考えられたからである。すなわち, 凝集性は粘稠な液状食品において大きな差異が認められず, 付着性は硬さとほぼ同様の傾向を示すという理由による(高橋 1997)。また, 試料の硬さをヨーグルト程度に設定したのは, ヨーグルトが嚥下や摂食機能に障害を持つ人のリハビリテーションの初期段階でよく用いられ(尾本 1993), 比較的飲み込み易い食品の代表と考えられるためである。官能評価の方法として, 食品分野でよく用いられる代表的方法である順位法とシェッフェの一対比較法(芳賀変法)(芳賀 1962)の2つの方法を独立に用い, 市販増粘剤の飲み込み特性について検討を行った。ここに, 若干の知見が得られたので報告する。

2. 実験方法

(1) 試料

用いた市販増粘剤の粘稠性発現の主原料は, 表示によると増粘剤Aは増粘多糖類とでんぷん, 増粘剤Bは増粘多糖類である。増粘剤A, Bに共通する粘稠性発現物質は増粘多糖類であり, この物質は既報(高橋 1997)によりグアガムと推測できる。増粘剤Cは加工澱粉, 増粘剤Dはコーンスターチと表示され, ともに粘稠性発現の主原料が澱粉である。

以上の増粘剤4種を, 以下の日常的によく飲用されている液状食品に添加し, 試料とした。液状食品は水(蒸留水), オレンジジュース(天然果汁ソフト Type POM, 愛媛県青果農業協同組合連合会, 以後ジュースと称す), 牛乳(明治3.5牛乳, 明治乳業)および清汁(3%かつおだし, 食塩添加量0.7%)の4種である。20℃に設定した各液状食品に各々増粘剤を振り入れ, 手動で60回/分の速さで1分間混合したものを30分開放置し試料とした。なお, 試料の硬さを揃えるための指標として, 市販のプレーンヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルトプレーン:明治乳業, ナチュレヨーグルト:雪印乳業)の硬さを用いた。

(2)機器によるテクスチャー特性(硬さ)の測定

テクスチャー特性の硬さはレオロメータ・マックス(RX-1700, アイテクノkk製)を用い, 定速運動圧縮法により, 圧縮速度60cm/分で測定を行った。試料の厚さ1.5cm, クリアランス5mm(圧縮量1.0cm)に設定した。プランジャーは直径2.0cmのものを用いた。得られたテクスチャー記録曲線より大越(大越 1995)の方法によりプランジャー面積の影響を考慮して硬さを算出した。

(3)官能評価

順位法による評価は, 12名のパネリストが各々1組の試料を評価した(n=12)。試料は各液状食品ごとに4種類の増粘剤添加試料をラテン方格に従いトレー上に配置し提示した。評価順序は, 舌触りのなめらかさ(なめらかなものを1位), 風味(風味のよいものを1位), べたつき感(べたつくものを1位), 飲み込み易さ(飲み込み易いものを1位), 口中における残留感(多いものを1位)および総合評価(好ましいものを1位)とした。順位法の検定は, フリードマンの検定を行い, さらに2つの試料間の差について正規分布による近似を用いて検定を行った。(ISO8587:1988, Sensory analysis-Methodology-Ranking)。

シェッフェの一対比較法による評価は, 芳賀変法により両極7点法を用い, 24名のパネリストが各々3組の試料を評価した(n=12)。試料は各液状食品ごとに4種類の増粘剤添加試料の中から2種類づつ取りだして, トレー上に配置し提示した。評価順序は順位法と同様, 舌触りのなめらかさ(+3:非常になめらか←→ -3:非常にざらつく), 風味(+3:非常に風味がよい←→ -3:非常に風味が悪い), べたつき感(+3:非常にべたつく←→ -3:非常にさらりとしている), 飲み込み易さ(+3:非常に飲み込み易い←→ -3:非常に飲み込みにくい), 口中における残留感(+3:非常に残留感が多い←→ -3:非常に残留感が少ない)および総合評価(+3:非常に好ましい←→ -3:非常に好ましくない)とした。

官能評価は, 順位法, シェッフェの一対比較法の順に独立で行った。2つの手法において, パネリストは訓練された本学食物学科学生を用いた。試料の提示時の温度を20℃とし, 室温22~23℃で個室法により評価を行った。いずれの試料も透明ポリエチレン樹脂カップに30mlづつ分注し, ポリエチレン樹脂製の定量スプーンを用い約10mlを一口で飲み込んで評価してもらった。その際, 評価開始の直前および試料間に蒸留水による口ゆすぎを行った。評価結果は, 試食した際の印象を記憶法により評価項目ごとに記入してもらった。

