日本官能評価学会誌
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論文
外空間と内空間における女性服装の適合度
内田 直子小林 茂雄長倉 康彦
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1998 年 2 巻 1 号 p. 29-37

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1. はじめに

人が場にあった服装を心がけようとすることは, 日常経験することである。服装が場に「相応しい」「相応しくない」とはどういうことであるのか。換言すれば, どんな場にどんな服装があっていると感じ, また場違いとも感じているのであろうか。

このような「服装」と「場」の関連の研究は, 文化人類学では服装の社会的・文化的意味の視点から(西江, 1980), 社会心理学では, 集団と関わりなど社会的相互作用の視点から(S・B・カイザー, 1994)述べられているものがある。しかし, 場を構成する要素は, 「行動, 概念, 物理的属性の関連したもの」(デイヴッド・カンター, 1982)といわれるように, 行動, 概念だけでなく建築空間, 地域空間など建築物や街の雰囲気などによるところも大きいと考えられる。

本研究では, 「場」を「街や室内にあるまとまりのある空間, 雰囲気のある空間, または他と区別出来る空間」と, さらに「それらの空間上に人々が集まって作る状況」と定義した。本稿では, このについて, 建築空間, 地域空間を包括する「生活空間」の視点から, 日常, 人々が行動している野外空間(以下「外空間」), 室内空間(以下「内空間」)における「場」と「服装」の関連を実験的に明らかにするものである。なお, 「場」には昼夜, 季節などの時間要因も考えられるが, ここでは時間軸を外し, 日中を前提としている。

空間把握の研究は, 従来イメージ評価の研究が多く蓄積されている。本研究も場と服装の関係をマクロ的にかつ定量的にみるものであるため, イメージ評価の視点から検討した。外空間として, 景観のイメージ研究は, 主に街路, 街並研究が主流である。街路景観のイメージ(心理量)と構成要素(物理量)の関係を定量的に捉えている研究(船越・積田, 1983, 1986, 1987), 駅舎と周辺街並の物理的属性と評価特性の関係を意味論的な視点から明らかにした研究(志水等, 1992, 1993; 山口等1995)がある。内空間では, 外空間ほど研究がなされておらず, 執務空間における快適性の研究(乾等, 1989)がまとまった研究としてみられる程度である。

服装の心理的な印象に関する研究も多くの蓄積があり, 大きく分けて服装のイメージとデザインとの関係を論じている研究(渡辺等, 1991, 1993), 服装とパーソナリティの関連性を論じている研究(神山, 1982)がみられる。

以上から, 空間評価に関わる研究, また, 服装評価に関わる研究はそれぞれに蓄積されていても, この両者にまたがる生活空間的な場と服装の関係に直接着目した実験的手法の研究は, 管見の限り見当たらない。

本稿は, 景観と室内のイメージ評価と服装のイメージ評価を一つの尺度として用い, 場と服装の関係の総体的特性を導き出そうとするものである

2. 研究概要

本研究では, 「外空間」である景観のイメージ, 「内空間」である室内のイメージ, そして服装のイメージの各々の特性を明確にするため, 第1段階で, 実験1として場と服装の試料を各々選定する実験を行い, 第2段階で, 実験1で得た試料同士のマッチングをして場と服装の適合度の実験を行った。

3. 実験1

試料選定のための実験

3. 1 「空間」の場合

(1) 実験用写真試料

「空間」を「外空間」と「内空間」に分類し, 人のいない「外空間」と「内空間」を平成8年7~10月の間にカラー写真約1,400枚撮影し, その中から鮮明な898枚を選定した。次にそれらの空間をスペース, スペース付設物などの空間構成要素の分類に基づいて265枚に選定し, さらにその属性に偏りがないよう考慮のうえ「外空間」, 「内空間」各々40枚を選定し評価対象場面とした。

(2) 評価用語

本実験で用いた空間についての評価用語は, 環境心理学領域に関連している先行研究(大井等, 1993; 積田, 1993; 船越・積田, 1983, 1986, 1987; 松本等, 1991, 1992)から本研究において空間を捉えるのに的確と判断される用語を選定した。但し, 「内空間」においては, 先行研究(佐藤等, 1991; 宇治川, 1995)が少なく, 今回の撮影した「場」にすべてあてはまる言葉がないため, 「外空間」の用語を参考に追加作成した。

(3) 実験方法

試料選定で選定した「外空間」, 「内空間」各40枚の写真をそれぞれについて, 前述した形容語15対7段階評価尺度のSD法により評価させた。被験者は男女大学生171名でその内訳は, 男性21名/女性150名, 建築系42名/非建築系129名である。建築系学生は留め置き法で, その他は教室にて集合調査法により実施した。実験日は, 平成8年12月~平成9年1月に行った。

