1999 年 3 巻 1 号 p. 11-19
個人の好みの問題はこれからの商品開発に当たって重要な設計因子となりつつある(長町 1989 1993, 知久 1967)。女性の美しさに対する探究も感性と深いかかわりがあり, 中でも化粧は, 女性にとって日常的な行動として習慣化されているが, 人間の感性に依存するところが大きい。女性の利用する化粧に関係する身近な商品として化粧用のコンパクト(以下コンパクトと略す)がある。市販のコンパクトは, 形や大きさ, 色やデザインにさまざまなものがあり, 消費者はそれらの中から自分の好みに合った商品を求めている。消費者の好みは一流の名の知れたメーカ一品であるか否かやコンパクトケース内の化粧品の種類や携帯性を重視して評価している場合が多い。すなわち消費者は, コンパクトの持ちやすさや鏡の部分の見やすさ以外の因子によって, 品物を選定しているようである。しかし, コンパクトの持ちやすさや見やすさが商品の好みに何らかの形で影響しているはずである。そこで, 女性被験者を対象に最も使いやすいコンパクトの大きさと形状について調べた結果を報告する。
実験には「正方形コンパクト」および「形状が異なるコンパクト」の2種類を, 自作して用いた。市販の化粧用コンパクトは手の平(掌)に当たる部分は化粧品を入れるケースで, このケースのふたの部分に鏡が取り付けられている。しかしここでは化粧品が入る部分に鏡を取り付けたコンパクト(Fig. 1参照)を用いた。作製したコンパクトの形状は2種類とも鏡の部分より枠(ケース)の部分の方が10mm長くなるようにし, ケースの材料には合板を利用した。すなわち, コンパクトは鏡の部分の方が全体のケースの大きさより10mm小さい。そこで, 以下ではケースの大きさをもってコンパクトの大きさと呼ぶことにする。また, コンパクトのケースの外部表面は最終的に#600までの紙やすりによってなめらかな仕上げを行った。
(1)正方形コンパクトの場合
Fig. 1に用いた正方形コンパクトの形状を, Table 1にはその寸法の一覧を示す。作製したコンパクトは厚さが20mmで大きさが30mm角から約10mm飛びに160mm角までの15個であり, ケースは合板を張り合わせその中に所定の大きさの鏡(Fig. 1のハッチング部)をはめ込んだものを用いた。
(2)形状の異なるコンパクトの場合
(1)の結果で後述するように, 正方形コンパクトでは全被験者を平均すると一辺の長さが73mmの場合にもっとも使いやすいコンパクトであることが明らかとなる。そこでこの一辺が73mmの正方形コンパクトと同一面積で, 形状がFig. 2のような8種類のコンパクトを作製した。この場合にもコンパクトの厚さは20mmであり, 鏡とケースとの大きさの関係は, Fig. 1の場合と同様にした。Table 2にその寸法を示す。Table 2には, コンパクトのケースの縦の長さをb, ケースの横幅をc, ならびにケース内の鏡の縦の長さをLおよび横の幅をVとしたときの各コンパクトのL/V値も示した。コンパクトの形状は, 鏡に映る顔の像(顔の半分)の大きさを考慮して, コンパクト(A)の鏡の辺Vは各被験者の外眼角幅の平均値の約半分の値に, コンパクト(F)の鏡の辺Lは眉―唇間距離の平均値の約半分の値に設定した。コンパクト(C)は正方形コンパクト(D)とコンパクト(B)の中間に設定した。コンパクト(E)~(G)はコンパクト(A)~(C)を横長にしたものである。
2. 2 実験手順実験では, 最初に正方形コンパクトを用いた場合に対して, 被験者が最も使いやすい大きさを求め, ついで形状の異なるコンパクトを用いて最も使いやすい形状を求めた。いずれの実験の場合にも, 持ちやすさ, 見やすさ, および持ちやすさと見やすさを含めた評価としての使いやすさの3因子によってコンパクトとしての特性を求めた。ここで持ちやすさおよび使いやすさの評価の場合には, コンパクトを使う状態を想定して, Fig. 3(a)のように片方の手にのせて評価を行った。一方, 見やすさの評価は, 手による持ちやすさの影響を受けないように, Fig. 3(b)のように, 両手でコンパクトのケースの左右の端を持った状態で評価した。評価にはSD法を用い, SD法の評価尺度には, 大変良い(+2), 良い(+1), どちらともいえない(0), 悪い(-1), 大変悪い(-2)の5段階を設け, 括弧内に示すように数値化して評定を行った(神宮 1996, 増山 1996, 増山ら 1989)。なお, 以下では, コンパクトのケースの部分の持ちやすさを「コンパクトの持ちやすさ」, コンパクトの鏡の部分の見やすさを「コンパクトの見やすさ」, 持ちやすさと鏡の見やすさを両方考慮した場合のコンパクトとしての総合評価を「コンパクトの使いやすさ」と記すことにする。
実験に際しては, 最初に, 使用するすべてのコンパクトを被験者に数分間呈示し, 全体を一通り手に触れ, 鏡を覗いてもらった。また, コンパクトは大きさが同程度のものが連続しないようにランダムに提示した。なお, 被験者はいずれの実験においても18歳から24歳までの女子大生16名であった。

Configuration of square compacts.