Table 1

Hardness of samples

3. 結果及び考察

(1)増粘剤添加試料のテクスチャー特性

官能評価に用いた試料の硬さの測定値をTable 1に示した。いずれの試料も市販ヨーグルトの硬さである3.70~4.28N/m2の値を示している。

(2)官能評価

Table 2に順位法より得られた順位合計と, フリードマンテストより得られたF値の検定結果を示した。舌触りのなめらかさでは, 牛乳添加試料のみに5%の危険率でF値に有意差が認められたが, 風味では, 全ての試料において1%の危険率でF値に有意差が認められた。べたつき感では, 牛乳および清汁添加試料において1%の危険率でF値に有意差が認められた。飲み込み易さでは, 水およびジュース添加試料において5%の危険率, 牛乳および清汁添加試料において1%の危険率でF値に有意差が認められた。残留感では水添加試料において5%の危険率牛乳および清汁添加試料において1%の危険率でF値に有意差が認められた。総合評価では, 全ての試料において1%の危険率でF値に有意差が認められた。以上の結果より, 順位法では風味と総合評価において, 4種類の試料間には特性の差が顕著に認められた。

Table 3にシェッフェの一対比較法より得られた特性に対する評点の平均推定値, および主効果の検定結果を示した。なお, 組合せ効果はいずれの場合も認められなかった。舌触りのなめらかさでは, 水および牛乳添加試料において5%の危険率, ジュース添加試料では1%の危険率で主効果に有意差が認められた。風味では, 牛乳添加試料において5%の危険率, 水およびジュース添加試料では1%の危険率で主効果に有意差が認められた。べたつき感, 飲み込み易さ, 残留感および総合評価で, 全ての試料で1%の危険率で主効果に有意差が認められた。

Fig. 1に, 舌触りのなめらかさに対して, 順位法より得られた各試料の順位合計の差の検定結果, およびシェッフェの一対比較法より得られた各試料の平均推定値の差の検定結果を示した。牛乳添加試料で2つの手法ともに増粘剤B添加試料(以後試料Bと称す)が, 増粘剤D添加試料(以後試料Dと称す)に比べざらつくと評価された。水およびジュース添加試料は, シェッフェの一対比較法のみに有意差が認められており, 牛乳添加試料で, なめらかであると評価された試料Dが, 増粘剤A添加試料(以後試料Aと称す)に比べ, ざらつくと評価された。また, 増粘剤C添加試料(以後試料Cと称す)のなめらかさは添加する液状食品により異なった。以上のことより, 舌触りのなめらかさは, 増粘剤を添加する液状食品により異なることが認められる。

Fig. 2に風味に関する評価結果を示した。2つの手法ともに水, 牛乳およびジュース添加試料で試料CがBに比べ, 風味が良いと評価された。また, ジュース添加試料で試料AがBに比べ, 風味が良いと評価された。このことは, オレンジジュースの香りと酸味が試料Aの風味をマスキングし, 試料Bよりも風味が良いと評価したためと思われる。清汁添加試料は, 順位法のみに有意差が認められており, 試料C, DがBに比べ, 風味が良いと評価された。これらの結果からは, 試料Aと他試料の間に明確な風味の差は認められなかった。

Fig. 3にべたつき感に関する評価結果を示した。2つの手法ともに牛乳および清汁添加試料で, 試料A, BがC, Dに比べ, べたつくと評価された。一方, 水およびジュース添加試料は, シェッフェの一対比較法のみで有意差が認められており, 試料A, BがC, Dに比べ, べたつくと評価された。

Fig. 4に飲み込み易さに関する評価結果を示した。2つの手法ともに全ての試料で, 試料CがBに比べ, 飲み込み易いと評価された。清汁添加試料で, 試料CがA, Bに比べ, 飲み込み易いと評価された。水, 牛乳およびジュース添加試料で, 試料C, D はBに比べ, 飲み込み易いと評価された。しかし, ジュース添加試料では, 試料Aの評価が2つの手法で異なる結果となった。順位法では, 試料AはBに比べ, 飲み込み易いと評価されたが, シェッフェの一対比較法では, 試料AとBの平均嗜好度間に有意差が認められず, 試料C, Dに比べ飲み込みにくいと評価され, 順位法と異なる結果が得られた。

Fig. 5に残留感に関する評価結果を示した。2つの手法ともに水, 牛乳および清汁添加試料で, 試料BがC, Dに比べ, 残留感があると評価された。一方, ジュース添加試料で, シェッフェの一対比較法のみに有意差が認められており, 試料A, BがC, Dに比べ, 残留感があると評価された。残留感はべたつき感とほぼ同様の傾向を示し, このことより口中でべたつくものは残留感があることが推察される。