(4) 結果

「空間」に関しては, 建築系と非建築系では評価に違いがあるという報告もあるので(志水等, 1992), まず, 建築系と非建築系に分けて因子分析を試みた。しかし同じ因子構造がみられたので, 本研究では形容語を変数に, 写真を観測回数とし, 全被験者の評定平均値を用いて主因子法による因子分析を試みた。そして, スクリュー法, バリマックス回転によって因子抽出をした結果, 「外空間」は「審美性」, 「親近感」, 「現代性」, 「複雑性」の4因子, 「内空間」は「調和性」, 「親近感」, 「整然性」の3因子が抽出された(Table 1)。なお固有値の減衰状態はFig. 1のとおりである。

X軸に第1因子を, Y軸には第2因子, 第3因子, 第4因子とし, この2因子で構成される2次元上に, 因子得点をもとに40枚の写真を布置し, 各軸上の両極と原点から1種ずつ選定した。この時, 例えば第1因子-第2因子上では計5枚が選定され, 以下同様に行うと「外空間」は15枚, 「内空間」では10枚が選定されることになる。しかし, Y軸の因子を変えてもX軸上の場の布置に変化がなかった場合があり, そのため「外空間」12枚, 「内空間」9枚を適合実験用の刺激として選定した(Fig. 2)。

Fig. 1

Convergence of eigenvalues on places

Table 1

Factor loadings of image evaluation factors about places

Fig. 2

Selected photographs of places and main adjective phrases explaining them

3. 2 「服装」の場合

(1) 実験用写真試料

「服装」については, 最近の様々な服装の写真をファッション雑誌などから545枚の女性スタイルを無背景の接写撮影をした。その中で服装評価として原本写真と雰囲気が違ってしまったものなど, 不適切なものを省き475枚を選定し, 服装のフォーマルからカジュアルの要素を考慮しながら, さらに最終的には40枚を選定した。

(2) 評価用語

「服装」の評価用語は, 被服心理学領域に関連している先行研究(吉岡, 1985; 石塚等, 1987;藤原, 1987; 中川等, 1989; 渡辺等, 1991, 1993)を参考に形容語を作成した。

(3) 実験方法

試料選定で選定した「女性服装」40枚の写真を, 前述した形容語15対7段階評価尺度のSD法により評価させた。被験者は男女大学生118名でその内訳は, 男性20名, 女性98名である。実験は空間と同様な方法で平成8年12月~平成9年1月に行った。

(4) 結果

「服装」では, 男女によって服装の捉え方が異なることが想定されたので, 最初に男女別に因子分析を試みた。しかし, この因子構造は男女間には差はなかったので, 「空間」の場合と同様の方法で因子抽出をした結果, 「フォーマル性」「装飾性」の2因子が抽出された(Table 2)。なお固有値の減衰状態はFig. 3のとおりである。

この2因子からなる2次元上に因子得点をもとに写真40枚を布置し, 第1因子と第2因子から構成された第1象限から第4象限の各象限と原点から2種ずつ, 各軸上の両極からそれぞれ1種ずつ選定した。その結果, 「女性服装」14枚を適合実験用の刺激として選定することができた(Fig. 4)。

Table 2

Factor loadings of image evaluation factors about women's clothes

Fig. 3

Convergence of eigenvalues on women's clothes

Fig. 4

Selected photographs of women's clothes and main adjective phrases explaining them

4. 実験2「場」と「服装」の適合度の実験

4. 1 実験の概要

実験1で選定した「女性服装」の写真について, 「外・内空間」21場面を1枚ずつ照合させ, その適合度合いを「あっている」「ややあっている」「どちらでもない」「ややあっていない」「あっていない」の5段階で評定させた。

被験者は, 大学生183名(女子112名, 男子71名)である。女子学生は教室にて集合調査法で, 男子学生は留め置き法で, 平成9年4月下旬~5月中旬にかけて行った。

4. 2 実験結果と考察

(1)「外空間」と「女性服装」との関係

Fig. 5は, 選定した14種の服装No.1~No.14を, 先の因子分析の結果をもとに, 評価用語によって置き換えて分類したものである。この各服装について, 外空間の12箇所の環境に対してどの程度適合しているかの官能評価をしてもらい, 全被験者の平均値をプロットしたものである。

場の平均値の分散状況はTable 3に示すように各特徴にあわせて6タイプが考えられる。ただし, 今回の「外空間」の評価ではType1の適合型はなく, Type2~Type6の5タイプに分類された。