Dimensions of the various shape of compacts.

Size of square compacts.

Dimension of the various shape of compacts.

Sensory evaluation methods for the compacts.
30mm角から160mm角までの大きさの正方形コンパクトを手で持ったときの持ちやすさ, 鏡に映したときの見やすさ, および使いやすさについて, 16人の被験者について調べた。その代表例として, 被験者Bの結果をFig. 4に示す。図には手に持った時の持ちやすさ(白丸), 鏡の部分だけを見たときの見やすさ(黒丸), および使いやすさ(白三角)それぞれとコンパクトの大きさ1との関係を示す。その結果, 被験者Bは1=65~80mmの大きさのコンパクトを最も持ちやすいと評価した。この場合に, 鏡の部分の大きさはコンパクトの大きさより1辺が10mm小さいので, 被験者Bが最も持ちやすいと評価したコンパクトの鏡の部分はa=55~70mmということになる。これに対して見やすさは, 鏡の部分の大きさが大きいほど見やすく感じ, a=80mm以上の大きさ(1=90mm以上)の鏡を最も見やすいと評価している。以上の結果は, 手の持ちやすさの最適値と見やすさの最適値が互いにずれており, 見やすさと持ちやすさを備えたコンパクトは存在しないように思われる。しかし, この被験者はコンパクトの大きさ1=70~75mm(鏡の大きさがa=60~65mmのコンパクト)を最も使いやすいと評価した。この最も使いやすいと評価した値は最も持ちやすい値と一部重なり, 見やすさから見るとやや見難い範囲である。すなわち, 見やすさよりも持ちやすさに近い値を使いやすいと評価している。
16人全員の持ちやすさ, 見やすさおよび使いやすさの結果をそれぞれFig. 5~Fig. 7に示す。ここで全員の結果を一覧できるようにするため, 大変良い:◎, 良い:○, どちらでもない:△, 悪い:・大変悪い:×とSD評価値を記号化して示した。Fig. 5の持ちやすさでは1=70mm前後を, Fig. 6の見やすさでは平均して1=90mm以上を, Fig. 7の使いやすさでは1=70mm前後を大変良いと評価する傾向がある。すなわち, 16人全員を見ても, 持ちやすさと使い易さはほぼ同程度の値であることがわかる。
ここで, 実験中の16人の被験者の行動を観察した場合, コンパクトが小さくなると多くの被験者がコンパクトを小さく回転させる傾向が見られた。このことは, 鏡の部分の大きさが見たい視野に対して充分大きければ, 固定状態でも満足する視野が得られるが(Fig. 8(a))。鏡が小さい場合でもFig. 8(b)のように鏡を上下に手の中で回転させることによって, 満足する視野を得られることを示している。すなわち, コンパクトの見やすさは必ずしも鏡の大きさの影響を受けないことを意味している。このことが使いやすさに対する見やすさの影響が現れ難くい原因であろう。
ところで, コンパクトの持ちやすさや見やすさは手の大きさや被写体である顔の大きさに依存しそうである。Fig. 9およびFig. 10は被験者全員の結果をそれぞれ手の長さ(第三指手長)および頭の大きさ(全頭高)に対してまとめたものである。縦軸はSD法で大変良い(+2)と評価したときのコンパクトの大きさである。ここで, +2の値がある大きさに渡って存在した場合にはその平均値を, +2が存在しなかった場合には+1の平均値を大変よいとして採用した。 Fig. 9には持ちやすさと使いやすさを, Fig. 10には見やすさと使いやすさを示すが, いずれの場合にも, 手や頭の大きさに対しての依存性は認められず, 全員を平均すると最も使いやすいと判断したコンパクトの大きさの平均値は1=73mm(鏡の部分の大きさa=63mm)であった。
3. 2 コンパクトの使いやすさと形状の関係上述3.1の結果, 正方形コンパクトの場合には1辺の長さが1=73mmのものを最も使いやすいと評価した。この場合の鏡が存在する平面の部分の大きさは1辺が1=73mmで面積は5329mm2であった。そこでコンパクトの平面部分の面積を一定にして, 形状だけが異なるコンパクトを用いて, 使いやすいコンパクトの形状について調べた。
Fig. 11に, 16人中の代表例として, 4人の被験者のコンパクトの持ちやすさ, 見やすさ, および使いやすさに対する形状の影響を調べた結果の一例を示す。図の横軸は下側には形状を, 上側にはコンパクトの鏡の部分の大きさの縦横比L/Vを示す。また縦軸はSD法による評価尺度を示す。Fig. 11(a)の被験者Bの場合, 正方形と丸では丸の方を大変良い(+2)と評価し, 持ちやすさについてはL/V=1.0~1.8を, 見やすさについてはL/V=1.0~1.45を, さらに使いやすさの評価としてはL/V=1.0~1.45を大変良いと評価している。同様の傾向はFig. 11(b)においても認められる。しかし, Fig. 11(c)やFig. 11(d)のように, 丸と四角の形状による差はないが, 縦長より横長のコンパクトを使いやすいと判断した場合, および四角より丸の形状の方が使いやすいが, 縦長より横長のコンパクトの方が使いやすいと判断した場合などがあった。
そこで16人全員の結果をFig. 12~Fig. 14に示す。Fig. 12の持ちやすさでは, 多くの被験者が(B)や(C)の縦長のコンパクトを持ちやすいと評価し, 角と丸ではわずかに丸の方が良いと評価している。一方, Fig. 13の見やすさでは(B)よりも(C)を良いと評価する傾向が強くなり, 角と丸の間では余り差が認められない。さらに, Fig. 14 の使いやすさでは, (C)が(B)よりも良く, 角よりも丸が良い傾向が見られる。すなわち, 全員の結果を見ると, 使いやすさは, L/Vが1.45で, 丸みを持ったものを良いと評価している。
人間の手が物体と触れる場合に, 物体と直接触れて, 持ちやすさを判断する情報を提供するのは手の皮膚表面下の感覚受容体であるが, 手の骨によって皮膚と物体との接触の仕方が規制され, 間接的ながら手の骨によって持ちやすさが左右されるものと考えられる。特に手の指と手の平によって形成されるアーチに物体の大きさが合うか否かが重要であることが指摘されている(KapandJi, I.A.1986)。被験者がコンパクトを手の平にのせて持ちやすいと評価するのは, 軽く支えるときの親指と小指とが形作るアーチ径D5(KapandJi, I.A. 1986)に物体が収まったときであろう。また, 正方形コンパクトに比べて丸形コンパクトがより好まれた理由も, 丸形の方がより手のアーチに納まりやすく, 手の平になじみやすいためと思われる。
以上の, コンパクトの使いやすさに対する今回の女子大生16人の結果を総合すると, 最終的にはFig. 15に示すように, 使いやすいコンパクトは, 縦長の形状で(横に対して縦は1.45倍程度長い), 一辺が手の中に納まり, 角は丸みを帯び, 鏡のある平面の大きさが5000mm2程度のものであることが明かとなった。
ところで, このような大きさのコンパクトで被験者はどの範囲を見て見やすいあるいは使いやすいと判断しているのであろうか。実験終了後被験者に行ったアンケート調査によれば, 女性の85%以上が, 縦は眉毛の上から唇の下までの範聞, 横は頬までの範囲を見て見やすさや使いやすさを評価していることがわかった。このような結果として, 上述のような縦長のコンパクトが好まれたものと思われる。