Fig. 6に総合評価に関する評価結果を示した。2つの手法ともに全ての試料で, 試料CがBに比べ, 好ましいと評価された。しかし, 牛乳添加試料では, 試料AがCに比べ, 好ましくないと評価されたが, ジュース添加試料では, 試料AがC, Dと同程度に好ましいと評価された。また, 水およびジュース添加試料で, 試料DはCと同様, Bに比べ, 好ましいと評価された。また, 総合評価は風味および飲み込み易さ(シェッフェの一対比較法のジュース添加試料を除く)の評価とほぼ同様の傾向が得られている。

以上2つの手法から得られた共通の評価は, 試料CはBに比べ, 風味が良く, べたつき感が少なく, 飲み込み易く, 残留感も少なく, 総合的に好ましいという結果であった。このことは, 液状食品に粘稠性を付与するものとして, 加工澱粉を主原料とする増粘剤の方が, 主原料がグアガムである増粘剤に比べ, 飲み込み特性が優れていることを示唆している。2つの手法において, オレンジジュースのように独特の香りと酸味のある液状食品に添加した場合, 他の液状食品に比べ, 増粘剤Aの風味が良いと評価されている。また, 増粘剤Aの飲み込み易さは, 順位法で風味と同様の傾向を示し, 飲み込み易さには, 風味の影響が大きいことが認められた。いずれの増粘剤を添加した場合でも2つの手法において, べたつき感と残留感の評価は同様の傾向が得られ, シェッフェの一対比較法において飲み込み易いものは, べたつき感が少なく, 残留感も少ないという評価が得られた。また, 頂位法において飲み込み易さは, 嗜好型評価の風味とほぼ同様の結果が得られたことより嗜好型評価として判断され, 一方, シェッフェの一対比較法において飲み込み易さは, 分析型評価のべたつき感, 残留感とほぼ同様の評価が得られたことより分析型評価として判断されたと推測される。

本研究では, 順位法とシェッフェの一対比較法の2つの手法を用いて, ピューレ状食品の飲み込み特性を評価した。順位法はシェッフェの一対比較法に比べ, 実験回数, 試料の量およびパネリストの数が少ないという特徴がある。本研究においては, 比較する試料数が4個とそれほど多くなかったので, 順位法でも評価方法の繁雑なシェッフェの一対比較法と若干の違いがあったがほぼ同様の結果が得られた。

Table 2

Rank sums and the analyses of the Friedman test obtained by the Ranking

Table 3

Main effects and F value obtained by the Scheffé's paired comparisons

Fig. 1

Results of the Ranking and the Scheffé's paired comparisons for the smoothness

n.s.: not significant, *: significant at p<0.05, **: significant at p<0.01

Fig. 2

Results of the Ranking and the Scheffé's paired comparisons for the flavor

n.s.: not significant, *: significant at p<0.05, **: significant at p<0.01

Fig. 3

Results of the Ranking and the Scheffé's paired comparisons for the thickness

n.s.: not significant, *: significant at p<0.05, **: significant at p<0.01

Fig. 4

Results of the Ranking and the Scheffé's paired comparisons for the swallowing

*: significant at p<0.05, **: significant at p<0.01

Fig. 5

Results of the Ranking and the Scheffé's paired comparisons for the remaining in the mouth

n.s.: not significant, *: significant at p<0.05, **: significant at p<0.01

Fig. 6

Results of the Ranking and the Scheffé's paired comparisons for the overall judgement

*: significant at p<0.05, **: significant at p<0.01

4. 要約

本研究は, 日常的によく飲用されている液状食品に, 嚥下補助食品としての代表的な4種の市販増粘剤を添加し, ヨーグルト程度の硬さに揃えたピューレ状食品について官能評価を行い, 飲み込み特性について検討した。官能評価方法は, 順位法(フリードマンの検定)とシェッフェの一対比較法(芳賀変法)の2つの手法を用いた。

1)澱粉を主原料とする増粘剤は, グアガムを主原料とする増粘剤に比べ, 風味が良く, ベたつき感が少なく, 飲み込み易く, 残留感も少なく, 総合的に好ましいという評価が得られ, 飲み込み引用文献特性が優れていることが示唆された。

2)オレンジジュース添加試料と他の液状食品添加試料の風味について異なる評価が得られ, 順位法では飲み込み易さは風味と同様の傾向を示した。このことから, 飲み込み易さには, 風味の影響が大きいことが認められた。

3)2つの手法でべたつき感と残留感の評価はほぼ同様の傾向が得られ, シェッフェの一対比較法では飲み込み易いものは, べたつき感が少なく, 残留感も少ないという評価が得られた。

4)本研究においては, 順位法でも評価方法の繁雑なシェッフェの一対比較法と若干の違いがあったがほぼ同様の結果が得られた。

本研究を進めるにあたり, ご指導賜った東横学園女子短大 茂木美智子教授に深く感謝いたします。

本研究は, 平成8年度厚生科学研究費補助金(健康政策調査研究事業)による研究に基づいて執筆されたものである。

引用文献
 
© 1998 日本官能評価学会
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