Type2の不適合型のように, 場に「あっていない」にプロットされている服装は, 場に対して服装選択の余地がないものであり, 12の場の評定平均値もNo.5は4.71, No.6は4.47と「あっていない」のラインに近くその傾向が顕著である。

Type3の不明確型は, 場の評価が「どちらでもない」に集中している。つまり適合感もなければ, 違和感もなく, 場に対して対応が決まっていない特徴の無い服装ともいえる。Type4の広範型は, 「あっている」から「あっていない」まで万遍無く場が存在する。適合感, 違和感を場によって感じさせる特徴があり, Type 3の不明確型の対応をより強くしたものと考えられる。Type5の明瞭型は, No.3のように, 場が二極に分離しているものは, 「あっている場」と「あってない場」の差が顕著で, 「あっている場」に着用すれば, 非常に相応しく違和感の無い服装であるのが, 一つ間違えると全く場違いな服になってしまう, 服装の二面性を持っていることが伺える。Type6の一部逸脱型であるNo.12などは, Type2の不適合型の変形と捉えることができ, 基本的には「あわない場」がほとんどであるが, 一部の場所だけその度合が緩和され, 特定な場に限定的な服装と考えられる。

(2)「内空間」と「女性服装」との関係

「内空間」との適合パターンは, Type1の適合型と「外空間」にはあったType3の不明確型はなく, 4タイプに分類された(Table 3)。

Fig. 6を見ると, どの因子別服装グループも必ず一つは「あっている」側の場がみられ, その分, Type2の不適合型は, 「外空間」より種類が減少している。Type4の広範型は, 「外空間」と同一服装のものでも評価範囲が広範囲になり, 「あっていない」側にウェイトが置かれた評価となっている。またType5の明瞭型は, 「あっている」側と「あっていない」側との間に1目盛以上に相当する幅があるものが3種類あり, その開き割合は「外空間」以上であることから, 服装と場との適合度が顕著になることがわかる。Type6の一部逸脱型のNo.3, No.7, No.8はType3の不明確型からの逸脱とも考えられ, ほとんどの「内空間」では「どちらでもない」特徴の服装だか, ある限定された場のみあわない服装である。No.12は逆にType2の不適合型の逸脱で, ある場に限りあう服装であることになる。

(3) 適合パターンの特性

女性服装と外空間の適合関係は5タイプに, 内空間とでは4タイプに分類できたが, 外空間に型が多いのは, 実験1の因子分析の結果にあるように, 空間構成の要素が外空間は4因子から, 内空は3因子から成っている。それは, 外空間は内空間より多様かつ暖昧な空間構造であることになり, そのため, 服装との適合場面も「あう」「あわない」だけではなく, 「どちらでもない」ような暖昧とした場の存在が生じるのではないか。逆に, 内空間では, 空間構成要素が少ない分, 適合タイプも単純化されたものと思われる。そのため, 「内空間」における服装の場に「あう」「あわない」は, 「外空間」以上に顕著な傾向がみられ, 「外空間」で述べた服装の二面性がより大きく左右し, 「あっていない」場に着用すると, 非常に場違いな雰囲気を受けると思われる。

また, 外空間, 内空間ともType1の適合型がないのは, 服装はオールラウンドに場にあうものではなく, いずれかの場に合わせて着装するという特性があることが示唆される。言い換えれば, 日常生活でのT.P.O.の習慣が, 実験的にも明らかにされたといえる。

Table 3

Types of evaluation of clothes to places

Fig. 5

Mean values for the outdoor places on women's clothes

Fig. 6

Mean values for the indoor places on women's clothes

5. 結論

本研究は, 外空間と内空間のイメージ評価と服装のイメージ評価を一つの尺度として用い, 場と服装の関係の総体的特性を導き出そうとしたものである。

因子分析により, 抽出された外空間の4因子, 内空間の3因子, 女性服装の2因子をもとに選定した外空間12枚, 内空間9枚, 女性服装14枚の写真試料を用い, 外・内空間と服装のマッチングをし, 5段階評価を行った。その適合評価パターンは, 女性服装と外空間は5タイプに, 内空間とでは, 4タイプに分類できた。この外・内空間のタイプの差は空間構成要素の種類が異なるため生じるものと考えられた。なお, 外空間, 内空間ともどんな場でも全てあう服装は存在せず, 場の種類によってあう服装は選別されることが示唆された。本稿では, 「女性服装」と「外空間」, 「内空間」の適合のタイプ別の特性をみたが, 次報では, 「外空間」と「内空間」の両者の関係, 個々の場の視点からの検討を報告したい。

引用文献
 
© 1998 日本官能評価学会
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