Relationship between the SD scale value at subject B and the size of square compacts.

Relationship between the size of square compacts and the SD scale value of subjects at the comfort for holding.

Relationship between the size of square compacts and the SD scale value of subjects at the comfort for looking.

Relationship between the size of square compacts and the SD scale value of the subjects at the usefulness.

Relationship between mirror and the image.

Relationship between the optimum size of square compacts and the hand length.

Relationship between the optimum size of square compacts and the head height.

Relationship between the SD scale value and the shape of compacts.
(a) at subject B, (b) at subject E, (c) at subject F, and (d) at subject G.

Relationship between the shape of compacts and the SD scale value of the subjects at the comfort for holding.

Relationship between the shape of compacts and the SD scale value of the subjects at the comfort for looking.

Relationship between the shape of compacts and the SD scale value of the subjects at the usefulness.

Schematic illustration of the useful compact.
化粧用コンパクトの使いやすさを調べるため, 大きさが異なる正方形コンパクトおよび鏡の面積が同じで形状が異なるコンパクトそれぞれを用いて, 18歳から24歳までの16人の女子大生を対象に, 持ちやすさ, 見やすさ, および持ちやすさと見やすさを含めた使いやすさを官能検査によって調べた。その結果から以下の結論が得られた。
1. 正方形コンパクトにおいては, 被験者の手や顔の大きさに対する依存性は認められず, 1辺の長さが73mm前後のコンパクトを最も使いやすいと評価した。
2. 使いやすいコンパクトの大きさは, 見やすい大きさよりも持ちやすい大きさに近い大きさであった。この原因は利用時にコンパクトを小さく回転させることによって視野を補うことにあることを考察した。
3. 形状の異なるコンパクトの場合には, 横に比べて縦の方が1.45倍程度長い, 縦長で丸みを持ったものを使いやすいと評価することがわかった。
最後に, 本研究の被験者として実験に協力いただいた横浜国立大学教育学部の学生諸氏に謝意を表する。